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浮気騒動?! 証拠写真もある?! なんで?! ~前編~

 

 昼休み、ソニアがトイレから出てくると、例の風紀監査委員と鉢合わせした。風紀監査委員の娘は、いつものように厳しい目でソニアを見つめている。

 ソニアは慌てて服装の確認をする。胸が収まっていないのは仕方ないとして、靴下はずり落ちていない。そのことが確認できるとソニアは、何か文句でもある? とばかりに強気に睨み返していた。ただし、はだけた胸は腕で隠していた。

「ソニア・ルミナス、あなたにてもらいたいものがあります」

 この日の彼女は、服装についていちゃもんをつけてくるのではなく、ソニアに一枚の写真を見せてきた。

 ソニアは、警戒しながらその写真を受け取ると、ちらっと眺めてみた。そこには、一組の男女が校舎裏のどこかでキスをしている姿が映っていた。

「これが何? あたしじゃないから関係ないじゃない」

 写真の男子は金髪で、女子は赤髪である。

「そうね、女子生徒はあなたじゃないわ。でも男子生徒はどう?」

 ソニアは再び写真に目を戻し、男子生徒をじっくりと確認した。すると、写真を見つめているソニアの表情が、だんだんと固まっていった。

「え? 嘘……」

 ソニアは力なく呟いた。

 写真の男子生徒は、ラムリーザだったのだ。

「残念ね、ラムリーザには他に本命が居たみたいね。あなたは諦めた方がよいのでは?」

「う、嘘よ! ラムがあたしを捨てるわけ無い!」

 ソニアは、その写真を持ったまま、全力疾走で教室へ戻っていった。後ろから、風紀監査委員の「待ちなさい」という声が聞こえたが、構っている場合ではなかった。

 教室の入口にある扉のレールに足を引っかけてつんのめりながらも、何とか転ばずに体勢を立て直して、ラムリーザの元に駆け寄っていった。

「ラム! これ何よ!」

 ソニアは、肩で息をしながら目に涙を浮かべてラムリーザを怒鳴りつけた。

「なんだか知らんが落ち着け。何とか言われても、写真?」

「心霊写真かしら?」

「いや、ソニアが持ってるからエロ写真だと思いますわ」

 リリスとユコは、好き勝手に語っている。

「泥棒猫共は黙ってて!」

 ソニアはラムリーザの目の前の机の上に、思いっきり写真を叩きつけながら叫んだ。ソニアの声は高く響くので、クラスの生徒たちの何人かは、チラチラとこちらを見ている。

「何を怒っているのかしら……」

 リリスは、ふぅとため息を吐くと、ユコと一緒にその写真を見てみた。

「あ、キスシーンですわ。やっぱり私の言った通り、エロ写真ですのね」

「あんた達は黙っててって言ってるでしょ?! ラム! この娘誰よ!」

「誰よって、知らんがな」

 ラムリーザは、その赤髪の少女に知り合いは居なかった。この学校の制服を着ているので、この学校の生徒だろう。赤い髪を肩の辺りまで伸びたツインテールにしている娘。ラムリーザは、それが誰だか知らなかった。

「だったらなんでラムとキスしているのよ!」

 ソニアの半分泣きそうな声が、教室に響き渡った。一瞬教室がザワッとした。

「え? なんだって?」

 ラムリーザとリリスとユコは、同時に驚きの声を上げてさらに詳しく写真を見つめてみた。

 女子生徒はこちらに背中を向けているが、男子生徒はこちらを向いていて、顔の半分が見えている。

「あ、ラムリーザ様ですわ」

「ほんと、ラムリーザじゃないの。いつの間に愛人増やしたの?」

「いや、増やしたの? って、愛人は一人もいないよ。いやいや、そういう問題じゃなくて、知らんよ?! この娘誰? こっちが聞きたいよ」

 ラムリーザには、全く心当たりのない事だった。その娘も、その場所も知らない。ソニアに問い詰められても、知らんがなとしか言うことができなかった。

「そんな事言って、こっそり会ってたりするんでしょ!」

「いや、いつ会うんだよ。毎日ほとんどお前が傍に居る状態じゃないか。終始お前が引っ付いている状態で、どうやってキスするまでに関係を深められるんだよ」

 ラムリーザの言う通り、一日の大半をソニアと一緒に暮らしているのだ。ソニアに知られずに浮気を……って、そんなことをした記憶も、するつもりもラムリーザには無い。

「キュリオ見せて!」

 ソニアは、ラムリーザのキュリオを要求してきた。もし本当に浮気をしているなら、キュリオに履歴が残っているはずだ。キュリオとは携帯型情報端末で、スマートフォンの様なものだ。

 ラムリーザは、全くやましい所はなかったので、「勝手に見ろ」と言ってソニアに自分のキュリオを手渡した。

 ソニアは、眉間にしわを寄せてキュリオの確認を始めた。

「通話着信履歴……、ジャン、ジャン、ジャン、ソフィア、ジャン、リリス、ジャン、リゲル、ジャン……、ちょっと待ってよ! なんでリリスとの通話があるのよ!」

 それはリリスの誕生日の日、朝にかかってきた電話の事だろう。

「電話ぐらいいいでしょ?」

 リリスはめんどくさそうにつぶやいた。そもそも今回は赤髪の娘の正体を知ることであって、リリスとラムリーザの付き合いを確認するためではない。写真の相手はリリスではないのだから。

「ジャンが多いよ、ラムが男好きってホント? ラム×ジャン?」

「いや、ラムリーザ様の性格ですと、ジャンが攻めでラムリーザ様が受けだと思いますわ」

「腐ったようなこと言うな、ライブの打ち合わせだよ」

 妙な流れになってしまったが、ひとまずは通話履歴に怪しい所は無いことが分かった。

「次はメール受信履歴……リリス、リリス、ユコ、リリス、リリス、ソニア、ユコ、リリス、リリス、ジャン、ユコ、リリス……。メールはリリス多すぎ! 何よこれ! リリスを着信拒否設定しなくちゃ!」

「別にメールぐらいいいでしょう?」

「だな、メールぐらいいいだろ、そもそも写真の相手はリリスじゃないんだし」

「ちょっと何これ! なんでジャンにあたしの体操服姿の写真送ってるのよ!」

「あ、しまった……」

 ラムリーザに、一つだけやましいところがあるのを忘れていた。あれは、夏休み前の体育の時間、バレーボールをやっていた時の話だな。

 とにかく、メールの履歴にも、怪しい相手は居なかったのだ。

「こうなったら、この娘を探し出して、小一時間問い詰めてやらなくちゃ!」

 しかし、この学校の中から知らない女子生徒を一人探し出すのは困難だ。特徴を掴んで絞り込むしかないが、赤髪の娘も多いし、ツインテールも珍しい髪型ではない。

 ソニアは、その娘の全身を見て、特徴的な一点を探し出すことができた。

 その娘は、制服のサイハイソックスの右足部分の太もも半ばの裾の所に、アクセントとして赤いリボンを巻いているのだった。

 ソニアは、早速クラスを見渡した。すぐに赤髪ツインテの娘を一人発見し、大きな胸を揺すりながら駆け寄っていく。

「ちょっとレナ! あんた何校舎裏でラムとキスしているのよ!」

「はぁ? 何の話? 私、ラムリーザとなにもしていないんだけど」

「ラムリーザっていつもあなたと一緒にいるじゃない、何言ってるの?」

 レナと呼ばれた娘とその友達が、ソニアが何を言っているのだろうと不思議な感じで言い返してきた。

「ちょっと足見せて! 証拠があるんだから!」

「気味が悪いわね、何よ……」

「右足の靴下の裾の所に赤いリボン巻いてるでしょ?!」

 レナは、めんどくさそうに立ち上がって右足を見せてきた。だが、太ももに赤いリボンは巻いていない。

「いつも付けてるけど今日は外しているとかじゃないの?!」

「いや、付けたことないんだけど」

「ええ、レナはそのようなアクセサリー付けてたの、見たことないよ」

 二人に言われて、ソニアは「ふんっ」と言ってその場を立ち去った。二人は、「嵐は立ち去った」とばかりに、お互い顔を見合わせてため息を吐くのだった。

 ソニアはもう一度クラスを見渡したが、他に赤髪をツインテールにしている娘は居なかった。長く伸ばしている娘は居たが、たとえほどいていたとしても、それだと写真の娘と長さが違う。

 クラス内に候補者が居ないと分かると、ソニアは教室から飛び出していくのだった。

「おい、あれはちょっとヤバくないか?」

 リゲルはラムリーザに忠告する。確かに頭に血が上ったソニアをこのまま放っておくのは、猛獣を檻から出して放置しているようなものだ。

「全く、しょうがない奴だな……」

 ラムリーザは、仕方なく立ち上がった。

 

 ソニアは、すぐ隣の教室を覗きこんでみた。見慣れない女生徒の登場と、その特徴的な胸に男子の視線が集中するが、ソニアは全く気にしていないようだ。

 じーっ、と教室内を見渡していくと、真ん中辺りの席に集まっている女子集団の中に、赤髪ツインテの娘の姿を発見した。

 ソニアは、遠慮なく隣のクラスに乗り込んでいく。隣のクラスだからと言って、物怖じせずに突っ込んでいく強気は、ソニアの強さの一つだろう。

 その赤髪の娘は、入口には背を向けて立っていたが、ソニアが座席と座席の間の通路に入ると、その全身が目に入ることになった。

 そしてすぐに、右足の太ももに赤いリボンを巻いているのが確認できたのだった。

「こらぁ! この泥棒猫!」

「ふに?」

 赤髪の娘は、突然ソニアに怒鳴りつけられて、きょとんとした顔を見せている。

 ソニアはちらっと周囲を見回して、視線が自分に集中しているのに気が付いた。そこで、その娘を教室の外へ連れ出すことにした。廊下ならあまり人は居ない。

「ちょっと来て、小一時間問い詰めたいことがあるから!」

「や、やあん、痛い、痛いよ放して!」

 ソニアは悲鳴を上げる娘の胸元を掴んだまま、廊下まで引きずっていった。ソニアの方が体格が良い分、それなりに筋力があるようだ。

 廊下に引きずり出した娘をソニアは問い詰める。
ソニアとチロジャル
「あんた普段からその髪型? それと脚のリボンもいつもつけてるの?」

「髪型ずっと一緒だよ、それに、リボンぐらい、アクセサリー自由じゃないの?」

 赤髪の娘は、おびえたように答えた。その視線は、ソニアの目と胸を移動し続けていて、全然落ち着いていない。ひょっとしてソニアの事を風紀委員か何かと勘違いしているのか?

「じゃあ、この写真に写っている女はあんただね」

 ソニアが写真を取り出して見せようとした時、不意に後ろから声をかけられた。

「あれ、チロジャル? 何してんの?」

「あっ、クロトムガ! 助けて! この人が突然……」

 赤髪の娘はチロジャルと呼ばれた。それと、新しく現れた男子生徒はクロトムガという名前の様だ。

 だがソニアは、男子生徒の出現を気にすることなく、赤髪の娘チロジャルに写真を見せつけて言った。

「これ、あんたでしょ?」

 チロジャルは恐る恐る写真を見て、「あ……」と言った。どうやら心当たりがあるようだ。

 ソニアの後ろからクロトムガと呼ばれた男子生徒も覗きこみ、「あ、やばい、ばれた?」と言った。

「やっぱりあんたか! ラムを寝取るとはいい度胸ね!」

 廊下にソニアの大声が響き渡り、チロジャルは首をすくめて萎縮してしまった。

「ラムって誰だよ……って、チロジャルお前! 俺達の秘密の場所に誰を連れ込んでいるんだよ!」

「知らない! 私知らないよ!」

 クロトムガは写真をよく見て、そこに写っているのがラムリーザとチロジャルがキスしている所だということに気が付いて、声を荒げた。チロジャルも必死で否定する。

「ところで、あんた誰?」

 ソニアは、今度はクロトムガに怪訝な視線を向けた。

 二人の話では、この二人はどうやら恋人同士らしい。しかし、チロジャルがラムリーザと写っているので、クロトムガは怒りだしてしまった。

「この人軽音楽部のドラムの人じゃない、私校庭ライブで見たことあるだけで話したこともないよ!」

「お前は昔からアイドルとか好きだったから、ああいう場所に連れていきたくなかったんだよな」

「違う! 私この人と何も無い!」

「じゃあなんで秘密の場所で会ってるんだよ! キスしてんだよ!」

「やってない! 知らないよこんなの!」

 ソニア置いてきぼりで、二人は口論を始めてしまった。そんな二人を、ソニアは何も言わずにじと目で睨み付けていた。

「やっぱり騒ぎになってたか。ソニア、落ち着けよ」

 その騒ぎの中に、ラムリーザがやってきた。胸の下で腕組みして、少し胸を持ち上げた感じになっているソニアを挟んで、知らない二人が口論になっているのだ。

「あたし何も言ってないよ。写真見せたら勝手に騒ぎ出した」

 その時、ラムリーザとクロトムガの目が合った。

「あ、お前だな?! 何チロジャルに手を出してんだよ!」

 クロトムガはラムリーザが写真に写っていた男の方だと分かるや否や、胸ぐらをつかんできた。

「やめてクロトムガ、私この人と何もしてないよ!」

「ラムに乱暴するな!」

 取っ組み合いの喧嘩になりそうになったので、二人の女の子がそれぞれの反応で止めに入る。

 ラムリーザはやれやれといった感じで、右手で掴んできた手首を握った。

「まあ待て、落ち着いて話しよう」

「これが落ち着いていられるかっての!」

 クロトムガが胸ぐらをつかむ手に力を入れてきたので、ラムリーザも手首を握った手を放し、今度は掴んでいるクロトムガの握りこぶしに対して、指の付け根辺りを握り直す。そして引きはがすために力を込めた。

「あがっ――、ちょっ、待――っ」

 次の瞬間、クロトムガが苦悶の表情を浮かべる。すぐにラムリーザの胸ぐらから手を放して、ラムリーザの手から逃れようとしている。

「ふんっ、リンゴみたいに潰しちゃえばいいんだ」

 その様子を見たソニアは、ざまあみろ的な感じで吐き捨てた。

 ラムリーザはクロトムガの手を放してあげたが、クロトムガはラムリーザに握られた手をかばったまま俯き苦しそうにしている。

「な、何? 大丈夫?」

 そこにチロジャルが心配そうに寄ってきたが、クロトムガは少しの間何も言えずにいた。

「やばいやばいやばい、なんだこいつ……、なんて握力してやがるんだ……」

 クロトムガは、脅えたように一歩ラムリーザから離れた。これで落ち着いて話ができるということだ。
 

 
 
 
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