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テーブルトークゲームって何ですか?

 

 十二月に入ると、南国のエルドラード帝国も涼しい季節となり、朝晩は少し冷え込んだりする。決して寒いと言えるわけではないが、暖かいとも言えない。

 家屋は温暖な気候に合わせて造られていて、通気性が良くこの短い期間だけは快適とは言えなかった。

 

 ラムリーザは、幼馴染のソニアと一緒に、親戚の屋敷に下宿している。

 次の春からは新開地に住むことになるが、今建設中の新居が完成するまで、帝都最西端に位置するこの街、ポッターズ・ブラフで過ごしていた。

 ここでの生活も、残り少なくなっている。

 

 

 朝、ラムリーザは、いつもの部屋、いつものベッドで目を覚ます。その右脇には、ソニアが引っ付いて寝ている。

 二人はこの春から恋人同士として付き合うようになってから、ずっと同じベッドで寝ることが普通となっていた。

 これは、キャンプなどで外泊している時も同じで、ソニアはラムリーザの布団に潜り込んでくるのだった。

「ラム、おはよう」

 ラムリーザが目を覚ましたソニアと目が合ったとき、ソニアはいつものように挨拶してくる。

 いつもの光景に変化をつけるため、ラムリーザは否定的に挨拶してみた。

「おはようございません」

「ちょっと何それ……」

 否定形挨拶にソニアは剥れる。

 ラムリーザは、そんなソニアの頭をなでながら、大きく伸びをして言った。

「朝は冷え込むようになってきたなぁ。これからどんどん寒くなるぞ」

「平気だよ、このくらい」

 ソニアは、掛け布団を蹴っ飛ばして大きく足を広げた。ソニアは冬の間も素足とミニスカートで過ごす。寝るときに意味があるのかどうか分からないが、寝間着としてミニスカートを履くところが良く分からない。

 

 ベッドから出て、制服に着替え、屋敷の食堂で朝食を取り、屋敷を出たところでラムリーザは屋敷を振り返ってしばらくの間見つめていた。

「どうしたの?」

 ソニアは、不思議そうにラムリーザの顔を見上げてくる。

「いや、ここももう少ししたらさよならかな、と思うと感慨深くならないか?」

「あ、そういえばそうなるね」

「年明けにはフォレストピアの屋敷が完成するらしい。そうなったらいよいよ忙しくなるぞ」

「電車通学になっちゃうね、車買おうよ」

「検討しておく、さあいこうか」

 ラムリーザは、ソニアの肩に腕を回すと、少し抱き寄せながら並んで学校へと向かっていった。

 

「おはようラムリーザ。それと50点未満の馬鹿女」

 後ろから挨拶する声が聞こえた。

 ソニアは何も答えずに、ラムリーザの傍から離れると、声がした辺り向かって回し蹴りを放つ。

 その蹴りをひょいとかわしたのは、妖艶なる黒髪の美少女リリスだ。傍に一緒に居るのは、神秘的な雰囲気を持つ金髪の美少女ユコ。二人とも、ラムリーザ達にとって、この地に越してきてから新しくできた友人だ。

 この二人は紛うことなき美少女だが、それぞれ普通ではない。

 リリスは、出会った頃は高嶺の花といった雰囲気だったが、蓋を開けてみればソニアと同類、馬鹿っぽい賑やかさを振舞っている。ユコの方は、馴染めば馴染むほど言動がおかしい。ラムリーザの事をラムリーザ様と崇め、エロゲの知識が豊富だったりと妙なところがある。

 先程リリスが発した「50点未満女」というのは、数日前に行なわれた定期試験の結果を受けての発言だ。

 夏休み前の試験では、授業もまともに聞かず、試験勉強もサボっていたソニアとリリスは見事に赤点を獲得し、しばらくの間補習を受けさせられていた。

 そういったこともあり、夏休み明け最初の試験では、事前に勉強会を開き、二人はなんとか赤点を回避できたりした。

 それで、数日前の試験前にも同じように勉強会を開き、これまでの反省から多少は授業を聞くようになっていたので、その結果リリスは初めて50点以上を取れた教科が出てきたりしたのだ。

 しかし、ソニアはすべてにおいてギリギリ50点を超えることは無かったので、リリスはそこの所をからかってきているのだ。どっちにしろ、目糞鼻糞なんだけどね……。

 こんな具合に、ソニアとリリスは何かとぶつかり合うライバル関係とも言えた。

 ただ、仲はおおむね良好である。

 

 教室にある自分の席に到着したラムリーザは、後ろの席に居る男子生徒に挨拶する。

 冷たそうな視線を持った銀髪のリゲルだ。その隣の席に居るのはロザリーン。濃い金髪をポニーテールにしていて、真面目そうな雰囲気だ。実際真面目で、クラス委員を引き受けていたりする。

 この二人も、この地に越してきてから新しくできた友人で、リゲルとロザリーンは夏休み明けから交際を開始している。

 ソニア達女子陣は、自分の席についたら、すぐにいつものポジションに移動である。

 このグループの座席は窓際後方に固まっていて、前列窓際からユコ、リリス。その後ろにラムリーザ、ソニア。そして最後列リゲル、ロザリーンとなっている。

 それで、普段移動するのはソニアとロザリーンだけで、ソニアが隣のラムリーザに引っ付くように席を移動し、その開いた場所にロザリーンが入るだけである。そして、四人で雑談したりゲーム雑誌を読み漁るのだった。

 ラムリーザは窓の方を向いて、寄りかかってきたソニアに背中を預ける形でもたれかかる。その状態で、後ろに居るリゲルと話をするのだ。

 リゲルは、普段からよく天文学の雑誌を見ている。彼は天文学に興味があり、天文学部に所属していたりする。

 しかし今日は、いつもの雑誌とは違う物を読んでいた。

「それは何だい?」

 ラムリーザの問いに、リゲルはちらっと顔を見てきて、黙って本の表紙を見せる。

「えっと、何々? 『ソード・アンド・マジック』だって? ゲームの攻略本?」

「ゲームというのは正解だ。だが攻略本ではないな。お前はテーブルトークゲームって知ってるか?」

「机でお話しするゲーム?」

「おしいな、いやほぼ正解か? ゲーム機などを使わず、紙とペン、ダイスを使って会話によって遊ぶゲームの事だ。例えば……、そうだな……」

 リゲルは携帯型情報端末電話、キュリオを取り出してとあるアプリを立ち上げた。画面には、六面体のダイスが二つ表示している。

「本来ならもっと状況は複雑になったりするのだが、例えばお前が谷を歩いているとしよう。そこで、突然の落石事故が発生したとする。どうする?」

「どうするって、回避するに決まっているじゃないか」

「それじゃあ運試しだな。ダイス二つ使って、合計五以上の目が出たら回避成功だ」

 そこでリゲルは、キュリオの画面をタップする。表示していた二つのダイスがクルクル回り、止まった時にはそれぞれ三と四を表示していた。

「ダイスの目は七だね」

「うむ、お前は落石を上手く回避して、先へと進んだ。こんな具合だ」

「もし五以下ならどうなっていたんだい?」

「落石に巻き込まれてペチャンコになっていたか、大怪我していたか。そこはゲームマスターの裁量次第だな」

 ラムリーザはリゲルの話を聞いているうちに、自分もテーブルトークゲームが面白く感じるようになっていた。

 そして今日は、珍しくユコが二人に加わってきた。ラムリーザの膝の上に腰掛けて、一緒になって雑誌を見ようとしてきたのだ。

「テーブルトークゲームですのね? 私も一度やりたいと思ってましたわ」

「自由にやったらよかろうに」

 リゲルはユコを突き放すように言う。ロザリーンと付き合うようになって多少は丸くなったものの、それでもリゲルは時折冷たい対応をすることがある。

「だって今まではリリスぐらいしか遊び相手居なかったんですもの。二人じゃゲームマスターとプレイヤーの一対一しかできませんの」

 ユコは、ラムリーザの膝の上に座り、首に手を回そうとしながらそう答えた。

 この状態を見て、すぐにソニアが文句を言ってくる。

「ちょっと! 何でユコがラムの膝の上に座ってるのよ!」

「あら、座るぐらいいいじゃありませんの。ラムリーザ様もご満悦って感じですわよ」

「いや、別に満悦してないけどなぁ」

「私はラムリーザ様のことを尊敬しておりますの」

「もーっ!」

 文句を言いながらソニアはラムリーザの腕を引っ張る。ラムリーザは、こうなったらもうリゲルとテーブルトークゲームについて話をしている場合ではなかった。

「両手に花だな、相変わらずのラムズハーレムとでも言っておこうか」

 その状況を見て、リゲルはニヤリと笑う。

「めんどくさいことになるから、火に油を注ぐようなことは言わんでください、まじで」

 

 ユコはラムリーザを使ってソニアをからかってくる。

 リリスは自分のアイデアを使ってソニアをからかってくる。

 そして、喜怒哀楽の表現が豊かなソニアはからかいがいがあるから、二人はますますおもしろがってからかってくる。

 なにはともあれ、仲が良いのはいいことである。

 ラムリーザは、もうどうにでもなれとばかりに、窓の外に目をやった。

 

 エルドラード帝国に、ささやかな冬が訪れた朝だった。

 
 
 
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