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ポッターズ・ブラフ地方の町並み

 

 今日から学校は、年末年始の休暇に入ります。年末までに十日程、そして年始から十日程が休みの期間になっている。

 ラムリーザは、この休暇を半分に分け、前半部分を実家で、後半部分を今住んでいる所で過ごそうと考えていた。家族とも過ごしたいし、リリス達とも過ごしたい。夏季休暇と同じような感じだ。

 そういうわけで、午前中で学校が終わり次第、ささっと準備を済ませて電車で帰省しようとしたのだが、想定外の事が発生した。リリス達もラムリーザと一緒に帝都に行くと言い出したのだ。週末の二十四日に、今年最後になるライブがあるので、その日まで帝都で過ごしてみたいそうだ。

 リゲル自身は帝都で過ごす気は無かったが、ロザリーンも行ってみたいと言い出し、それに付き合う形で同行することになり、結局メンバー全員で帝都へ向かうことになったのだ。

 みんなは一旦学校から出たところで解散し、順次駅で待ち合わせるという流れになり、ラムリーザはソニアと一緒に下宿先へと戻った。

 

「着替え入れた?」

「入れた」

「携帯持った?」

「持った」

「電気消した?」

「消した」

「トイレ済ませた?」

「済ませた」

「よし行こう」

 ラムリーザとソニアは早足で準備を済ませると、下宿先の親戚に年始過ぎまで実家へ帰ることを伝えて駅に向かった。

 南国エルドラード帝国も、十二月となれば少々肌寒い。ラムリーザは、多少は暖まろうとしてソニアを抱き寄せた。引っ付いていると、肌寒く感じない。心地よい暖かさだ。

 サイネリアの咲く遊歩道を通り抜け、駅に到着すると、リリスとユコは既に準備を終えて到着していた。

 ポッターズ・ブラフは始発なので、まだ座席は十分空いている。リゲルとロザリーンが来ることを視野に入れ、六人掛けの座席を確保して発車を待っていた。

「そういえば――」

 リリスはソニアを見つめながら話を切り出した。ラムリーザは、またソニアに要らんことを吹き込んで喧嘩になるのでは? と身構えたが、リリスの問いは妙なものであった。

「日常系アニメって、必ず臭そうな女の子が登場するらしいってね」

「は?」

 唐突過ぎて、ラムリーザにはリリスの発言の意図が読み取れなかった。

「ナッツンとかヨーコとか。それでさぁ――」

 リリスは、ソニアを見つめながら笑みを浮かべて続けた。

「私達がアニメになったら、ソニアがそうなるよね」

 ラムリーザが「は?」と再び聞き返す隣で、ソニア爆弾が爆発した。

「何でよ! リリスの方が臭そうじゃないのよ! なんか黒いし!」

 色と臭さは関係ないと思うが……、いや茶色はイメージ的に臭そうになるかもしれないが、黒は関係ないだろう。

「あなた、髪の毛洗ってるのかしら?」

「洗ってるわよ!」

 一緒に入浴しているわけではないので、ラムリーザはソニアが風呂でどうしているかはわからない。だが、すぐ隣に居て髪が臭いわけではないので、洗髪はしているのだろう。

「トリートメントしてる?」

「何よそれ?」

 リリスは、くすっと笑って視線を窓の外へと向けた。結局何が言いたかったのかよくわからないが、喧嘩にならなかったのは良しとしよう、とラムリーザは考えるしかなかった。

 ソニアは不満そうな顔でラムリーザを見つめるが、ラムリーザには何も言ってあげることはできなかった。

 リリスとユコの髪の毛は、サラサラで綺麗なロングストレートだが、ソニアの髪の毛は同じぐらい長いが、モコモコとしていて、所々跳ねている。ラムリーザは、その辺りの違いに何かあるのでは? と思うぐらいでそれ以上のことは思いつかなかった。

 

 電車が動き出した。

 帝国最西端のこの地域はポッターズ・ブラフ地方と呼ばれているが、それは単にポッターズ・ブラフが最西端の町だからというだけで呼ばれているだけだ。

 ポッターズ・ブラフ自体は閑静な田舎町で、目立つ大きな施設と言えば、ラムリーザ達の通う学校と、風船おっぱいお化け発祥の地である、高峰アンテロック山の麓にあるプールぐらいだった。

 この町の人口は、大体二千人程で、住宅がポツポツと在るぐらい、後は畑など農地が多い。主な住民の多くは、農業従事者となっている。

 電車に乗って十分程過ぎると、隣町のエルム街に到着する。ポッターズ・ブラフ地方最大の繁華街で、何か必要なものがあればここに来れば大抵揃う。人口も五千人を超え、そこそこ賑わっている。主に商業地で、住民もそれに従事するものが多い。

 リリスとユコは、連れ立ってよくこの街へ遊びに行っているが、ラムリーザとソニアはそれほど訪れたことは無い。日用品やゲーム購入程度なら、この街まで出る必要は無かったというのもあった。それに、ラムリーザとソニアの休日は、あまり外に出ることは無かった。帝都に住んでいた時も、それほど頻繁に出かけるということは無く、屋敷から出たとしても、庭を散歩する程度のことが多かったのだ。

 電車は再び動き出し、繁華街を過ぎると住宅街が広がるようになる。

 アチェロン街に、ポッターズ・ブラフ地方の居住者の多くが居住している。また、ポッターズ・ブラフ地方の、地方役所があったりする。人口は四千人程の町だ。

 この街には、首長の娘のロザリーン、その兄のユグドラシル。そしてリゲル等が住んでいる。

 電車がアチェロンの駅に到着すると、リゲルとロザリーンが乗り込んできた。二人は、ラムリーザの手招きで、六人掛けの空いている席に腰を下ろす。

「ところで――」

 全員揃ったところで、ラムリーザは気になっていたことを口に出した。

「帝都に行くのは良いけど、どこに宿泊する予定なんだ?」

 こと一言に、リリスとユコは顔を見合わせる。どうやらそこまでは考えていなかったようだ。いつもの週末ライブは日帰りで、宿泊することはなかったのだ。

「どこかホテルがあったら泊まる……、と言っても週末まで滞在するとなれば最低でも四泊五日か。俺一人だと滞在する金ぐらい持ってるが、お前らは無理だろう?」

 リゲルは、リリスとユコを見ながらそう言った。

「無理ですね、電車が動き出す前に帰りますか?」

 ロザリーンがリゲルに提案したところで、電車は動き出してしまった。

「まあいい、今日だけ帝都見物して明日にでも帰るか」

 お金に余裕のあるリゲルはそう決めて、ロザリーンと一泊二日の帝都見物と決めたようだ。問題は、リリスとユコだ。

「ラムリーザ様のお屋敷に泊めてもらうのはどうでしょうか?」

 ラムリーザはそれでも別に良かったが、文句を言ってくる者が居た。ソニアだ。

「絶対ダメ」

「別にソニアの家に泊まるわけじゃありませんの。ラムリーザ様の家に泊まるんですの」

「庭にダンボールで家を作ってあげるから、そこに泊まったらいいんだ」

 無茶な話だ。暖かい南国とは言え、十二月の夜は冷え込む。そもそもダンボールで家を造る事自体がありえない。

「待てよ――」

 この時、ラムリーザに良い考えが浮かんだ。すぐに携帯型情報端末キュリオを取り出し、通話モードで帝都のジャンを呼び出す。

「誰と電話? リリスと電話は禁止だからね!」

 隣で文句を言うソニアを押しのけて、ラムリーザはジャンと話を始めた。

 ソニアの我侭にむっとしたリリスは、目を細めて睨みつけると、自分の携帯端末を操作し始める。そしてすぐに、ソニアの携帯端末が、メールの着信を伝えるメロディを奏でた。

 ソニアはすぐにメールを確認して、憤怒の形相を浮かべてメールを打ち始めたが、はっと顔を挙げて携帯端末を脇に置くと、正面に居る煽りメールの発信者につかみかかって行った。

「この陰湿な根暗吸血鬼が!」

「乳妖怪は黙っててもらえないかしら?」

「はい喧嘩やめい」

 ラムリーザは、リリスを掴んでいるソニアを引っ張って元の場所に座らせてから言った。

「えっと、ジャンの所に泊まれるよう手配したから騒がないように」

「え? ジャンさんの家ですの?」

「うん、シャングリラ・ナイトフィーバーの上階はホテルになっているんだ。二人部屋を二部屋四泊入れてもらったからそれでいいだろ?」

「あ、はい」

 とりあえず、ユコは納得したようだった。

「待て、二人部屋二部屋だと?」

 だが、リゲルはギロリとラムリーザを睨みつけてきた。

「ん? 問題あるか? リリスとユコ。リゲルとロザリーンの組み合わせで泊まるといい。それでいい、うん」

「いやだからそれを待てと言うのだ。普通は男女分けるだろ?」

「付き合っているんだからええじゃん。あ、そうか、清い交際とかいうやつ? リゲルも清い交際崩壊したらいいんだ、はっは」

「な、何を言い出すのですか!」

 ラムリーザの軽口に、ロザリーンは顔を赤らめて非難する。

「全く油断も隙も無い」

 リゲルはそう言って、自分の携帯端末で電話を始めた。シャングリラ・ナイトフィーバーの番号を調べてかけているようだ。一人部屋一つ四泊などと言っている。

「なんだよぉ、せっかく良い機会作ってあげたのに。恋人同士で過ごす夜、二人は手を取り合って大人の階段を上るんだ」

「ラムリーザさん!」

 続けてソニアがいらん事を言う。

「じゃあリリスとユッコは、貝合わせでもして遊ぶんだ」

「ソニアさん!」

 同時にロザリーンの怒声と、ラムリーザの拳骨、そしてリリスの足がソニアの股間に直撃した。

 

 住宅街アチェロンを過ぎると、次はフライ・クリークの街だ。

 この街には、以前文化祭に遊びに行った私立ファルクリース学園があったりする、この地方のオフィス街だ。田舎の地方なので、それほど高層ってわけでもないがビルが立ち並んでいる。居住区は主に集合住宅が主流で、一戸建ての住居は少ない。人口は繁華街のエルム街より多く、六千人以上は居るかもしれない。

 かつて、ゴカイやミミズが凶暴化して大パニックになる騒ぎがあったという噂が立っているが、住民の間では、単なる噂にすぎないということになっている。そもそも、ゴカイやミミズが凶暴化したところでどうなると言うのだろう。

 

「ピン」「ポン」「パン」「ピン」「ポン」「パン」――

 ラムリーザとリゲルが呆然と眺める中、ソニア達四人は、互いに指差しながらピンポンパンと騒いでいる。リゲルはラムリーザと顔を見合わせ、軽く溜息を吐くと、リリス達から顔をそむて頭の後ろで手を組んで座席に深くもたれかかった。

「パン!」

 そう叫んだユコは、唐突にラムリーザを指差す。突然指名され、ラムリーザは釣られて思わず口走った。

「ポ、ピョン?」

 とたんに、「やったー」だの「間違えたー」だの大喜びして騒ぎ出す。「罰ゲーム、罰ゲーム」などと言っているが、ラムリーザは無視してソニア越しに窓の外を眺めた。

 電車はフライ・クリークの街を通り過ぎて、アミティヴィルに到着していた。

 

 アミティヴィルは、ポッターズ・ブラフ地方東端で第二の農業地域だ。地方の東と西の端で、この地域の食糧をまかなっている。

 西端ポッターズ・ブラフとの大きな違いは、白黒で頭の大きな猫がトレードマークでこの地方最大の遊園地ポンダイ・パーク。特にお化け屋敷ファンハウスが有名だ。

 この遊園地は、電車の窓からもよく見える。

「あ、遊園地だ。あたしまだ行ったことないよ?」

 ソニアは遊園地を指差して言った。

「一人で行って来い」

 そう答えたのはリゲルだ。以前、たしか夏季休暇前にもこのやり取りがあったような気がする。

「そうねぇ、ソニアを一人でファンハウスへ放り込むのも面白いかもしれないわねぇ」

 リゲルは、楽しそうに語るリリスを、苦虫を噛み潰したような顔で見つめているのだった。

 

 アミティヴィルの麦畑を抜けると、この地方と隣の地方を隔てている山脈に差し掛かる。

 電車は、エンカラ峠と呼ばれている坂道に入り、ポッターズ・ブラフ地方から出て行くことになる。

 ポッターズ・ブラフ エルム街 アチェロン フライクリーク アミティヴィル、以上の五つの街が、この地方の主な生活の場となっている。

 帝都までは、さらに一時間半程電車に揺られながら進む必要があった。

 
 
 
 
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