home > 物語 > > 生徒会長立候補演説

生徒会長立候補演説

 

 この日の午後、生徒会長選挙に向けての演説を聞きに行くために、ラムリーザは学校の体育館へと向かう通路を歩きながら、リゲルと話をしていた。

「ロザリーンとはうまくいっているみたいだね。ひっつけた僕が今更言うのもアレだけど」

「……まぁな」

 これまでの経過を見る限り、リゲルはロザリーンと仲良くすることで過去の傷も癒え、仲間達と遊ぶ機会も増えた。

 それはそれでよいのだが、ラムリーザは、もう一つ気になっていることをリゲルに尋ねた。

「それならよかった。お父さんとも和解した?」

 リゲルは、以前付き合っていたミーシャという娘との間を父親に引き裂かれて以来、親子の関係は冷え切ったものになっているようだった。

「いや、あれはいかん。ミーシャの時と態度が違いすぎるのに腹が立つ」

 残念ながら、親子の関係が完全に修復したわけではなさそうだ。

「あうん、まぁそれは……、ん~」

「お前は悪くないから気にするな」

「ん、しかしなんか最近妙に冷え込まない?」

「そんな気もするな。今年は例年よりも寒いようだな」

 校舎の外の渡り廊下を歩きながら、去年までとは少し違う冷えた風を肌で感じ取っていた。

 

 昼休み後、全校生徒は体育館に集められ、生徒会長立候補者の演説が行なわれようとしていた。開始前のこの時間、周囲はザワザワとしている。

 この国、エルドラード帝国は南国であるがゆえに年中温暖だが、この時期は多少は冷え込む。しかし今年は、先ほどラムリーザとリゲルが会話したように、例年よりも冷え込んでいるようだ。

 ラムリーザは、体育館に座る床の冷たさを、尻で感じ取っていた。

「ラム~、お尻が冷たい」

 ソニアは、膝を抱えた座り方、所謂体育座りのままラムリーザのすぐ傍に引っ付いてきた。

「ん、冷たいねぇ。あ、ちなみにその座り方、前からパンツ丸見えだから。ほら、リリスやユコみたいに横座りにしなさい」

「あの座り方だったら足も冷たい。ねぇ、ラムが胡坐かいて、あたしその上に座るのがいいなぁ」

「何を馬鹿な……」

 例年通りの気候なら、ソニアはここまでごねたりしない。もともとミニスカート好きの裸足好き、それで普通に過ごせるはずなのだ。

 ソニアは、ラムリーザの足に手をかけて、強引に乗ってこようとする。

「こら、やめなさい。えーとね、正座したらどうだい? 今の座り方よりは冷たくないと思うよ」

 体育座りなら、剥き出しになっている太ももの付け根辺りが床に接してしまって冷たい。だが、正座をすれば、サイハイソックスを履いているので、膝から下は床との間に一枚だけ防護壁ができあがっている。

 ソニアは、ラムリーザに押し戻されて、しぶしぶ正座する。

「なんか足が痛い」

 まだごねるソニアだが、その時、演説が始まる旨が教師によって宣言された。

「始まるぞ、お口にチャック」

 ラムリーザが、口の前で人差し指を立てるのを見て、ソニアは口を尖らせた不満そうな顔で応じた。

 

 演説は、一年生のケルムから行なわれた。

 ラムリーザは、ケルムの演説を聞きながら、相変わらず生真面目だなと思った。しかし一方で、人を纏める立場の人間は、こういうタイプも向いているのかもしれないと考える。

 だが、ユグドラシルほど親しみは感じない。彼女は、上から支配するといった雰囲気が強く出すぎている。高貴さ所以の欠点であり、強みでもあった。

 演説が終わった所で、「風紀なんぞクソクラエ!」という野次が飛んだ。

 ラムリーザは野次が上がった方を見てみると、ニバスがニヤニヤと壇上を見つめている。野次はニバスのものではない、取り巻きにでも言わせたのだろうか。ニバスの周囲には、いつもの美女軍団が取り巻いている。

 はて、野次は男性の声だった。

 ラムリーザは、ニバスに男性の取り巻きは居たかな、などとどうでもいいことを考えたりしていた。

 野次を飛ばされたケルムは、上がった方をキッと睨みつけ、ニバスと目が合った。

 少しの間にらみ合いが続いていたが、ニバスもケルムの鋭い視線には動じない。

 ニバスの家も、この地方ではそこそこ影響力のある名家のようだった。ケルムも強く反発できず、プイと顔をひねるとそのまま舞台裏へと消えていった。

 ニバス的にも、ケルムが生徒会長になれば肩身が狭くなるかもしれないとラムリーザは思う。

 指導力といった観点から見れば、フォレストピア開拓に向けてケルムの力量は魅力的だ。

 しかしラムリーザは、隣で正座しながら大あくびをするグリーン・フェアリーの方が可愛い、などと思っていたのだった。

 

 さて、次はラムリーザ達が応援しているユグドラシルの番だ。

 ラムリーザは、ユグドラシルの演説の主なポイントは事前に知っていた。

 というのも、数日前にラムリーザの元を訪れたユグドラシルは、とある相談事を持ちかけていた。その内容が、ラムリーザにとって断る理由も無かったので、ユグドラシルの自由にさせることにしたのだった。

「突然ですが皆さん、右を向いてください!」

 ユグドラシルの演説は、唐突な要求から始まった。顔を見ると真剣な表情だ。

 ラムリーザは、言われたとおりに右を向いてみた。そこには、神妙な顔つきで正座しているソニアが居る。ソニアも、その後ちらっと首を右に向けた。

「次に左を向いてください!」

 ユグドラシルの合図で、ラムリーザは左を向いた。そこには隣のクラスの、誰だっけ――、チロジャルが居た。チロジャルも先ほどユグドラシルが言ったことを実践して右を向いていたので、ラムリーザと目が合った。

 気の弱いチロジャルは、一瞬びっくりしたような表情になるが、ユグドラシルが言ったようにすぐに左を向いた。

 ラムリーザはチラッと右を見てみると、左を向いている右隣のソニアと顔が合った。

「お分かり頂けましたか? 自分にはこの通り、人を動かす力があります」

「ぶふっ」

 ラムリーザは、それは違うだろうと思わず吹き出してしまった。同じように吹き出す声が、周囲から上がる。

 小さな笑いはさざなみのように伝わり、次第に笑い声と変わっていった。

「お静かに!」

 人を動かす力のあるユグドラシルは、一言で笑い声を止めて見せ、演説を続けた。

「皆さんは、今帝国が推し進めようとしていることを知っていますか? そう、隣国シロヴィーリとの交流強化です。そのために、現在ポッターズ・ブラフよりもさらに西、アンテロック山脈を越えた向こうに新開地が作られているのを知っている方も居ると思います」

 ユグドラシルの演説の本題が始まった。ラムリーザにとっては、その為にこの地へ来たようなものだから周知の事実だが、今ここに居る全校生徒のうち関心を持っているのはどのくらい居るのだろうか、と考えた。

「皆さんは、シロヴィーリの文化に興味が沸いてきませんか? 自分は、シロヴィーリのお祭り等、異文化交流の結果面白そうなものがあれば、学校行事に取り入れていきたいと思っています。こういったことは主に新開地で行なうことになっていますが、その隣にあるこの学校でやってみても、悪くないと思いませんか?」

 これが、先日ラムリーザの元を訪れたユグドラシルが提案してきたことだった。異文化交流は、新開地が独占することもないので、ラムリーザはユグドラシルの案を認めたのだった。

「また、自分が生徒会長に当選しましたら、皆さんが生徒会にやって欲しいこと等要望があれば、できるだけ要望に沿えるよう努力していくつもりです。ひとまずは、目安箱といった形で校内に意見所を設置しておきますので、要望、進言などありましたら遠慮なく申し付けて下さい」

 ラムリーザは、これは良いなと思った。フォレストピアでもこの制度を取り入れて、民衆の意見に耳を傾けるのも悪くない。

 壇上のユグドラシルは、ここで一枚の紙を取り出した。

「この演説が始まる前に目安箱を確認したところ、早速一枚入っていました。折角の機会ですので、この場で意見第一号を取り上げてみたいと思います。一年生のソニア・ルミナスさんからの要望だそうです。どれどれ……、『校庭に遊具を作って下さい!』」

 周囲から笑い声が湧き上がる。

 だがラムリーザは、笑っている場合じゃなかった。

「ソニア?!」

 隣に居るソニアを、「何だあの要望は?」と問い詰める。

「いや、朝学校にきたら、目安箱って書いてある箱があって、生徒会にやって欲しいことの要望を書くみたいな感じだったので書いた、ってことになってる」

「ことになってるって何だよ、それに遊具って何?」

「……ブランコとかシーソーとか機関車とか」

 それは、帝都で過ごしていた時期、よく遊びに行っていた近所の公園だ。ソニアは公園と校庭を勘違いしている。ラムリーザは、後でユグドラシルに謝っておこうと考えた。

 一方壇上では、ユグドラシルは演説の締めにかかっていた。

「このように、笑いの絶えない学校生活にしていきたいと思っています。必ず期待は応えて見せますので、皆さんの期待という一票を自分、ユグドラシルにどうぞ宜しくお願い致します! おしまい!」

 こうして、生徒会長選挙に向けた演説は終了した。

 演説はあったものの、結局の所ユグドラシルのハーシェル家と、ケルムのヒーリンキャッツ家の争いだ。

 それぞれの家に縁のあるものは、そちらに付くだろう。勝負の分かれ目は、あまりそういった家同士の勝負に関係の無い浮動層を、演説で取り込むかということにかかっている。

 

 ラムリーザは、体育館から全校生徒解散後にユグドラシルを探して回った。

 そして二人が顔を合わした時、ラムリーザが謝罪するよりも早くユグドラシルの方からラムリーザへお礼の言葉が発せられた。

「ラムリーザ君、ありがとう。そしてソニアちゃんもありがとう。お互いそれぞれ良いネタを提供してくれたよ」

 ラムリーザは謝罪するつもりだったが、さきにお礼を述べられてはするにできない。

「フォレストピア、新開地の件は良いとして、ソニアも?」

「ユーモアだけでは生きられないが、ユーモアなしでは生きたくないね」

 実際の所では、ユグドラシルはラムリーザだけでなく、ソニアにも演説のネタを提供してもらっていたのだ。ユーモアなしでは生きたくないユグドラシルとして、笑いを取れたから万事OKということらしい。

 そういえばソニアも、「ってことになってる」と言っていた。ラムリーザの知らないところで、仕組まれたことだったのだ。

 ラムリーザは、笑顔で答える彼に、「ユグドラシルさんは、存在自体がユーモアだよ……」としか答えることができなかった。

 

 

 この日もソニアは、携帯型ゲーム機2DOを転売した。

 これで計四つ売って、7270エルド儲けることができ、転売作業も順調なようだ。田舎のこの地方にも流通が行き渡るまで、この転売は進んでいくだろう。

 これで現在、ソニアの通帳には17270エルド入っている。

「今日から2DO二つ仕入れることができる、二倍で回すことができるようになる、やっぴー!」

 今日もラムリーザとソニアの二人は、2DO仕入れのために帝都へと向かった。

 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2018
新しい記事
古い記事

return to page top

©発行年-2018 らむの夢日記