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平日のとある日常、積雪前夜

 

「ラム~、おなかすいた~」

 下宿先の屋敷で自室のソファーでのんびりしていると、日も暮れた頃にソニアがラムリーザに寄り添ってきてきた。

「リゲルに貰ったチョコレートはどうなった?」

「もう全部食べたよぉ。というか、学校に持っていって自慢したらリリスやユコにいっぱい食べられた」

「嗜好品をスナック菓子のように食べて……。まあいい、そろそろ夕飯の支度もできている頃だろう、行くか」

 ラムリーザとソニアは、食堂へと向かった。食堂からは、スタッフドトーソイキーの良いにおいが漂ってきている。聞きなれない名前だが、簡単に言えば大豆の七面鳥風詰め物のことだ。

 二人は食事をとりながら、たわいもない雑談をしていた。

「そういえば、転売はどうなったん? 今週に入ってから買出しに行ってないけど」

「リリスに勝てたからもういい。正直毎日毎日ここと帝都を往復するの、もう疲れた」

「ああ、あれは大変だったな」

 ラムリーザもソニアの付き添いで毎日往復していたので、その大変さは理解できた。

「それに、昨日近くのゲームショップに行ってみたら、普通に2DS売ってた。もう転売できないよ」

「さすが名将は、引き際を心得ている」

 何も考えていないようで、しっかりと情勢を確認しているソニアに、ラムリーザは少し感心していた。

 食事が終わり部屋に戻ると、ソニアはすぐにソファーに座ってゲームを始めた。

 一方ラムリーザは、先に入浴を済ませることにした。

 ラムリーザが風呂から出てくると、入れ違いで今度はソニアが入る。

 その間に、ラムリーザは交換日記を済ませることにした。

 交換日記を開いたが、いつまで続けるのだと思ったのと、書くことが無いという二重苦に悩まされていた。

 丁度前回記入者のリゲルの書き込みを見ると、「うむ」としか書いていない。これは絶対にリリスやユコから苦情が出るぞと思いながらも、ラムリーザも「うむ」としか書くことが無いのが事実だ。

 それ以前のロザリーンの書き込みは、先ほど晩御飯で食べたスタッフドトーソイキーのレシピだし、リリスとユコはS&Mの話題を書き込んでいる。

 S&Mはグループ名で、ラムリーザにとっては年末年始の休暇に帰省した時に会ったミーシャのMと、妹ソフィリータのSを合わせた、ラムリーザとジャンがJ&Rというグループでやっていたのと同じようなネーミングだ。

 ちなみにソニアの書き込みは、「海賊船長エルリグ死ね」だった。ソニアに交換日記が回ってきたタイミングが、丁度その頃だったのだろう。

 さて、一通りメンバーの書き込みを見たが、全く書くことが思いつかない。

 そこでラムリーザは、日記のネタにとソニアがプレイしていたゲームの画面を眺めた。

 ソファーの前にあるテレビには、ゲームのデモ画面が流れている。今年の始めにも見た、一人の武将になって大勢の敵をバッサバッサとなぎ倒していくゲームのようだ。

 タイトルは、四国無双。今年に入ってから、ソニアはこのゲームにはまっている。

 内容は、四つの国、ギョク、ショ、ゴン、グワンがそれぞれ覇を争うことで、自分の所属する国で天下統一できたらクリアになっているらしい。そのために武将を操作して、敵の総大将を倒すというミッションを繰り返すアクションゲームだ。

 ラムリーザは、自分の好きな色である緑を選択した。ギョクという国のようだ。

「大盛りねぎだくギョク!」

 そう言って、ゲームを開始した。特に掛け声に意味は無い。

「ちょっと待って!」

 ラムリーザがプレイするキャラクターを選ぼうとしたところ、突然横から声をかけられる。

 見ると、ソニアがバスタオルを掴んだまま、ほとんど裸で部屋に戻ってきていた。

「またそんな格好で出てくる。リゲルが訪問していたらどうするんだ?」

「チョコレートくれるなら許す」

 大分ソニアの敷居が下がった。高級嗜好品とはいえ、お菓子一つで裸が見られるとは、安くなったものだ。

「あたしもプレイする!」

「対戦なら、お断りだ」

 ソニアは、対戦となるとハメ技などずるいことばかりしてくるので、ラムリーザ的にはあまりやりたくない。

「対戦じゃない。対戦もしたいけど、協力プレイがあるから、それをやろうよ」

 そういうわけで、バスタオルを巻いたままのソニアと並んでプレイすることになった。

 ラムリーザは、とりあえず「チョオマンセー」という武将が、蛮族風でかっこよかったので選んでみた。ソニアは、「テーエンシ」という武将を選んでいる。

 何かせこい技でも持っているのじゃないか?

 そう勘繰ってしまうラムリーザであった。

「あたしが敵陣に突っ込むから、ラムは本陣を守ってて!」

「待て、功を焦って猪突するんじゃない」

「猪突猛進こそ我らの本領よ、敵に如何なる奇計奇策があろうとも、力で打ち破ってくれるわぁ!」

 敵陣の中にただ一騎で突っ込んでいくソニア、いやテーエンシを、ラムリーザ、いやチョオマンセーは本陣から眺めていた。

 敵の大群は、ソニア一人にバッサバッサとなぎ倒されていく。

「暇だなぁ、僕も突っ込んでいって良いかい?」

「ダメ!」

 ラムリーザが聞くと、ソニアは即答で拒否する。

「そんなこと言ったって、見てるだけで僕がプレイする意味あるのか?」

 こんなことなら、女性キャラでも選んで鑑賞しているんだった、などと考え始めていた。

「いいの、ここの敵ずるいから。ラムはそこで待ってて」

 ゲームでソニアにずるいと言わせるのなら相当なものだ。ずるいソニアを困らせるずるさとは何か。

 そうこうしているうちに、ソニアの操るテーエンシは、敵の本陣へと迫りつつあった。一人の蛮勇で戦局を支配してしまう、すごいゲームだ。

 その時だ。

『敵の奇襲発生! 本陣の危機!』

 聞くものを不安にさせるようなアラート音とともに、画面にテロップが流れた。

「ほらきた! 調子よく攻めていたらいつもこうして本陣奇襲してきて引き返させるのめんどくさい。奇襲部隊はラムが何とかして!」

 気が付くと、いつの間にかラムリーザの操るチョオマンセーの周囲には、大量の敵兵が出現していた。

 ラムリーザは、近くに居る敵兵に飛び掛っていった。

『味方の総大将ピンチ、救援せよ!』

 さらに画面にはテロップが流れた。

「ちょっとラム! 味方の大将を助けに行ってよ!」

「大将は誰だよ?」

「ギョクだからチューカック、はやく向かって!」

 ラムリーザは、マップを頼りに味方総大将の所へと向かった。

 チューカックらしき武将の周りには、十体ぐらいの敵兵が群がっていた。

「紅天死すべし! 翠天立つべし!」

 ラムリーザは、ギョクの国のスローガンを叫びながら、総大将の周囲に居る敵兵へと突撃していった。

 その時、ラムリーザはちょっとした寒気を感じた。部屋の中に居るのに寒い。

「ラム、なんか寒いよ……」

 ソニアは、バスタオルから覗かせた素足をすり合わせてもじもじしている。

「うん、底冷えするね。とりあえずバスタオル一枚は止めて寝衣に着替えたらどうだい?」

「そうする……」

 ソニアは、自分のキャラを安全な場所に避難させて、着替えるためにソファーから立ち上がった。

 普段は寝衣に着替えても、豊満な二つの大きなおまんじゅうを無防備に晒しているのだが、今夜はぎゅっと閉じている。

 ソニアは「寒いよう……」とつぶやくが、ラムリーザはそれどころではなかった。

 自分がやられそうになって防御に徹すると、味方の総大将がピンチになる。かといって総大将の救援に入ると、自分が攻め込まれて危ない。自分と総大将を守る、そのバランスを必死に保っていた。

「早く敵の大将やっつけてくれよ、防衛も大変だって」

「そうなの、それ酷いのよ。一人でやってたら大変なんだから」

 二人でやるならマップが広い方が楽しいだろうということでたまたま選んだステージは、どうやら終盤の山場で難易度の高いステージだったようだ。

 だがソニアは、一人でやっている時とは違って、後方を気にする必要が無いので、安心して敵の本陣の中で大暴れしていた。そしてついに、敵の総大将ナニシンに辿りつく。

 ソニアはナニシンに飛びかかり、最初の一撃で宙に跳ね飛ばした。そのまま宙に浮かせたまま三回ほど攻撃をした後、再び宙に跳ね飛ばした。また宙に浮かせたまま三回攻撃して――。

 またハメ技を使っているな?

 ラムリーザは、横目でソニアの画面を見ながらそう思った。

 対戦の時に自分が使われなければそれでいいか……。

 そう思いながら、ラムリーザは味方の総大将を守り続けた。

「おのれ……、チューカック!」

 そう言い残して、ナニシンは絶命した。最初にソニアに浮かされてから、一度も着地することができずに、浮いたまま全ての生命力を削り取られたのだった。

「やった! 勝った!」

 プレイヤー、勝利! のテロップが流れ、クリアタイムや敵殲滅数等がカウントされはじめた。

 

 その時だ――

 

「さっ、寒っ!」

「ふえぇっ!」

 突然二人の居る部屋の温度がガクンと下がったような気がした。

「何だこれは?」

 そうつぶやくラムリーザに、ソニアは思いっきり抱きついてきた。引っ付いてくれた方が、多少は暖かい。

 少し前から感じていたが、今年は例年に比べてかなり冷え込むようだ。

 ラムリーザは、少し早いけどゲームを切り上げて布団にもぐりこむことを、ソニアに提案した。ソニアもそれにすぐさま同意する。

 布団に入ると、寒気は多少は和らいだ。

 普段以上にソニアは引っ付いてきて、これでもか、これでもかと二つの大きな風船を押し付けてくる。

「ラム、寒かろう」

「ソニアも、寒かろう――ってこれじゃあどこぞやのふとんの話だよ」

 そんなことをつぶやき合いながら、二人は抱き合ったまま眠りにつきました。

 
 
 
 
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