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家出した不良娘と不良の親分

 

 今日も学校の教室で朝からリリスとソニアは雑談中。

 リードボーカル争奪戦は、動画を投稿したは良いが、今度は再生回数の少ない方が勝ちという意味不明のものだった。

「リリスさんが七回で、ソニアさんは三十二回ですね」

「なんでそんなに見てるのよ、クソ視聴者!」

 ロザリーンの報告に対して理不尽なキレ方をするソニアを他所に、ラムリーザは昨夜のことが気になってユコに尋ねようとしたが、そこで今日はユコがまだ登校してきていないことに気がついた。

「いつも一緒に登校しているけど、今日はどうしたんだい?」

 ラムリーザは、ソニアに差をつけているのでいい気になっているリリスに尋ねてみた。

「朝家を訪ねたら、もう居なくなってたわ」

「えっ? 誰も?」

 ラムリーザは、昨夜の去り際のユコの様子がおかしかったので不安になる。

「いえ、母はいたわ。テンコーとかなんとか言っていたけど、何の話かしらね」

「どうしたんだろうね、昨夜からなんだか様子がおかしいんだよね」

「それもそうね……」

 ラムリーザとリリスは、顔を見合わせて首をかしげていた。

 

 その頃ユコは、朝家を出たものの、学校に行く気にもなれずに一人で繁華街をうろついていた。

 後一ヶ月ぐらいで離れ離れになってしまう、ユコはそう考えるとみんなと顔を合わせたくなかった。どうせ居なくなる学校に用は無い、そんなことを考えていた。

 気がつくと、いつもよく行っているゲームセンターの前に立っていた。

 ユコは、ふらふらと誘われるように中に入り、条件反射的にメダルゲームを始めていた。

 嫌なことを忘れようと、メダルをどんどん投入するが、一向に楽しくならない。ますます何もかもが嫌になってきていた。心は沈むばかり、再び涙ぐんできた。

「よぉ、綺麗なねえちゃん」

 唐突にユコは声をかけられる。振り返るとそこには、いやらしい笑顔を浮かべた男子学生が立っていた。

 しかし、こんな時間にゲームセンターに来ているような生徒に、ろくな生徒は居ない。普通に生徒は学校に言っている時間、学校サボりの悪者だ。

「何かしら? 一緒に遊びたいんですの?」

 今日のユコはヤケだった。家出娘として反抗してやろうかという気にすらなっていた。ヤケクソ気味に、「仲間になってあげる」と吐き捨てた。

「おう、仲間仲間。仲間だから、おっぱい見せて欲しいなぁ。ちょっと脱いでみてん」

 サボり生徒は、ユコが食いついてきたので調子に乗っている。ユコ自身も、どうにでもなれとばかりにブラウスのボタンに手をかけた。

「あ、でもやっぱり嫌ですわ」

 ユコは、すんでのところで理性を取り戻した。反抗はしてもいいが、痴女になるつもりはなかった。

「なんだよ、見せてくれてもいいじゃんかよ」

 サボり生徒は、強引にユコのブラウスに手をかけてきた。

「やめてください! 遊ぶのはいいけど、変なことはやりたくないですの!」

「変なことじゃないよ、いいことだよ」

「よくないですわ!」

「脱げよコラ!」

 サボり生徒は、乱暴な本性をむき出しにしてユコに襲い掛かってきた。

 ユコは抵抗するが、メダルゲームの筐体に押し付けられてしまった。

「もう、どうでもいいですの……」

 ユコは、このまま自分が無くなってしまえばいいと考えた。全ては勝手な話を持ち込んできたお父様が悪いのだと。そっと目を閉じる……。

「わんばんこ」

 その時、近くからユコには聞きなれた声が聞こえた。

「げっ、レフトール?!」

 サボり学生は、レフトールの突然の出現に、ユコを掴んでいた手を離した。

 ユコは、レフトールの姿を見て少し安堵した。安堵ついでに、軽口を叩く余裕も復活していた。

「何ですのレフトールさん、こんな時間に学校に行かずにゲームセンターに来るなんて不良学生ですのね」

「おう、俺は不良でもいいが、お前は?」

「私も家出した不良娘、よろしくですの」

 ユコは、乾いた笑みを浮かべてレフトールに答えた。

「おお、不良娘ね。チェーンを巻いたヨーヨーとか使う?」

「いつの時代の話ですの?!」

 二人で仲良く談話を始めてしまい、面白くないのは先ほどのサボり生徒だ。

「おいレフトール、そいつは俺が先に目をつけたんだ。引っ込んでろ!」

「ほぉ、俺とやりあうのか?」

 サボり生徒は、いきなりレフトールに殴りかかってきたが、レフトールはひらりと身をかわす。身をかわされたが、すぐに体勢を立て直して、レフトールの蹴りに備えて上段をガードする。

「嫌なことを思い出させる構えだな」

 レフトールは、その構えを見て顔をしかめた。それは、頭のガードを重視するラムリーザの構えに似ていた。

「お前が蹴り技使いなのは知っているからな」

 サボり生徒は落ち着いていた。

 それを見て、レフトールは丁度いいと考えた。以前予行演習した技を、実戦で使ってみる良い機会だと考えた。

 試しに一発ハイキックを打ち込んでみる。しかし、サボり生徒はしっかりとガードを固めていた。それならば――。

「まーかせなさい!」

 レフトールは思い切り踏み込んで、サボり生徒の足を蹴っ飛ばした。先日ラムリーザに放って見せた、全力で打ち込むローキックだ。頭にハイキックを打ち込むと見せかけて、途中で軌道修正して足を狙うフェイントも備えた、一撃必殺のローキックだ。

 サボり生徒は、バランスを崩してひっくり返った。すぐに立ち上がろうとするが、足の蹴られた部分が痺れてうまく立てない。

「くっ、覚えてやがれっ」

 そう言い残してサボり生徒は、蹴られた足を引きずりながらその場を立ち去って行った。

 ユコとレフトールは、互いに顔を見合わせてにんまりと笑った。

「レフトールさんもやっぱり強いんですのね。今の蹴りも地味だけど、ものすごく効いていたみたいじゃないですの?」

「今の蹴りは、ラムさん対策なんだけどな。必殺技名は、フォレスター・キラーだ」

 レフトールは、下段蹴りのモーションを繰り返しながら言った。実戦でも使えたことに、かなりいい気分になっている。

「ラムリーザ様……」

 ラムリーザの名前を聞くと、ユコは表情を曇らせた。

「ラムさんだけでなく、俺もレフトール様って呼んでくれよ……、ってどうした? あ、別にラムさんに反抗するわけじゃないから気にしないでくれ。守護者たるもの、主人より強くなければ成り立たない、そういうことだよ」

「別にレフトールさんが悪いんじゃないですの……」

 レフトールは、自分が責められているわけでないことに安堵したが、ユコの表情が暗いのはあまりいい気がしなかったので尋ねてみる。

「ん~、そんな表情はいつもの演技がかった台詞回しのお前らしくないぞ? いつもの謎の自信に溢れたあの態度は何処行った?」

 ユコは、しばらく黙っていたが、何故かレフトールには打ち明けようって気になって話し始めた。

「私ね、この春からみんなとさようならですの……」

 レフトールは、一瞬「さようなら」の意味が分からなかったが、傍に居た子分マックスウェルに耳打ちされて答えた。

「ひょっとして転校?」

「そうですの……。お父様が、新しい町で働くことになっちゃったの……」

 ユコは、うつむいたまま答えた。

「でもさ、なんかガッコに寮とかなかったっけ?」

 レフトールは、マックスウェルの方を振り返って言った。マックスウェルは、「桃栗の里」と一言答え、レフトールは再びユコへと向き直る。

「反対されましたの……」

「ふーん、残念だな」

 レフトールは、少しがっかりしたような雰囲気で言った。レフトール的には、ラムリーザのグループに近づくための架け橋として、ユコを選んでいたりするのだ。例えばこうして、ゲームセンターという共通の趣味がある。

「残念ですの? レフトールさんが?」

 ユコは、ラムリーザ達に残念がられるのが嫌で逃げていた。しかし、あまり関係ないはずのレフトールにまで残念と言われて意外だったりした。

「ん~、なんかもうお別れみたいだからばらすけど、子分達の間で俺、お前とデートしていることにしてるんだ。ゲームセンターデートだけどな」

 マックスウェルは、欠伸をしながら「あほらし」と続けた。

「ちょっと待ってください! 私レフトールさんと付き合ってませんの!」

「お、元気が出てきたな。よし、いろいろ聞いてやるぜ。どうやら俺は悪で通っているが、子分の話は聞いてやるのだ、分かる親分だぜ。ユコも今日から不良だろ? 話を聞いてやるぜ」

「不良でいいけど、レフトール組には入りませんの」

「何ィ? それじゃあウサリギ組か?!」

「私は一匹狼ですの!」

 レフトールは、そっとユコの方に手を置いて落ち着かせた。大声を出されても、騒々しいゲームセンターの中では目立たないが、真面目な話もやりにくい。

「いんぐりもんぐりの里がダメなら、誰かの家に居候とかして住み着けばいいんじやないかね? 俺の家なら大歓迎」

 レフトールの間違いに、マックスウェルは「桃栗の里」と突っ込む。

「レフトールさんの家? 嫌ですの、居候ならラムリーザ様の家がいいですの」

 レフトールは、速攻で拒否されてへこんだが、すぐに思い直して話を続けた。

「ラムさんの家か、それはいい。事情を話してラムさんの所へ泊めてもらえばいい。おっぱいちゃんが邪魔なら、そっちは俺が引き受けるから」

「あ、それはいいですわね。私がラムリーザ様とひっついて、レフトールさんがソニアをもらってくれたら、万事めでたしめでたしですわ」

 なんだかよくわからないが、妙なところで二人の利害は一致したようだ。ソニアは、おっぱい狙いの男性には受けが良い。

「ところで、マジで不良化してもうガッコ行かないのか?」

 ユコは、再び少し暗い表情をして答えた。

「もう行かない。次の春から行かないので、もうこれから行っても意味が無い。それに、ラムリーザ様達に合うと辛くなるから行きたくない」

「う~ん……」

 レフトールは、ユコが悪の道に入っていくのはあまり歓迎していなかった。

 ラムリーザと付き合うようになって、少しずつでも更生していこうと考えていたのだから、今のユコを見ていると残念で仕方なかった。

 こうなると、俺がなんとかしてやるしかないな。

 レフトールはそう思いながら、ついでにおっぱいちゃん奪取の野望を隠したまま、ユコをなんとかしてやろうと考えるのだった。

「ガラにもないことするなよな」

 マックスウェルのつぶやきは無視して、レフトールはにやりと笑みを浮かべた。

 
 
 
 
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