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TRPG第三弾「カノコ誘拐事件」 第二話
- 公開日:2019年3月31日
テーブルトークゲームは続いている。
前回の冒険で一緒したカノコが行方不明になり、妹のマコの依頼で調査することになった。カノコの部屋には剃刀レターが残されていて、その刃には何らかの毒が塗られていた。
そこで、毒に詳しいヒーラーの薬屋であるユウナに会って、話を聞くことになった。
「机の上の怪しい手紙と剃刀を持っていって調べてもらおう」
「とりあえずリリスは、なんか上着を着て翼を隠してね。ただでさえ怪しい吸血鬼なのに、そんなのつけていたら本物の吸血鬼になっちゃうよ」
ソニアが言うのは半分煽りで半分事実だ。リリスは、剃刀に塗られていた毒の影響で、何故か蝙蝠の翼が生えてきたのだ。
「ソニアを踏んづけます。あれ? ちっちゃくなっていたからわかんなかった、ごめんね、くすっ」
リリスの煽りも同様、ソニアも剃刀の毒で、何故か身体の大きさが半分以下に縮んでしまっている。
「そうこういっている間に、目的の薬屋に到着しましたの。んで、カウンターには白エルフの少女が店番をしています」
「ええと、この人がユウナさんかな?」
「白エルフが間延びした声で、私がユウナです、何かお使いですか? と答えました」
「あらあらまあまあは、そいつが設定を引き継いだんだな?」
リゲルの突っ込みにユコは、そんな設定は知りませんと答えた。
「背の伸びる薬ください」
真剣な表情でソニアが頼み込む。
「ユウナは、背を伸ばしたいんですかぁ? だったらよく食べてよく寝ることです、と答えました」
「そうじゃなくて!」
「いや、毒の影響だから解毒してもらえばいいんだよ。というわけで、この剃刀を調べて下さいと言って剃刀を差し出します」
ラムリーザは、隣で剥れているソニアをなだめながら提案した。
「念のために聞いておきましょう、あなたはカノコさんを知っていますか?」
ロザリーンの問いにユコは、「カノコとは仲良しだけど、最近店に来てくれない」と答えた。
「ちなみにユウナってキャラは?」
ラムリーザは、ユコではなくあえてリゲルに聞いてみた。リゲルの考察を楽しみにしている自分が居る、と感じながら。
「双子の姉で、知能犯の方だな」
「外野うるさいですの! ユウナは、立ち話もなんですから、お茶でも飲んでいってくださいです、と言いながら居間に案内していますわ!」
ユコが反応するところ、リゲルの考察には何かがあるにちがいない。
「居間には入るけど、お茶には手を出さないでおこう」
ラムリーザは慎重だが、ソニアは「お茶もお菓子も食べる~」と妙に嬉しそうだ。
「あ、ソニアは出されたお茶を飲みましたのね、ダイスを一個振ってくださいな」
ソニアは、ユコに言われたとおり、ダイスを転がす。
「そういえば、剃刀手紙の差出人は書いてるんかな?」
「差出人は書いていなくて、ついでに中身は白紙。典型的な嫌がらせみたいですわ。あと、その目だとソニアの身体は元に戻りました。あとユウナは、リリスの翼に興味をしめしているみたいですよ」
リリスは、「カノコの部屋で手がかりを探していたらこうなったわ」と答えた。
「白紙かぁ」
ラムリーザがそう言うと、ロザリーンは「火を近づけたら文字が出るかもしれませんね」と言ってきた。それはあぶり出しだ。
「ユウナは、毒ですか、う~ん、なんだか「リップル・ドール」に似てますね、と答えた。あ、ちなみに先ほどのお茶には、解毒作用があるんですよ、と言っています。どうやら急に大きくなったソニアを見てびっくりしたようです」
「それじゃあリリスも飲んだらいいね」
「治るのね、空が飛べるならこのままでもいいけど」
「やっぱり吸血鬼だ」
リリスは、ソニアに煽られてむっとして、一緒にお茶を飲むことにしたようだ。
「はい、飲んだらダイスを転がして。毒だけど体内に入ったのは微量みたいだから、このお茶で十分で解毒剤までは要らないようですの」
リリスの出した目でも、無事に解毒作用が出たようで、リリスの姿も元に戻った。
「さて、二人とも回復したところで本題に。そのリップルドールとやらの毒は、ここで売っているのかな?」
ラムリーザは、リリスを煽ろうとするソニアを抱き寄せながら話を進めた。
「ユウナは、リップル・ドールは危ない毒なので売ったりしません、と答えましたわ。あれは、戦士系の人を化け物に変えたり、魔導師系の人を人形に変えたりする毒なのです。それだけ言うと、ユウナは剃刀を調べるために席を外しました」
「そっか、だからリリスは化け物の吸血鬼になったんだね!」
「あなたは毒が無くても化け物の風船おっぱいお化けでしょう?」
「こほん、それで前衛の二人は小人になったりきゅうけ――、蝙蝠みたいになったりしたんだね。ちなみに僕が引っかかっていたら人形になっていたのか」
「ラム人形欲しい!」
ソニアがラムリーザに抱きつきながら言ってくるので、ラムリーザは「お前にはココちゃんが居るだろ」と答えた。ソニアは、「ココちゃんは人形じゃなくてクッション!」と答える。とりあえず、どうでもいい。
「そんな危険な毒が、何故カノコさんの部屋から出てきたのでしょう……」
「さて、奥から帰ってきたユウナは驚愕の事実をみんなに告げますわ」
「ユウナと妹のアサナとの間には、死んだ姉妹のマヒルが居たんだな?」
リゲルに茶々を入れられて、ユコは憤慨する。
「違いますの! この剃刀には、リップル・ドールが塗られてたのです!」
少しの間だけ、部室内に沈黙が流れた。
「へっぷし!」
その沈黙は、ソニアの盛大なくしゃみで破られた。正面に居たリリスは、「きたないわね」と言いながら顔をぬぐう。しぶきが顔にかかったようだ。
「えっと、カノコって確かソーサラーだったよな?」
ラムリーザは、リゲルを伺いながら言った。
「チートソーサラーな」
「それじゃあ、カノコさんは今頃は人形になっているのですか?」
「次は人形屋さんかな?」
カノコの話をしている三人とは別に、珍しくリリスが口を挟んできた。
「じゃあユウナさん、そろそろ罪を認めたらどうかしら?」
リリスは、毒を持っているユウナが怪しいと睨んだようだ。「あなたが犯人ですね」と、ユコを見ながら微笑を浮かべている。
「ち、違うですの、ユウナは剃刀に毒塗ったりするの嫌いと言ってます!」
「動揺するところが怪しいわ」
「とにかく違います! お人形屋さんなら、リンナという人がアンティークショップやってるみたいですの!」
ユコは、リリスの指摘を逃れてなんとか話を進めようとしている。
「カノコ人形かぁ、人形にして売られてそうだな」
ラムリーザのつぶやきにソニアは、「今欲しいと思ったでしょ」と笑いかけてくる。
「思っていないいない、ココちゃんで十分。あ、ココちゃんはクッションね」
とりあえず否定と、ソニアの突っ込みは回避しておく。
「それで、他にこの毒持ってる人、持ってそうな人は居ませんか?」
ロザリーンの問いにユコは、「この国でこの毒を持っているのはユウナだけと答えた。何でも皇帝陛下に特別に許してもらっているのだそうです」と答えた。
「だったらなおさら犯人はユウナでしょう?」
すぐにリリスが突っ込んでくるが、ユコは「違います!」と答えた。
「リンナって誰だろう?」
ラムリーザは、またしてもリゲルに聞く。
「リンナか、まぁ簡単に言えば長距離ランナーだな、全国レベルの。ただし本番には弱い、すぐにお腹を壊す」
なんだかよくわからないが、名前を言うだけでいろいろと設定を語ってくれるリゲルが、ラムリーザにはおもしろかった。
「違います! リンナもユウナの友達だそうですの!」
「了解了解、そのリンナも怪しいけど、仲間だったら毒を使ったりしないだろう。それで最近、そのリンナって娘とカノコは喧嘩していたりしないかい?」
ラムリーザは、そろそろユコがリゲルに尋ねるラムリーザ自身を責めるような目つきになってきたので、すぐに話を本筋に戻すことにした。
ユコは口を尖らせて軽くラムリーザを睨みつけたが、すぐに話を進め始めた。
「リンナはいつも調停役で、カノコと喧嘩してたのはテュリウスとエレンウェンですかねぇ」
「そのテュリウスとエレン……、いや、なんでもない」
ラムリーザは、ユコが睨みつけてくるので、これ以上登場人物のネーミングについてリゲルに聞いて探りを入れることはやめにした。
「何故喧嘩をしていたのですか?」
ロザリーンの問いにユコは、「エレンウェンがカノコにいつも冷たくあたってたですぅ~。ユウナには難しくてわからないようですの」と答えた。
「ん~、怪しい奴がいきなり三人になってしまった。そんで、テュリウスとエレンウェンって誰?」
ラムリーザは今度は、リゲルではなくユコに聞いた。これなら文句は言われないだろう。
「テュリウスはエレンウェンの味方ばっかりしています。あ、テュリウスはユウナ達のチームリーダでただ一人の男性ですの」
「それで、二人は何をやっているのかな?」
「エレンウェンもユウナのお友達だけど、ちょっとクールな女性です。二人は魔術師ギルドの講師をやってますわ」
「ふ~ん、それじゃあリンナから行く? テュリウスとエレンウェンから行く?」
ラムリーザは、メンバーを見渡して聞いてみた。その時、何故かリリスと目が合ってしまう。リリスは微笑を浮かべてぽつりと言った。
「テュリウスはエレンウェンに惚れているのね」
それを聞いてソニアは「逆じゃないかな?」と反論する。リリスの「何故かしら?」の問いには、「三角関係になるじゃん」と答えた。
「エレンウェンからテュリウス、そしてテュリウスからカノコなら納得いく、うんうん」
ソニアは、情報を曲げてまで三角関係を作って納得している。
「それよりも、テュリウスとエレンウェンの間にカノコが割って入ってきて、それでちょっかいを出すカノコにエレンウェンが攻撃とも考えられるわ」
「リーダーなのに贔屓ってダメですわねぇ」
ユコも混ざってきて、リリスと一緒にラムリーザの顔を意味ありげな視線で見つめてくる。
「待って、ちょっと待って」
ラムリーザは慌てて弁明する。
「僕はリーダーになる前からソニアを――って、別にソニアを特別に贔屓しているつもりは無いよ」
「そうかしら?」
リリスは、怪しげな笑みを浮かべてラムリーザに顔を近づけてきた。
「ラムリーザ、あなたは毎日ソニアと一緒に寝ているんですってね?」
「そっ、それが何……、ですか?」
ラムリーザは、引きつった笑みを浮かべてリリスに問いただす。何故か丁寧語で聞いてしまった。
「何故私と寝てくれないのかしら」
それを聞いて、ラムリーザは「ぶっ」と噴き出してしまう。思わずのけぞってしまったラムリーザの代わりに反撃してきたのがソニアだ。
「何よ! まだ寝取る気満々だったのね?! リリスはクリボーと付き合って寝たら良いって何度も言ってるじゃないの!」
「まぁラムリーザはカノコに惚れているけどね」
「惚れてない惚れてない」
ラムリーザは必死に反論しながら、何故こんな話になってしまっているのだと頭を抱えたくなった。
「ラムリーザ様、お別れになる前に、最後に一度だけでいいから私と寝てくださいですの」
「…………」
もうラムリーザには、何も反論できなかった。とりあえず、この場から逃げ出してしまいたい、それだけを考えていた。
「寝取るな! 役立たずの魔女と呪いの人形! ユコもカノコと一緒に人形になってしまえばいいんだ! そうなったらあたしはユコ人形をトイレに流す!」
ゲームマスターがリリスに加担してラムリーザを誘惑している。それに反応して、ソニアは完全に頭に血が上ってしまい、よくわからないことを叫んでいる。今日はもうこれ以上ゲームにはならないだろう。
場がおかしな空気になりかけた時、丁度良いタイミングで下校の時間を告げる放送が流れ始めた。
「あっ、下校の時間だ。今日は楽しかったよ、続きはまた今度やろう。そういうわけで、さようなら!」
ラムリーザは、早口で言い捨てて、急いで鞄を手にとって部室から逃げ出すように駆け出して行った。
「あ、ラム待ってよ!」
ソニアも慌てて立ち上がり追いかけるが、足元を這っているコードに足をとられて派手に転倒した。何が原因かは言わないが、やはり足元が見えていないようだ。
そういうわけで、今日のテーブルトークゲームは、ここでお開きになったとさ。
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