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TRPG第三弾「カノコ誘拐事件」 最終話
- 公開日:2019年4月14日
さて、テーブルトークゲームは続いている。
ひとまずカノコは無事に保護できたが、犯人を突き止めなければ気がすまないというソニアとリリスの意見を取り入れて、物語はもう少し続くことになった。
「でも学院の講師に喧嘩を売ったらまずくないですか?」
ロザリーンは慎重だ。犯人候補筆頭のエレンウェンは、魔術師ギルドの講師をやっている。
「気にしない!」
ソニアは単純だ。リリスも同意している。なんだかんだで似たもの同士の二人だ。
「ただ、エレンウェンが犯人であるという決定的な証拠がないんじゃないか?」
ラムリーザも慎重論を唱える。それを聞いて、ソニアもリリスも黙り込んでしまった。
「自白させる方法とかないかしらね」
「リゲル、どうしたらいいと思う?」
ラムリーザお得意の、困ったときのリゲル頼みが発動した。
「もともとリップルドールという毒薬を持っているのはアサナ――、じゃなくてユウナだけだろ? それならマヒル――、じゃなくユウナの所に行ってみて、誰かに貸したとか、その毒薬の置いている部屋に誰か入ったか聞いてみたらいいだろう。アサナ――、じゃなくてマヒル――、じゃなくユウナにな」
わざとらしく名前を間違えるリゲルを、ユコは不満そうに睨みつけている。ラムリーザ的には、朝だろうが昼だろうが夕方だろうがどうでもよかったが。
「よし、そうしよう。犯人が決定してから暴れようね」
ラムリーザは、ソニアとリリスを諭しながら話を進めた。
「ほいほい。んじゃ再びユウナのお店ですわ。皆さんおかえりなさいです、と迎えてくれました」
「カノコは元に戻ったの?」
「カノコは、店の奥で寝ています」
「リップルドールの在庫はちゃんとあったんだっけ?」
「在庫はちゃんとあったけど、前置いていたところから動いているみたいですの」
「それ、使われているんじゃないのかな?」
「そうなんですの……」
そこでラムリーザは、あることに気がついて尋ねてみた。
「リップルドールってどうやって使うのかな?」
「あの毒は、ちょっと刃に塗って使えば効果があるです、とユウナは答えました」
「ということは、例の剃刀に塗って使ったということですね」
これで、犯行の凶器は確定した。あとは、この毒薬を盗んだ者が誰かという証拠が見つかれば解決だ。
「ユウナは、毒薬を保管している地下室に何か怪しい跡が残ってないか調べてほしいですと言ってます。シーフ技能と知力で誰か判定して下さいの」
それを聞いたソニアは、リリスに話しかけた。
「悪党のリリスはシーフ技能持ってなかったっけ? 見た目からして悪党のリリス」
「技能使いたくないからリゲルがやって」
リリスは、むすっとしてリゲルに行動を譲った。リゲルは黙ってダイスを転がす。
「あ、リップルドールの在庫の傍で、何かの毛を発見しました。明るいところでよく見ると、それは猫の毛だとわかりますの」
「猫? ユウナは猫を飼っているのかな?」
「ユウナは猫さん飼っていません。猫さん飼ってるのはエレンウェンです、と言ってますの」
「ファミリアの魔法で盗みを働いたな……」
リゲルは小さくつぶやいた。
ラムリーザが「それは何?」と尋ねると、「小動物を、使い魔にする呪文だ。ソーサラーならお前も使えるはずだ」と答えた。
「う~ん、まだ完全にルール覚えていないな。それなら何を使い魔にしようか」
「オカピとかどう?」
「いや、それは怒られるかもしれん。じゃなくて、最近エレンウェンってココにきたのかな?」
ラムリーザは、それかけた物語を軌道修正させる。
「実はこの前ユウナの家でティーパーティーやった、と泣きながらユウナは答えましたの」
「ん~、それならら誰にでもチャンスがあるじゃないか。とりあえずこの前っていつかな?」
「二週間ぐらい前に、研究員みんな集まったと言ってますの。でも猫さん飼ってるのはエレンウェンだけですぅ~。テュリウスは鳩さんだし、ユウナとリンナはソーサラーじゃないですの」
「めんどくさい! なんか自白に効く毒ないの?!」
しびれを切らしたソニアは声を張り上げて聞いてきた。
「毒使うですか? う~ん、ゾンビ・メイカーとか――」
「毒を使って解決するのはよくないぞ」
今日のラムリーザは、ソニアを諭してばかりだ。
「つまり地下にある薬品棚に近づいたのは、エレンウェンの猫だけということですね?」
「よし、エレンウェンをとっちめよう!」
「そうね、これはもうエレンウェンしかいないんじゃないかしら?」
ある程度疑惑が確証に変わりつつあるので、ソニアとリリスは早く戦闘がやりたいためか、話を先に進めたがる。
「よし、行こう。ハッタリかましてでも自白させてやるんだ!」
ソニアがどんなハッタリをかますのか興味深い。
「そういうわけで、ユウナに案内されてみんなは魔術師ギルド前にやってきました」
「ん、エレンウェンさんに面会に来ました」
「エレンウェンですか? え~っと、どのようなご用件でしょう? あ、これは受付嬢の台詞ね」
「どうしよっか?」
ラムリーザは、リゲルとロザリーンに意見を求めた。ソニアとリリスも動きたがっているが、今はまだ早い。
「ユウナさんを見せて、研究仲間と答えましょう」
「研究仲間と聞いたので、少々お待ちくださいませと言って受付嬢はエレンウェンを呼びに行きました」
「エレンウェンってどんな人だと思う? あ、なんでもない」
ラムリーザは、ユコの視線を感じでリゲルに尋ねるのはやめにした。
「しばらくすると、長い髪をかき上げながら階段を降りてくる一人の女性が現れ、ユウナに講義中に訪問されても困る、と文句を言っています。あ、それであなたたちに気がついて、この方々は? と聞いてきました」
「え~と、なんだろ、カノコ親衛隊?」
「やっぱりラムリーザはカノコのことが――」
「いいから話を進めようね」
ラムリーザは、リリスの発言を遮ってユコに続きを促す。
「エレンウェンは、カノコに親衛隊が居たなんて初耳ね。それでカノコ親衛隊の皆様が何用ですか? と聞いてきましたよ」
「いや、実際は違うんだど、どうしようリゲル?」
「親衛隊に任せてみよう」
「リゲル~……」
「こらぁエレンウェン! なんであんなことしたぁ?!」
話の進め方に困ったラムリーザの横で、ソニアが大声でユコを問い詰める。行動の宣言と言うより、役になりきっている感じがする。
「私に怒鳴られても知りませんの! でもエレンウェンは、あんなことと聞いてぎくっとしたようです。何のことかしら? と少し動揺しているみたいです」
ソニアにつばを飛ばされて顔をしかめながらユコはエレンウェンの怪しい言動を示した。
「もう、ネタは上がっているんだ、観念しろよーっ」
ソニアは、ダイスを握り締めて啖呵を切っている。ラムリーザは、いきり立つソニアの肩を押えながら、はったりをかましてみた。
「この剃刀は見覚えがなてかな? あなたの指紋がべったりとついているんだけどねぇ」
実際に指紋が付いていたかどうかは分からない。だが、これで相手の反応を見てみることにした。
「エレンウェンはどきっとして答えました。そんな剃刀、雑貨屋にいけばどこにでも売ってるじゃない……ってそんな! チャンと手袋はめて――っ!」
「ん? 今手袋って言ったな?」
「あっさりと自白しましたね」
「事件解決したし、あとはソニアとリリス、お好きにどうぞ」
ラムリーザはゲームを終わらせて、ソファーに深くもたれて大きく伸びをした。ロザリーンもそれに倣う。
一方ラムリーザの隣では、ソニアが待ってましたとばかりにダイスを転がし始める。どこまでやるのかわからないが、エレンウェンをとっちめるらしい。
「このマインド・スマッシャーの錆にしてやるぜっへぇ!」
「エレンウェンはソーサラーですのよ」
ユコも、エレンウェンを操って戦う気満々のようだ。
「エレンウェンにディザームを仕掛けるわ」
しかしリリスは、ソーサラーの持つメイジスタッフを落としにかかった。スタッフが無ければ魔法は上手く使えないというルールを突いた行動だ。
「ダメですの!」
「何がダメなのかしら?」
ラムリーザは、ゲームを終えてギターを取り出して奏で始めたリゲルの演奏を聞きながら、下校の時間までのんびりしようと、そっと目を閉じた。
夕暮れの一時、戦いの元気な掛け声が、部室内に響き渡っていた。
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