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TRPG第四弾「サーカス団」~中編~

 

 ユコがゲームマスターをする物語、サーカス団が町にやってきたはいいが、雑談がはかどりすぎて物語が進まない。

 雑談に終止符を打つべく、また物語をさっさと進ませるという名目の下に、一気にサーカスの始まる夜へと時間が進められた。

「さて、皆さんはいつものように酒場『魅惑の壷』で、夜が来るのを待っていますの」

「また魅惑の壷? そんなに壷が珍しいかな?」

 ラムリーザの突っ込みにユコは「いいんですの」と答えた。

「さて、サーカス公開まで、後30分ぐらいの余裕があるけど、皆様何しますの?」

 物語に自由度を持たせるために、自由時間を作ったユコは、やぶ蛇だった。

「アマルーラでも飲んで過ごす」

 リゲルは一日中酒でも飲んでいるのだろうか。

「いつの間にか手に入った指輪について、ソーサラーのラムリーザさんの意見を聞きます」

 ロザリーンの行動は、物語に沿っている。ソーサラーならローエンシェントは分かるはずだ。

「ええと、ローエンシェント? ルールブックを読んで勉強しておこうか」

 ラムリーザの行動は、ちょっとおかしい。ルールブックにはゲーム内の言語の意味までは載っていない。

「ソーサラーなのに分からないのですか?」

「知っている……、ということでもいいのかな?」

 どうもラムリーザとロザリーンの会話がかみ合わない。

 だが問題はここからだ。

「じゃああたしは酒場のマスターにご飯を注文する。ナリオカレーにナリオふりかけをかけた、ナリオセットをよろしく!」

 なぜがソニアは、ゲームマスターのユコではなくリリスの方を向いて言う。意図は分かるが、ナリオネタをいつまでもひっぱる娘だ。

「ソニアの座っている椅子を、後ろに思いっきり引くわ」

 リリスの反撃は、もはや子供の悪戯だ。いつもは計画的にソニアを攻めるが、逆上すると行動が子供っぽくなってしまう。

「残念、あたしは空気椅子をマスターしているから、椅子を引かれてもそのままの姿勢で食べ続ける」

「それじゃぁソニアの尻を蹴っ飛ばすわ」

「リリスの顔に、ナリオカレーの入った器をぶつける」

 結局二人は、低レベルな争いを始めてしまった。

 そういうわけで、物語を進めるのはこれまでどおり、ラムリーザとロザリーンが主軸となる。

「指輪に何か掘り込んであるけど、詳しくは私わかんなくて……。ラムリーザさんでも誰かわかりませんか?」

「調べたい方は恒例の『セージ+知力』、技能がなければ平目ですの」

「じゃあ僕が調べてみよう」

 ラムリーザは、ダイスを二つ転がしてみた。

「あ、ラムリーザ様にはその指輪は『リンケージリング』の片割だとわかりましたわ」

「リンケージリングって何? 結婚の時に使うやつ?」

 キャラクターはわかっても、プレイヤーまでは分からないのが難点だ

「それはエンゲージリングですの。リンケージリングは、身につけた2人の間で、お互いの精神力を自由に使える指輪ですの。つまり、同種族・異性のキャラ同士がこの指輪をつけていた場合、彼らはお互いの精神点を自由に使うことができます」

「なんだか便利な指輪だね。ソニアとか精神力使わないから、僕とソニアがそれぞれ指輪を嵌めていたら精神力が実質二倍になるんだ。でも片方だけか……」

「誰が持っているのかわからないけど、相手も身につけていたら使えるかもね」

「しかし、彼らの片方でも精神に影響を与える呪文を受けた場合、それは両者に影響を及ぼしてしまいますわ。あとこの指輪は、両者が1km以内にいなければ使えません」

「む、それは危ないな……。でも、なぜそんなものがロザリーンのポケットに?」

「いつの間にかポケットに入っていたのです。たぶんすれ違った少年に、逆スリ……って言うのかな? をされたのだと思います」

「う~ん、治安が悪い……のか? それは……」

「ああそうそう、ラムリーザ様はさらに、ローエンシェントの呪文のほかに「キュリア」という単語も見つけましたわ」

「キュリア? 携帯型情報端末の?」

「それはキュリオですの」

「キュリア……。人の名前でしょうか?」

「なんてやってるうちにそろそろ公演なんですの」

「よし、行ってこい」

 ユコはサーカスの開始を告げるが、リゲルは行かない風なことを言ってくる。

「え? リゲル行かんの?」

「サーカスなんて面白い所一人で行ったら、ロザリーンにとやかく言われそうだしな」

「とやかく言いません」

 そんなわけで、あっさりとリゲルも行くことになった。単純にリゲルは、意表を突く行動をとってみて、ゲームマスターのユコの様子を観察している節があった。これまでには特に、キャラクターのネーミングに対する突っ込みが多かった。

「キュリアって何かのキャラ?」

 ラムリーザは、こっそりとリゲルに聞いてみたが、リゲルはこの名前に覚えは無いようだ。リゲルの知らないゲームから取ったのか、突っ込まれるのを避けてゲームから名前を借りるのをやめたのかはわからない。

「サーカスって、見世物小屋みたいなのもあるよね? 吸血鬼とかが檻に入っているのかなー」

 ソニアは、わくわくしているようなそぶりを見せて、相変わらずリリスを攻撃してくる。

「Zカップの奇乳とかが出てくると思うわ」

 しかしユコは、二人の発言を無視して話を進めている。

「さて、入り口ではちょっとしたお菓子とかパンフレットなんかが売ってたりしてますの。皆が席についたころにちょうど座長の挨拶が始まりました。ちなみに座長さんは女性ですの。『皆様、今宵はわれらモンストレスサーカスにご来場いただき誠にありがとうございます。私が座長のキュリアでございます。どうか束の間ではございますが存分にお楽しみ下さいまし』、まぁこんなところですわ」

「キュリア? 聞いたような名前だな?」

「私が持っている指輪に刻まれていた名前ですね」

「まぁ、指輪の話はショーを見た後でもいいか」

「空中ブランコに火の輪潜り、空中浮遊に水中脱出ショーと内容はてんこ盛りですの。んで、幕間のピエロ劇。背の高い仮面ピエロとチケ売りをしていた耳尻尾のお姉さんが出てきました」

「あたし喉が渇いた!」

 ソニアは、リリスとの舌戦を中断してラムリーザに訴えてきた。

「そうか、これで買って来い。あ、僕の分もよろしくね、何かは任せる」

 ラムリーザは、ソニアに五百エルドの銀貨を渡しながら、使い走りみたいなことを頼む。とりあえずソニアはリリスと言い合いをしているだけなので、少し抜けたところで物語の進行に影響は無い。むしろ、展開がスムーズになる。

「キャラクターの台詞なんだけど、まあいっか、お金もらえたし」

「なんやそれ!」

 今更お金を返してもらうのもめんどくさくなって、ラムリーザはソファーにどかっともたれて天を仰いだ。

「はいは~い。皆さん楽しんでいただけましたかぁ~? ここらでちょっとお客様に手伝ってだいて、ちょっとしたショーをしたいと思いまぁ~す」

「どうしたユコ、媚びるような声を出して」

「今のは耳尻尾のお姉さんの台詞ですの」

 ラムリーザは、なりきりロールプレイを聞いていて、現実とゲームの区別が曖昧になってきていた。そこでこうなれば、自分もなりきって一緒に楽しんでしまおうと考えた。

「よーしパパ、手伝っちゃうぞぉ」

「パパって何かしら? ゲームの中のラムリーザは既婚? 奥さんはカノコかしら」

 リリスはくすりと笑って、ラムリーザの設定を掘り下げてくる。

「違う! ラムの奥さんはあたし! カノコは召使い!」

「七十歳のラムリーザの奥さんね、いいわ、ソニアおばあさん」

 ラムリーザの七十歳設定は、公式の物となりそうであった。

「外野うるさいですの、それでは今からバラの花を投げますので、受け取った方は前へどうぞ~」

「受け取った人は誰になるんだ?」

「そうですわねぇ、ダイスで決めましょう。一番大きかった人が当たりということでどうぞ」

 五人は揃ってダイスを転がした。ラムリーザ的には、リゲルが当たればユコが困る様が見れそうで、ちょっと嫌らしい期待をしたりしたが、ダイスの目が一番大きかったのは、無難なソニアだった。

「わーい、やったー」

 などと一人喜んでいる。

「こういうのって、生贄になった、ということよね?」

「むっ、さすが魔女、そういう発想をする!」

「喧嘩してないでソニア、ステージに行ってこい」

 ラムリーザは、また喧嘩になりかけるので話を軌道修正する。しかし、今度はユコが煽ってくる。

「はい! じゃあ、そこの牛みたいな胸したお嬢ちゃんはステージ上にどうぞ、とお姉さんが言ってますわ」

「牛だとぉ?!」

「あら、お嬢チャンまた会ったわね。お名前は? とお姉さんは聞いてきたよ」

「会ってない!」

「チケットを買ったときに会ってますわ」

「む~、あたしの名前はメアリー・トレッキーです」

「嘘をつくな」

 ラムリーザは、ソニアの頭を小突いて言った。

「牛呼ばわりする人には偽名で十分なの!」

「かわいいお名前ね、アタシはウルフィニカで、こっちのピエロはファンティーナよ、よろしく、とお姉さんは言いましたわ」

 ラムリーザは、リゲルに目線で名前チェックを投げかけたが、リゲルは首を左右に振っただけだった。どうやらこれも元ネタは無さそうだ。もしくは、リゲルが知らないだけか。

「何が始まるのでしょうか」

「早速だけどさっきの人が消えるマジック、不思議だったでしょ? 体験してみたくな~い? と、ウルフィニカと名乗ったお姉さんが聞いてきました」

「やだ」

 ソニアは、ぷいと首をユコから背けて反抗する。

「うん、体験してみたいって言ってるよ」

 すかさずラムリーザが、ユコに助け舟を出す。

「インビジリティという姿を消す魔法があるから、おそらくそれだろう」

「インビジリティは自分にしかかけられません。えーと、でしょでしょ~? ってわけで、ソニアちゃんに協力してもらおうと思うんだ、とウルフィニカは言いました」

「言ってない、それにあたしの名前はメアリーだからソニアなんて知らない」

「えっと、さっきの人は、どこに消えちゃったのかな?」

 妙な構図になってきた。舞台に上がっているのはソニアだが、物語を進めているのはユコとラムリーザだ。ソニアは一人、駄々をこねている。

 元はと言えば、ユコが牛発言をするからソニアがつむじを曲げただけなので、ユコにも責任はある。

「うふふ、それは体験すればわかるわ……、と口元だけ妖艶な笑みを浮かべて言ってますの」

「リリスみたいだね」

 ラムリーザがリリスの方を向くと、リリスはユコが言うような妖艶な笑みを浮かべてみせる。

「あたし体験しないよ」

「ソニアは、わかった、協力するよ、と言っている」

「おぉ~!? 物分りのいいコって、大好きだよ。じゃ、この箱の中に入って入って、とウルフィニカは、大きな箱を指差していますわ」

「ソニアは中に入った」

「ちょっとラム! 勝手に話を進めないでよ!」

「じゃあ反抗してないで、素直に物語を楽しみなさい」

「ゲームの自由度を楽しもうとしているの!」

 ラムリーザは、ソニアの顔を手のひらで軽く掴んで言った。

「いいえと答えても、そんなひどい、を延々と繰り返すだけだよ」

「ラムリーザって、ゲームやってない風に見えて、妙なところで詳しいわね」

 リリスは、感心したような、うれしそうな、そんな感じで言ってきた。ラムリーザ的には、ソニアのプレイを見ているだけなのだが、印象深いことだけは記憶に残っている。いつだったか、お姫様の問いかけに、数分間「いいえ」を繰り返していたのを覚えていただけだ。

 むろん、そのゲームが自由度が無くておもしろくないか? と問われたとしても、そんなことはない。

「消えたまま戻ってこなかったりして」

 リリスがつぶやき、リゲルも謎の頷きを見せる。

「皆様、こちらの箱には種も仕掛けもございません! 人間大の箱をくるくる回してウルフィニカは言いました」

 リリスやリゲルの不穏な発言には目もくれず、ユコの物語は動き始めていた。

 
 
 
 
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