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日常の一コマ

 
 ラムリーザとソニアの二人は、エルドラード帝国最西端にある、ポッターズ・ブラフという町に住んでいる。そこで、ラムリーザの親戚の屋敷の一室に下宿しているのだ。

 二人はほとんど同棲状態。学校から帰ってからの自由時間は、ほぼいつも一緒に仲良く過ごしている。もっとも、学校でも常に一緒に居るようなものでもあるのだが。

 この日の夜、ソニアは部屋にあるテレビの前でソファーに座り、ゲームに夢中になっている。ゲーム好きなソニアにとっては、とくに珍しくも無い光景だ。

 ラムリーザはと言うと、ソファーでソニアの隣に座って、ぼんやりとゲーム画面を眺めていた。ソニアがゲームをプレイして、ラムリーザがそれを眺めている。この形式も、二人の間ではよくある日常の一コマになっていた。

 ソニアは、最近は格闘ゲームをあまりプレイしなくなっていた。夏休み明けの試験勉強の日、リリスと喧嘩になってラムリーザに怒られて以来、格闘ゲームから少し離れているのだ。ラムリーザにとっては、ハメ殺されなくなっただけでもありがたいものだった。

 今ソニアがプレイしているゲームは、普通のロールプレイングゲームだろう。

 今月に入って新しいゲームが出たというので、それをプレイしている。クリスタルが砕けただのなんだの騒いでいたようだが、ラムリーザにとってはよくわからないことだし、どうでもよいことだった。

 願わくば、ヒロインが二人居て選択式になっていなくて、リリスと喧嘩するようなことがなければそれでよかった。

「ふぅ、ゲームの話がわからなくなってきた。適当に実況しながらプレイしてくれないかな?」

「実況? えーとね、今居る第三世界は、第一世界と第二世界が合体してできた場所で――」

 こうしてソニアが今プレイしている状況の説明を始めた時、ラムリーザの携帯型情報端末キュリオ

が、通話着信を示すメロディを奏でた。

 ラムリーザは「誰だろう?」と端末の画面を覗き込む。そこには「ジャン」と表示されていた。だから、ラムリーザはいつものようにおどけた態度で電話対応をした。

「なんじゃ? わしを大神官ハアゴンと知っての狼藉か?」

 電話の向こうからは、「俺は破壊神シドウだが何か? お前が生贄になるか?」と返ってきた。いつものようにジャンもふざけている。

 ソニアは、ゲームをプレイしながらちらりとラムリーザの方へ怪訝な視線を向け、「誰?」と言ったが、ラムリーザはスルーして会話を続けた。

 ジャンの話では、明日のライブの打ち合わせだけでなく、明後日の休日に、ラムリーザの所へ来てゆっくりと話がしたいというものだった。新開地フォレストピアのことについてらしい。

「――それじゃあまた明後日かな」「そうだね」

 こうして一通り通話が終わった所で、ソニアはゲームにポーズをかけて停止させて、ラムリーザのそばに引っ付いてきて「ねぇ、誰よ?」と問いかけた。怪訝な視線は険しい物へと変貌していた。

 ラムリーザは、この娘は一体何をそんなに警戒しているのだと思いながら、「ジャンだけど」と答えた。するとソニアは、何事も無かったかのようにゲームへと戻っていった。

「今の何? なんしょん?」と電話の向こうから、ジャンの不思議そうな声が聞こえた。

「ソニアがゲームしてるの見ていた」

「ああ、同棲しているんだっけ?」

「そうなるねぇ……」

 そんなこんなでしばらく話がつづくことになった。

「今どんなゲームやってる?」

 話の内容は、いつの間にかソニアのプレイしているゲームの話になっていた。

「ええと、第三世界は、第一世界と第二世界が合体したらしい――」

 これは、電話の前にソニアから聞いた内容だ。

「――なんか人が、黒い所に吸い込まれているみたい。マッルー! たすけておくれー!! とか言ってる。なんか主人公の故郷が吸い込まれたみたい」

 これは、今現在テレビ画面に表示されている場面の実況だ。

 向こうからは、「マッルと言えば、最近出たゲームの主人公だな、あれか」と言っている。

 少しの間、ラムリーザの実況が続いた後、「それでは明後日」となって、通話は終了となった。ラムリーザは、携帯型情報端末キュリオをテーブルに置き、ソファーに深く座りなおした。

 

 ラムリーザは、再びソニアのプレイしているゲームを眺めることになった。

 何やら夜の海岸を探索しているようだ。周囲には黒く大きなイカのようなモンスターがうろついていて、ソニアは時折斬りかかって退治している。

 見ているだけに飽きてきたラムリーザは、そっとソニアのメロン――大きな胸に手を伸ばしてみた。ソニアが気が付かないので、指をめり込ませてみる。

「ゲーム中に胸さわるな!」

 ようやくラムリーザのいたずらに気がついたソニアは怒ってきた。ラムリーザは気にせずに突き続け、胸の先端部をぐっと押し込んでみた。ソニアは悶え、操作を誤ってつり橋から転落してしまった。それだけでゲームオーバーになってしまったようだ。

「もー! ラムのせいでやられた!」

「やられたねぇ」

「ラムの馬鹿! ふえぇ……」

 毎度の展開にラムリーザは軽く笑い、ソニアから手を放し、ソファーにもたれて大きく伸びをした。

 その時、ラムリーザの携帯型情報端末キュリオが、再び通話の着信を示すメロディを発する。二人は同時に端末を見つめ、その後ソニアは端末を手に取るラムリーザをじっと見つめていた。だがゲームの方で、先程のイカが襲い掛かってくる音がしたので、ソニアはラムリーザから目を離して視線をテレビに戻した。

 ラムリーザは、端末の画面を見て、そこに表示されている発信者の名前を見て顔を少し引きつらせた。リリスだ……。

 ラムリーザがちらっとソニアの方を見ると、丁度ソニアもちらっとラムリーザを見たようで二人の目が合う。すぐにソニアは、「誰?」と問いかけてきた。

「リ――ゲルからだよ」

 リリスと言いかけたが、すんでのところでリゲルと誤魔化した。正直にリリスからと答えたらうるさいので、ここは嘘を突き通すことにしたのだ。

 ソニアは一瞬いぶかしむ様な視線を向けたが、すぐにゲームへ戻っていった。

 ラムリーザは、ソニアに気づかれないようにリリスとの会話を楽しんでいた。爆弾の傍で話をしている気分で……。

「いや、そんなことないよ。僕もモデルさんみたいでかっこいいと思ってるし……」

 話の内容はたわいもない雑談だ。ラムリーザは、ソニアに気づかれないように言葉を選びながら、相槌を打っていた。

「……モデル?」

 だが、ソニアは小さな単語を見逃さなかった。リゲルとモデルについて話をするのは不自然だと思ったようだ。再び視線をラムリーザの方へ向ける。

「いや、リゲルも男性モデルになってもおかしくないぐらいスタイルいいよね?」

 慌ててラムリーザは誤魔化した。電話の向こうから、「リゲルは関係ないでしょう」と返ってくるが、ここは仕方が無い。

「でもリリスもそう思うだ――、あ、しまった……」

 ついうっかりリリスに同意を求めてしまった。

 当然ながら、すぐにソニアは振り返り、険しい目つきでラムリーザを見つめてきた。

「相手はリリスだな?!」

 ソニアはゲームのコントローラーを投げ捨てると、ラムリーザに飛び掛ってきた。携帯端末を取り上げようと手を伸ばしてくる。

 その時、電話の向こうから「ソニアが傍に居るのね?」と聞こえてきた。

「えーとね――、こら、引っ張るなって!」

 ソニアはラムリーザにしがみ付き、携帯端末を持つ手を引っ張る。

「リリスと電話禁止!」

「いや、電話ぐらい良いだろう――って、こら!」

 とうとうソニアは、ラムリーザの足の上に乗ってきた。ソファーに座っているラムリーザの太ももの上に乗りかかり、「ラム! 電話をよこせ!」とものすごい剣幕だ。

 ラムリーザは、これ以上通話するのは不可能だと判断し、「えと、リリスごめん。明日またライブで会おう」と言ってすばやく通話終了のボタンを押した。

「はい、電話終わったよ」

 そう言ってソニアに、「通話終了」と表示されている携帯端末を見せて肩をすくめる。

 ソニアは不満そうな顔で、しばらくの間ラムリーザと携帯端末を交互に睨みつけていた。ゲーム画面では、巨大なボスキャラの様な物の前で、主人公が立ち尽くしている。

「ほら、なんか怖そうな敵が待ち構えているよ」

 怖そうな敵に睨みつけられているラムリーザは、そう言ってソニアを引き離そうとした。しかしソニアは、ゲームを放棄するとソファーを立ち上がり、自分の携帯端末を取りに向かった。

 ラムリーザは、嵐は去ったとばかりに一息ついてソファーに座りなおした。

 ソニアは、何やら高速で携帯端末をタップしている。おそらくメールでも打ち込んでいるのだろう。タンと打ち終わると、してやったりといった表情でラムリーザの方を見つめてきた。そんな目つきで見られても知らん、とラムリーザは思い目を逸らした。そのままソファーに戻ってくると、傍に携帯端末を置き、転がっていたコントローラーを拾い、再びゲームを開始――。

 すぐに、ソニアの端末が、メールの受信を示すメロディを奏でた。

 その音を聞いたソニアは、ラムリーザにコントローラーを押し付けると、再び携帯端末を手に取った。少し操作すると、その表情が憤怒の形相へと一変する。そのまま先程と同じように、すごい勢いで何かを打ち込み始めた。

 ラムリーザは、メールを打ち込み終わって得意げなソニアをちらっと見ただけで、押し付けられたコントローラーを操作してゲームの続きを開始した。画面は戦闘シーンに切り替わり、巨大な敵が画面左から迫ってきていた。「こいつを倒してから寝るか」そろそろ寝る時間なのに気が付いた。

 その時、再びソニアの携帯端末がメールの受信を示すメロディを奏でる。そしてソニアは――。

 ラムリーザは、またメール戦争が始まったなと思いながら、ゲーム画面を見る。巨大な敵は、「私はネオエクソダス。全ての存在を消し、そして私も消えよう! 永遠に!」などと言っている。物騒なやつだ。

「そういえば、あの白いぬいぐるみは最近どうしてる?」

「白いぬいぐるみ? ココちゃん?」

「名前は何でもいいけど、最近可愛がってないみたいだし、ベッドの上にでも置いておくか?」

 ココちゃんと呼ばれたぬいぐるみが、テレビとソファーの間に転がっているのに気がついたラムリーザは、ソニアに尋ねてみた。

「ダメ! ココちゃんはクッション! クッションはクッションらしく下に置いておくものなの!」

 ソニアは、携帯端末を覗き込んだまま、怒ったようにまくし立てる。

「そうか? べつにベッドの上に置いていても良いような気がするけどな」

「ぬいぐるみならばベッドの上に置いてもいいけど、クッションのココちゃんはダメ!」

 ラムリーザは、何がダメなのかよくわからなかったが、ソニアがそう言うので、とりあえずは深く考えるのは止めた。ただ、床に転がっているのは気の毒なので、ソファーに座らせてあげるのだった。

 するとソニアは、隣に座ったココちゃんをぽこぽこ叩きながら、メールを打ち始めるのだった。

 

 最初と変わり、ラムリーザがゲームをプレイし、その横でソニアは携帯端末のメールと格闘している。

 これもまぁよくあること。さほど珍しいことではない。日常の一コマだ。

 
 
 
 
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