三本柱、フォレストピア打ち合わせ

 
 12月11日――
 

 今日は、学校が休みだ。

 そこで――というわけではないが、ラムリーザは下宿先の屋敷に、めずらしい客を二人朝から迎えていた。

 一人目は、ラムリーザにとって数年前からの親友、ジャン・エプスタイン。帝都にあるシャングリラ・ナイトフィーバーの支配人の息子である。次の春からは、新開地フォレストピアにも、ナイトフィーバー二号店を出すことになっていた。

 もう一人は、リゲル・シュバルツシルト。バンド、ラムリーズのメンバーで、今年の春からの友人だ。

 リゲルはこの地方に住んでいるが、ジャンは朝早くからわざわざ帝都から来訪しているのだ。

 いつの間にか、ラムリーザとこの二人を加えた三人が、フォレストピア開拓の三本柱という認識になっていた。

 

 ラムリーザの部屋にあるテーブルについた三人は、一息ついてから話し合いを始めた。

「フォレストピアの計画は、できるかぎりこの三人で話し合って決めていこうと思う。僕が一番信頼できる人は、君たち二人だよ」

 まず始めに、ラムリーザは確認の意味を込めて言った。リゲルはふっと笑みを浮かべ「お前は一人で決める権力があるんだがな」と言い、ジャンは何を今更といった感じに笑顔を向ける。

「僕は、経営も開拓もまだよくわかっていないんだよね。その点ジャンとリゲルは、僕と違っていろいろ知っているので、それらを教えてもらって学んでいこうと思っているんだ」

 実際のところリゲルの持っている領地発展についての知識は、シミュレーションゲームから得た物なのだ。その一方でジャンも、街の経営についてはそれなりに知識があるつもりだった。

 要するに、ある意味では素人三人が無謀にも街づくりをしようとしているのだった。

 

 今日の話は、まずはシャングリラ――いや、フォレストピア・ナイトフィーバーについて話を聞くことになっていた。

 帝都の店は、地名にちなんでシャングリラ・ナイトフィーバーと名づけられているが、二号店は新開地の地名にちなんで、フォレストピア・ナイトフィーバーという名称でいくことにしていた。事実上二号店だが、店の名前は地域に溶け込ませることにしたのだった。

 店の一階は、ステージがあってそこを見ることができるように観客席を置く。飲食店も兼ねていて、食事を取りながら演奏を楽しめるわけだ。

 この作りは同じで、ラムリーザたちも週末のライブついでに晩御飯を取ることがいつもの流れになっていた。

 二階には――本店の二階に上がった事は無いが――、倉庫や練習用のスタジオなどが設置されていた。これは音楽の練習をよりよい環境でできるように、とのことらしい。また、ラムリーズ専用のスタジオも作るとか……、コネってずるいね。

 まぁ、領主の頼みとなれば、そう反発も無いだろう。

 そういったものを、現在フォレストピアの駅前に建設中で、使えるようになるのは来年春以降だろう。それまでは、音楽の練習は部室を使い、それ以降は店のスタジオを使うことになるかもしれない。

 さらに上の階は客室。遠くから来た人のために、泊まる部屋を二十から三十部屋は作るそうだ。隣国ユライカナンから来た客も泊まることになるだろう。

 最上階近くは、ジャンが住む部屋や、会議室など重要な施設が置かれることになっていた。街の会議などは、ここが使われることになるだろう。

 ジャンは最上階に住もうとしている。オーナー特権としてこのようなことを考えている所はちゃっかりしていた。

 一通り、フォレストピア・ナイトフィーバーについての計画を聞いた後、少しばかり雑談をして過ごすことにした。

「ジャン、フォレストピアに住み着くと、学校に通うのが大変にならないか?」

 ジャンは、今現在帝都の高校に通っている。確かにこの地方から帝都までは、汽車で片道二時間近くかかる。

 しかしジャンは、落ち着いて「考えがある」と答えた。ただ、今はこれだけしか言わなかったが……。まぁ、どうすればいいかはジャンが考えたらいいことだ。

 それからしばらくの間、三人はいろいろと語り、時には笑い声を上げながら、フォレストピアについていろいろと語り合っていた。

「そういえばジャンだったか? お前もギターできるんだってな?」

 ふと思い出したかのように、リゲルはジャンに尋ねた。文化祭で、ジャンが飛び入りでギターの演奏をしたことをリゲルは知らない。

 ジャンは肯定し、リゲルは「分野は何?」と聞く。

「俺は、J&Rではリードギターやってたな。ソニアはその時からベースで、リズムギターはラムリーザの妹のソフィリータがやってたな」

「なるほどな」

 現在ラムリーズのリードギター担当はリリスだ。

 ジャンは、その事を思い出したかのように言った。

「リリスかぁ。リゲルよ、リリスっていい女だと思わないか?」

 しかしリゲルは、ふっと鼻を鳴らして辛辣なコメントを返す。

「あれは、顔が良いだけのあほたれだ」

「なんだよ、酷い言い方だなぁ」

 リゲルの酷評に、ジャンは少しむっとしたように言い返した。何気にジャンは、リリスの事が気に入っているようなのだ。

「あれは、ソニアを美人にしたようなものだ。赤点ギリギリの低空飛行、それに言動もよく見ればソニアと何ら変わる事はない」

 ソニアは美人じゃないというより、ソニアは可愛いタイプだとフォローしておこう。

「む、それはまずいな……」

 その時、ソニアは自分の事を話しているのに気がついたのか、不満そうな声をかけた。

「ねぇ、男ばっかりで話し進めていないで、女の意見も聞いてよ」

 ソファーで、テーブルトークゲームのルールブックを読んでいたソニアが、ラムリーザたちの座っているテーブル席へと移動してきて話に割り込んできた。

 そんなソニアの様子を見て、リゲルはいつものように舌打ちをしてから聞いた。

「ならばお前の意見を言ってみろ」

 リゲルに促されて、ソニアは身体を乗り出して自信満々に答えた。

「たなからぼたもち球場つくって、お金を稼ごう」

 ソニアの見当違いな発言に、三者三様の反応を示す。

 ラムリーザは、「またそれか……」とつぶやいて溜息を吐く。

 リゲルは「お前はゲームの話しかできんのか」と、冷たい視線を送る。リゲルの考えるフォレストピア発展の計画は、シミュレーションゲームからの受け売りということは、この際置いておこう。

 一方ジャンは、興味深そうに尋ねてくる。

「ぼたもち球場って何だい?」

「えっとね、球場建築は五千エルドかかるけど、名前を『たなからぼたもち』にしたら五万エルド貰うことができるの。だから、差し引き四万五千エルドの儲けになるんだよ」

 ソニアは、得意げに説明する。ゲームの裏技を……。

「それを二つ建てたらどうなるのかな?」

「九万エルドの儲けになるよ」

「なんかすごいけど、そんな話あるわけないだろ? 作り話だろ?」

「嘘じゃないよ! それで二十五万エルド稼いで、エクソタスアルコとか建てたら、人口が二十五万――むーむー!」

 途中からラムリーザは、ソニアの頭を抱え込んで黙らせた。これ以上聞いていても、わけがわからなくなるだけだ。エクソタスアルコとは何だ? 聞いたこともない。

 ジャンは、その様子をぽかーんと見つめながら、「さっきのは何の話だ?」と尋ねる。

「ゲームのチート技だ」

 リゲルはそう言い捨てて、テーブルの上にあったランブータンの実を投げつけた。ランブータンは、ラムリーザに抱え込まれているソニアの額に命中した。実自体はトゲトゲに見えるが、やわらかくて危険ではない。

「なっ、何すんのよ! この氷柱!」

「そうだ、次はロザリーンも呼ぶことにしよう。彼女もこの計画の会議に参加してもらって、女性の意見も聞こうか」

 リゲルは「あたしも女!」と騒ぐソニアを無視して、ロザリーンを呼ぶことを提案した。

「うん、それはいいね」

 ラムリーザもすぐに同意した。こういった話には、ソニアは向かない。

 しかし、当然ソニアは不服そうに頬を膨らませて言う。

「あたしも考えるよ! 女性の意見を言うよ!」

「ぼたもちはもうたくさんだ」

「むー……」

 ラムリーザに押し込まれたことで、ソニアは諦めたようだった。大人しくソファーに戻り、再びテーブルトークゲームのルールブックを読み始めた。戦闘以外はあまり興味がないのにね。

 話し合いは、それからしばらくの間続いていった。

 

「それじゃあ俺はそろそろ帰るわ」

 そろそろ日が傾き、夕方に差し掛かった頃、ジャンは帝都へ帰ることにした。

 そういうわけで、今回のフォレストピア計画会議はおしまい。いろいろ話し合いながら、夢の都を作っていこうじゃないか。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き