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はなく人形はなくらす

 

 新しい年に入って、数週間が過ぎた。

 始業前の時間の雑談タイム、いつもの、そして去年と変わらぬ光景。

 ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの仲良し四人組は、それぞれ座席の場所を移動して固まってきて、去年と全く同じように集まり雑談をしている。微妙に違うのは、リリスが移動して空いた場所にジャンが割り込んできて、女の子達の会話に混ざっていることぐらいか。

 その傍らでラムリーザは、隣に引っ付いてきているソニアに背を預けてもたれかかり、外の景色をぼんやりと眺めていた。

「はなく人形はなくらすって知っているかしら?」

 リリスの問いに、ソニアは「知らない」と答える。今日の話題も、これまでによくあった、リリスのうんちく自慢のような内容だ。

「変な生き物よ」

 リリスは真顔でソニアに一言で説明する。変な生き物かどうか知らないが、そんな人形なんて聞いたことがない。そもそもはなく人形とは何か? アニメかゲームのキャラクターか? そもそも人形と名前がついていながら生き物とはいったい何か? 疑問ばかりが浮かび上がる代物だ。

「名前からして気味が悪いですわね」

 顔をしかめるユコを気にもせずに、リリスは解説を続けた。

「無表情な顔、髪の毛は一本も生えていなくて、頭頂部にはとさかのようなものがついているの。それで体つきはずんぐりむっくりとしていて三本足。腕は常に泣いているかのように目に当てているわ。特筆すべき点は、ぴっと光線を発してきてはなく病を辺りに撒き散らすのよ」

「何その気持ち悪い人形、それにそんな病気なんて嫌!」

 妖艶な微笑を浮かべて淡々と説明するリリスに、ソニアは大声で反論する。聞いた内容だと、ソニアに限らずこの人形を好む人は、まず居ないだろう。

「はなく病って何ですか?」

 ロザリーンの真面目な問いにリリスは、「は~な~く~、としか喋ることができなくなる奇病よ」と答えた。ほんとうにあるのかないのか、ますます気味の悪い奇病があったものだ。

 リリスは、ソニアを指差して「ぴっ」と言う。これでソニアははなく病にかかったということらしい。

「はい、これでソニアは、は~な~く~、としか喋れないわ」

 くすりとリリスは笑うが、ソニアはそんなまやかしに乗るわけがない。

「なによ、そんなことになるのなら、病原体はなくらすの正体はリリスだったんだね!」

「はなく病を移したから私はなんともないの、この病気は誰かに移すと治るの」

「あたしそんな病気になってない!」

「というより、なぜ人形が病気をばらまくのですか?」

 依然、ロザリーンは真面目に質問をしている。

「そういう人形なのよ」

 ただし、リリスの答えはなげやりだった。

「最初、生き物と言いませんでしたか?」

 ロザリーンの突っ込みに、リリスは微笑を浮かべただけで答えなかった。

 その隣でソニアの文句が炸裂する。

「そんな呪いの人形なんて、ユコだけでたくさんだ!」

 話し相手はリリスだったのに、なぜかユコを巻き込んで反論するから話がややこしくなる。

「なんですの! この風船おっぱいお化け! 103cm!」

「黙れちっぱい!」

 ソニアは、自分から攻撃を仕掛けておいて逆切れしている。困った娘だ。

 そんな意味があるのか無いのか分からない会話や、口喧嘩にまで発展した罵り合いを聞きながらラムリーザは、今年になって変わったことや今まで通りな物を思い返していた。

 

 まず部活動が大きく変わった。部員数もそうだが、活動内容が変わった。

 遊ぶ日と練習の日を分けるというのは、去年の終わりごろから変わらないが、遊ぶのは部室だが練習は部室では行なわなくなっていた。

 練習の日、授業が終わるとすぐに部員全員集まって集団下校をする。そのままポッターズ・ブラフの駅から電車に乗り西へフォレストピアへと向かうのだ。

 今年に入ってから、ラムリーザはソニアと妹のソフィリータと共に電車通学に変わっていた。ジャンやユコもフォレストピアに住んでいるので、時間が合えば一緒に登校する日もある。

 ポッターズ・ブラフとフォレストピアの間はアンテロック山脈で隔てられており、電車はその山を越えるだけで十数分ぐらいで移動できる。途中で見るオーバールック・ホテルには、去年毎月一度パーティに出ていたことが懐かしい。

 普段の登校では、席に座らずにドアの側にもたれて立っている。ソニアはラムリーザに抱きついているし、ソフィリータはラムリーザにもたれかかってきている。ラムリーザは、何気に両手に花に近い。

 もちろんソフィリータはソニアがラムリーザと付き合っているのは知っているが、二人は常に一緒にいるし、同棲までしている。だから、それ以外の場所ではソニアに遠慮することは無い。ソニアが文句を言おうとすると、「お母様にばらしますよ」の一言で脅迫して知らぬ振りだ。

 ただし、ジャンやユコと一緒になった時は、ソフィリータはラムリーザから離れる。ソニアには遠慮しないが、それ以外の人が居るときは遠慮している感じだ。その辺りが、所構わず引っ付こうとするソニアと、分別をわきまえたソフィリータとの違いというわけか?

 さて話を戻して部活の練習日だが、電車で移動するときラムリーザは登校のときと変わらない。ソニアと二人でドアの側にもたれて立っている。

 リゲルはロザリーンと一緒に座席に座ってのんびりしているが、そこにミーシャが加わってしまった。最近はリゲルも開き直ってハーレムを堪能しているのかもしれない。ミーシャはロザリーンを気にせずにリゲルに甘えたがるし、ロザリーンもあまり気にしないそぶりを見せている。三人の心境がどのようなものか、ラムリーザには分かるすべも無かった。

 ミーシャはミーシャで一途なところがあるのと、ロザリーンの方は、リゲルとミーシャとリゲルの父親の関係を知っているので、むやみと首を突っ込みたくないといった感じだろうか。

 ジャンはだいたい学校が終わると、すぐに店、フォレストピア・ナイトフィーバーの準備をするために帰ってしまう。遊びの日に部室に顔を出すのは毎日ではない。時々のんびりしたい時は顔を出すといった感じだ。ジャンの店が本格的に動くのは日が沈んでからだ。下校の時間までのんびりする時間は十分ある。

 ジャンのこの行動は実は去年から同じで、学校と店の場所が変わっただけで、やっていることは同じだったりするのだ。去年は、帝都シャングリラの、シャングリラ・ナイトフィーバー。今年はその二号店をフォレストピアで経営している。

 ユコとリリスはいつも通りだ。

 今年からユコはフォレストピアに住んでいるので、ジャンの店で部活動をやった日でも楽だが、リリスはポッターズ・ブラフに住んでいるので少々めんどくさがっている。

 ジャンは時々リリスを誘っていて、ジャンの店のホテル部分の一部屋を提供しようかとか言っているが、下心丸出しである。リリスは今は迷っているようだが、この先どうなるかはわからない。

 さらに今年からは、レフトールまで部活動に参加してしまった。去年の秋以前は、ポッターズ・ブラフ悪の双璧と恐れられていたが、ラムリーザとの決闘で敗れて以来、ラムリーザに尻尾を振っている。

 普段は子分達と遊んでいるようだが、ラムリーザの影響でドラム演奏に興味をもって以来、練習の日は顔を出すようになっている。クラスも今年から同じになり、ラムリーザ達の側に座席を確保しているので、よく話に乗ってきたりしていた。

 今日も嫌がるマックスウェルを無理やり引っ張ってきて、皆と同じ電車に乗ってフォレストピアへと移動していた。子分第一号マックスウェルは、レフトールと違ってバンド活動にさほど興味を示していないようだ。

 このように、メンバーは去年の倍近くに膨れ上がり、賑やかさも増していたのだった。

 

 フォレストピアの駅につくと、ジャンの店は目と鼻の先だ。

 ラムリーザの身内、知り合いの優遇措置を大いに利用したジャンは、駅前の一等地に店を構えることができたのだ。

 民主主義の国だとそういった個人の優遇は問題になりがちだが、この国は帝政であり、さらに言えば、各地方の最高権限は領主に一任されているというのがあるので、あまり文句を言う人は居ない。

 そもそもラムリーザの一家がこの地方の領主となることが決まったのも、帝国宰相である父親が皇帝陛下に進言して動かしたものであり、一臣民が口出しできるような状況ではなかった。

 フォレストピア・ナイトフィーバー作成の裏には、そういった政治的な事情があったりするが、部活動で練習するためにスタジオを自由に使ってよいというのも、これまた身内贔屓みたいなものだった。

 この状況に一番満足しているのが実はレフトールで、彼は権力者に媚びたり従ったりする傾向があるのは、このような優遇を受けられるというのがわかっていたからである。

 ジャンの店のスタジオに着くと、ジャンは「手が開いたら顔を出す」と言って、すぐに店の準備に向かっていった。

 ここからの活動内容は、部室でやっていた時と変わらない。

 ラムリーザはレフトールのドラムレッスンをやり、ユコは音楽を聴きながら楽譜作成をしている。ソニアとリリスはリードボーカル争いをしているし、二人の隙をついてミーシャが歌おうとすると、状況はさらにややこしくなる。

 大人しく活動しているのは、リゲルとロザリーンとソフィリータの三人、この三人はメンバーの中では真面目な部類に位置する者だ。ソフィリータは、熱心にギタースキルをリゲルから学んでいる。

 逆に不真面目のツートップが、ソニアとリリスだ。

 リリスはソニアからマイクを奪うと、即興で変な歌を歌いだす。今日のキーワードは「はなく人形」らしい。

 

 はなく病のソニアは、は~な~く~、は~な~く~、ボクは「はなく人形」だよ~

 胸に103cmの風船をぶらさげた、「はなく人形」だよ~

 1メートルよりも3センチも大きい、摩訶不思議な風船おっぱい~

 前人未到のLカップ~

 

 などと、意味不明な歌を歌ってソニアの怒りを一身に浴びていて、その傍らではミーシャが笑い転げている。高価なスタジオセットも、これではおもちゃ同然だ。

 そういえば、ラムリーザもリリスも作詞能力は乏しいが、ソニアをからかう歌なら簡単に創れるようだ。今リリスが公開した「はなく人形の歌」や、ラムリーザがたまに口ずさむ「ロケットおっぱいの歌」など。公開できないので、全く意味の無い歌にしかならないが。

 

 は~な~く~、は~な~く~――ってちょっと何すんのよ!

 

 気持ちよさそうに歌っていたリリスが、突然甲高い悲鳴を上げる。ラムリーザは「ん?」となってリリスの方を振り向いてみたら、左足のサイハイソックスがふくらはぎの下辺りまでずれ落ちている。またソニアの謎の攻撃、靴下ずらしを食らったのだろう。

 なんだかよくわからないが、ミーシャはさらに笑い声を上げていたりした。

 そんな具合に過ごしているのが、ここ最近の日常だったりしていた。

 まぁ、楽しければそれでいいでしょう。

 
 
 
 
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