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ココちゃんぷにぷにカレー

 

 今日は再びフォレストピア駅前の大倉庫で試食会――ではなくて、帝国既存の店の出店の様子見であった。

 帝国内でチェーン展開しているカレー店「ココちゃんカレー」は、フォレストピアにも出店させて欲しいと持ち込んできたのだった。カレーなら既にありふれているのでお任せします、と言いたいところだが、丁度キャンペーンをやっている内容が一部のメンバーに衝撃を与えていた。

 と言うのはまぁ大げさだが、このカレーには辛さの段階がいろいろあって、無茶苦茶辛い物から甘口の物までいろいろある。

 そこで今回のキャンペーンだが、フォレストピアに新店舗出店記念に、最強の辛さのカレーを完食できたら「ココちゃんぷにぷにクッション」をプレゼント、という企画を始めていたのだ。

 このクッション、ソニアが持っていてユコにお別れプレゼントで貸したり返してもらったり、ぬいぐるみだとかクッションだとかいろいろ揉めている問題の多いクッションだ。と言っても別にクッションが悪いわけではなく、ソニアが一人で騒いでいるだけだから、別段気にすることは無い。

 しかし、ユコも返すのを渋ったり、ソニアもなんだかんだで気に入っているクッション、これがプレゼントで貰えるというのだから、その話を聞いたときに特にユコの方から食べに行きましょうという話が上がったのだった。

 フォレストピア開発中からチェーン店出店が決まっていたココちゃんカレー、大倉庫ではなく既に本店舗が街に出来上がっており、今日はそのプレゼントキャンペーンに合わせてみんなで食べに行くことになった。

「これであのぬいぐるみ、ココちゃんが手に入りますわ」

 ココちゃんを一番欲しがっているユコは、一番意気込んでいる。

「あれはぬいぐるみじゃなくてクッション!」

 すぐにいつも通りの訂正を求めるソニア。

 しかし二人ともそのキャンペーンで一番重要なところは考えていないようだ。

「でもさ、君達は最強の辛さのを食べたことはあるん?」

 ラムリーザの指摘するところがそこである。プレゼントを貰える条件は、最強の辛さというものにチャレンジする必要があるのだ。

「ココちゃんのためなら、たとえマグマカレーでも完食してみせますわ!」

 ユコは力強く答えるが、ラムリーザは少しばかり不安だったりしていた。それでも、ソニアとリリスが動かなければ、騒動に発展することは無いだろう。

 

 見慣れた看板、見慣れた入り口を抜けて店内に入る。この店なら、ラムリーザも帝都に住んでいた時に何度か行ったことはあった。

 今日のメンバーは五人。言いだしっぺのユコを先頭に、ラムリーザとソニアとリリス、それにジャンを加えたものだった。別にユライカナン料理の試食会じゃないので、大勢で押しかける必要は無い。フォレストピア在住組みに、リリスを加えただけである。

 六人掛けのテーブルに、ラムリーザとジャン、ソニア、リリスユコと、男女に分かれて二人と三人で向かい合わせに座った。

「そうだわ、最強の辛さを先に完食した方が、次の曲のリードボーカルを取るってのはどうかしら?」

 再び始まった、リリスの申し入れ。

「何でよ! 昨日せそ汁で勝負してあたしが勝ったじゃないの!」

「ユコ、二曲できたって言ってたよね?」

「ええ、二曲ほど新しい楽譜書きましたわ。空に咲いたあの娘と、繋がる新世界ですわ」

「じゃあ昨日のでソニアにどっちか選ばせてあげる。今日はもう一つの方を勝負ね」

「おう、リリスがんばれよ」

「むむむ……」

 ジャンはリリスを応援し、ソニアは唸る。

 そうこうしている内に、店員がやってきて注文を聞いてきた。

「キャンペーンのやつをお願いしますわ」

 真っ先に注文したのはユコだ。

「はい、ココちゃんマグマカレーですね」

「それもう二つ」

 リリスがソニアの分も注文する。

「それじゃあ俺は普通の奴で」

「そちらはココちゃんぷにぷにカレーですね」

「僕は冷やしカレーで」

「はい、ココちゃん冷や冷やカレー。注文繰り返します、ココちゃんマグマカレーが三つと、ココちゃんぷにぷにカレーが一つ、ココちゃん冷え冷えカレーが一つ、以上で間違いありませんでしょうか?」

「間違いないけど、ほんまにええん?」

 ラムリーザは、ユコ達に最後の確認をする。

「ラムリーザ様も心配性ですわ」

「これは勝負なの」

「カレーは辛いものなの、ナリオカレーも辛そうだし」

「貴様――っ!」

「宜しくお願いします」

 ソニアが余計なことを言ってまた喧嘩になりそうになったので、ラムリーザはさっさと注文を終わらせた。

「ナリオカレーって、あのCMで宣伝していたあれ?」

「こらっ、ジャン、それ以上言うな」

 ジャンは不思議そうな顔をするが、リリスに睨みつけられているのに気がついて、ここではそれ以上追求するのはやめておいた。

 店内の掲示板を見てみると、「ココちゃんぷにぷにクッション500体プレゼント」と書かれている。あの白いぬいぐるみが500体もいると考えると、ラムリーザはうんざりする反面、ぬいぐるみに囲まれるソニアの様子を観察してみたい気もしてきた。しかし、最強の辛さのカレーを食べる気にはならなかった。

 それからしばらくして、注文したカレーが運ばれてきた。

 ソニア達の前に並んだ三つのカレーを見て、五人とも言葉を失っていた。

 ココちゃんマグマカレーは、その名前の示す通り赤い。カレーがここまで赤くなるのか? と言うぐらい赤い。見ただけでどっと汗が出てくる。

「……まぁ、がんばれよ」

 最初に言葉を発したジャンは、そう言ってから自分の注文した普通のカレー、ぷにぷにカレーを食べ始めた。

 ユコは真剣な顔をしてカレーをかき混ぜている。リリスはあまりの赤さにちょっと引いているみたいたで、ソニアの様子をちらちらと伺っている。

 その一方で、ソニアは三人の中で一番にカレーにスプーンを突っ込んで一すくいすると、何の迷いも無く口へと運んだ。

「ふっ、ふえぇ――っ!」

 とたんに響く、いつものフレーズ。

 ラムリーザはある程度予測はついていたので、自分の注文した冷やしカレーをゆっくりと食べながら、ソニアに言って聞かせた。

「出してもらったものはちゃんと食べろよなー。食べ物を粗末にする娘は嫌いだから、残したら明日から桃栗の里行きね」

 ミーシャの寝泊りしている学校指定の寮、桃栗の里は、ラムリーザにとってはソニア隔離施設となっているようだ。

 リリスは苦しむソニアを見てふっと笑うと、続いてカレーを一さじ口へと運んだ。

「ぶふぉっ!」

 とたんに噴き出すリリス。丁度差し向かいの席にいるジャンの顔にしぶきが飛ぶ。

「そ、そこまで?」

 ジャンは、顔についたカレーのしぶきを指でぬぐうと、「関節キス」とつぶやきながら口へと運んだ。

「――ぐ、ぐお、ごご、ごぉ……」

「そ、そんなに?」

 これにはラムリーザも驚く。指の先についただけのカレーで苦しんでいるジャン。それをスプーン一杯ほおばったソニアとリリスの苦悶はいかほどか?

「もー、怖くなるからそういうのやめてくれませんの?」

 そう文句を言ってから、ユコも続いてスプーン一杯口に運んだ。

「――う、げほっ、ごほっ、ごほっ」

 とたんに激しく咳き込むユコ。しかし、熱意はソニアとリリスよりも上だった。

「ええい、ココちゃんぷにぷにクッションのためですの!」

 そう叫ぶと、苦悶の表情を浮かべながら二杯目をすくって口へと運んだ。

 ソニアもここで止まるわけにはいかない。完食しないと桃栗の里行きだ。涙目になって二さじ目にとりかかる。そうなるとリリスも止まれない。ソニアに先に完食されると二連敗してしまう。それだけは避けたかった。

 それからしばらくの間、三人は顔を真っ赤にして、だらだらと凄い量の汗をかきながら、休み休みマグマカレーを消費していくのだった。

 そんな三人の様子を、興味深そうに、また一方では心配して眺めながら、ラムリーザとジャンは普通のカレーを食べていった。

「そういえばさっきの話だけど、ナリオカレーの話しをしたらなんでリリスが怒るん?」

 ジャンは、ラムリーザの耳元に近づいて、リリスに聞こえないようにして尋ねてきた。もっとも、今の状態なら普通に尋ねたところで、リリスはたとえ聞こえていたとしても反応することはなかったであろう。

「話せば長くなるけど、一万エルドぐらい使ってはがきを買って、10個ぐらい当たって一つ千エルドぐらいもした、高すぎるって問題になったことがあるんだ。オークションの時だったっけ」

 ラムリーザは、冬に行なわれたソニアとリリスのオークション勝負のことを思い出しながら説明した。

「へえ、あれを買う奴が居たんだ。あれ明らかに詐欺だろ? はがき自体が普通のレトルトカレーと同じ値段がするのに、当たらなかったらまるまる意味無いじゃん。ナリオマニアは狙うだろうが、カレー目当てで買う奴は居ないと思うぞ」

「その買った奴が、リリスなんだよ」

「ほえ~……。でも、リリスのそういうところがまた可愛い」

「そうか?」

「うむ」

 リリスファンのジャンは、リリスのどんな行動も肯定してしまうのだった。

 ラムリーザとジャンが食べ終わったとき、ユコは70%程、ソニアとリリスは50%ほど食べ終わっていた。

 三人とも、十数分の間にかなりやつれ、目は涙目で真っ赤になり、鼻水ダラダラ、唇もはれているように見える、美少女台無し状態だった。

「あーあー、ひどくやつれて、無理するなよ」

 ジャンは心配そうに声をかけるが、ユコは無心で食べ続ける。ソニアが一さじ食べると、リリスも無理して一さじ食べる。逆にリリスが先行しようとすると、すかさずソニアも手を伸ばす。

「もうやだ……」

 ソニアは力なくつぶやいた。

「残す? ユコしか完食できなかったらユコがボーカルになるよ?」

 ラムリーザは、ソニアが辛さに参っているのはわかっているが、それ以上に食べ残しが気に入らないので煽ってみせた。ただし、自分でマグマカレーを食べる気には全くなかった。

 ユコはそれほどでもないが、ソニアとリリスはしょっちゅう変な事を始めてしまう。こんな形でもいいから、懲らしめてやろうという気もそこにはあった。

 そう言われると、ソニアはともかくリリスが黙っていられない。先日せそ汁勝負で負けている分、今日は絶対に勝つ必要があった。

 ユコはプレゼントのため、リリスはリードボーカルを勝ち取るため、ソニアは桃栗の里行きを避けるため、三人はそれぞれ別の思惑で、地獄の血の池のような、真っ赤なマグマカレーを食べ続けるのであった。

「こいつら、見た目の可愛さとはうらはらに、やることはすげーな」

「僕も最初はわからなかったけど、ソニアとリリスは似たようなものだよ」

「そりゃあ好都合だね」

 ジャンは、苦悶の表情を浮かべてカレーを食べ続けるリリスを、笑みを浮かべながら眺め続けるのだった。

「かっ、完食っ……」

 一番に食べ終わったのはユコだった。だらしなく背もたれにもたれかかった放心状態になっている。

 ソニアもリリスも、あと五分の一ほどで終わりだ。

 そこでリリスは最後の力を振り絞ってラストスパートに出た。目をつぶったまま、一気に残りのカレーをほおばったのだ。そして水の入ったコップを手に取ると、一気に流し込む。この作戦で、リリスも完食、ソニアより先に食べ終わったのでリードボーカル獲得。そのままユコと同じように、背もたれに倒れ掛かって放心状態になった。

 最後に残ったソニアに、ラムリーザとジャンの視線が集中する。

「こ、こっちみんな……」

「残すのは、ダメ」

「ふえぇ……」

 ソニアは、水を飲んではカレーを一さじ、また水を飲んでは一さじを繰り返している。飲んだ分は汗となってすぐに体外に放出されているようでもある。

「もうやだ……」

 二度目の弱音を吐くソニア。

「ジャン、一さじ食べてあげる?」

 ラムリーザの勧めに、ジャンは首を横に振って拒否する。指先に少しついたものをなめただけで思わず悲鳴が上がるような辛さ。それを食べる気にはならなかった。

「ん~、あと三さじぐらいかな、がんばれっ」

 ソニアは、意を決したように一さじ食べる。

「……もう味がわかんないよぉ」

 最初から味はわからなかったと思うラムリーザだが、あえて突っ込まずに「後二さじ」とだけ言った。

 ソニアは水を飲みながら、もう一さじ口へと運ぶ。

「げほっ、ごほっ、ふえぇ……」

「ほら、最後だ、がんばれっ!」

 というわけで、ようやく三人ともマグマカレーを完食できましたとさ。

 プレゼントのココちゃんぷにぷにクッションを抱えて歩く姿は、まるで夢遊病者のようにふらふらと危なっかしいものであった。

 

 

 その夜、ソニアは口の中の痛みが気になって仕方が無かった。昼間リリスに勝負を挑まれて食べさせられた激辛なカレーは、ソニアの口の中に様々な障害を残していた。

 硬口蓋は熱く、焼けたような感覚がし、頬の内側は粘膜が荒れ、皮が剥がれた様な感じになっている。

「ラム助けて、口の中が痛いよぉ」

「リリスとユコも今頃は苦しんでいるだろうな。明日は尻が大変な事になるだろう、ご愁傷様」

「リリスのせいだ! リリスが勝負なんて言うから! しっかしあんな辛いカレー、誰が食べるのよ」

「今日、三人ほど見かけたけどなぁ」

「はぁ、痛い」

「冷やせばいいと思うよ、アイスクリームでも食べたらどうだ?」

「うん、そうする」

 ソニアは、部屋に置いてある冷凍庫からアイスクリームを取り出して食べ始めた。冷たさが口の中を冷やしてくれて、心地が良い。

「冷たさで痛みを感じなくなったよ。また痛くならないうちに、今日はもう寝ようよ」

「ほう、珍しく早寝だね」

「また辛くなる前に寝るの、辛くなったらまたアイスクリーム食べるの」

「はいはい、んじゃ寝るか」

 こうしてラムリーザは、いつもよりも少し早い就寝につくことになったのであった。ベッドの中に入る二人を、二匹に増えたココちゃんがソファーの上に並んで、とぼけたような眼差しで見つめていた。

 
 
 
 
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