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自由気ままな二人

 

 目の前に迫ってきた小惑星をかわすと、その先は流星群が広がっていた。スペースシップは大きく揺れながら流星群の間をうねる様に飛んでいる。

 シップは目的地のあるへ第一ファウンデーションへと向かい、銀河中心にある銀河バルジへと進路を向けていた。

 ミュルミデオンの道と呼ばれる航路を進んでいたが、この流星群は座標図には載っていなかった。この近辺に存在していた惑星が破壊したのか、小惑星がぶつかり合ったのか知らないが、旅の途中で想定外な事が発生してしまったようだ。

 突如船内に激しい衝撃が伝わり、シップは大きく揺れた。流星の一つがぶつかったようだ。けたたましいアラーム音が響き、シールドが一部損傷したことを示してきた。

 このままではシップは破壊されてしまう。

 ここで船長は一つの賭けに出たようだ。

 高次元空間へ飛び込んで流星群をやり過ごすことにしたようだ。

 目の前に広がる流星群が、糸を引くように光の尾を残して後方へと消えていった。

 これでもう安心、銀河中心付近までこのまま高次元空間航法を続けていけば良いだろう。

 

 ………

 ……

 …

 

 すごかったなぁ……。

 明るくなった船内、いや部屋の中で、ラムリーザは椅子に座って目の前のスクリーンをぼんやりと見つめていた。

 周囲はざわざわとしていて、宇宙航海を見終わった観客達が、一人、また一人と席を立って外へ出て行っていた。

 体感型仮想バーチャルマシンってすごいんだな。

 ラムリーザは改めてそう思うと、他の観客と一緒に部屋から退室していった。

 

 ここはポッターズ・ブラフ地方最東端にある街アミティヴィル。

 ラムリーザか来ている場所は、この街にあるこの地方最大の遊園地ポンダイ・パークである。

 体感型仮想バーチャルマシンへ勧誘されて、一人でこの素晴らしい宇宙旅行――バーチャル世界――を体験していたのだ。

「どうです? すごいでしょう!」

 ポンダイ・パークの広報担当エドワード・リージスは、ラムリーザに得意げになって説明していた。

 ラムリーザがこの遊園地に来たとき、一人でいるのに気がついた広報担当エドワードは、すぐにラムリーザの存在を見つけてコンタクトを取ってきたのだ。

 何でも、フォレストピアにも遊園地、アミューズメントパークを展開させようという話が持ち上がり、どのようにフォレストピア側とコンタクトを取ろうかと考えていた時にラムリーザの方がパーク内に現れたのだ。この機会を利用しない手は無いということで、広報担当エドワードとラムリーザの、妙な取り合わせで遊園地を散策することになっているのだった。

「すごいね、遊園地も捨てたものじゃないよ。いや、これはすごい。画面に合わせて部屋の椅子が揺れたり風が吹いてきたり。本当に宇宙を航海しているような気分になったよ」

「でしょう、でしょう。さて、お次のオススメのアトラクションがこちらになりますよ?」

「いや、人探しをしているので……」

「それならば一緒に探してあげましょう。見つからなければついでに次のアトラクションを見ていって下さいな」

「うーん、まぁそれでいいか」

 実はラムリーザは一人で来ていたわけではなかった。本当ならソニアと一緒にいるはずなのだ。

 しかしはぐれてしまったわけではない。

 遊園地に来たときから一人だった。

 かといって、ソニアは家に残っているわけではない。この遊園地のどこかに居るはずなのだ。

 ラムリーザは、携帯型情報端末キュリオを持ってくるのを忘れたことを、今更のように悔やんでいた。

 

 事の発端は、数日前の学校での休み時間に遡る。

 

 休み時間、ラムリーザはジャンと二人で廊下に出て窓の外を並んで見ながら会話していた。

「なぁラムリーザ、お前ソニアとデートしたことあるのか?」

「デート? やったと思う」

 ラムリーザはそう答えたものの、ポッターズブラフに来てからソニアと二人で出掛けたことはそれほど多くなかった気もしていた。

「でもさ、お前ら同棲しているじゃん?」

「露骨過ぎるな、あまり大きな声でそんな事言うんじゃない」

「事実だろ? まあそれはいいんだ。でも同せ――、一緒に住んでいたら出掛けるときから既に一緒で、待ち合わせとかやったことないだろ」

「だね」

 これだけは自信を持って言えた。

 ラムリーザは、物心がついてからずっと同じ屋根の下で生活してきたので、二人でどこかに出掛けるときも、一緒に家を出るところからスタートだった。

「待ち合わせで、相手がいつ来るかな? と待っている時のドキドキ感も捨てたもんじゃないぞ」

「そんなものですかねぇ」

 ジャンはそう言うが、ラムリーザ自身が今更ソニア相手にドキドキするとはあまり考えられなかった。

「というわけでだ。今度学校が休みの日があるだろ? その日にソニアを誘って――そうだな……、ああ遊園地。この地方にも大きな遊園地があったじゃないか、たしかポンダイパークだっけ?」

「アミティヴィルのあれだね。帝都に帰るときに、電車の窓から毎回観覧車とかが見えていたよ」

「そうだそこだ。よし、遊園地デートをするぞ。俺もリリスを誘う。お前もソニアを誘え、ダブルデートだ。ただし、家は別々に出ろ。電車も別々に乗り、そうだな、ソニアは電車、お前はバスとか移動手段は別にして、とにかく遊園地につくまで一緒にいるな。それで待ち合わせというものをやってみたらいいぜ」

 そういうわけで、ジャンの提案でラムリーザはバスで、ソニアは電車で遊園地へと向かったわけだが、待ち合わせの場所で会う事も無く今に至る。

 もっとも、遊園地で待ち合わせということで別々に行こう、そう言ってラムリーザとソニアは出掛けたものの、待ち合わせ場所を決めていなかった。

 これはわざと決めなかったのではなくて、いつも一緒に出掛けていたという習慣から、待ち合わせるということをやってこなかったので、何も考えていなかっただけであった。

 さらに運の悪いことに、ラムリーザは連絡手段となりうる携帯端末のキュリオを家に忘れてきた。

 こうなったら出会うのも大変だ。

 電車で向かった場合の近い入り口と、バスで向かった場合の近い入り口が離れていたのも混乱に拍車をかける結果に繋がった。

 こうしてラムリーザがソニアを探して遊園地内をうろうろしていたところで、ポンダイ・パークの広報担当エドワード・リージスに捕まったわけで、今に至る。

 

「どうです? 見世物小屋だよ。世にも珍しい生き物を紹介しているよ」

 エドワードの案内で、ラムリーザは見世物小屋に入っていた。

 見ると、頭が八つに分かれた蛇がいる。

「なんかすごいのが居るね」

「八岐大蛇、ヒュドラとも呼ばれている。これが大きくなったら危険な生き物になるが、小さいうちはこのように面白い見世物になるんだ」

「大きくなったらどうするんだい?」

「好奇心は身の破滅ですよ」

 なんだか怖いことを言われ、ラムリーザはそれ以上質問することをやめた。

 それよりも、ソニアがどこで何をしているのかも気になった。ずっと入り口で待ち続けていたのでは気の毒だ。しかし入り口なら何度も見て回ったが、そこには居なかった。

 そういえばジャンとリリスも来ているはずだが、その二人にもまだ会っていない。

 本来なら四人で見て回っていたはずなのに、どうしてこうなった? ラムリーザは、エドワードの案内で、珍しかったり奇妙だったりする生き物を見て回るのだった。

 

 見世物小屋の見物が終わった後も、ラムリーザはエドワードと一緒にソニアを探しながら遊園地内をいろいろ見て回っていた。

「ここが当遊園地最大の目玉であるアトラクション、ファンハウス・惨劇の館ですよ!」

 エドワードは、とある大きな施設の前でラムリーザを振り返って得意げに説明した。

「なんだか物騒な名前ですね」

「簡単に言えば、お化け屋敷です。入ってみますか?」

「ん~、ソニアと一緒に入りたいので、今回はパスしようかな」

「それは残念。しかし彼女さん居ませんね、本当にここに来ているのでしょうかねー?」

「ん~、ソニアに限ってすっぽかすとは思えないし、フォレストピアの駅前までは一緒に行ったんだけどなぁ」

 フォレストピアの駅前で、ソニアは電車に乗り、ラムリーザはバスに乗ったのだ。

「探すなら高いところ、ジェットコースターとか観覧車とか如何でしょう?」

「ん~、ジェットコースターはやめとく。観覧車に乗って全体を探してみようか」

 そこでラムリーザは、エドワードと別れて観覧車へと向かった。

 別れ際にエドワードは、「フォレストピアでの遊園地開発、検討しておいてください」と言い残して行った。

 その後ラムリーザは、観覧車に乗り込んだ。

 少しずつ高度が増していき、遊園地全体が見渡せるようになった。

 ラムリーザはじっくりと見渡してみたが、ソニアの姿はなかなか見つけ出すことができなかった。

 そのうち、ゆったりと動く観覧車の心地よさのために、いつの間にかうとうととした眠りについてしまっていた――。

 

 ………

 ……

 …

 

「お兄さん、起きなさい。もう閉園時間ですよ!」

 ラムリーザは、突然身体を揺すられてハッと気がついた。

「あ、しまった、つい眠りこけてしまったみたい、ごめん!」

 ラムリーザは急いで立ち上がり、起こしに来た観覧車の管理人に謝った。

 すっかり辺りは暗くなっている。通常日の閉園時間ということは、夜の八時を過ぎているということだろう。

 観覧車はラムリーザの乗っているゴンドラの所で止まっていた。最後の一人となっていたのだろう。

「五時間近く観覧車で眠り続ける人も初めて見ましたよ、全く」

「僕も初めて見ました。いやぁ、妙な人も居るものですねぇ」

「ワンデーパスを使ってまでねぇ」

「ふ、不思議だねぇ……」

 ラムリーザは、へこへことお辞儀をしながらそそくさと観覧車から離れていった。

 結局ソニアとは遊園地で遭遇することは無かった。ラムリーザは、最後まで一つだけ開いている正門へと向かっていった。閉園時間を少し過ぎていることもあり、人はまばらになっている。

 ラムリーザは、正門前に三人の人影が動かずに立っているのに気がついた。近寄ってみると、ソニアとリリスとジャンの三人だった。

「あ、ラムが出てきた」

 嬉しそうに言うソニアだが、ジャンとリリスは呆れたような顔をしている。

「お前、何やってたんだ?」

 ジャンの第一声はそれだった。まぁ、もっともな質問ではある。

「……ソニアを探すために観覧車に乗っていたら、寝てたみたい……」

「なんやそれ……」

「あたしもラムを探していたよ、携帯電話かけても全然出ないんだもん!」

「ごめん、携帯端末家に忘れてきた」

「なんやそれ……」

 ジャンは先ほどから同じ言葉しか返さない。

「いや、ホント悪いっ。四人で遊ぶはずだったのにバラバラになってしまって、ホント申し訳ないっ」

 ラムリーザは平謝りするしかなかった。

「あたしは十分楽しかったから別にいいよ」

 ソニアにそう言ってもらえるのは、ラムリーザにとってせめてもの救いだった。

「まぁ俺もお前ら二人で遊んでいると思っていたから、リリスと二人で回っていたけどね。でもせめて帰りは一緒にしないと残してきたみたいであまりいい気がしないから待ってたら、閉園時間ごろにソニアが一人で出てきてあれっ? となったわけだ」

「ソニアは今日一日何をしていたんだ?」

 ラムリーザは、ソニアの行動が気になって尋ねてみた。ずっと探し回っていたのなら大変だっただろうが、十分楽しかったと言ったのなら何をやっていたのだろう?

「あたしは遊園地に着いたらすぐに中に入って、ラムを探しながらいろいろ回っていたんだよ」

「いやエル、そこは入り口で待ち合わせるべだろ?」

 ジャンの突っ込みに、ソニアはきょとんとした顔で答えた。

「待ち合わせなんてしてないよ、今日は別々に遊園地に行こうって話になってたし」

「いや、行くまでは別々だけど、着いてからも別々に移動することないじゃないか」

「何で?」

 ソニアは不思議そうに答えた。

「何でって、エルおま――」

 そういえばラムリーザには心当たりがあった。

 以前帝都に住んでいた時、ソニアと二人でいろいろな娯楽施設に遊びに行ったことはあるが、現地では一緒に回らずに別行動で遊んでいたことも何度かあった。「夕方の何時に入り口で集合」と決めて、二人とも個人的に自由に過ごしたことは何度もある。

 帝都時代はラムリーザとソニアは恋人同士という関係ではなく、もっとあっさりとした仲だったので、ベタベタせずにそういった行動も普通だったが、どうやらその気持ちは今も引き継いでいることもあり、今回は昔のように過ごしてしまっただけのようだ。

「やれやれ、幼馴染が恋人関係に進展したら、常人には理解しがたい行動に出る場合もあるってことでいいか」

 ジャンは、諦めたようにそう語った。

「で、ソニアは何をしていたんだ?」

「ラムに合わないなぁと思いながらいろいろ見て回ったけど、あのジェットコースターが無茶苦茶面白かったから、ずーっと乗ってた。気がついたら閉園時間だった」

「ぐ、ぐぬぬ……」

 ラムリーザは、ソニアの行動を聞いて唇をかんだ。高いところに登るためということで観覧車とジェットコースターの二つをエドワードに勧められた時に、観覧車を選択してしまったのが間違いだったと気付いたからだ。

 あそこで観覧車を選ばずにジェットコースターを選んでいたら、ソニアに会うことができたはずだった。

「結局お前らは、観覧車とジェットコースターを別々に乗りに来ただけだな。デートじゃねぇよそんなのは……」

「ジャンとリリスはデートしたのか?」

 ラムリーザの問いに、ジャンは「まあな」と答えた。

「えっ? リリスはジャンとデートしたの? 浮気者!」

「何故そうなるのかしら?」

 突然ソニアはリリスに噛み付いてくる。

「リリスはラムのこと狙っているはずなのに! でもラムの本命はあたしだから、リリスは付かず離れずラムの恋人候補にキープされたまま、他の男と付き合わずにずっとラムのことだけを思っていないとだめなの! でもラムと結ばれるのはあたしだけどね」

「何そのギャルゲーヒロインにオタクから求められるような負けヒロインみたいな扱い」

「リリスには、あたしとラムのウェディングケーキを作ってもらう予定なんだから、その時までラムのことだけ一途に思っていないとダメなの。無論ラムには選ばれないけどね」

「なんかエルお前、むっちゃくちゃひでーこと言ってるな」

 ジャンも呆れた目でソニアを見据える。

「幼馴染は、彼の新しい出会いと、その娘との関係を応援する立場であるべきじゃあないかしら?」

 リリスの問いに、ソニアはムッとしたように答えた。

「ラムに新しい出会いは無いの!」

「いやあるし、というかあったし。リリスやユコと会ってるだろ?」

 ジャンはすかさず突っ込む。

「緑色の髪は不人気だから、ソニアが負けヒロインになるべきなのよねぇ」

 リリスもどんどんソニアに反撃してくる。

「根暗吸血鬼とか使い道の無い役立たず魔女なんかに言われたくない!」

「あなたは途中でフラれて、その結果精神病んでしまえばいいんだわ」

「そしてエルは歩道橋の上で寝取ったヒロインを殺しにかかる、と。一言、死んじゃえ、とつぶやいて……」

「いや、物騒な話はそのくらいにして、そろそろ帰ろう」

 ラムリーザは、不穏な話をするジャンとリリスを制して話を先に進めた。

「お前を待っていたんだけどな」

 すっかり夜も遅くなっている。終電までには十分時間はあるが、いい加減おなかもすいてきていた。途中でどこかで食べて帰るか? そんな事を考えながら、四人は帰路についた。

「話の続きは帰りながらしよう。ところでジャン、君が時々口にしている『エル』って何だい?」

 ラムリーザは、ジャンの言った内容をよく聞いていた。

「ん? エルはカップのエルだろ?」

 しかし、したり顔で答えるジャンを見て、ラムリーザは「あ、もういい」と答えた。なんてことは無い、ただの地雷だった。

 

 こうして、タブルデートになる予定だった一日は、よくわからない、いや、別行動をやった二人にとっては通常運転の範疇だった内容で幕を閉じた。

 あと、いつになるかはわからないが、フォレストピアにアミューズメントパーク、遊園地を作るという話も決まったようだ。さしずめ「ポンダイ・パーク・フォレストピア出張店」といったところか。

 そんな一日であった。

 
 
 
 
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