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バクシングをやってみよう

 

 今日は、再びフォレストピア駅前の大倉庫で、ユライカナンの文化に触れる日だ。ラムリーザはいつものメンバーを率いて、昼下がりに大倉庫に到着した。

 今回体験するのはバクシングというスポーツ。聞いた話では格闘技の一種で、主に拳だけを使って戦う競技のようだ。

 格闘技と言えば、今回同行しているメンバーで心得のありそうなのは、レフトールとソフィリータ。だが二人とも蹴り技が得意で、拳はそれほど使わない。

 去年、ラムリーザがレフトールと決闘した時、ラムリーザは主に拳を使って戦ったが、レフトールの攻撃に対して捨て身のカウンターに合わせて放っただけで、これはラムリーザのボディに対する打たれ強さあっての戦法だった。

 それでバクシングは、拳だけで戦うのだそうだ。どうなることやら――

 

 駅前大倉庫の中にある一室は、昨日ジムを経営していると言っていた人の言うとおり、スポーツ施設風に変わっていた。

「ようこそ、我がバクシングジムのレサー・ワイルドへようこそ!」

 昨日会った人が、豪快な声で迎えてくれた。昨日はパーティスーツ姿だったからあまり気にならなかったが、こうしてシャツ一枚のトレーニング姿で見ると、なかなかに筋骨たくましい。

「宜しくお願いします」

 一同は、最初だけはきちんと挨拶しておく。この辺りは礼儀良い。

 部屋の中には、でんと大きなリングが設置されている。これはプロレスで使うものとそっくりだ。

 それ以外には、天井から吊るした大きな縦に長い筒状の物が置いてあった。

「リングはわかるけど、あれは何ですか? えーと――、ラムリーザです、宜しく」

 ラムリーザは、吊るした物を指差しながらいろいろなことを同時に尋ねた。

「おう、俺はゴジリだ。あれとはパンチングバッグのことか? あれをボコボコ殴って打撃練習するのだ」

 既に好奇心旺盛なミーシャやソニアは、そのパンチングバッグに群がっていて、表面をさすったりしている。

「それは殴るものだそうだ」

 ラムリーザとゴジリの会話を聞いていたリゲルが、二人にそう教える。

 そこで早速ミーシャは一番槍! とばかりに、そのパンチングバッグを殴り始めた。

 ペチペチペチ――。

 なんとも情けない音が、ジム内に響く――、ほどは鳴らない。まるで、男性の胸を馬鹿馬鹿と言いながら叩いている風にしか見えない。

 ミーシャは叩いている最中に、「あれ?」と言った様な顔をソニアに向けた。次の瞬間――

「バカっ、バカバカっ、ラムのバカ! ふえぇ~ん!」

 なんとも媚びた甘えたようないつもの声で、何か叫びながらパンチングバッグをポカポカ殴る。

 その叫び声は、先日のだまで遊んだ時に、ソニアがラムリーザに泣きついた時と同じ台詞だ。不思議な踊りといい、この仕草といい、ミーシャはソニアをコピーすることに関しては何故か一流だ。

 リゲルはふっと笑うが、面白くないのは真似をされたソニアだ。

「どけっ! 媚び媚び娘!」

 ソニアはミーシャを押しのけて、パンチングバッグの前に立ち、ミーシャに代わって殴り始めた。

 パフパフパフ――。

 なんとも情けない音だ。

「エルはパフパフだったら拳をつかわずに、そのおっぱいを使ったほうがいいと思うぞ?」

 ある程度予測はついていたが、さっそくジャンがからかってくる。

 ソニアは何も言わずに、パンチングバッグを叩くのを止めたかと思うと、振り向き様にジャンに対して回し蹴りを放ってきた。

 ジャンは意表をつかれたが、なんとかギリギリでソニアの蹴りをかわすと、そのまま逃走を始めてしまった。ソニアはその後を追いかける。「焼肉のタレめーっ」と叫びながら。

 ソニアの後に、パンチングバッグの前に立ったのはソフィリータだ。

 ソフィリータは最初は軽く殴っていたが、その内殴っているだけでは面白くないのか、突然パンチングバッグを蹴りだした。ソフィリータは蹴りが得意なので、こちらの方がしっくり来るのだろう。

「ほう、お嬢ちゃんは結構いい蹴りを持っているねぇ」

 ジム管理人のゴジリは、ソフィリータの蹴りを見ながら感心したようにつぶやいた。

 ソフィリータはそれを聞いて得意げになり、下段、中段、上段と打点の高さが違う三連撃を披露したりしている。

「一発思いっきり蹴ってみ」

 そこに口を挟んできたのはレフトールだ。レフトールも蹴りを得意としているので、なんとなく対抗してみる気になったようだ。一度ソフィリータから攻撃を食らったことはあるが、あれはトリッキーな攻撃だったので油断していたというのもあって、レフトールはそれ程気にしていないようだ。

 ソフィリータはレフトールに言われて、少しタメを作ってから水平に蹴りを放った。ジム内に、バシッと景気のいい音が響き渡った。パンチングバッグはユラユラと揺れている。

「そんなところでどうでしょう?」

 ソフィリータは、レフトールの方を振り返って聞いてきた。レフトールは、ニヤニヤと笑いながら「どいてみ」と言った。

 今度はレフトールが打撃を見せるようだ。

 レフトールは、数回軽くパンチングバッグを蹴り、タイミングか打点を計っているようにも見えたが、次の瞬間思い切り踏み込んで下段蹴りを放ってきた。

 今度はジム内に、ズドッと鈍い音が響き渡る。違いは音だけではない。ソフィリータが蹴ったときと違い、パンチングバッグは大きく揺れた。ソフィリータが蹴ったときと比べて、その揺れ幅は大きい。

「ふむ、君の方が打撃は重そうだが、それは体格や体重差からくるものだな」

 ゴジリは冷静に分析しているが、「だがバクシングは蹴りは使わない」と締めくくった。

「重さは仕方ないです。でも、私の上段蹴りが頭にヒットしたらダウンを奪えますよ。以前あなたに放った蹴りでもよろしいです」

 ソフィリータもレフトールに対抗心を持っているようだ。以前放った蹴りとは、「前方宙返り式二段踵落とし」と名づけたらいいのかどうかわからないが、ソフィリータオリジナルのトリッキーな蹴り技だ。

 しかしレフトールも冷静にやり返す。

「当たればな。例えばラムさんみたいに、ガッチガチに頭をガードするような相手に対して上段蹴りはあまり意味が無いぞ。それにカウンターを入れられる。さらにそのぐらいの蹴りだったら、ボディに撃ち込んでも効かないだろう」

「なんで相手がリザ兄様なんですか?!」

「ふっふっふっ、この一撃必殺の下段蹴りは別名『フォレスター・キラー』と言う。流石のラムさんも、重い下段蹴りを食らえば転倒するさ」

「あなたはまだリザ兄様の首を狙っているのですね!」

 ソフィリータは憤慨して、レフトールに詰め寄る。

「とんでもない。番人たるもの主人より弱くて守れるものか、だ。俺はラムさんの騎士になるんだぜ。というか、リザ兄って何や、ラム兄でいいじゃねーか?」

「それだと上の兄様と区別がつきません!」

 実際、ラムリーザには兄がいて、その名をラムリアースと言う。確かにラム兄ではどちらのことを指すのかわからない。ソフィリータは、リアス兄様とリザ兄様で呼び分けている。

 パンチングバッグが空いたので、ミーシャが再びペチペチと叩き始めた。

「そうじゃない、そうじゃない。技術が無いのに無理に殴ろうとしても、拳や手首を痛めるだけだ」

 ミーシャのパンチを見て、リゲルは指導を始めたようだ。

「じゃあどうしたらいいの? リゲル兄やん」

「こうするのだ」

 そう言うと、リゲルはミーシャの脇からパンチングバッグを殴る。いや、殴るという表現は間違っているかもしれない。リゲルは指を広げたまま、手のひらの付け根辺りをパンチングバッグにぶつけてきた。

「掌底打ちか。しかしバクシングでは掌底打ちは使わないんだな、これが」

 ゴジリは、リゲルの攻撃を見てつぶやいた。

 それでもミーシャは、リゲルに言われたとおりに今度は掌底打ちを繰り出し始めた。

 トフトフトフ――。

 しかし威力が無いことには変わりはないようだった。

「うむ、それでいい。その方が安全だ」

「ミーシャパンチーッ」

「いや、パンチじゃないから」

 リゲルは、掌底打ちを続けるミーシャを、まるで自分の娘の成長を見るかのように、目を細めて微笑みながら見つめているのだった。

 その一方で、ラムリーザは真面目にバクシングについてゴジリに尋ねている。

「バクシングって、このパンチングバッグ以外にどんなトレーニングをやるのですか?」

 聞いてみて、いろいろと体験してみようというのが目的だ。

「そうだな、ロープとかだな。所謂縄跳びだ」

「縄跳びですか」

「下半身を鍛え、リズム感を養うのが目的だな」

「他に何かありますか?」

 縄跳びなら学校の体育の授業でやったことがあるので、話を次に進めた。

「シャドーワークだな。鏡の前でフォームをチェックだ」

 ジムを見渡すと、大きな鏡が置いてあったりする。

 しかしその鏡の前では、リリスとユコがポーズを取って遊んでいる。モデルにでもなった気分でいるのだろう。格闘技のジムとは思えない、優雅な雰囲気を作り上げていた。

「あのお嬢ちゃん達は、格闘家って雰囲気じゃないねぇ。結構美人だし」

「気にしないでください」

 二人を見てゴジリはその容姿を褒めるが、今日の話には関係ないので話を先に進めた。鏡の前は二人が占領しているので、シャドーワークはできないだろう。

「んじゃ、ミット打ちでもやってみるか」

 ゴジリは、表面が平らになったミットを身に付けてリングに上がり、ラムリーザにも上がってくるよう促した。

「ミット打ちってどうやるのですか?」

 リングに上がりながら、ラムリーザは尋ねた。

「このミット目掛けてパンチを繰り出せばいいんだ」

 ラムリーザはそう聞くと、戦うための構えを取った。頭部を守るような、上段構え。ボディの防御を捨てて、とにかく頭を守る構えだ。

 パンチングバックの前に居るリゲルとミーシャ、鏡の前で自分の姿に見惚れているリリスとユコ、なんかよくわからんが追いかけっこをしているジャンとソニア以外は、ぞろぞろとリング脇に集まって二人のトレーニングを観察し始めた。

「あーもー、また嫌な物思い出してしもーたわ」

 ラムリーザの構えを見て、レフトールはぼやいた。

 レフトールはラムリーザと対決した時、極端な上段構えを見てボディに蹴りをぶち込んだのだが、その蹴りは通用せず、逆にカウンターでパンチを食らわされていたのだ。

「さあ来いっ」

 ゴジリはミットを構える。そこにラムリーザは、踏み込んで一発パンチを叩きつけてみた。

 ドスッ――。

 重たいものがぶつかったような音が響き、ゴジリは一歩後ずさる。

「くっ、あのパンチが重たいんだよ」

 レフトールはつぶやく。

「そう言えば、リザ兄様はパンチを打ち込むトレーニングをよくやっていましたね」

 ラムリーザとソフィリータは昔から、護身術として護衛役のレイジィから格闘技のトレーニングを多少は受けてきた。

 その過程でソフィリータは格闘技にはまり、蹴り技を鍛えて今に至る。一方ラムリーザはそれほど打ち込まなかったが、握力だけは何故か鍛え続けてきたのだった。それで力だけは成長し、ゲームセンターのパンチングマシーンで高得点をたたき出していたりする。

「けっこういいパンチを持ってるねー。だが打った後がいかん。パンチは打った後に、同じ速度で元の位置に戻すべし」

 確かにラムリーザのパンチは一撃に全力を込めるだけで連打には向かない。力に頼ったパンチとも言えた。

「――などとジムのマスターに言われているけど、レフトールはその一撃でやられてしまい、反撃できなかったわけだ」

 いつの間にかパンチングバッグの側からリング脇へと移動してきたリゲルが、レフトールを挑発する。

「なんや、おのおっさんはミットで受けているだけだから立っていられるんだ。あのパンチをまともに食らったら立っていられねーよ」

「避けられないのか?」

「ラムさんは攻撃させておいて、それを受けておいてカウンターを放ってくるから避けられねーんだよ! 避けるつもりで攻撃していたら、こっちの攻撃を当てられねーよ! お前も一度ラムさんと戦ってみろよな!」

 レフトールは憤慨してリゲルに食って掛かる。

「戦わずして勝つのも手だ。俺はラムリーザの参謀みたいな立場を確保したので、そもそも戦う必要が無い」

「ぐぬぬ……」

 レフトール程度ではリゲルの舌戦に勝てるわけが無い。レフトールは、「誰かラムさんのアイアンクロー食らってしまえ」と悪態をついているが、無論誰も相手をしなかった。

 リング上ではラムリーザはゴジリの指導を受けている。パンチを打った後の腕の戻し、体勢の立て直しをすばやく行なう方法を実践していた。

 その時である。

「ラムと戦ってみるよ!」

 ジム内に、大きな声が響いた。

 ソニアが、ラムリーザにバクシングでの勝負を宣戦布告してきたのだった。

 みんなが呆然とする中、ソニアはリングの上に登ってきた。

 
 
 
 
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