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バクシングの対戦をしてみよう後編 ~意外性の実現~

 

 ユライカナンのスポーツ文化、バクシングを体験してみようという話になり、フォレストピア駅前の倉庫に仮ジムを設営してそこにやってきたラムリーザ一行。

 体験中にソニアがラムリーザに対戦を挑んできたことで、スパーリングという練習が始まった。

 1ラウンド目は、ソニアの乱打をラムリーザはしっかりとガードして、時々ゲンコツを食らわせるといった内容で流れ、現在クールタイム。それぞれのコーナーに戻って、一休みである。

「いいわ、手数は勝っている」

 コーナーに置かれたパイプ椅子に腰掛けたソニアに、リリスはそう語りかける。

「相手には効いてないけどね、オレンジちゃん」

 すぐに突っ込みを入れるジャン。確かにソニアのパフパフパンチはラムリーザに全然通用していない。

「オ、オレンジちゃんって何よ、気味が悪い」

 ソニアは、髪の色にちなんで「グリーン・フェアリー」と呼ばれていたりするが、オレンジちゃんと呼ばれたのは初めてだ。

「何のことやらさっぱりだけど、知らないほうがお互い身のためだね」

 ユグドラシルもジャンに同調してとぼけたりする。

「で、次のラウンドの作戦は?」

「作戦も何も、下手な小細工したところで通用しないだろ?」

 ジャンは現実的だ。しかしリリスは、ソニアを励ましてきた。

「私はあなたの意外性に期待しているわ。ラムリーザが普通に勝つのでは面白くない。ここはソニアが勝って、みんなをあっと驚かせなくちゃ」

「そうですわ。そのか細い腕で、あのガッチリした肉体のラムリーザ様を倒す。これがラノベの醍醐味ですの」

「ラノベって何よ!」

 リリスとユコの謎の応援に、なんだか不満そうな顔をするソニアであった。

 一方ラムリーザ陣営。

「あのおっぱいちゃんは、ラムさんが本気で手を出さないのを知ってるからあんなに調子に乗っているんだろ?」

 ソニアと同じように、コーナーのパイプ椅子に腰をかけて休んでいるラムリーザは、レフトールの指摘に首を横に振って否定する。

「いやぁ違うんだなぁ。ソニアは僕と本気で戦いたがっているから困っているんだ」

 ラムリーザは、ソニアに手加減していない、本気で戦っていると思わせるぎりぎりの所で戦っていた。その結果が、ゲンコツ連打なわけだが。

「とりあえず茶番劇はやめろ、お遊びはこれまでだ」

 今度はリゲルは近寄ってきて語り掛けた。

「いや、茶番劇でええって。本気出したらソニアに大怪我させてしまうことぐらいわかっているよ」

「顔面は殴らなくていいさ、狙うのはここだ」

 リゲルはそう言いながら、ラムリーザの腹をポンポンと叩く。

「ボディ打ち?」

「そうだ。頭を狙わなければ、大怪我はさせないだろう。お前がどう思っていようが、レフトールの言うとおりあいつはお前が手を出してこないから調子に乗っている。その鼻っ柱をへし折ってやれ」

「いやまぁ別に調子に乗せてあげていてもいいけど……」

 ラムリーザは、ソニアが本気を出して戦ってもらいたがっているのも解っていた。ソニアはいつもラムリーザとはガチで勝負をしたがる。例えば去年には、懸垂勝負など。

「しかし、やっぱり下手に攻撃を仕掛けたら危ないのでは? 中途半端に避けようとして変なところに当たるとか」

 ロザリーンは慎重だ。むろんラムリーザも、本気で攻撃を仕掛けるつもりはない。

「大丈夫、ボディはボディでも、あの胸の下を狙ってやれ。パンチが見えないから、下手に避けようとはせずに食らってくれるさ」

 リゲルはニヤリと笑って言った。

「いやいや、おっぱいの死角を攻めるのはあの時と同じじゃないか」

 ラムリーザの言うあの時とは、のだま対戦の時のことである。豊満な胸のせいで死角になっている内角低目を攻めて、ソニアを泣かせたことは記憶に新しい。

「いいか、ボディ攻めだぞ」

 リゲルのこの一言を最後に、セコンドアウトとなり第二ラウンドが始まった。

 

 カァーン――

 

 心地よい鐘の音がジム内に響き渡り、再びラムリーザとソニアは戦場となるリング中央へと向かった。

 再びソニアの猛攻が始まった。ひたすら腕を振り回してラムリーザを追い詰める。全然ラムリーザは追い詰められていないけど。

 ラムリーザは、正直ゲンコツだけにも飽きてきていたので、リゲルの言うとおりにボディ狙いをやってみることにした。無論本気で打ち込めば、頭じゃなくても怪我をさせかねないので、精々半分ぐらいの力で打ち込んでみる。

 ラムリーザがガードする必要の無いソニアのボディ打ちに合わせて、アッパー気味に拳を繰り出してソニアの風船、いや胸の下を狙う。

「おぐぉっ!」

 パンチの勢いでソニアの身体が少しだけ宙に浮き、一歩後退する。

「ナイスボディ!」

 すぐに外野から、レフトールの掛け声が上がる。

「あ、痛かった?」

 少し苦悶の表情を浮かべたソニアにラムリーザは慌てて声をかけるが、ソニアは「たわぱっ!」などと謎の掛け声を上げて再びラムリーザに襲い掛かってきた。

 再びソニアのラッシュが始まる。

 まだ元気だな、ラムリーザはそう考えて、今度は先ほどよりも少し弱めに、再びソニアのボディ打ちに合わせてカウンターのボディブローをアッパー気味に胸の下へと打ち込む。

「ううんっ」

 今度は浮き上がらなかったが、ソニアは小さく呻いて二歩後退した。

「ボディ嫌がっとるでーっ」

 レフトールの嬉しそうな声援が飛ぶ。

 一方ソニア陣営のリリスから、叱責が飛んできた。

「ソニア! ちゃんとガードしなさいよ!」

「いや、風船が邪魔でラムリーザ様のパンチが見えてないのですわ」

 ユコは、冷静に状況を把握しているようだ。

「なによもう、風船おっぱいお化け!」

「まぁエルだからしょうがない」

 憤慨するリリスに、謎のフォローを入れるジャンであった。

 外野の騒ぎをソニアは気にしている余裕は無かった。知ってはいたけど、ラムリーザのパンチは重く響いていた。腹に二発食らっただけで、胃は鈍い痛みを生じていて苦しい。これを食らい続けていたら危ない。ソニアでもそこまでは理解していた。

 だからそこで、ソニアはほとんど捨て身の一撃を食らわせることを考えた。

 ソニアはまるでプロレスでもやっているかのようにロープへと走ると、その反動を利用してラムリーザに向かって駆けだした。そして右腕を大ぶりに振り上げ、思いっきり一撃を食らわせようとする。

 しかしラムリーザは、落ち着いてソニアの大振りパンチを迎え撃つ。

 その瞬間!

 着ていたブラウスのボタンが三つほど弾け飛び、胸が大きくはだけて右のおっぱいがぽろりと服からこぼれ落ちたのだ。

 今ソニアが着ていた服は、これも脅威のLカップに合わせて仕立ててもらったブラウスだが、激しく動けばそれだけ生地が引っ張られてボタンに負担はかかるものだ。

 ソニアは狙ってやったわけではないが、この攻撃はラムリーザに十分効果を発揮した。

「なっ!」

 突然の出来事にラムリーザはガードしようとした動きが途中で止まり、その結果ソニアの渾身の一撃が、無防備になった顔面を捉え後ろに吹っ飛ばされたのであった。

 ソニアのパンチはそれほど威力は無い。それでも頭部が弱点のラムリーザは、一瞬意識が飛びかけてバランスを崩しながら後退する。ふらふらと後退しながらロープにもたれ込む。そしてそのままロープを跨いで場外に落ちて倒れてしまった。

 場外で仰向けに倒れたまま、ラムリーザは呆然としていた。意識が飛びかけるのを懸命にこらえる。なんとなく記憶もあやふやだ。

「くっくっくっ、あいつも考えたな」

 大笑いしそうになるのを堪えるリゲル。その隣でレフトールはリング上のソニアを、舐めるような目つきで見つめながら満面の笑みを浮かべている。

 ソフィリータは慌ててラムリーザの側に駆け寄って様子を伺っている。

「リザ兄様! 気を確かにしてください!」

 あまり激しく動かしたら危ないので、ソフィリータは顔を近づけて呼びかけていた。

 その一方で、リリスは呆れ顔だ。

「ソニアあなたねぇ、それは無いわー」

 勝つには勝ったけど、そのやり方があまりにも――。

 何も気づいていない当の本人は、ギャラリーの前で両腕を突き上げたガッツポーズをしてどや顔だ。ただし、おっぱいこぼれたまま……。

 しかしソニアもすぐに気がついた。リング上を見つめる視線が、ある一点に集中していることを。

 ソニアはみんなの視線の先へ目を向けて、自分がとんでも無い状況に陥っていることを理解した。

 ブラウスは大きくはだけて、胸がこぼれ落ちて観衆の目に晒されていた。

 ソニアはめくれてしまったブラウスを慌てて持ち上げようとするが、手に大きなグローブをはめている為につかむことができない。

「やっ、やだっ、ラム助けてっ」

 どうしようもなくなって後ろを振り返るが、頼りの綱は先程自らの手でノックアウトさせてしまったばかりで、場外でのびている。

「ふえぇ……」

 ソニアは座り込んだまま、自分の腕で胸を隠し続けるしかなかった。

 男性陣はニヤニヤと見つめているだけだし、リリスとユコは呆れ顔で眺めている。ゴジリとソフィリータはラムリーザに付きっ切りだし、ミーシャはいつの間にか試合観戦をやめてパンチングバッグをトストス掌低打ちをやっていた。

「ふっ、ふええぇぇぇーん!」

 薄情なみんなの視線に晒されて、ソニアはとうとう泣き出してしまった。ソニアの泣き声を聞いて、ミーシャもリングの方を振り返っているようだ。

 結局動いてくれたのは、ロザリーンだけだった。ロザリーンは他の誰もが動かないので、やれやれといった表情で、リングの上に上がってきた。こういった面倒見の良いところが、クラス委員を任されている所以でもあるのだ。

「ほらソニア立って」

 ロザリーンは手を差し伸べるが、ソニアはうずくまったまま泣いている。これではどちらが勝者なのか、全然わからない。

 このままではどうしようもないので、ロザリーンはゴジリを呼んでソニアのグローブを外させようとした。しかし、ソニアはゴジリが近づくのを拒絶する。

「やだ! 近寄らないで!」

 仕方が無いので、ロザリーンはゴジリに外し方を聞いてソニアのグローブを外す。

 これでようやく、ソニアははだけた胸を隠すことができた。しかしボタンは飛んでいってしまっているので、手で押えていないとまた胸がこぼれてしまう。

「リングの上に落ちていると思うから、ボタンを探してください」

 ロザリーンはそう言うが、ソニアは両手がふさがっていて探せない。そこで、仕方無さそうにリリスとユコがリングの上に上がってきて、ソニアが飛ばしてしまった服のボタンを探し始めた。

 無論、男性陣はソニアが近寄せない。唯一近寄れるだろうラムリーザは、ようやく起き上がって座り込んでいた。

「ラムさん、おっぱいちゃんの打撃程度では意識飛ばないんだな」

 レフトールはラムリーザの側に座り込んできて言ってきた。

「そうみたいだね……、前回記憶が飛んだのは――」

「俺のハイキック」

「それ以前は、バレーボールの強烈なスパイクだったな」

 リゲルも側にやってきて座り込んだ。

「ということは、俺の蹴りぐらいの威力が無いと意識が飛ばないわけだ。それって割と普通じゃないか? あ、いや、そこまで行くと記憶まで飛ぶのか。そこがずるいよなぁ」

 レフトールはぼやいた。

 ラムリーザは頭を強打したら意識が飛ぶついでにその前後の記憶まで飛んでしまう。このためレフトールは、ラムリーザとの決着のときに頭への攻撃ができなかった。自分の怖さを見せ付けるための勝負だったのだが、やられた記憶が残らないのでは勝った意味が無い。だからボディ攻撃で勝とうとしたのだが、ラムリーザのボディの打たれ強さに打ち勝つことができずに、カウンターを食らってやられてしまったのだ。

「リザ兄様を次失神させたら、私があなたを失神させます」

 ソフィリータはぼやいているレフトールに釘を指す。

「わかったわかった、お嬢ちゃんの目がいつでも光っていることを忘れないようにするよ」

 レフトールは、肩をすくめてソフィリータの厳しい視線を受け流して見せた。

 その頃リング上ではボタンをようやく見つけたのか、ロザリーンはソニアと連れ立って隣の控え室へと消えていった。

「えーと、とんだ騒ぎになっちまったが、どうだ? もう大丈夫か?」

 ゴジリもラムリーザの所へやってきて尋ねてきた。

「うん、もう平気だね。いやぁ、ソニアがあんな攻撃してくるとは思わなかったので油断しちまったよ」

「あんなん男なら誰でも油断するって。まぁおかげでええもん見れたけどね」

 なんだか嬉しそうにそういうジャンだが、男性陣はみんなそう思っているに違いない。

「それで今日はもう終わりか? それとも誰かミット打ちやる? スパーでもいいぞ?」

「あ、それ次俺やる」

 名乗り出たのはレフトールだ。

「俺はこれまで蹴り技メインで鍛えてきたけど、ここで拳技を鍛えるのもアリだと思ってる」

「それなら私もです!」

 ソフィリータも名乗り出る。彼女も蹴り技メインで、拳技はそれほど得意ではない。

「そっちの怖そうな兄ちゃんと、領主さんの妹さんか。また体格差勝負かよ、妹さんは待ってもらって、君はどうだ?」

 ゴジリはリゲルに目をやって言ったが、リゲルはレフトールとの組手を避けた。

「それなら自分が相手をしてもいいぞ」

 名乗り出たのはユグドラシルだ。

 そういうわけで、スパーリング第二試合目はレフトール対ユグドラシルとなった。

 

 スパーリングの途中でソニアとロザリーンが戻ってきた。どうやら控え室でロザリーンはボタンの修理をしていたようだ。

「あたしラムに勝ったよ! のだまの借りを返したぜっ」

「まだ根に持っていたのかよ」

 ラムリーザは苦笑いして、ソニアの頭をなでてあげる。つい数分前は号泣したのに今はけろりとしている。この辺りの切り替えのよさは、のだまの時と一緒だ。

「まあよかったわ、意外性を見ることもできたし」

「ですわね、ここはラノベの世界だったんですの」

「なんやそれ」

 リリスとユコの発言に、首をかしげるラムリーザであった。

 とりあえず、リリスの言う意外性は達成できた。普通に戦ったのでは絶対に勝ち目の無いソニアが、女の武器を最大限に発揮してラムリーザをやっつけたのだ。そのやり方は賛否両論だろうが、勝ちは勝ちである。

 柔よく剛を制す? いや、色気よく剛を制すだろうか? どうでもいいけどね。

 そう言えば格闘ゲームの女キャラも、エロい格好をしていたりする場合が多い。それは今回みたいな作戦を狙って、普通にやったのでは勝てない大男に勝つ作戦とでも言うのだろうか? そんなわけないか? まあいいや。

 話が一段落したところで、ソフィリータはラムリーザにお願いしてきた。

「リザ兄様、このジムをフォレストピアに作ってください。私、ここに通いたいです」

「わかった、どこかにジムを作るようにしよう。流行ったら民衆の運動不足解消にも繋がりそうだからね」

 そういうわけで、ラムリーザとソニアのスパーリングや、おっぱいぽろり事件なども発生したが、こうしてパクシングジムもフォレストピアに作られることになったのである。

 
 
 
 
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©発行年-2020 フォレストピア創造記