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レコード作成相談会

 

 教室、休み時間のいつもの光景。

 ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの四人は、それぞれ座席の場所を移動して固まってきて雑談している。

 その横でラムリーザは、傍に引っ付いてきているソニアに背を預けてもたれかかり、外の景色を眺めていた。

「噛む族って知ってるかしら?」

 リリスの問いに、ソニアは「知らない」と答える。

「噛む族はね、特定の人にいつも引っ付いている人のことを言うのよ」

 リリスの説明に、ソニアはむっとした表情を浮かべる。何か思い当たりでもあるのだろうか?

「引っ付いているだけで何で噛むんですの?」

 ユコの問いにリリスはソニアの顔をがん見しながら答えた。まるでソニアに言って聞かせるように。

「その特定の人から引き離されると、噛み付きまわるの。それで噛む族っていうのよ。あまりにも噛みすぎて、周囲を唾でびしょびしょにしたりするから始末に終えない」

「何それ?! あたし噛まないよ!」

「あら? ソニアは何か心当たりでもあるのかしら?」

 リリスはくすっと笑ってソニアを挑発する。要するに、ソニアはラムリーザに引っ付いている噛む族だと言いたいわけだ。

「確かにソニアさんはいつもラムリーザさんに引っ付いていますね」

 ロザリーンも隣からソニアを眺めながらそう言ってきた。

「ふんだ、ラムに引っ付けない負け組み女共がやーいやい」

 ソニアは言い返すが、あまり攻撃力は無さそうだ。リリスやユコから、哀れみの目を向けられるだけで全然負けていない。

「ところでユコさん、また唇が荒れていますね」

 ロザリーンはユコの顔を見て気がついたようだ。しかし、ユコの唇が荒れているのは最近ではあたりまえになっていた。

「この三日間、連続でココちゃんゲットですの。残り半分をきったからペースを上げないとね」

 ココちゃんカレーで最初は五百体プレゼントからスタートした企画。まだ二百体はあるということか。

「あのぬいぐるみ、何体集めるのですか?」

 ロザリーンの問いに、ユコは「まだ十六体しか集まっていない」と答えた。

「なんでそんなにたくさん! あたしまだ九体しか無いのに! それとあれはぬいぐるみじゃなくてクッション!」

 九体でも十分多い。ラムリーザは、自分の部屋に転がっているココちゃんの数を思い出してうんざりした。すでに飾る場所も無く、ソファー周りに無造作に転がっていた。

 ソニアは「クッションは下に敷くものだから下にあっていいの」と言うが、移動するのに邪魔で仕方が無い。ベッドの上に置いたら何故かソニアは怒る、机の上に置いたらそれはそれで邪魔、ソファーに九体も並べたら座る場所が無くなる。まだ二百体も残っていることに、ラムリーザはうんざりしていた。少なくともあと十体は増えることになるだろう。

「ところで歌のレコーディング進んでいるけど、何か要望ある?」

 ここまで黙って聞いていたジャンが、リリスの隣に入ってきて話に割り込んできた。先週末のライブの時にアルバム作成が決まり、その翌日から少しずつレコーディングを進めているのだ。

「要望って、何を言ったらいいのかしら?」

「曲順とか、ジャケットの写真とかいろいろあるぞ」

「じゃあシングルのA面をあたしにして」

「この前あなたはC面に入れるって決まったでしょ?」

 これも先週末の会話そのままだ。

「シングルはミーシャは諦めてもらう。やっぱリリスとソニアの二人が年上だし、ミーシャはサブにしよう」

「じゃあどっちがA面を取るか勝負しましょう。そうねぇ、これから先におしっこした方が負けということにしましょうか。今から最後のトイレに行く。次におしっこした方が負け」

「わかった、それでいい」

 リリスの提案に、ソニアは即座にのっかかり、ジャンはあっけに取られる。ジャンはまだリリスの見た目を重視していて、その中身がソニアと同レベルの精神には結びついていないのだ。

「やめなさい」

 ソニアの奇行に慣れているラムリーザは、落ち着いてリリスの提案を却下する。リリスはせっかく解消した黒歴史を再び築き上げてどうするというのだ。

「じゃあおっぱいを揉み合って先に悲鳴あげた方が負け」

「それはやだ!」

 ソニアは自分の弱点をよく理解できるようになったようだ。

「それじゃあ僕がお題を出すからそれで勝負しなさい。数学の教科書六十四ページの三問目を先に解けた方が勝ち。はいスタート」

 ソニアとリリスは、「えー?」といった顔をしたが、すぐに教科書を出して読み始めた。時間稼ぎにはなりそうだ。

 ラムリーザはジャンの場所を移動させて、後ろのリゲルの隣へ座らせる。ロザリーンは休み時間は前の席に移動しているので空いているのだ。で、前の席に居るはずのソニアは、ラムリーザの隣に引っ付いてきている。

「えーと、二枚目シングルのA面はリリスで。一枚目がソニアだったからここは公平にね」

 ラムリーザは、ジャンにそう告げる。ソニアとリリスは勝手に話が進んでいるとは知らずに、難しい問題に悩んでいた。

「じゃあアルバムの話をしようか」

 そう言って、ジャンは手帳を取り出した。そこに録音の済んだ曲のタイトルが記録されていた。

「えーと、退屈な恋に、あっつい夏の夢物語。エロゲソングが多いな、まあユライカナンでは知られていないから普通の歌だと思われるけど、バレた時が――まぁ気にしなくてもいいか」

 それを聞いて、リゲルはニヤニヤし始めた。

「リゲル、笑っているけど君もそのグループなんだからな」

「俺は歌わないからレコードではわからん。ライブじゃなくてレコードだと、歌以外は誰がやっているかわからんからな」

 リゲルは妙に落ち着いている。確かに演奏している光景が見えないレコードだと、ボーカル以外は誰がやっても同じになるかもしれない。

「リゲルのボーカル曲もアルバムには入れるぞ。で、アルバムのA面は何にしようか」

「待て、俺は歌わんぞ」

「一番最初に披露した曲でいいよ。カラーに口付けだったかな」

「あれね、リリスが歌ったやつか、了解」

 リゲルの反論をスルーして、ラムリーザとジャンは相談を進めていた。

「A面一番がリリスだから、B面一番はソニア。あの騒がしいルシアでいいかな」

「ラムリーザのオリジナルは無いのかね?」

 ジャンの問いにラムリーザは、「ロケットの歌とか?」と言いかけたが、すぐに「いや、オリジナルは無い」と訂正した。

「まあいいや、一人一曲は入れるからリゲルもあのミーシャがクルクル踊る歌入れるからな」

「勝手にしろ」

 リゲルはそれだけ言うと、読んでいた雑誌へと目を落としてラムリーザとジャンの会話から離れていった。

「でもいいのかなぁ、そんなに好き勝手にレコード出して」

「別にオーディション通った正規のバンドじゃないし、俺が勝手に売り込んでいるだけだから気にしなくていいさ。自費出版ってのが本にあるだろ? 俺の自費レコードだよ」

「それにしてはユライカナンで売れすぎなんだよなぁ」

「ネームバリューで売れているようなもの。さて、曲順を決めるぞ、何か良い案ある?」

「ソニアとリリスを目立つように配置したら、後は歌っている人の名前順でもいいよ。それにしてもグループ全員の歌を入れたら、なんかヒットソング集みたいだね」

 二人がそんな会話をしていると、ラムリーザの隣に居るソニアがラムリーザの方を振り返って言ってきた。

「問題解けたよ! あたしの勝ち!」

「待て、答え合わせが先だ。何々? A、Bは整数とする。A+B、Aのそれぞれが3の倍数ならばBは3の倍数であることを証明せよだって?」

 ラムリーザは、適当に言った問題だったので、内容までは把握していなかった。

 ソニアの提出した答えは、「A+B=Cとなる。Cも3の倍数になるはずだから、Aは3の倍数である」と書いていた。

 どこからCが出てきた? それと「はず」って何だ? Bが3の倍数であることを証明するはずなのに、何故Aが3の倍数であることを示すだけで終わっているのか?

「深く考えずに見ただけで間違っているのがわかる。ソニア失格」

「ふえぇ……」

 元々リリスの歌をA面にするつもりだから、特にこの勝負に意味は無い。今回も試験勉強が大変だ、と思うラムリーザであった。

「お乳に栄養が偏りすぎているからそんな問題も解けないのよ」

 くすりと笑いながら、今度はリリスが答案をラムリーザの所に差し出してきた。

「ロザリーンに見てもらったほうがよいと思うけど――」

 そう言いながらもラムリーザはリリスの答案に目をやった。

 リリスの提出した答えは、「A+B=虚数になるので、Bが3の倍数になるわけがない。よって、解なし」と書かれていた。

「……虚数って知ってる?」

「さっきの授業で聞いた。二乗したらマイナスになるってありえない数字って、なんだか神秘的だと思わないかしら?」

 聞いたのか、聞こえていたのかは不明だが、たぶん後者だ。それに神秘的かどうかもこの場合関係ない。誘うような微笑を浮かべて「思わないかしら?」と同意を求められても困る。虚数って言葉を使いたかっただけだろう。

「で、解なしって?」

「虚数は3の倍数じゃないよね?」

「…………」

 そもそも、A+B=虚数の地点で成り立っていない。

 二人とも共通するのは、勝手にCだの虚数だの新しいものを盛り込んで、その結果とんちんかんな答えになっているだけだ。

「深く考えずに見ただけで間違っているのがわかる。リリス失格」

 ラムリーザは、二人とも失格にしてやった。

「リリスはちっぱいなくせに乳にも脳にも栄養が行ってない」

「あなたの答えより、私の答えのほうが響きがかっこよいから私の勝ち」

「何よ! 解なしって言って答えを求めるのを放棄しているだけじゃないの! どんな困難な状況でも答えを導くのが正義ってもの! 吸血鬼は悪だから答えにたどり着けない!」

「Bが3の倍数であることを証明するはずなのに、Aがどうのこうの言ってるあなたにも正義は無いわ」

「答えにたどり着いている分リリスよりマシ!」

「でも間違っているじゃないの?」

「そっちも間違っている!」

「あーもーうるさいっ。二枚目のシングルは、A面にデビューの時最初にリリスが歌ったカラーに口付け、B面にソニアの歌うルシアで決まっている、この話おしまいっ」

 ラムリーザは、二人の口論を遮って選曲を発表して話を終わらせ――られなかった。

「待って、学校でやったプレデビューの時リリス歌えないであたしが歌ったから、A面のそれもあたしが歌う!」

「嫌な事覚えているわね……」

 視線恐怖症のリリスを特訓するために、帝都へ出かけたことが懐かしい。丁度一年前の今頃の出来事であった。

 その時、休み時間の終わりを告げる鐘の音が響いてきた。時間稼ぎが功を奏して、二人の口論は短い時間で終わらせることができたのだ。数学の問題は解けなかったが、口喧嘩の問題は解けたようなものであった。

 こうなると、喧嘩は一時中断。みんな自分の席位置へと戻っていき、平穏が戻ってきた。

 

 次の授業は化学の時間。

 ブタノールは原料としてブタジエンという素材を製造することができるが、ブタノールには他の用途もあるそうだ。

 そのブタノールに、エンコブタ――一般的にヘンコブタと呼ばれている方が有名――という生き物を一晩漬けておくと、エンコエキス(ヘンコエキス)が溶け出してブタノールはブタガエンという素材に変わるというのだ。

 ブタガエンの特色は無色透明な液体だが、一滴垂らすとその衝撃で「エンッ」と音がするらしい。ニトログリセリンが一滴で爆発するように、ブタガエンは一滴で不思議な音がするということだ。

 その不思議な生き物ヘンコブタは、主にフォレストピアとポッターズ・ブラフの間に連なるアンテロック山脈にある、ヘンカラ峠に生息しているという噂だった。ヘンカラ峠のヘンコブタ、ヘンカラ峠は別名エンカラ峠とも呼ばれ、エンカラ峠のエンコブタ。そんな感じに言い伝えられている事柄であった。

 ただし、ブタガエンの有効利用方法は、今の所見い出されていなかったりする。一滴垂らせば「エンッ」、垂らし続ければ「エーン」と音がするだけの物に、どういった価値や意味があるのか? ただ、不思議な現象に興味が持たれているだけであった。

 ヘンコブタについては、後日騒動の種となるのだが、この時のラムリーザには未来が分かる術はなかったのである。

 この時ラムリーザの頭の中は、次の休みはユライカナンでのライブか、といった考えでいっぱいだったりした。
 
 
 
 
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