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TRPG第七弾「髑髏仮面の秘密」 前編
- 公開日:2020年10月25日
昨日の夜――
「よし、できた」
ラムリーザは、三枚の用紙を折りたたみ、自分の鞄の中へ入れた。
「どんな話なの?」
ソニアが尋ねてくるが、「その日が来たときのお楽しみ」という風にあしらって、この日は終わった。
空けて翌日の放課後。もう部活動としての体をなしていない部室にて――
この日は一年生は体育館で集会、ジャンは店の仕事で既に下校、レフトールは子分を率いて繁華街へ繰り出していた。というわけで、部室に集まったメンバーは、去年と同じメンバーであるラムリーザ、リゲル、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの六名。
今ではもうほとんどない、このような集まりとなった日には、やることを決めていた。そして今日は、ラムリーザが主催することになっていたのだ。
「ラムリーザ様、シナリオはできていますの?」
ユコの問いに、ラムリーザは「もちろん」と答えた。そう、こんな日はテーブルトークゲームで遊ぶ日。そして今日は、ラムリーザが初めてゲームマスターをやる日になっていた。
「ラムが居ない冒険なんてつまんない」
ソニアはそうぼやくが、ラムリーザは「大丈夫、出てくるよ」と言ってあげた。
「自分のキャラクターも出して、物語を進めやすくするのだな? まぁそれは正しい判断かもしれん、こいつらだからな、ふふっ」
リゲルの言うこいつらは、ソニアリリスの前衛コンビだ。ユコの物語をどれだけ脱線させてきたことか。
「それじゃあ始めるよ」
「あ、待ってください。皆さんにキャラクターシート配りますわ」
テーブルトークゲームに初めて触れた時、本人達の能力を参照にして作り上げたキャラクターのデータはユコが管理していた。いつもの紙を全員に配り、いよいよラムリーザがゲームマスターをする冒険が始まった。
「うららかな、良い天気の昼間にみなさんは。酒場で、今までの冒険の話に華を咲かせています」
「冒険の話、ラムリーザとカノコはうまくいっているかしらね」
「上手くいってない! リリスとクリボーの狂ったような恋仲が進展しているだけ!」
ソニアとリリスのやり取り、これは予定調和。これに反応をしてしまったら負けだ。
「酒場はもちろん『魅惑の壷』ですのね?」
「ん、そこでいいよ」
ユコは酒場の場所指定をしてくる。リリスとの思い出の地を物語りに登場させるという考えは譲れないのだろう。
「サーカス団はあれ以来、来ていないみたいですね」
雑談か独り言か計りかねる、ロザリーンの微妙なつぶやき。
「お前はこの場所に居るのか?」
リゲルの問いには、「居ないよ」と答えておいた。
「マスター注文、ナリオカレーのふりかけ和え」
「そんなものは、ない」
毅然と答えるラムリーザに、むすっとするソニア。そこにリリスも反撃を仕掛けてくる。
「幸せ一杯お腹一杯おっぱいも一杯カレーをお願いするわ」
「そんなものは聞いたことが、ない」
ラムリーザは、ことさら「ない」を強調して返答しておく。
「ああそうだ、給仕はラニーニャということにしておくよ。確かまだ設定されてなかったよね?」
「どうせ魅惑の壷のバイトですから、状況に応じて入れ替わったということにしていて良いですの」
ユコの了承を得て、ラムリーザは酒場の給仕を登場させてきた。
「お待ちどうさまぁ、ご注文のココちゃんカレーなの~。これを食べたらココちゃん一体没収なの~」
「そんな物要らないですの!」
「気色悪い妙な口調でしゃべるな」
ユコとリゲルにダブルで攻撃を食らい、「ぐぬぬ」となるラムリーザ。
「それじゃあたしはラム酒とラムネ」
意味も無く酒と清涼飲料水を同時に注文するソニア。組み合わせもよく分からない。「ラム」繋がりか?
「それじゃあ私はラムステーキを注文しましょうか」
ロザリーンも珍しく乗ってきて、「ラム」が増えてきた。
「では私はラムリーザを指名するわ」
「魅惑の壷はホストクラブだったのな」
「ダメですの!」
リリスの余計な挑発にラムリーザは反応し、すぐさまユコが否定してくる。
「あ、いかん。雑談ばかり進んでいる。えっとね、マスターがラニーニャに言いました。さっき頼んだ買い物はどうなっておるのだ? と」
「リリスが横領した」
ラムリーザは話を進めるが、ソニアがまたリリスを攻撃する。すると当然リリスも反撃してくる。
「ラニーニャはこう言ったわ。風船饅頭買ってきました」
「そんなものは、ない! ラニーニャは買い物に出かけました」
リリスに再び毅然とした態度で余計な一言をばっさりと切り落として、今度は台詞も無く給仕を動かした。どうせ台詞付きだとリゲルが茶々を入れてくる。そこは学習しながら進めていくのが、有能なゲームマスターなのだ――などとラムリーザは考えながら、物語を動かしていく。
「マスター、リリスが吸血衝動を抑えられないみたいだから、生き血を一杯お願いします!」
「ソニアの風船がしぼみかけているので、膨らませるために空気入れを注文するわ」
「――っと、会話が続いていると、ラニーニャが勢い良く、扉を開けて帰ってきます」
ラムリーザは、完全に二人の論争をスルーしてしまった。「外野うるさい」と反応すると調子に乗るのが分かっているので、この判断は正しい。
「ラニーニャさんがどうしましたか?」
物語進行においては良識派のロザリーンがすぐに反応してくれる。ソニアとリリスを無視しても、ロザリーンさえ居てくれたら物語りは進む。これまでのプレイから、ラムリーザはそんなところをしっかりと学習していた。
「ラニーニャは、大変なの~っほん! 慌てたように、ラムリーザさんが広場で大暴れしていると言ってきました」
「また変な口調で語りかけただろう?」
「うるささ」
リゲルの突っ込みを、言葉短く返しておく。
「カノコと痴話喧嘩?」
「それは、ない。そしてラニーニャは、何かいつもとチョット感じが違いましたと言います」
「レフトールならともかく、お前はいつも暴れていないだろ?」
「うるささ」
リリスやリゲルの突っ込みや余計な一言をかいくぐりながら、ラムリーザはなんとか話を進める。リゲルの中ではレフトールはいつも暴れているらしい。
「それではシャーマン技能を持った私が、狂気の精霊を鎮めてきますの」
「それはどちらかと言えば、プリーストである私の領分でしょう」
「大暴れしているラムリーザという物も興味深いので、観察しに行くか」
それぞれの理由で広場に向かうユコとロザリーンとリゲル。
「狂ってるラムでも、話せばわかってくれるよっ」
「行きましょうか」
根拠の無い自信を見せるソニアと、特に何も感想を述べることの無いリリスも移動をしたようだ。順調に話は進んでいる。
「それでは広場に移動しました。広場では、逃げまどう人々で大騒動が始まっています」
「ラムリーザもソニアでは物足りないから欲求不満なのよね……」
「うわ~、助けて~、市民は逃げ惑っています」
リリスのつぶやきは無視して、ラムリーザは若干棒読み気味に広場の騒ぎを表現してみせた。
「ラムに加勢して広場で暴れる」
「ラムリーザに近づいたソニアは、首筋を掴まれて投げ飛ばされた」
「なんでよ!」
冷たく突き放すラムリーザと、憤慨するソニア。それを聞いてユコは、「ドメスティックバイオレンス」とつぶやいた。
「もういい! 市民の胸ぐらを掴んで何が起きてるのよ! と、問い詰める」
怒ったソニアは少々乱暴な手段に出るが、物語の進行上問題ない。
「さすが生まれが蛮族ね」
「うるさい悪党!」
しかしすぐにリリスと口論になってしまう。
「ソニアに掴まれた市民は、巻き込まれたら命が危ないぞ、と言ってきました」
「でもラムリーザ様はそんな暴れるような人じゃないと思いますわ。何かおかしくありません?」
「機嫌でも悪いのだろう」
ユコはラムリーザを庇うが、リゲルは若干茶化し気味だ。
「ソーサラーが魔力を暴走させているならともかく、ただ暴れているだけなら大した事無いような気もしますが」
「筋力はシステム上最高値だぞ」
ロザリーンは楽観視するが、それをリゲルがたしなめる。そう、このゲームの世界でのラムリーザは、筋力最高値のソーサラーというよく分からないキャラであった。
「市民は、いきなり倒れたかと思うと急に暴れ出したんです、と説明してくれました」
「ラムの傍に駆け寄って、ラム正気に戻って! と説得する」
「ラムリーザは、じっとソニアの方を見つめている」
「あたしを思い出して!」
「残念ながらこの世界ではラムリーザの恋人はカノコだから」
折角ソニアが演技しているのに、リリスは要らんことを言って水を差す。
「こほん、そこでセージ技能で知力ロールしてください」
ソニアは、リリスを睨みつけながらダイスを転がした。しかし残念ながらセージ技能を取得していないソニアは、ダイスの目だけで勝負だ。続いて他のメンバーもダイスを転がした。
「う~ん、その目だといつものラムリーザとの違いは分からないねぇ」
「とりあえずリゲルさんとユコさんは、市民の避難を手伝って。ソニアさんはラムリーザさんを説得、リリスさんはその援護。私は怪我人の治療をします」
なんだかリーダーのように、てきぱきとメンバーに指示を飛ばすロザリーン。そういえば、ゲームの中でのグループでは、誰がリーダーなのだろうね。
「ラムリーザは、ガ……ググ……と唸りながら、ソニアににじり寄ってきます」
「武器持ってるの?」
ソニアの問いに、「武器は持っていません」と答えた。
「素手でもラムリーザ様はゴム鞠破裂させますわ」
「握力103kgだったからな」
「ソニアのおっぱいは103cm」
ユコとリゲルはラムリーザの怖さを理解していて、相変わらず要らん事しか言わないリリス。
「ラムリーザは咆哮を上げてソニアにつかみかかってきたよ、さあ回避ロールして」
ソニアは言われるままにダイスを転がした。ラムリーザの攻撃はうまく回避したようだ。
「でもラムリーザとソニアが戦って、勝負になるのかしら?」
「現実世界ならいざ知らず、この世界はファンタジーですの」
「でもバクシングではソニアさんが勝ちましたよ」
他のメンバーはと言えば、ラムリーザとソニアの戦いを傍観しながら雑談をしていた。
「あたしがラムを抑えるから、みんな原因を調べて!」
妙にソニアが盛り上がっている。やはりラムリーザとの掛け合いを楽しんでいるのだろうか。
「じゃあ私が周囲の人に聞き込みをしますわ。誰か暴れだしたきっかけを知っている人は居ませんですの?」
「市民は、ちょっと、前まではいつも道理だったんだがいきなり倒れたかと思うと暴れだして、そういえば、倒れる前に頭を抱えてたね。苦しそうに……」
「倒れたら暴れだしたの……」
「あ、すごく言い忘れていたけど、広場で暴れているラムリーザはおかしな仮面を身につけています」
「こら、先に言え。それだと話が違ってくるだろ」
「すまん、忘れてた」
「まぁラムリーザ様も初めてのゲームマスターだから慣れていないところはありますの。ここは多めに見てあげますの。それで、どんな仮面ですの?」
「えーと、髑髏の形を模ったような仮面、ということにしておこうか」
「髑髏仮面ですのね」
リゲルに責められたが、ユコに庇ってもらえてラムリーザはホッとして話を進めることにした。
「どんどん攻撃してくるから、ソニアは対応してね」
「ソニアだけ遊んでいるみたいだから、私も加勢するわ」
このパーティの前衛は二人、リリスもソニアに加わってラムリーザの暴走を食い止めにかかった。
「魔法で操られていないか? センスマジックかけてみろ、ソーサラーは――、お前かよ!」
なんだかリゲルは一人でボケツッコミみたいなことをしているので、代わりにロザリーンが対応することにした。
「では私がサニティをかけてみます。ソニアさんとリリスさんに気をとられている間に、素早く接触してかけます」
「プリースト技能で知力ロールよろしく。あ、詠唱してね」
「詠唱ですか……、竜の神よ、この男の心の嵐を静めたまえ。こんな感じですか?」
「なんかかっこいいね。でもその目だと……え~と……、一瞬、動きは止まりますが直に元に戻ります」
「ダメですか……」
「やっぱり仮面が怪しいですの。仮面を取っちゃいましょう」
ユコの提案で、次の作戦に移る事になったようだ。
「よし、お前ら四人でラムリーザを捕まえろ。その隙に俺がこのクロスボウで仮面を撃ち落してやる」
「外したら承知しないからね!」
リゲルの提案にソニアはかみつく。しかし、これが一番手っ取り早い解決方法だとは理解できたようで、すぐに行動に出た。
「あたしがラムの右腕にしがみつきます」
「それじゃあ私は左腕にしがみつくわ」
「それでは私は右足にしがみつきますの」
「では私は空いている左足に」
こうしてソニア、リリス、ユコ、ロザリーンの四人は、ラムリーザにしがみついてその動きを止めた。身動きの取れないラムリーザに、リゲルはクロスボウを構え――
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