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同衾の夜

 

 マトゥール島最初の夜がやってきた。別に太鼓の音がどこからとも無く響いてくることはない。ラムリーザ達が宿泊しているコテージは海岸沿いにあり、聞こえるのは波の音ぐらいだ。

 夕食後、ラムリーザは自室に戻り、窓際のリクライニングチェアに座ってくつろぎ、改めて同居人を見つめた。そこであることに気がつく。

「これってさ、修学旅行の時と同じ組み合わせだね」

「だから俺の言った部屋割りにすればよかったのに」

 ラムリーザの一言に、ジャンも同意してきた。しかしリゲルは気にしない。

「これが無難な分け方だ。お前らはラムズハーレムだのジャンズハーレムだの作りたがるから男女入り乱れる方が良かったのかもしれないけどな」

「リゲルもハーレムを現在進行形で作ってるけどね」

「俺はリリス一筋だー。ハーレム作ってねー」

 しかし、どうも男女関係ではいまいちキレの無いリゲルであった。

 さて、長い島でのキャンプ生活、三人は計画を話し合おうということになった。明日は何をするか? その先はどうするか? などと。

 しばらくは海岸での遊びに興じていられるかもしれないが、そのうちマンネリ化して飽きてしまうだろう。その時にどうするか? ということについて話し合った。

「島に車あるのかな?」

「あるよ」

「それなら一度、島を一周してみよう」

 これはジャンの案だ。マトゥール島がどのぐらいの大きさかわからないので、一度ぐるりと海岸沿いに回ってみようということだ。

「繁華街とかあるのか?」

「たぶんあったかな? いや、島の町自体それほど規模が大きいものじゃないけど、どうだろうか?」

「町があるならそこに行くのもありだ」

 リゲルは島の町巡りを提案してくる。と言っても田舎町よりもさらに田舎にしたようなものだから、町に十分楽しめる場所があるのかどうかはわからない。これまでにラムリーザは島には何度か来た事はあるが、バカンス目的で町に行ったことは無かった。

 

 しばらくいろいろと話し合っていたが、そろそろ寝る時間となったので話を切り上げてベッドに入った。

「またソニアが来るだろうなぁ……」

 ラムリーザは小さくつぶやいた。

「そういえば修学旅行の夜、あいつ泊まりに来たな」

 ジャンはその時の事を覚えていた。

「それだけじゃないぞ、あいつは俺の別荘でのキャンプの時にも来た」

 さらにリゲルは、去年の事も覚えていた。ラムリーザしか知らない事実は、運転免許を取るための合宿の時にも、ソニアはラムリーザの所へ来たということだった。

「さすが毎日一緒に寝ているだけはある」

 ジャンはラムリーザをからかってきたので、ラムリーザは「もしもソニアが泊まりに来たら、僕はソニアと二人で別のコテージを使うよ」と言っておいた。

「好きにしろ」とリゲルが言い、ジャンは「それではおやすみ」と言った後黙り込んだ。

 波の音だけが聞こえる宵闇。時折風の吹く音が聞こえる以外、何も聞こえない静寂。

 ラムリーザはソニアが来るのかどうかが気になって、なかなか寝付けないでいた。もし来たときに寝ていたら、ソニアは探して回るだろう。それだけとリゲルやジャンに迷惑をかけてしまう。来るなら早く来い、そう考えていた。

 しばらく静寂が続いた後――

 

 コテージの外に、誰かが近づいてくる音が聞こえた。

 

 入り口のドアの外で足音が止まり、ガチャリと音を立てて開く。そして誰かが入ってきた。

「僕ならここ――」

 ラムリーザはそう言いかけて、ふいに口をつぐんだ。

 ドアの外から入ってくる月明かりに照らされたそのシルエット。その人影には、胸に『風船』がついていなかった。ソニアじゃない――?!

 ラムリーザに一瞬緊張が走った。こいつ誰だ?

「リゲルおにーやんどこ? ミーシャ、リゲルと一緒に寝たいなぁ」

 ラムリーザは、隣でリゲルの息を呑む音を聞いた。そして、この展開は予想していなかった。

 以前リゲルは、ソニアに対して見ていると腹が立ってくると漏らした事があった。それは、こういったところがミーシャの行動原理がソニアそっくりで、見ていると思い出してしまっていたからなのかもしれない。

「リゲルも隅に置けないねぇ」

「いや待て、ミーシャお前どういうことだ!」

 ジャンがからかってくるので、リゲルはミーシャに対して毅然とした態度を示す。

「あっ、リゲルおにーやんそこだ」

 ミーシャの声がしたかと思うと、暗闇の中リゲルのベッドの辺りでゴソゴソと音がし始めた。

「こらっ、ミーシャやめんか」

「なーに? ミーシャね、いつかリゲルおにーやんと一緒に寝ること夢見てた」

 リゲルが何も答えなかったので、ラムリーザは半分真面目に、半分からかいの気持ちを込めて言ってあげた。

「どうだリゲル、女の子と一緒に寝るのは格別な物だろう?」

「黙れ」

 リゲルは短く答えるが、声から明らかに同様が感じ取れる。

「リゲルー、ミーシャをもっと抱き寄せてぇ~。あん、そこくすぐったい」

 ラムリーザはこれがリゲルか、とニヤニヤが止まらず、逆にジャンはイライラ。

「まぁリゲル、夏の思い出を作ってみよう」

「黙れと言っておる」

 とその瞬間、再び部屋のドアが開いた。

 今度は背後から差し込む月明かりの影が示す、二つの大きな風船のシルエット。

「あ、ソニア。僕はここ」

 今度はラムリーザの想定どおりにソニアがやってきた。風船の影は、すぐにラムリーザのベッドにもぐりこんできた。

「やってらんね! 俺リリスの所に行こ!」

 この状況に我慢できないジャンは、そのまま部屋から出て行ってしまったのである。

 結局の所、最初にジャンが提案したような組み合わせが発生してしまったわけだ。ラムリーザはジャンに悪い事をしたなと思いつつ、いかなる場合でもやってくるソニアを可愛らしく感じてしまうのだった。

 

 静寂のなか、二人の寝息だけが聞こえる。ソニアとミーシャ、それぞれ愛するもののベッドに潜り込んですぐに寝付いてしまったようだ。まるで子供だ、まだ子供だけど。波の音が、先ほどよりも大きくなったようだ。

 そのまま何も起きずに時間だけが過ぎていくかに思われた。ラムリーザは波の音を聞きながら、まるで海の中に沈んでいくような感じを、この暗闇の中で感じていた。

「おいラムリーザ、起きているか?」

 静寂はリゲルの一言で唐突に終わりを告げた。

「何ぞ?」

 途端にラムリーザは深海から引き上げられたかのような錯覚に捕らわれた。

「そのエル饅頭は起きているか?」

「んや、寝てるよ。――ってエル饅頭って何だよ?」

「Lサイズの饅頭。いや、そんなことはどうでもいい」

 少しの間だけ間が開いて、リゲルはラムリーザに尋ねてきた。

「お前は毎晩こういうのを味わっているのか?」

 それは恋人とベッドを共にするということである。

「うん、如何なる時もソニアと仲良く一緒に暮らす。これに勝る幸福はどこにも無いよ」

「幸福か、なるほどそういう考えもあるわけだな。確かに幸福と言える」

「それに僕は、ソニアを幸せにしてやりたいと思っているからね。それが人生の目標の一つでもある。僕がどんなに大成しようと、ソニアが不幸なら僕の人生は失敗だ」

「俺もミーシャを幸せにしてやりたい」

 リゲルの声は、これまで馴染んだ冷たさは無かった。ミーシャが来てから――、いや戻ってきてからリゲルは変わった。いや、これが本来のリゲルだったのだろう。

「そうすればいいさ、ミーシャは良い子だよ」

 だからラムリーザも、安心して応援できる。しかし――

「だが親が邪魔をする……」

 リゲルの両親は、リゲルがどこぞの平民の娘と付き合うことを良しとしていなかった。そのために、リゲルとミーシャを引き離すためにミーシャの家庭を帝都へ栄転の名目で飛ばしたりしていたのだ。しかしミーシャは、高校から学生寮があるということをサーチし、それを利用して単身戻ってきてしまったのだ。

 ラムリーザにとっては、言うことを聞かないソニアを懲らしめるための左遷先と脅している桃栗の里、しかしミーシャにとってはリゲルに近づくための拠点になっている。

 おそらくリゲルは、ミーシャが戻ってきていること、時々会っている事を親には隠しているのだろう。

「親は俺にロザリーンと付き合うことを良しとしている。だが俺はミーシャを捨てられない」

「ロザリーンは親が決めた相手? 違うだろ、リゲル自身が決めたことじゃないか?」

「くっ……」

 去年のリゲルは、まさかミーシャが戻ってくるとは想像もしていなかった。だからラムリーザの勧めたロザリーンを受け入れてきたのだ。そのうちリゲルもロザリーンと付き合うことを良しと思い始めていた。そこにミーシャが戻ってきて、過去と現在の狭間に悩まされることとなってしまったのは周知の事実。

「でもミーシャが戻ってきてしまったのなら、ロザリーンと付き合うのはやめちゃうのかぁ」

 ラムリーザはそうつぶやくが、リゲルがロザリーンとミーシヤを二股状態で付き合い続けているのも周知の事実となっていた。

 ロザリーンはあまり強く咎めてこないし、ミーシャもなんだか受け入れている。何がラムズハーレムだ、リゲルズハーレムじゃないか。

「隣の国ユライカナンの文化にはな――」

 リゲルは淡々と語り始めた。

「正室と側室という制度があるらしいのだ」

「何だそれは?」

「正室は正式な妻、そして側室は公的に認められた側妻や妾にあたる女のことだ」

「へー、そんな仕組みがあるんだね」

「なぁ、フォレストピアって、ユライカナンの文化交流や文化を取り入れてみたりする町だよな?」

「うん、そういうことになっているよ」

「じゃあお前、正室と側室を作ってその制度も取り入れてみろ」

 突然リゲルは、口調が早口っぽくなってきた。明らかに感情が上ずっている。

「な? 取り入れるってどうやって?」

「ソニアを正室にしてかまわんから、側室も作れ」

「いや、リゲルに命令されなくてもソニアを正室――、いや妻にすることは決めているよ。けど側室って――?」

「俺はロザリーンもミーシャも捨てない。ロザリーンを親も認め正室にするが、ミーシャも側室として手元に置いておく。だから領主であるお前が率先してこの制度を実践するのだ。ソニア以外誰でもいいから側室――、妾を作れ。そういえば皇帝陛下にとっては寵姫と呼ばれているな。お前も寵姫を作れ」

 ラムリーザは、リゲルのこの意見に違和感を感じていた。

「ちょっと待って、誰でもいいからってのはよくないと思う。それなりに付き合いが無ければ僕はできないよ。心なり家なり……」

「あいつが居るじゃないか、ケルムを側室にしろ」

「そ、それは嫌だ……。それに彼女の性格や家柄からして、正室だっけ? そっちを求めてくるに決まっているし向こうも納得しないはず。僕はあくまでソニアが一番だよ、それ以外は考えられない。だがそれでも――」

 そこでラムリーザは口をつぐんだ。

 ロザリーンをリゲルに勧めたのはラムリーザ自身だ。そこの所を含んでリゲルのことも考えてあげなければと思ったりしているのだった。

 しばらく沈黙が続いた後、リゲルはふと思いついたかのように言うのだった。

「よし、ラムリーザの側室――妾をいろいろと考えてやる。こうなったらラムズハーレムを事実上のものとして世間に認めさせてやろう」

「無茶はするなよ、それに僕が嫌だと言えばそれで終わりだということもお忘れなく」

「なぁに、領主ともなれば縁談はいくらでも入ってくる。望もうが望むまいが、周りから勝手にな」

 ラムリーザはリゲルの言葉にすこし引っかかるところを感じながら、ソニアを抱き寄せると再び眠りの海へと沈んでいった。

 

 一方問題はジャンである。

 ジャンはラムリーザとリゲルの部屋から抜け出すと、そのままリリスが居る部屋へと向かっていったのだ。そしてソニアの居たベッドが空いているので、そこを使おうとするのであった。リリスと一緒りベッドにもぐりこまないのは、同部屋のユコに配慮してか?

「なんでソニアとジャンさんがチェンジですの?」

「どうせあの風船はラムリーザの所に行ったのよ」

 いろいろ分かっているリリスであった。

「明日部屋割りを再度やるからね。今の部屋割りを決めた奴ですら同衾する状況、これはいかんな」

 ジャンの言うとおり、この部屋割りを決めたリゲルもミーシャと一緒になってしまった。いっそ部屋割りなどせずに、勝手に分かれろでよいのではないか?

 とにかく初日の夜からこれである。こうして、マトゥール島での一日目の夜が過ぎていった。
 
 
 
 
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