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すいかわり

 

 マトゥール島での二日目のキャンプ生活。昼食後はラムリアースの持ってきたスイカをデザートに頂こうという話になった。朝のうちから近くを流れる小さな川に沈めてあったそうで、いい具合に冷えているようだ。

 ロザリーンが早速切り分けようとしたところ、ジャンの提案でスイカ割りをしようということになった。

 スイカ割りとは簡単なゲームで、地面に置いたスイカを目隠しした状態で探し当てて棒で叩いて割る。ただそれだけのルールであった。

 割れた際にスイカに砂が付着しないようシートを敷き、棒は海岸に落ちていた手ごろな大きさのものを拾ってきて準備は完了した。

 一番手は、棒を拾ってきたソニアのようだ。拾ってきてから棒を手放そうとしない。

「スイカが三つに増えたわ!」

 リリスが驚いたような声をあげる。「何で?」と答える皆に、リリスは怪しげな笑みを浮かべて答えた。

「Lサイズのスイカが砂浜に一つ、ソニアの胸に二つ」

「だまれちっぱい!」

 ソニアは棒を振り上げてリリスに襲い掛かる。

「こらっ、狙うのはスイカだ。その前に目隠ししろ」

「やだっ! リリスの頭割りに変更する!」

 しかしリリスは逃げ出し、ソニアはラムリーザに後ろから抱えられて、騒動は終結した。

 改めて競技開始。なんだか不機嫌なソニアに目隠しをして、スイカへと向かわせる。

「もうちょっと右、そこを前進」

 ラムリーザの指示で、ソニアはそろそろと動き出す。

「よし、そこで振り下ろす」

「スイカおっぱいお化け」

 ラムリーザの指示にかぶさるように、リリスは再び要らん事を言ってきた。その一言に動揺したソニアは、手元が大きくぶれて空振りに終わってしまったのであった。

 二番手はミーシャが主張してきた。どうも先陣ソニア、二番手ミーシャの組み合わせが多い気がする。

「ミーシャね、心眼を会得しているから目隠しされても意味が無いよ」

 などと言っているが、本当のことかどうかはさておき、同じように目隠ししてスタートラインに立った。

「俺が指示する」

 指示役もラムリーザに代わり、リゲルとなった。先ほどと同じように指示を出し、ミーシャをうまくコントロールしている。

「そこだ。いや、半歩下がれ」

 ミーシャのリーチと棒の長さを考慮して、微調整など入れている。そして場所が決定して、ミーシャは勢い良く棒を振り下ろした。

「えいっ」

 ポコン。

 やけに軽い音が響いた。

 ミーシャの振り下ろした棒は、確かにスイカに命中した。しかしスイカは何事もなかったかのようにそこに鎮座していた。

 リゲルもこれには「むむ……」と唸るしかない。指示も行動も的確だったが、あまりにも非力すぎた。

「貧弱なんだよ、媚々ちゃんは」

 目隠しを外して割れていないスイカを不思議そうに見つめるミーシャから、レフトールは棒を奪って三番手に名乗り出たのだった。

「こんなの蹴っ飛ばしてやんよ」

「蹴るな、その前に目隠ししろ」

 引き続きリゲルが指示を出す。しかしレフトールは、リゲルの指示通りに上手く動けない。あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、威勢だけはよかったが目隠しをした状態での平衡感覚は苦手なようだった。

 それでもなんとかスイカの傍まで誘導でき、リゲルは「そこで振り下ろせ」と言った。

「うりやぁぁ!」

 バキッ!

 やたらと乾いた音が響き渡った。

 見事に真っ二つに割れていた。棒が。

「おしいな、少しずれていたね」

「力だけは十分だったけど、まっすぐに振り下ろせなかったから地面を叩いたんだ」

「ミーシャとレフトールを足して二で割ったら丁度いいのにな」

「混ぜるな気色悪い」

 リゲルは、ミーシャにレフトールの要素が混じる事を拒んできた。

「そうよ、混ぜたから役立たずになるから。シスターととうぞくを混ぜたまじょは役立たず」

 何故かリリスの方を見ながら、謎理論を繰り出してくるソニア。

 そこにラムリアースは、倉庫から棍棒を持ってきた。

「これなら失敗しても折れることは無いと思う。だけど手首を傷めるかもしれないからほどほどにな」

「棍棒ね、最初に選ぶ武器としては妥当なところね」

 リリスはゲームの話をしているのだろうか?

「リリスは竹竿を選んだらいいのよ」

「ダメよ、棍棒なら一撃で倒せるかもしれないけど、竹竿だと一撃無理だわ」

「リリスは初期のちから4、すばやさ4、でもHPとMPの伸びが悪い」

「ソニアは初期のちからとすばやさが3しかないひ弱。伸びも悪いから弱いわ、くすっ」

「でもあたしは最終的にHPとMPが200超える!」

「私はあなたよりちからとすばやさが15ぐらい多くなるわ」

 ソニアとリリスの間で、二人にしか通用しない問答が繰り広げられていた。

 その間に次はロザリーンが挑戦していた。リゲルの指示で動いている。これで終わりかな?

 しかしロザリーンの振り下ろした棒は、スイカの側面を少しだけ削って転がしただけだった。

「おしいな、あと10cm左に寄ってたらクリアだったのに」

 ロザリーンの次は、マックスウェルの挑戦となった。

「よし、マックなら俺が指示してやる。まずは前進!」

 指示を送っているのはレフトール。上手く行くのだろうか?

 マックスウェルは、レフトールの指示でのそのそと動く。

「三歩前に――」

 レフトールにしては、具体的な指示を出している。

「五歩右に――」

 マックスウェルは、波打ち際側に五歩進んだ。

「六歩上がり!」

 そこにソニアが邪魔をしてくる。

「んあ? 上って何だー?」

 上と言われてもどう動けばよいのか分からないマックスウェルは、困惑している。

「七は苦痛のために――」

 次に口を挟んできたのはリリスだ。どうやらソニアとリリスの問答は終わっていたようだ。しかしマックスウェルの頭上に、まるでハテナマークが浮かんでいるのが見えるような感じになっている。

「八歩は子供を泣かせ――」

 リリスは指示を続ける。指示になっているのかどうか解らないが……

「九歩で心眼が見開く!」

 その場の雰囲気に悪乗りしてきたミーシャがそれに続いた。

「おーい、まじめにやってくれよー」

 マックスウェルは不満そうに――、いや、口調からはそう感じ取れない。いつもどおりのんびりとした口調だ。

「十歩は蟲の王の憤怒を印し――」

 リリスは調子に乗って、予言めいたことを言い出した。既にマックスウェルは、目隠しを外して棒を投げ捨てていた。

「十一歩は門を抜ける、焼け焦げた――むーっ、むーっ」

 ソニアは何かを言いかけたが、ラムリーザに後ろから抱えられて口を塞がれてしまった。

「というわけで、今度は私がやるわ」

「おー、リリスがんばれー」

 次の挑戦者リリスに、ジャンが声援を送る。

「あたしが誘導する!」

「上とかは無しよ」

「わかってるって、では始めるよっ! 右に進んで!」

 目隠しをしたリリスは、棒を握り締めて右と思える方向にそろりそろりと動き出した。

「右向けー、左っ!」

「ちょっとなにそれ? どっちかしら?」

「あっ、右」

 リリスはその場所から右を向く。しかしその様子に、ソニア以外は首をかしげる事になるのだ。

 ソニアがリリスを向かせた方向にはスイカは無く、少し歩けば波打ち際になっていてその先は広い海である。

「そのままー、前進っ」

 そこでラムリーザは「あっ」と小さくつぶやいた。ソニアの意図がすべて読めてしまったのだ。

 しかし少し遅かったようだ。

 ソニアは、波打ち際までリリスを誘導すると、そのまま後ろから体当たりをぶちかましてしまったのだ。

 目隠しをしているために完全に無防備となっていたリリスは、「ひぃっ!」と甲高い悲鳴をあげて、そのまま前のめりに海へとダイブしてしまった。

 波打ち際だから沈むほど水深はないが、リリスは海水でぬれた砂まみれになってしまった。

「ちょっとなにすんのよこの風船女!」

 リリスは目隠しを外してソニアを睨みつけるが、ソニアはリリスの方を向いて不思議な踊りを踊りながら後退していってしまった。

「全く、あの二人が居たらふざけてばかりでゲームが進まないなぁ」

 そう言いながら、波打ち際にぷかぷかと浮かぶ棒を拾い上げたユグドラシルが、次の挑戦者となった。

 ユグドラシルは、ロザリーンの案内でふらふら動き出した。スイカの脇にジャンが待っていて、仕上げの誘導を行っている。

 しかしユグドラシルの振り下ろした棒はスイカを外れ、傍で待っていたジャンに振り下ろされる。ジャンはすかさず白刃取りで受け止めて、「選手交代」と言ってユグドラシルから棒を受け取った。

「おーいリリス、誘導してくれ」

 ジャンは振り返ってリリスに頼もうとしたが、現在リリスはソニアを追いかけることに夢中で砂浜を走り回っている。

 がっかりしたジャンはテンションさがり、適当に砂浜を叩いて終わりになってしまった。

「みんな情けないですの」

 そう言って、今度はユコが挑戦することになった。

 しかしスイカの近くまで行ったものの、棒を振り上げた勢いでユコは仰向けに転倒してしまった。ダメだこりゃ、一番情けない。

「どいつもこいつもヘタクソやなぁ」

 ラムリアースは、なかなかスイカが割れないのでぼやいている。

 次に挑戦することになったのはソフィリータ。さすがにここで終わるかな? ソフィリータも「私で終わらせます」などと意気込んでいる。

 ラムリーザの誘導で、ゲームは始まった。

「よし、三歩右。前進――、前進――」

 そこにリリスに追い回されているソニアが、あろうことかスイカ割り会場に乱入。ソフィリータと衝突する事はなかったが、前に構えていた棒に横からぶつかり、ソフィリータはその勢いで90度横に回転してしまった。

「なっ、何ですか?」

「あっ、ごめん」

 ソニアはとっさに謝ったが、ソフィリータに気をとられた瞬間リリスに捕まってしまった。

「あっ、離せっ――、むーっ、むーっ」

 リリスはソニアを捕まえたまま、口を塞いで話せなくしてしまった。

「ソフィリータ、少し左を向いて」

 リリスの誘導で再びゲームは再開された――、かに見えた。

「そのまま二歩前進するのよ」

 この誘導内容では、スイカから離れてしまう。逆に、ソニアを捕まえているリリスの方向へとソフィリータは近づいてきた。

「むーっ、むーっ!」

 口を塞がれて、ソニアは喉の奥で呻くしかできない。

「あっ、いかん」

 ラムリーザは、リリスの意図に気がついたが遅かった。

「そこよ、振り下ろして!」

 リリスは大きな声でそう言うと、ソニアを離して横へ転がって逃げた。すかさずソフィリータは、棒を振り下ろす。

 ボコッと鈍い音がして、取り残されたソニアの頭に棒が命中。

「ふえぇっ!」

 頭を抱えてしゃがみこむソニア。意図しない手応えに驚いたソフィリータは目隠しを外したが、目の前には悶絶するソニアが居るだけ。

「ええっ? 何でですか?! ごっ、ごめんなさいっ!」

 ソフィリータは慌てふためいて謝るが、悪いのはリリスである。ソフィリータを誘導して、スイカの代わりにソニアの頭を叩かせたのだった。

「真面目にやれっ」

 リゲルはソフィリータから棒を奪って、今度こそ終わらせる勢いで乗り込んだ。

「案内役はミーシャがやるーっ」

 ロザリーンが案内するかと思われたが、そこにミーシャが割り込んできた。大丈夫か?

 こうしてリゲルのプレイが始まった。

「ん~とね、ん~とね、前」

 リゲルは一歩前進する。

「ん~とね、ん~とね、二歩左」

 終始この調子で誘導をするミーシャ。時間がかかるったらありゃしない。

「これは日がくれるわ」

 ラムリアースはぼやくが、リゲルは普通にミーシャの誘導を楽しんでいるようでもあった。

 レフトールなどは「割れたら呼んでくれ」と言い残して、マックスウェルを引き連れて岩場の方へと行ってしまった。

 そして散々待たされた挙句、リゲルの棒もスイカをかすっただけで終わってしまったのであった。

「もうラムリーザお前がやれ、お前が失敗したらスイカ割りは失敗。このスイカは没収して俺は帰る」

 ラムリアースは、ラムリーザで最後にする旨を伝えた。丁度最後にラムリーザが残った所だった。

「ちょっと待って、没収は酷い!」

 叩かれた頭をさすりながら、ソニアは抗議の声を挙げる。ミーシャやユコもぶーぶー言い出した。

「わかったわかった、包丁取ってくるから待ってろよ」

 ラムリアースは倉庫の方へと行き、ラムリーザは目隠しをして準備完了。

「あたしが誘導するっ、右上!」

「何が右上だ、お前はすっこんでろ」

 リゲルはソニアを押しのけて、誘導役を引き受けた。ソニアは何故かやたらと上へと行かせたがる。

「よし、立ち位置はそこでいいだろう。後は角度な」

 ラムリーザをスイカの前まで誘導したリゲルは、最後の仕上げに取り掛かった。

「少し左に向け――、あいや行きすぎ、ちょっと戻れ。そこで待てよ」

 リゲルはスイカの傍に近寄り、ラムリーザとスイカの位置取りを慎重に計ってみる。棒の先端から20cmほど下辺りが、振り下ろしたときにスイカに命中するよう微調整する。

「5cmほどバック」

 指示も細かい。これでラストと言われているから慎重だ。周囲も静まり返り、皆固唾を呑んで見守っている。

 リゲルは何度か棒とスイカの間の空を指で往復した後、ようやく「ここで振り下ろせ」と言った。

 さあ、命中するか?

 ラムリーザは思いっきり棒を振り下ろした。

 グシャアッ! ――と音がして、その直後周囲から小さく「あっ――」と感嘆ではなく驚いたような声が上がった。

「当たったぞ、やったか?」

 ラムリーザは傍に居るリゲルが何も答えないので、目隠しを取って確認した。

 そこには、無残にも砕け散ったスイカの姿が――。

「力入れすぎだ馬鹿」

 リゲルはボソッとつぶやいて、スイカの残骸から少し離れていった。

 包丁を持って戻ってきたラムリアースも「なんじゃこりゃあ?!」などと言っている。

 散々時間をかけて、手に入ったのは粉々に砕け散ったスイカであった。

 ラムリーザはかけらを拾って食べようとするが、一つ一つが小さかったりする。

「えーと、まぁなんとかしろ」

 ラムリアースはそれだけ言って、本館の方へと戻って行ってしまった。

 ジャンはスイカの残骸の傍に来て手を伸ばすが、「コレじゃあ食べられないじゃん」と言って諦めてしまった。

「あたしは食べるよ」

 ソニアは小さく砕けたかけらを一つ一つ摘んでは口へ運んでいる。

「あっ、ずるい。ミーシャも食べるー」

 ミーシャも続き、リリスやユコも群がるが、なにぶん大半はシートから飛び出してしまい砂と混ざっているので、食べられる場所は少ない。

「まるでゾンビが死肉に群がっているみたいだな」

 夕日に照らされて赤くなった砂浜、ゾンビの群れはむしゃむしゃと果肉に群がっている。

 こうしてスイカ割り大会は、悲惨な結末を迎えて終了してしまったのであった。

 過ぎたるは及ばざるが如し、何事も程ほどに。
 
 
 
 
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