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ハッキョイノコリッ! 後編 ~壮絶な最終戦?~

 

 リリス主導で始まった砂浜でのハッキョイリーグ戦は、いよいよ大詰めを迎えていた。

 二つの節が終わり、最後の組み合わせを残すのみとなっていた。

 ここまでの結果を記した試合表を見ながら、リリスは渋い表情を浮かべている。

「意外と上手く行かなかった、ロザリーンが強かった……」

 リリスは肩で息をしながらそうつぶやいた。普通に運動神経で言えば、ロザリーンとソフィリータの二強となるはずだ。そりを考慮すれば、リリスは健闘していると言えるが――?

「ええと、リリスさんが8勝で私が7勝、ソニアさんとソフィリータさんが6勝で追いかけているわけですね」

 正確には、リリスの8勝4敗、ロザリーンの7勝3敗、ソニアの6勝2敗、ソフィリータの6勝4敗。勝率の上ではソニアがトップだったりする。

 その時、リーグ戦の試合表を見ていたロザリーンの後方で、「きゃんっ」と声が上がった。ロザリーンが振り返ると、円のふちにミーシャが座り込み、ユコが小さくガッツポーズをとっていた。

 どうやら裏天王山は、ユコが制したようである。

「それでは最終戦を行うわ。疲れたから最終戦はみんな二連戦ね」

 リリスは試合表最後の試合の所に、一本の縦線を引き無しにしてしまった。

「ちょっと待ってよ!」

 それに不満の声を挙げたのはソニアだ。

「それだとあたし残り全部勝ってもリリスと同点にしかならない!」

 リリスは逃げ切ることを視野に入れて、一試合減らしたのだった。それと、ここまでリリスが結果で押せてきたのは、ロザリーンとソフィリータが二人とも白星配給係の片方と対戦していないというのもあった。その試合数を減らす意図も隠れているのだ。

 リリスの筋書きでは、ロザリーンの2連勝は織り込み済み。ソニアに1勝でもできれば、同点優勝を狙ってのことだ。

「それじゃあ最初はユコ対ソフィリータからどうぞ」

 ソフィリータは先輩に花を持たせようと思ったが、友人ミーシャの単独ドベを回避させてあげようとも考え、ミーシャが1勝するまで本気で挑む事にした。その結果勝負にならず、ユコは簡単にソフィリータに転倒させられてまずはソフィリータの1勝。7勝となりロザリーンに並んだ。

 次にどちらの試合を先にするかといった話になったが、リリスは先にロザリーンの結果を見ることにした。

 ロザリーン対ミーシャ、果たして勝負になるのだろうか? もしこの勝負にロザリーンが勝てば勝ち数でリリスに並び、リリスは負けられなくなってしまう。

「ハッキョ~イ、ノコリッ!」

 リリスの合図で、ロザリーンの逆転優勝へ向かった取り組みが始まった。

 ミーシャは合図と同時に後ろへ跳ね飛んで間合いを取る。捕まったらおしまいだということを、十分すぎるほど理解した上での行動だ。

 ロザリーンは落ち着いている。むやみに突っ込もうとせず、冷静にミーシャの動きを観察している。

 ミーシャは突っかかっていかないので、ロザリーンがどう動くかで試合が動き出す。

 ロザリーンは、じわりじわりと間合いを詰めてみた。ミーシャは左右に跳ねて、ロザリーンに捕まらないように陽動してみせる。それでも、少しずつ少しずつロザリーンは近づいてくる。

 ミーシャは接近してくるロザリーンの横をすり抜けようとしたが、ロザリーンはその時を待っていた。素早くミーシャに合わせる様に動き、横からミーシャを捕まえてしまった。

「あ~ん、捕まったの!」

 ミーシャは甘ったるい声で悲鳴をあげる。しかし捕まったらおしまいだ。しかもミーシャは横向きに捕まってしまった。これでは抵抗するすべが無い。

 ロザリーンは普通にミーシャを持ち上げた。ミーシャは足をばたつかせるが、万事休す。円の外へと運び出されてしまいロザリーンの勝ち。

 これでロザリーンとリリスが8勝で並んだ。

「やった、ロザリーンが勝った」

 喜んでいるのはソニアだ。ソニアはすでに自分の優勝は諦め、リリスの優勝を阻止する事だけを考えていた。

「喜ぶのもそこまでよ、私が勝てばまた引き離すわ」

 そうして、ソニア対リリスが始まった。

 リリスの考えでは、試合数の少ないソニアに勝ち数の差をつけて、最終節でソニアと当たっても、圧倒的有利な展開で望める流れになっているはずだった。

 確かにソニア相手には、その作戦は成功している。勝率ではソニアが上なのに、勝った数ではリリスが上と言う展開に持ち込んでいた。

 しかし誤算はロザリーンの存在だった。運動能力ではむしろソニアよりも上だったロザリーンは、着実に勝ち数を伸ばしてリリスに食いついている。直接対決ではロザリーンが勝ち越していたりもする。

 試合開始の合図と同時に、ソニアは組み付こうとせずに右腕を振り下ろしてリリスの左肩と胸の間――丁度むき出しの所――を強打した。バチーン! と乾いた音が砂浜に響き渡った。

「何すんのよ、痛いわね!」

「殴るのはルール違反だけど、こうやって叩くのは合法だったはず!」

 ソニアは続けて左腕も振り下ろす。しかし今度はリリスも上手く後ろに下がって避けたようだ。

 リリスは組み付いて叩かれないようにしようと考えたが、ソニアは無茶苦茶に両手を振り下ろしてリリスを近寄せない。むしろ叩くために接近してくる始末である。

 ソニアはこれまでの不満をぶつけるためだけに専念して、最初から勝敗は度外視でとにかく一発でも多く叩く、それだけを考えていた。

 それを察したリリスも、負けじとソニアを叩こうと腕を振り上げる。

 壮絶な叩き合いが始まった。

 砂浜に、ビシバシと景気のよい音が鳴り響いている。優勝決定戦に相応しい一番と言えるだろう。二人ともむき出しの肩から胸の上部にかけて、真っ赤になっている。それでも叩くのをやめようとしない二人。

 

 ………

 ……

 …

 

「おいあれ大丈夫か?」

 ジャンはソニアとリリスの試合を離れた場所で観戦しながらラムリーザに尋ねてきた。

「派手にやりあってるな」

「チョップの打ち合い、プロレスでは時々あるパターンだな」

「その終止符は何?」

「ドロップキックとか?」

「ふーむ」

 ハッキョイの試合では、ドロップキックは無いだろう。地面に倒れてしまった地点で負けなのだから。

 

 ………

 ……

 …

 

 ビシバシビシバシ――

 

「終わらないねー」

 ミーシャは、砂浜で山を作りながらつぶやいた。既に――というより、最初から格闘技には興味が無かったようだが、ソニアとリリスの試合がなかなか終わらないので、一人砂浜で遊びだしたようだ。

 ソニアもリリスも、それはもう鬼のような形相でひたすら叩いている。円から押し出そうとか、相手を転ばそうとか、そんなことはまるで考えていないようだ。お互いに叩くだけで、ちっとも試合が動かない。

 その一方でユコなどは、疲れてしまったためかスヤスヤと昼寝をしていたりする。試合の流れを真面目に見守っているのは、ロザリーンとソフィリータの二人だけだ。

「この陰湿な黒魔女! 何が移動日よ! ずるい試合表作って!」

「うるさいわね、普通にプロのだまの日程でもそうなっていることあるのだからいいじゃないの! むしろ移動日にありがたがっているわ!」

「なんであたしばっかり移動日があるのよ!」

「巨大な風船を移動させるのに時間がかかるからよ!」

「だまれちっぱい! あたしまだ2敗、リリスはもう4敗! 負けすぎ! 怠け者、な、負け者!」

「勝った数が2つも少ないくせに偉そうな事言ってんじゃないわよ!」

 なんだかお互いに罵りながら叩き続けている。二人とも叩かれている部分は当然として、叩いている手のひらの感覚も無くなりつつあった。

 その内叩く音も、ビシッ――、バシッ――、と途切れがちになってきた。流石に疲れてきたようで、手数が減ってきている。

 

「この根暗吸血鬼がっ!」ビシッ――

 

「風船おっぱいお化け!」バシッ――

 

 二人とも髪を振り乱し、両手を膝に乗せて前かがみになり、肩で息をしている。

 ようやく叩き合いが終わったとき、試合の流れも止まっていた。しかしどちらかが倒れるか、円の外へ出されるかまで試合は終わらない。

 数秒間にらみ合った後、二人はほぼ同時に動いた。どちらもこの一撃で終わらせるのだといった感じに腕を振り上げる。あくまで叩きのめすことを目的としている。文字通り、叩く。

 

 パアンッ!

 

 いままてよりもやけに派手な音が、砂浜に響き渡った。

 ソニアとリリスは、お互いの手のひらを叩き合わせる形になってしまったようだ。

 別に狙って手を合わせたわけではない。双方とも渾身の最終攻撃を繰り出したのだ、利き腕で。

 ソニアは右腕を振り上げ、リリスは左腕を振り下ろした。その結果、身体に触れる前にお互いの手のひら同士をぶつけ合う結果となってしまったのだ。

 ソニアもリリスも、ぶつかった衝撃で後方によろめく。そしてそのまま、お互いにしりもちをつく結果になってしまった。

 二人とも座り込んだまま何も言わない。ただぶつけ合った手のひらをさすっているのは同じだ。

「あ、倒れましたよ。これはどちらの勝ちでしょうか?」

 ソフィリータはロザリーンに尋ねる。

「見た感じ、リリスさんの方が先にお尻が地に付いたように見えましたが……」

「そうですね、私もそう見えました」

「他の人にも聞いてみましょう、ミーシャちゃん、二人のどっちが先に倒れたかわかります?」

「ミーシャ見てないよ~」

「じゃあユコさんは?」

 ユコは昼寝の真っ最中だ。

「これではソニアさんの勝ちですね」

 ロザリーンの判断で、ソフィリータは円の中に入りソニアの手を掴んで上に挙げる。

「この勝負、ソニアお姉様の勝ちです」

 ソフィリータは宣言するが、ソニアは何も言わずに肩で息をしているだけ。リリスも反論する気力が残っていないのか、ぺたりと座りうつむいたまま同じく肩で息をしている。

「えーと、これでリリスさんが8勝で私が8勝、ソニアさんとソフィリータさんが7勝で追いかけていることになりましたね」

 優勝戦線は、なおも混沌とした様子になってきたようだ。

「それじゃあミーシャちゃん、最終戦やりましょう」

 ロザリーンの口数が普段より増えている。優勝の可能性が高まり、気分が高揚しているのか?

「やだー、ミーシャもう疲れたからローザ姉ちゃんの勝ちでいいよ」

 ミーシャは、砂山を積み上げながらめんどくさそうに答えてきた。

「不戦勝で良いのですか?」

「いいの」

 ミーシャの試合放棄により、ロザリーンの勝ち。ここに来て9勝と単独トップに躍り出た。こうなったらリリスも負けていられないか?

「いいわもう、次の試合ソニアの勝ちでいい。私は降りたわ」

 しかしリリスは、円の中にゴロンと横になり大の字になって寝転ぶと、そう言い捨てた。圧倒的優位な展開がなくなった地点で、どうでもよくなったらしい。

 それを聞いたソニアは、「やったあ、勝った」とは言わなかった。無言で横たわると、そのまま目を閉じて眠ってしまったようだ。

 この二人はもう戦う気力は残っていなかった。今回の場合だと、先に「優勝したもんね」と言ったほうが勝ちになったのではなく、先に「降りた」と言ったほうが負けになったということか。

 この地点でロザリーンの優勝は決まり、ソフィリータは消化試合となるが最終戦をやろうとユコの方を振り返る。しかしユコは、すでに昼寝の真っ最中だ。

「ええと、これも不戦勝でいいですよね?」

「そうなりますね」

 優勝してみたものの、あまり盛り上がらないなとロザリーンは感じていた。やはりこのグループの目玉は、ソニアとリリスの二枚看板だということである。

 

 最終結果はロザリーンの9勝3敗が勝ち数トップで優勝、次点にソニアの8勝2敗、ソフィリータの8勝4敗、リリスの8勝6敗と続き、ユコの2勝10敗、ミーシャの1勝11敗と続いていた。

 

 ロザリーンは、勝率の上ではソニアが一番高くなることも解っていた。だから、なおさら盛り上がれないでいたのだった。

 こうして、最後はグダグダになってしまった、ハッキョイのリーグ戦は幕を下ろしたのであった。

 

 

 

「おーおー、一部を除いて死屍累々だなぁ」

 離れた位置から観戦していたジャンは、そうつぶやいた。

「結局誰が優勝したのかな?」

 ラムリーザの問いに、まぁ「リリスかソニアだろ?」とジャンは答えた。残念ながらその判断は間違えている。

「ソフィリータが優勝したと思うけどなぁ」

 これはレフトールの感想。実際ガチで一番強いのはソフィリータとなる。

「まあ見た感じ、なるような結果になったのじゃないかな、あの流れだと」

 結果まで知らないジャンは、そう評した。

「総当りのリーグ戦の方が、トーナメントと違ってくじ運とかも関係ないしいいよね」

「俺があいつらのマッチメイカーなら、こういったシナリオを書くな」

 そう言ってジャンは、勝手にマッチメイクし始めた。

「どう見てもユコとミーシャは白星配給係になるのは間違いないし、最終戦にリリス対ソニアを持ってくる。ここまではさっき実際にやっていたのと同じだな。それで、得点だが、勝ちで2点、引き分けで双方1点、無効試合で0点とする。んで最終戦だが、リリス有利に進めるぞ。リリスがソニアに一点リードしているとする。そして、ロザリーンかソフィリータのどちらかも、ソニアと同点にしておくんだ。そしたらリリスの勝ちでリリス優勝、引き分けでもリリス優勝、無効試合ならリリスとロザリーンかソフィリータで決定戦という流れなる。これが一番説得力のある最終戦になるはずだ」

 このようにジャンはベラベラとシナリオを語って見せた。

「確かにソニア対リリスが一番見ていて迫力あったね」

「引き分けっぽいからリリスが優勝したっぽいな」

 これがジャンの評価であった。

 マッチメイカーとブックがあればこうなっていただろう。しかし実際は半分ガチで行われた大会は、ジャンの予想とは違う結果となっていたのだ。

 
 
 
 
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