のだま拳

 
 7月22日――
 

 この日の雨は一日中続いていて、ラムリーザたちは結局一日中コテージで過ごす事となった。それでも夜になると、少しは小ぶりになっていた。明日は晴れるだろう。

 夕食をコテージに取り寄せて晩御飯にした後、そのまま昼と同じように適当に分かれてゴロゴロとのんびり過ごしていた。

 そこに昼と同じように、ラムリアースが使用人を率いてコテージに現れた。

「コテージに閉じ込められている哀れな子羊たちに差し入れを持ってきてやったぞ」

「昼と同じ台詞だね」

 ラムリーザは突っ込むが、ラムリアースは気にせずに使用人に持ってこさせた木箱をテーブルの上にトンと置いた。木箱の中には、なにやらボトルのようなものが入っているみたいだ。

「なんだろう? ジュース?」

 ソニアは木箱からボトルを取り出してみる。透明のボトルの中には、琥珀色の液体がたっぷりと入っている。

「それはハチミツだ」

 ラムリアースは答えた。確かにハチミツの色をしている。しかしハチミツはもっとドロッとしているはずだが、この液体はサラッとしていて水のようだ。

「ハチミツジュース?」

「いや、ハチミツ酒だ」

「酒?」

 酒の言葉を聞いて、ジャンが一番反応した。そういえば、修学旅行の時にも旅館に酒を持ち込もうとか言っていたような気がする。

 仕事上酒と触れ合うことも多いジャンは、いつの間にか酒好きになっていたようだ。

「ハチミツ酒はうまいぞ。帝都でも流行っているし、皇室でも頂いているらしい。ただし、国内ではほとんど生産されていなくて、北の方の寒い国から輸入しているらしいのだ。ホニング・ブライアって銘柄だが、めったに飲めない一級品だぞ」

 ラムリアースはハチミツ酒の説明をする。そもそもラムリーザのグループはほとんど酒に触れたことが無いので、どの酒であったとしても珍しいものだった。というより未成年は飲酒禁止のはずだ。

「そんなすごい酒がよく手に入ったなぁ」

 ジャンは、舌なめずりしながらラムリアースに問いかけた。ラムリアースは得意気に「俺を誰だと思っているのだ?」とだけ答えるのだった。

「よし、早速飲むぞ」

 ラムリアースはコルク栓をポンと抜き取ると、コテージに備え付けだったグラスに一杯注いだ。そしてそのグラスをソニアに差し出す。

「トップバッターはソニアな」

「なっ、なんであたし?」

 馴染みの無い酒に、少ししり込みしてしまうソニア。それでもラムリアースは、ソニアの鼻先にグラスを押し続ける。

「お前はこれを飲むのだ。そして痴態を見せてもらおう、さぁ飲めっ」

「ふえぇっ!」

 ソニアはラムリーザの後ろに隠れてしまった。

「僕が飲むよ」

 またソニアがラムリアースにからかわれているので、ラムリーザはその救援に名乗り出た。しかしラムリアースは、ラムリーザが手を伸ばしたグラスをひょいと引き下げてしまった。

「いかんいかん、毒見をさせないとダメだろう? ソニアはラムリーザの毒見役になってくれないようだな」

「なんであたしが毒見役なのよ! リリスが毒見したらいいじゃないの!」

「いや待って、これを持ち込んだのは兄さんだよね? 持ち込む前に調べておいてよ」

「まぁアルコールは精神を堕落させる毒水だからな」

 リゲルは、腕組みをしたまま冷たい表情で言い張る。

「なんだと? 酒は人類の友、百薬の長とも言うじゃないか!」

 それに反論するのはジャンだ。リゲルとジャンの間で、酒の要不要論争が始まりそうだ。

「うだうだぐだぐだなんだよ、ラムリーザの騎士は居ないのか?」

 ラムリアースの挑発に応じたのはレフトールだった。

「俺が飲むぜ、ラムさんの騎士は俺だからな。鬼が出るか、蛇が出るか!」

 レフトールは、ラムリアースからグラスを奪ってグイと一気に飲み込んだ。そしてみんなの視線が注目する中、レフトールは「うんめぇや」と言った。

「ハチミツ酒ってどんなん?」

 ラムリーザの問いにレフトールは、「飲んだ感じはワインっぽいけど、後味にハチミツの甘さが残るって感じだな」と答えた。

 何故レフトールがワインの味を知っているのかは、この際置いておこう。

「よし、どんどん飲むぞ。あ、その前に使用人、このコテージの入り口で見張って、誰も中に入れないようにしろ」

「閉じ込めるのか?」

 それを聞いてラムリーザは尋ねる。

「親が来たら面倒だ」

 ラムリアースは、使用人を見張りに向かわせる。やはり未成年飲酒になることが分かっていて、親がやって来るのを防ぐつもりらしい。もっとも親が命令すれば、使用人は通してしまうだろうが……

 ラムリアースは、レフトールが飲み干したグラスに再びハチミツ酒を注いでソニアに押し付けて「飲め」と言った。どうしてもソニアに飲ませたいらしい。

「嫌よ!」

「なんでや、もう毒見は終わっただろ?」

「番長と間接キスしたくない!」

「しょーもなっ!」

 ラムリアースは、コテージの食器棚からグラスを人数分取り出すのだった。

 

 ………

 ……

 …

 

「一番、ミーシャ脱ぎまーすっ!」

「待て待てっ!」

 ミーシャは、赤く上気した顔で服を脱ごうとするのをリゲルはすんでの所で取り押さえた。酒を飲むと脱ぎたがる人、居るよねぇ?

「それじゃあ合法的に脱ぎまーすっ! のだま拳行ってみよーっ、相手はダレジャ?」

「オレジャ!」

 答えたのはラムリーザだった。しかし合法的な露出狂ってありうるのだろうか?

 リゲルなどは、「ラムリーザは酒が入ると一人称がオレになるな」と分析している。

 そこで経緯はどうでもいいことだが、ラムリーザ対ミーシャののだま拳が始まってしまった。歌に合わせて、不思議な踊りを踊る二人。

 

 ♪のーだま拳やーるならっ、こーんな具合ににやっちゃってー、あうとぉ、せぇふぅ、ほほいのほいっ――!

 

「やったー、ミーシャ勝ったのーっ! 負けたらむたんが服脱ぐのーっ!」

「おーおー」

 歌と踊りが終わった後のじゃんけんに負けたラムリーザは上着を脱ぎ捨てて、そのたくましい上半身をさらけ出した。リンゴ潰しの名の通り、とりわけ腕の筋肉は凄そうだ。

「負けるなよー、野郎が脱いでもつまんねーじゃんかよーっ」

 ジャンは不満そうにわめく。こちらも妙な感じに出来上がっているっぽい。

「すまねーな、次は勝つよ!」

 ラムリーザも乱暴に言い放つ。その一方で、リゲルは渋い顔でミーシャを見つめているのだった。

 

 ♪のーだま拳やーるならっ――ほほいのほいっ!

 

「おっしゃ、オレ勝ったぜ!」

「あーん、負けたのーっ」

 そう言いながら、ミーシャは『合法的に』上着を脱ぎ捨てる。凹凸のほとんどない、可愛らしい身体をさらけ出す。

「その胸ならブラなんて無くても問題ないはず」

 その身体を見て、ソニアは何故か勝ち誇ったように言い放つのだった。

「なーんーだーとー?!」

 ミーシャは酔うと、乱暴になり脱ぎたがるようだ。

 

 ♪――ほほいのほいっ!

 

 ラムリーザがグーを出し、ミーシャはチョキを出す。

「やった!」

 そう言ったのはジャンだ。逆にリゲルは舌打ちしている。

「嬉しいくせに、素直になれよ」

 ジャンはリゲルをからかっている。

 そしてミーシャは、何のためらいも無くスカートを脱ぎ捨ててしまった。

「おおう、純白が眩しいっ」

 騒いでいるのはジャンとレフトールとソニア、そしてリリスとユコとソフィリータはそれなりに楽しそうに観戦。マックスウェルはいつもどおりぼんやりさん。逆にリゲルは仏頂面。

 ロザリーンとユグドラシルは、この騒ぎがあまり好きではないらしく、離れたテーブルで二人談笑しながらグラスでちびちびやっている。

「そろそろやめにしとく?」

 ラムリーザは気を使ってミーシャにそう言ったが、ラムリアースはすぐに「酒が足らん」と言ってラムリーザにグラスを差し出した。そして差し出されたハチミツ酒を飲み干すと、「よっしゃ、戦いは続くぞおらァッ」とミーシャを威嚇してしまうのだった。

 

♪――ほほいのほいっ!

 

「やったー、ミーシャ勝ったのーっ!」

 ミーシャの勝ちを見て、「チッ」と舌打ちするジャンと、それを睨みつけるリゲル。

 負けたラムリーザはズボンを脱ぎ捨てるが、ジャンは「野郎のパンツ見たってつまらんわ!」とぼやく。逆にユコなどは、「ラムリーザ様たくましくて素敵ですの!」などと言っている。

 調子に乗ったラムリーザが、ボディアピールをしている傍らで、ミーシャはハチミツ酒の入ったグラスを一杯煽った。

「ほいやぁ!」

 などと、ミーシャは下着姿で戦闘ポーズを取って対抗している。

 二人が身につけているものは残り三つ、61分三本勝負の始まりだ。

 再び歌が始まり、二人はお互いに空を蹴ったり殴ったりしながら、もう何が何だかわからない踊りを披露し、周囲ではやんややんやと歓声が飛び交っている。

 

♪――ほほいのほいっ!

 

「よっしゃー!」

 じゃんけんの結果を見て、ラムリーザではなくジャンが歓声をあげる。ラムリーザは拳を開き、ミーシャは拳を握り締めていた。

「これはいかん!」

 リゲルは止めようとするが、ミーシャは何も動じずと言った感じでブラを剥ぎ取ってしまった。

 ジャンは「おーっ!」と叫び、ソニアは「やっぱりちっぱいだ」などと言っていた。

「やりすぎだぞこら!」

 リゲルは一人怒っているが、その場の雰囲気に対抗できるようなものではなかった。

「まだパンツが残っているから、ミーシャ負けてないもーんっ!」

 ミーシャは強気なのか、酒で思考停止しているのか、おそらく後者なのであろうがちっとも勢いが衰えていない。恥じることなく戦闘ポーズ続行だ。

 とは言うものの、女子高生がノーブラで上半身露にしているのはかなりまずいのでは?

 使用人が見張っているので他の者はこのコテージに入ってこないが、破廉恥騒ぎは徐々にエスカレートしていくのであった。

「まぁ幼児体型だけどな、子供が裸で騒いでいるようなものだ」

 レフトールはおっぱいちゃん派なので、ミーシャの裸では興奮しない。

「なんだと? なら貴様は風船なら良いというのか?」

 リゲルもなんとなく今は口調が荒い、酒のせいだろう。

 そして無茶苦茶な踊りと歌が再び始まった。

 

♪――ほほいのほいっ!

 

 ラムリーザは拳を開き、ミーシャは指でVサインを作っている。ラムリーザはパンツ一丁なので、この時点で敗北決定だ。

「くそ! 負けるなクズが!」

「あぁ? なんだとだれがクズだと?」

 ラムリーザもジャンも、酒の影響で荒くなっている。

「俺はこんなブック書かねーぞ、ここはミーシャが負けて『まいっちんぐーっ』ってなる場面だろうが空気読め!」

「しらんがな! 脱げばいいんだろ脱げば!」

「脱ぐな気色悪い!」

 ラムリーザが最後の一枚のパンツを脱ごうと屈んだところに、ジャンが体当たりして転倒させる。ラムリーザは転がったまま、「くかーっ」といびきをかき始めた。

 一方勝利のミーシャは、喜びのダンスを踊っている。しかしいつものキレはなく、へなへな踊りだ。酒のせいで足腰がふらふらだ。

「こいつだとノーブラで踊っても全然ゆれねーな、おいおっぱいちゃん、俺と勝負だ!」

 レフトールは、次の試合としてソニアとの戦いを希望した。しかし呼び方がまずかったので、ソニアは「おっぱいちゃんのマックスウェル! 番長が勝負って言ってるよ!」などと言う。

 男同士でやるのだま拳のどこが楽しいというのだ。

「よし、それでは二試合目、レフトール対ソニア開始しろ」

 ラムリアースの宣言で、第二試合が始まる事となった。その間に酔いつぶれたラムリーザは、ユコとソフィリータによってソファーに運ばれるのであった。

「はよ脱げ!」

 ジャンはソニアに野次を飛ばす。まだ踊りが始まっていないというのに。

 ソニアはハチミツ酒を飲みながら、「ジャンが脱げ!」などと言い返している。

 そして、再び歌と踊りが始まった。

 レフトールはグラスを片手に、格好つけたように踊り、ソニアはどこかで見たような不思議な踊りを踊っていた。

 

♪のーだま拳やーるならっ――ほほいのほいっ!

 

 ソニアは握りこぶしを突き出し、レフトールはVサインを突き出したかと思ったが、次の瞬間全ての指を広げていた。

「よっしゃ脱げ!」

「なによもう!」

 ソニアは上着を自ら剥ぎ取った。酒が入って判断力が無茶苦茶になっている中、誰一人としてレフトールの後出しじゃんけんに気がついていない。

「おおでっか! さすがエル! ミーシャはAだからなーっ!」

 ジャンの歓声にミーシャは「大きければ良いってもんじゃないもーんっ!」と反論している。

 そしてソニアは、ハチミツ酒をまた一杯煽った。

「このお酒、甘くておいしい。もっと欲しいなぁ」などと言っている。

 しかしレフトールは酒に強いのか、いつもとそんなに変わった様子は見えない。

 そして、顔を真っ赤にしたソニアと、ごく普通のレフトール、二回戦が始まった。

 

♪――ほほいのほいっ!

 

 ソニアはVサインを出し、レフトールは開いた手を突き出しながら握り締めた。また後出しだ。

 じゃんけんが終わると、ソニアはまたハチミツ酒を一杯煽った。

「飲んでないでブラ取れよ」

 ジャンはそう要求するが、ソニアはスカートを脱ぎ捨ててしまった。

「いや、そっちはいつも超ミニだからあまりありがたみが無い」

 ソニアはせっかく脱いだのに、ジャンにそんなことを言われてしまう始末であった。

 そして三回戦の踊りが始まった。レフトールは踊りながら、ジャンは乗り出してソニアの胸を凝視している。ミーシャと違って揺れる揺れる、ぽよんぽよん。

 リリスやユコなどは、踊りに合わせて「ふーせんっ、ふーせんっ」と掛け声を挙げている。そしてそれに反応しないぐらい、ソニアは酔っていた。

 

♪――ほほいのほいっ!

 

 今度はレフトールが手を開いて出すのが早かった。ソニアはワンテンポ遅れて閉じた握りこぶしを突き出して、その場にへなへなと座り込んでしまった。

「よっしゃ、ナイスだレフトール!」

 ジャンはさらに歓声を上げる。しかしソニアは座り込んだまま、「もう飲めないよぉ」などと言っている。足腰が立たなくなるほど酔いつぶれたのか。

「まぁルールだからな」

 そんなことを言いながら、レフトールはソニアのブラを剥ぎ取った。

「でっ、でけぇ……」

 ジャンはニヤニヤが止まらず、レフトールは「千年に一度のおっぱいちゃんだな」などと評価していた。

「よし、そこまでだな。ソニアの戦闘不能でレフトールの勝ち。これで男女共に一勝一敗、次は誰と誰がやる?」

 ラムリアースは三戦目を聞いたが、誰も名乗り出なかった。

 他の女性陣はやるのを渋っている。まぁこんなゲームではしゃぐのは、ソニアとミーシャぐらいのものだろう。それにラムリーザとソニアは酔いつぶれてソファーで転がっている。

 そんなわけで、のだま拳はここらでお開きとなった。それでも無い乳とLカップを堪能できたから、普通が良いという人以外は楽しめただろう。普通の人がやるようなゲームではないけど、そのようなことは些細なことだ。

 ちなみにどうでもよいことだが、ソニアとミーシャの間では、バストサイズの差が30cm近くあるのだった。

 まあよい。

 よいよい。

 よいよい。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き