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今日の世迷いごと

 
 8月1日――

 

 この日は、父と兄が先に本土へと帰る日なので、昼過ぎにラムリーザとソニア、ソフィリータの三人は、港へと赴いた。そこには既に、ラムリーザの家族とソニアの家族が集まっていた。

 昨日の大雨がまるで嘘かのように、波は穏やか。空には雲ひとつ――だけある。

 船は来たときと同じ五隻、父と兄の乗る本船と、護衛艦と戦艦までは同じだが、残りの二隻が来たときには見かけなかった船だ。

「あの二隻は何なの?」

「あの船は、この島で採掘された資源を運んでいる輸送艦だぞ」

 ソニアの問いに答えたのは、ラムリーザの父ラムニアスだった。なるほど、客船に比べてずんぐりむっくりしている。

 その一方では、ラムリーザとラムリアースが話をしていた。

「例の石版の解読は進んでいるか? 手に余るようなら来年以降に持ち越してもいいぞ、次は俺も手伝ってやるよ」

「リゲルに解読してもらったけど、訓令というかまじないの類で、それに沿った行動してもあまり意味が無いみたい」

「ほう、すごいな。どんな感じの訓令だ?」

「ブタを使って精神統一して心を静めろとか、そんな内容だったと思うよ」

「なんやそれ? まあいい、近いうちにフォレストピア視察に行くから楽しみにしてろよ。あと石版の呪文だが、反対に読んでみたら新しい解釈が産まれるかもしれないぞ」

 ラムリアースはそう言い残すと、ラムリーザとがっちり握手してから船に乗り込んでいった。

「あっ、ラム兄あたしともっ」

 ソニアは慌てて駆け寄ってきて、ラムリアースに手を差し出す。船室に入りかけたラムリアースはわざわざ戻ってきてあげてソニアに「ほれ、手を差し出せ」と言った。

 ソニアが手のひらを差し出したところで、ラムリアースは中でタッチした。そして次にソニアに手のひらを上にしておけといい、上からパンと手を叩く。

「さあ今度はソニアの番」

 ソニアはラムリアースの差し出した手に上からタッチを仕掛けるが、ラムリアースは当たる瞬間に手を引いてしまいソニアは空振りに終わった。

 そしてラムリアースは、ソフィリータの頭を撫でて、今度は本当に船室へ入って行ってしまった。

「それじゃラムリーザ、あまり話せなかったけど、身体に気をつけてがんばるんだぞ」

 父親ラムニアスも、兄と同じようにラムリーザと握手して、ソフィリータの頭を撫でてから船に乗り込んだ。ラムニアスにはソニアは反応しなかった。ちなみにラムリーザとのやり取りの前に、母親ソフィアとキスを交わしていたのはまぁ置いておこう。

 こうしてラムニアスとラムリアースは、仕事の関係で先に本土へと帰っていったのである。

 

「行っちゃったな」

「これでもう変なもの食べさせられなくて済む」

「そう言えばちょっと気になってたんだよなぁ」

 港からコテージへの帰り道、ラムリーザはあることを思い出して行動してみた。足元に転がっている手ごろな石を拾って、木の枝にぶつけたみた。石は乾いた音を立てて、跳ね返ったのであった。

「やっぱりめり込まないよなぁ……」

「あっ、それはリアス兄様が得意としている石投げ、何でしたっけ、名前は忘れましたが特殊な方法で行う投石というのを聞いたことがあります」

 ラムリーザはラムリアースのまねをしてみたけどうまくいかなかった。そこでソフィリータが、あの投石は違うものだと教えてくれたのだ。

「ソフィリータはできるのかい?」

「コツはつかめたのですが、力不足で……。でもリザ兄様の力なら、コツさえ掴めば同じことができると思います」

「そのコツとはどうやるのかな?」

「えっと……、えっと……」

 ソフィリータは顔を赤らめてどぎまぎしてしまう。恥ずかしい事なのか? それともうまく教えることができないのか?

「石から手を離す瞬間に捻りを加えて、えっと、どう説明したら良いのでしょう?」

「まあいいや、僕にはこれがあるから」

 そう言ってラムリーザは、持っていた石を握りつぶしてしまったのだった。

 

 

 コテージに戻ったときは、既に太陽は西の空の中間辺りまで来ていた。

 既に釣りを済ませたリゲルは、釣れた魚を一匹一匹確認していて、確認の終わった魚をロザリーンが調理場で下ごしらえをしていた。

 コテージの広間の中央では、レフトールとマックスウェルが、今度はリリスとユコを交えてカードゲームをしている。なんだか大量のカードを持っているユコが不満そうな顔をしている。手持ちのカードが無くなったら勝利の類のゲームで、何かミスをして大量にカードを押し付けられたらしい。

 一方ジャンとユグドラシルが、テーブル席で石版を見ていたので、ラムリーザはこれ幸いとそのグループに加わった。ソニアもどこに属するか迷った挙句、ラムリーザの隣に腰掛けたのだった。

「それ、普通に呼んだ結果だと、訓令かおまじないみたいな内容になったけど、逆に読んだら意味が出てくるかもしれないよ」

「逆さ言葉ってやつだね」

 ユグドラシルは、なるほどと言った表情をして、手持ちの石版を見ながらなにやらメモを始めた。

 

 トガサヘンカイテナシチメ

 

 最初に見つかった呪文を逆から読んだものだ。

「トガサヘ、トガサって場所の名前かな? 島にトガサって場所があるかわかるかな?」

「地名までは詳しくないなぁ」

「待てよ、トガは戸がで、サヘは左へと読めば、何かの入り口から左を指していることにならないかな?」

「そこで文節を区切ったら、次はンから始まることになるぞ。やっぱりトガサで、次はヘンカ、変化だよ。イテナは分からんけど、シチメは七つ目と取れないかな?」

「やっぱり呪文だよね」

 そこで本格的に解読するのはリゲルに任せることにして、今のメンバーでざっくりと考察することにした。

 

 ハシナヘニボアテウエイメ

 

 二つ目の呪文を逆に読んでみたものがこれ。

「ハシナという場所、橋かな? ニボアテ、ニボというものを当てて、ウエイメ、上にイメ、行け。上に行け。ハシナとニボを調べて、次」

 ユグドラシルは、本当にざっくりと解読している。

 

 タブハスレカトスナオヘト

 

「タブ、TAB、間か? ハス、蓮、蓮イボ、あれは嫌いだ。レカトス……呪文。ナオヘトはナオという場所へと、だね」

 ユグドラシルの考察では、あまり具体的な結論は出せないようだ。

 最後の一つは石版ではなく、ノートに書き写したものだ。それは現在ソニアが見ている。

「ん、ソニア君何かわかるかな?」

 ユグドラシルはソニアに尋ねてきた。

「エルに解読できるわけ無いよなぁ」

 しかしジャンは、最初からソニアを当てにしていない。これにはソニアもむっと来た。

「んとね! ムイルコベレトジシヨキマ! 逆から読んだらマキヨシジトレベコルイム! ジャンがムカつくので、ナイトフィーバーとホウカイで呪文を挟んで『ナイトフィーバーマキヨシジトレベコルイムホウカイ』になる! 最後にマキヨシジトレベコルイムという意味不明な言葉はノイズと考えられるので削除して残りの呪文を取り出す! すると出来上がる言葉は、ナイトフィーバーホウカイ! この呪文は、フォレストピア・ナイトフィーバーという店が崩壊するっている予言なの!」

 こうしてソニアは、一気に呪文解読をやってのけたのだった。

「やばくね?」

 ラムリーザはそう答えたが、ジャンは「待て待て」と言う。

「そんなやり方がまかり通るなら、何でもできるぞ? ハシナヘニボアテウエイメについては、周囲を見渡したら風船があるので、頭に風船を、おっぱいが目につくので中間におっぱい、そしてコテージの怪談と考えると最後にお化けを加えるのだ。すると出来上がる言葉は『風船ハシナヘニボおっぱいアテウエイメお化け』となる。ハシナヘニとアテウエイという意味不明な言葉はノイズと考えられるので、削除すると出てくる言葉は風船おっぱいお化けになるぞ? こんなのでいいのか?」

「うっ、うるさいっ! ジャンなんかドロヌリバチの巣にある蜜を吸っている最中に刺されて死んだらいいんだっ!」

「なんで俺がドロヌリバチの蜜を吸うんだよ」

 その時、ラムリーザ達の背後から「あんもぉ! やってられませんの!」と言う声が響き渡った。

 見るとユコがカードを投げ出して立ち上がっている。ニヤニヤしているレフトールとリリスを見るところ、ユコは一人負けを喫したようだ。

 そしてそのまま無言でテーブル席につくと、懐から書類のようなものを広げた。良く見ると五線譜で、ユコの作成した楽譜のようだった。

「ああ、これも完成していたんですの」

「それじゃ、あたしが歌うからどんな歌?」

 すぐにソニアは飛びつく。しかしリリスが譲るはずがない。

「勝負は既にやったわ。前やったハッキョイで、ロザリーンが一位になったけどロザリーンは歌わないので二位の私がリードボーカル。ミーシャはドベだし、ソニアはボーリングで痴態を晒したから格下げ。そういうわけで、次は私がリードボーカルね」

「ちょっと待ってよ! ハッキョイはあたしがリリスと直接対決で勝った!」

「衆人環視の中、平気でパンツを脱ぎ捨てる人にリードボーカルは任せられないわ」

「あれはリリスが鉄球をパンツの中に入れたたらじゃないの!」

「何っ? そんなことがあったん? もう一度見せてくれや」

 ソニアの痴態を見たがっているレフトール。ジャンも「見てみたいな」とか言っている。

「うるさいですの、これで勝負してください!」

 ユコが取り出したものは、広間に転がっていたエルドラード帝国の国旗とそれを付けている棒だった。大きさは棒の長さが30cmほど、旗の大きさは15平方cmぐらいだ。

「この旗でリリスをしばき倒したらいいのね?」

「違います、砂浜の上を競争して、先にこの旗を取った人が勝利ですの」

「ビーチ・フラッグスだな」

 ジャンはそう言って、ソニアから旗を取り上げて立ち上がった。

「また肉体運動で勝負するーっ」

 ミーシャは不満そうだ。ダンス能力は高いが、それ以外の運動は苦手――というわけではないが、体を張った勝負となると、小柄さが仇となってソニアやリリスに力負けしてしまう。このビーチ・フラッグスでも、最後の競り合いとなった時にソニアやリリスに弾き飛ばされてしまうのは見え見えだ。

「ハンデとしてソニアはパンツに鉄球を入れたままで走ってもらうわ」

「何その変態行為! リリスが入れたらいいんだっ!」

「ここは公平さの徳を極めるという意味で、全員入れたまま勝負したらええんと違うか?」

 レフトールはナイスな提案をするが、もちろん受け入れられることは無かった。

「別の勝負にしようよー、数学の問題早解きとかー」

 ミーシャは他の勝負方法を提案してくるが、勉強などをソニアやリリスが受け入れるはずが無かった。

「残念ね、戦いは始まる前に勝負がついている物よ。これが戦争、子供は下がってなさい」

 ミーシャは子供呼ばわりされて頬を膨らませ、リリスは怪しげな微笑を浮かべ、その手には――

「ちょっとリリスなんで鉄球持ち出しているのよ!」

「入れなさい」

「やっ、やだっ!」

 何だか知らないが、ソニアとリリスは組み合ったまま別の勝負が始まってしまった。

 今回は警戒していたソニアはパンツへの鉄球の侵入を許さず、鉄球を持ったリリスの手を掴んでまま離さない。リリスは組み合った衝撃で鉄球をポロリと落としてしまったが、それでも二人は組み合ったままだった。

 そこにこっそりとミーシャが忍び寄ってくる。

 ミーシャは転がっている鉄球を拾って、少しの間鉄球と組み合ったままの二人を交互に見つめていた。そして次の瞬間、流れるような手つきで鉄球をリリスのパンツの中に忍び込ませた。

 リリスのパンツはストーンと足首の所まで落ちる。

「ちょっ、まっ、なっ?!」

 リリスは非常に慌てたような声をあげて振り返るが、ミーシャは既に離れた場所に逃げてしまっていて、誰がやったのか分からないようだ。

「ちょっとソニアあなた手を離しなさい!」

「そうはいくか!」

 ソニアは自分の巨大な胸が邪魔をして、組み合っているリリスの足元すら見えにくい。だからパンツがずり落ちていることに気が付いていない。

 そしてリリスは、ソニアが手を離してくれないので、パンツを直すことができないでいた。

 こうしてミーシャは、子供呼ばわりしたリリスに対して復讐を成し遂げたのであった。

 ビーチ・フラッグスの勝負?

 リリスも取り乱してしまったことだし、お流れになりましたとさ。世迷いごとはおしまい。
 
 
 
 
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