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四呪文の解読 完結編

 
 8月2日――

 

 朝一で母親ソフィアに本館へ呼ばれたラムリーザは、そこでマトゥール島の別荘での休暇は一週間後で終わりにすると聞かされた。

 そうなると、この残り一週間で石版の解読を終わらせなければならない。

 あまりためにならない訓令というかまじないの類で終わらせてもよかったが、そんなものなら隠さずに飾っておけばよいはずだ。わざわざ島の各地に隠されていた意味がわからない。そもそも訓令なら地図は必要無いではないか?

 二週間も海岸で過ごせば海も飽きてくる。島民の居住区は、ポッターズ・ブラフ以上の田舎町。内陸はリン鉱石の採掘場や原油精製施設があるぐらいで遊ぶ場所は少ない。

 そういうわけで、ラムリーザは個室に篭って石版とにらめっこだった。

 例外はリゲルで、釣り好きな彼は釣りさえできていればどれだけ続けても飽きないのだと言う。ラムリアースが居なくなったので船は出せない。そんなわけで、今日は岬の先端へ行って楽しんでいるようだ。

 

 今日はラムリーザとソニアの二人で石版を眺めていた。ソニアは先日のように無茶苦茶な理論で解読してくるので役に立たないと思うが、「リリスと遊んだらパンツに鉄球を入れられる」とわけのわからないことを言って砂浜に出ようとしないのだから仕方が無い。

 

 ムイルコベレトジシヨキマ

 

 改めて文字の羅列を見てみると、これは縦に四文字ずつ三行かかれているのだ。

「しべむ、よれい、きとる、まじこ」

「えっ? 何?」

 突然ソニアが謎の呪文を唱えたので、ラムリーザは思わず聞き返した。

「そう書いてあるよ。左から読んだ」

 どうやらソニアは、横に読んだようである。

「よれいは予鈴みたいだね。きとるは来とると読めるし、予鈴が来ているになるのかな?」

「まじこは、昔マ・ジ・キャラットってのがあったので、それの関係だと思うの」

「いや、それは違うと思う。反対側からも読んでみよう。えっと――、こじま、るとき、いれよ、むべし」

「小島?」

「うーん、この島に小島は――あったなぁ」

 ラムリーザが一番に思い浮かんだのは、島の東海岸から見えるフォースデビルズヘッドだ。あの四つの崩れた顔を連想させるような岩山も、海から突き出た島と言えないことは無い。

「いれよは、何かを入れるだと思うよ」

 珍しくソニアがまともに機能している。役に立たないだけだと思っていたけど、場合によってはちゃんとやってくれるのだと、ラムリーザは改めてソニアを再評価してあげていた。

「では、むべしはどうなる?」

「殴られて顔が崩れて、断末魔の叫び、むべし!」

 しかし徐々にメッキが剥がれつつあった。

「まあいいや、他の石版に書かれた呪文も横読みしてみよう」

 そう言ってラムリーザは、残りの石版をテーブルの上に並べるのだった。

 

 

 午後になり、昨日本土に戻った輸送艦が戻ってきた。資源を本土に送った代わりに、生活物資を積んで戻ってきた。

 この島から資源を運び出す代わりに生活物資を得る。島民の生活は、これで成り立っていた。

 もっとも土着の民はおらず、全てフォレスター家が雇った開発員だけ、管理人などを除けば期間工のようなもので、契約期間だけ島で働いて金を稼ぐといった人がほとんどであった。

 ラムリーザはソニアと二人で港へ行き、物資が運ばれている様子を眺めていた。

 主に小麦の入った袋が十袋以上、牛や豚、鶏などの家畜が運び出されている。積荷はほとんど食料のようだ。島でも少しは栽培しているが、ほとんどは本国からの補給に頼っている。

 食料以外は衣類などその他消耗品。燃料などエネルギー源は島にいくらでもある――というより島で生産しているので現地調達となり、本国からの補給は無い。

 こうして二人はそれらが港から居住区へと運び込まれていくのを眺めていた。

「今夜は物資も豊富になったことだし、美味しいステーキとかご馳走してくれるかな」

「やっぴー」

 なんだかソニアは嬉しそうだった。これまで散々変な物を食べさせられてきたが、これからはまともなものが食べられるのだなぁ、と。

 もっともキャンプを演出するために、あえて釣ったり取ったりしたものを調理していただけで、これまでも普通のご馳走にありつけていたということは、ソニアには内緒である。

 

 夕食後、ラムリーザはリゲルの部屋へと石版を持って赴いた。ソニアの発見した読み方を使って、再びリゲルに呪文の解釈をしてもらうためである。

「どうした? まだ石版が気になるのか?」

「まあね、これまでは縦にしか読んでいなかったけど、横から読んだらまた別の解釈が生まれそうなんだ。小島とか予鈴とか、来ているとか、また別の意味がありそうな言葉が出てきたんだよ」

「なるほど、視点を変えて読んでみる。それは気が付かなかったな」

「たまたまソニアが僕らとは違う読み方をしただけなんだけどね」

「ん、あいつはズレているところがあるからな」

 そんなことを言いながら、リゲルは再び石版を手に取った。

「するとこれはこうなるわけか、メイエウテアボニヘナシハだから横に読むと――へてめ、なあい、しぼえ、はにう。反対に読むと、うには、えぼし、いなあ、めてへ、となる」

「えぼしは烏帽子かな? ユライカナンとかでよく使われている、礼服で着用するとんがった帽子の事」

「うにはというところは、海岸に居るウニかもしれん。他の物も見てみよう、メチシナテイカンヘサガトだから――、へてめ、さいち、がかし、とんな。また『へてめ』が出てきたぞ?」

「反対から読むと、なんと、しかが、ちいさ、めてへとなるね。めてへは同じとして、出だしはなんと?!」

「なんと?!」

 ラムリーザが叫ぶと、リゲルも呼応したので続けて読んでみた。

「なんと、しかが――、なんと鹿が! 小さめ! てへっ☆」

「なんだか知らんが、普通に文章になったな」

 ラムリーザとリゲルは、お互いに顔を見合わせて頷いた。

「それじゃあ最後の呪文はトヘオナストカレスハブタだね。豚ーっ」

「横から読むと、すすと、はとへ、ぶかお、たれな。反対から読むと、なれた、おかぶ、へとは、とすす。ゲームのパスワードみたいだな、ば行とぱ行を書き間違えるんだよな」

「はとへは鳩へ、なれたが慣れたぐらいしか意味が通らないね」

「ぶかおはブサイクのことだ、ブ顔と言えるからな。しかし横から読んでもまともな文章にならないな」

「なんと鹿が、は?」

「文章になっているが、そんなことをわざわざ石版に残すか? 待てよ、アナグラムの可能性もあるな」

 そう言ってリゲルは自分の手帳を取り出して、四つの呪文を書き写した。

「アナグラムだとしたら、解析に時間がかかるね」

「俺はちょっと調べてみようと思う。何か分かったら呼びに行くぞ」

「わかった、任せる」

 ラムリーザはそう言って、部屋にリゲルを残して広間へと戻っていった。

 

 広間の一角に、異様な光景があった。

 ソニア、リリス、ユコ、ロザリーン、ソフィリータ、ミーシャの女子六人集が、なにやら床に輪になって座り、お互いに神妙な顔つきで見つめあっている。輪の中央には、直径10cmほどの大きさをした鉄球が置かれていた。

「あ、ラムさんどこに行ってたんだ? あれなんかヤバいぜ」

 広間の隅にあるソファーに座っているレフトールが、ラムリーザの姿を見つけてそう言ってきた。

「あの娘達は、一体何をしているんだろ?」

「わからん、さっきからずっと輪になったまま黙っているんだ。不気味だぜ?」

 輪になって談笑しているのならわかるが、黙ったままなのが意味不明だ。

 ラムリーザは、六人の中で一番良識派のロザリーンの傍へ行って尋ねることにした。

「いったい何をしているのだ?」

「彼女たちがいたずらをしないように監視しているのです」

「いたずら? なんでまたそんなことを?」

 その時ロザリーンは、素早く手を動かした。鉄球へと手を伸ばしたミーシャの手を叩いたのだ。ミーシャは手を引っ込めて、てへっと笑った。

 ソニアなどは、視線を鉄球とリリスの間を往復させている。何だかよくわからないが、無茶苦茶警戒しているようだ。

 鉄球と言えば、ラムリーザは昨日の昼間のことが記憶に新しかった。ミーシャがリリスのパンツの中へ鉄球を入れて、パンツが下までストーンと落ちるのを見ていた。その事と何か関係があるのだろうか? と考えた。

 鉄球を囲んで油断ならない姿勢、これがもしも水晶玉だったら、怪しい儀式にしか見えなかったかもしれない。いや、鉄球である分意味がわからなくて、より怪しさをかもし出していた。

「その鉄球に、何か問題でもあるのか?」

「リリスがパンツの中に入れてくる!」

 ラムリーザの問いにはソニアが答えた。

「なんでそんなことを……」

 ラムリーザにはよく分からないが、どうやらこの鉄球一つが彼女達の間に警戒心と猜疑心を生み出しているようだった。そこで自分がこの厄介者を処分しようと手を延ばすと、六人の視線がラムリーザに注目するのであった。そして鉄球を手に取った瞬間、ハッと息を呑むような音が聞こえたような気がした。

 彼女達の視線は、ラムリーザの一挙一動を見逃さないといった感じで凝視している。

 ラムリーザは、この罪作りな鉄球を懲らしめようと持つ手に力を込めたが、さすがにゴム鞠や石と違ってつぶれることは無かった。そもそも鉄球は何も悪い事はしていない。

 そしてラムリーザは、この気の毒な鉄球を持ってコテージから出て行った。恐らく倉庫から持ち出したものだと考え、倉庫の片隅へ転がし、わざわざその上に箱を逆さまにした物を被せて隠しておくのだった。

 不幸な鉄球は、再び平穏を取り戻したのだった。

 

 ラムリーザがコテージの広間へ戻ったとき、何事もなかったかのように六人は輪を解散して散り散りになっていた。

 そして広間には手帳を持ったリゲルも来ていた。

「お、戻ってきたな。どこに行ってた?」

「女の子達を争いに巻き込んでいた物を片付けてきた」

「なんだそりゃ? それよりも、だ。あの石版の呪文は呪文じゃなかった。それよりも解読とか必要な類ではなく、並べ方と組み合わせの問題だったんだ」

「えっ? ということは解読できたのか?」

「だから解読とかそんな小難しいことは必要なかったのだ。まあこれを見てみろ」

 そこでラムリーザは、リゲルの待っているテーブル席へと向かい、その隣へ腰を下ろした。ラムリーザ以外のメンバーも、二人の会話を聞いて興味を持ったようで、みんなテーブルの周りへと集まってきた。

「お前ら鬱陶しいぞ、いつもどおり散れっ」

「なによー、あたし達も見ていいじゃんよー。それに新しい読み方に気が付いたのはあたし」

「しょうがねーな……ってこらミーシャ! そこはダメだ邪魔だ!」

 テーブルの下にもぐりこんで、テーブルとリゲルの間から頭を出してきたミーシャを、リゲルは引っこ抜いてラムリーザと反対側へと座らせた。

 そしてリゲルの謎解き回答編が始まった。

「俺が注目したのは、解釈とか必要無しに普通に意味の通る、こじま、えぼし、小島と烏帽子、そこに着目した。一つ一つ行くぞ、まずは小島が出てくる部分だ」

 

ムイルコ

ベレトジ

シヨキマ
 

 そしてリゲルは、自分の手帳に書かれた文字をみんなに見せた。

「小島の部分はこうなる。しかし、それ以外の単語は意味を成さない。そこでもう一つ、烏帽子だ。

 

メイエウ

テアボニ

ヘナシハ

 

「これも烏帽子以外の単語に意味が無い。しかし後はパズルみたいなものだった。残りの二つもいくぞ」

 

トヘオナ

ストカレ

スハブタ

 

メチシナ

テイカン

ヘサガト

 

「これら二つを三つの文字ごとに分けても意味が無い。しかしだ、これを並べてみると、こうなるのだ」

 リゲルは、手帳の次のページをめくった。そこにはこう書いてあった。

 

メチシナ

テイカン

ヘサガト

メイエウ

テアボニ

ヘナシハ

トヘオナ

ストカレ

スハブタ

ムイルコ

ベレトジ

シヨキマ

 

 得意気なリゲルとは対照的に、他のみんなはぽかあんとしている。手帳を見る限りでは、新たな呪文が生まれたようにしか見えない。

「どうした? これで文章になったぞ」

「どれどれ、なんとうにはなれたこじま、しかがえぼしおかぶるとき、ちいさなあなへとしいれよ、めてへめてへとすすむべし、これでいいのかな?」

 ラムリーザはリゲルの手帳に書かれている文字を、そのまま呼んでみた。

「なんとうにはなれたこじまって、南東に離れた小島みたいだね」

 ユグドラシルはそう言ってから、「あ、そのままの意味か」と付け加えた。

「しかがえぼしおかぶるときは、鹿が烏帽子お被る時? この場合おはをなのだろうね」

「ちいさなあなへとはいれよは、小さな穴へと入れよだね」

「めてへめてへとすすむべし、めて? 進むべしはその方向へ進めばいいみたいだけど、めて?」

 次々に文章が出来上がっていく。しかし最後の文節だけはすぐに分かるものではなかった。

「めてな、これは俺もすぐにはピンと来なかったが、その後の文字に繋がる物として、場所か方向を連想したわけだ。すると馬術の中に、馬手というものがあった。馬の手綱を持つ手の意味で、右手のことだ」

「つまり、どういうことなの?」

 リゲルは一呼吸置いて、まるで自分の発見を誇示するかのように、得意気に言葉を続けた。

「右手、右手へと進むべしだ。その直前が、小さな穴へ入れだから、洞窟か洞穴のようなものがあるのだろう。つまり、その穴の中へ入り、右へ右へと進めということだ」

 周囲から、「ほえーっ」と言った声が上がる。みんなリゲルの呪文解読に感心しているようだ。

 

 南東に離れた小島、鹿が烏帽子を被る時、小さな穴へと入れよ、右手右手へと進むべし

 

 出来上がった文章はこれである。

 最初に出来上がったあいまいな訓令というかまじないの類ではなく、具体的な場所を示していた。

「それじゃあ明日は探検だな」

 ラムリーザはそう言って話を締めくくった。

 テーブルトークゲームではなく、リアルの探検、冒険が始まろうとしていたのであった。
 
 
 
 
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