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冒険開始! 南東の小島へ行ってみよう!

 
 8月3日――

 

 この日の朝、日が昇ってすぐにラムリーザは母の泊まっている本館へと向かっていった。

 今日は、昨日解読できた石版に書かれていた南東にある小島へと向かってみることにしたのだ。

 そこで、自分たちだけで行くのは危険だろうと判断して、作業員を何名か探検隊に加えたいという旨を伝えにいったのだ。

 ラムリーザの自主性を重んじる母親ソフィアは、「万が一に供えてレイジィをいつものような秘密裏ではなく、直接同行させる事」これを条件に、あっさりと承諾してくれたのだった。

 島民に余裕のある者を募集してみたところ、新しい刺激を求めてか多くの人が挙手したのであった。全員を連れて行くとなると島の作業が滞るので、ここはメイドのナンシーに頼んでくじ引きで10人ほど選んで欲しいとお願いするのだった。

 ラムリーザはそこまで下準備を行うと、今度は自分の準備をするためにコテージへと戻っていった。

 

 南東に離れた小島

 

 今回の目的地となった、石版に書かれていた一節目だ。

 コテージの前には既に何人か出てきていて、これから始まる冒険に対して盛り上がっているようだ。

「それじゃあ探検に行く人と行かない人とを決めまーす!」

「なぜソニアが仕切っているのかしら?」

 ラムリーザが戻ってきたとき、ソニアは何かの決め事を始めようとしていた。行くか行かんかなのか?

「行く人は、ラムリーザ、あたし、ソフィリータ、――中略――、ジャン、ユコ。以上、リリスは連れて行かん」

「なぜかしら?」

 一人だけ省かれてむっとするリリス。しかしソニアは気にも留めない様で、よくわからない話を続けてきた。

「連れて行かんから噛め」

「勝手に決めないで」

「行きたい、行きたい。行き、たああぁぁぁぁぁぁいっ! ――って噛みながら叫んで」

「噛む族はあなたでしょ、ラムリーザに引っ付いてばかり。あなたが噛みなさい」

 どうも話が見えない。しかし放っておくと喧嘩に発展しそうなので、ラムリーザはすぐに間に割って入り込んだ。

「せっかくだから全員で行く。島民にも援護を頼んだからね、一大イベントになるぞー」

「リリスは魔女だから、パーティに加えたらお荷物になる」

「あなたは何もしなくても胸にお荷物を抱えているでしょう?」

 しかしソニアとリリスは、それでもお互いにやりあっている。幼稚な二人は何かがあるたびにこうして口論を繰り返している。あまり意味のある内容ではない言葉で……。

「文句ばかり言うなら、二人でお留守番頼むことになるぞ」

 そう言ったことで、ようやく二人の口論は収まった。

 

 コテージ脇の駐車場に停めてあったバンに全員が乗り込み、ようやく冒険の旅が始まった。

 今回も運転手を務めるリゲルは、「南東に離れた小島、あれか……」とつぶやきながら、最初に島一周した時と同じルートを通り、時計回りに島をぐるりと回り始めた。

「あの島、あまり近寄りたくないですの」

 出発した地点で、すでにユコは嫌がっている。しかし声には出さないが、何人かはそう思っていただろう。

 島民にフォースデビルズヘッドと呼ばれているその小島は海岸から突き出た岩山で、四つの崩れたような人の顔が並んでいるようにも見える不気味なものだった。

 自然に削られて出来上がったのか、何者かが意図的に作り上げたものなのかわからなかったが、こうして石版に場所をしていされると、ずっと昔に誰かが作ったものなのかもしれないと考えられた。

「まぁ、みんなで立ち向かえば怖くないですよ」

 ロザリーンはそういって皆を元気付ける。

「そうだぜ、赤信号、皆で渡れば怖くないという標語もあるだろう?」

 残念ながらレフトールの言う標語は、一度も聞いたことはなかった。

「うん、ミーシャ怖くないよ。リゲルおにーやんが居てくれたら怖い物なんて無いもん」

「任せておけ」

 運転席からリゲルの声が聞こえ、ミーシャは「リゲルおにーやん最高っ」と言うのだった。

「リリスも俺が付いているから安心して怖がれ」

 ジャンのリリスへかけた言葉は、励ましか何なのかよくわからないものであった。

 

 東の海岸、最初はそう呼んでいたが、正確な位置は東よりも少し南寄りだった。そこが南東の小島と記されている所以だろう。

 ラムリーザ達は出発に少し手間取った――主にソニアとリリスの口論が原因――ので、リゲルの運転するバンが東の海岸に到着した時には、既に島民のグループが到着していて、簡易テントなどで作ったベースキャンプの設置中であった。

「あっ、ラムリーザ君待ってたよ」

 ラムリーザが車から降りてベースキャンプに向かうと、見知った顔が迎えてくれた。マトゥール島の副管理人のピーター・メナード、最初島へやってきた時に海賊ごっこで出迎えてくれた人だ。

「メナードさんが支援隊をまとめてくれるのですね」

「副管理人は割と暇でな、副が付くだけで楽なものだよ。そんなわけで、坊ちゃん方が島に来たときの面倒はいつも私が担当してきたものだ」

 海岸を見ると、既にクルージングボートが三隻ほど用意されていた。あのボートで不気味な島まで行くのだろう。

 ベースキャンプの脇には、例の水が湧き出している場所があった。砂浜の中央辺りに盛り上がった場所があり、そこから絶え間なく水が湧き出しているのだ。その水は、以前の調査で海水らしいことがわかっていた。

「丁度ボートは三隻あるから、六人ずつ二隻に分かれて乗ろう。残りの一隻は島民の支援隊ね」

 ラムリーザの乗り込んだボートには、ソニアがすぐに飛び乗り、続いてレフトールとマックスウェルが乗り込み、最後にソフィリータとユグドラシルが乗り込んできた。

 そして船頭と一緒に最後に乗り込んできた人を見てレフトールは「げっ!」と声をあげる。

「おい、やばいよこれ」

 マックスウェルも、普段のぼんやりした顔つきはどこかえ消え去り、真剣な表情でレフトールの後ろに逃れようとする。

「それでは出発するぞー」

 そう言って船頭は船尾に立ってボートをこぎ始めたが、レフトールとマックスウェルの二人だけは、船頭の隣でこちらをじっと見つめている人物に怯えていた。

「どうしたんだい、番長」

 いつもと違う様子に、ユグドラシルはレフトールに尋ねてきた。番長は定着したね、うん。

「あいつが来るなんて聞いてない、いや、ラムさんの兄さんも俺にとってはやばかったが、あいつはそれ以上に――」

 レフトールは小声で言いながら、どう動けば良いのかわからないといった感じだ。マックスウェルなどは、あからさまにその男と間にレフトールを置いて隠れようとしている。

 その様子を見て「ふんっ」と鼻を鳴らしたのはソフィリータだ。

「リザ兄様に手をあげるから、レイジィにやられるのです」

「ざまーみろ番長」

 ソニアもレフトールをからかってくる。

 ラムリーザの乗ったボートに乗ってきた者は、船頭となる島民の一人と、ラムリーザの私的用心棒レイジィであった。

 ユグドラシルは初対面なので島民の一人かと思っていたが、レフトールとマックスウェルの二人は、去年のラムリーザ襲撃事件の際に、彼に手痛い反撃を食らっていたのでよく覚えていたのだ。

 ラムリーザはともかく、顔馴染みのソニアとソフィリータは、何とも思っていないので非常に対照的だ。

「一応用心棒として直接連れて行くようにって母に言われたんだ。だから今日は直接的に同行するよ」

「俺はラムさんの用心棒のつもりでこっちのボートに乗り込んだのだが、本物の用心棒を連れて行くなんて俺の立場は……、でもまぁ普通プロに任せるよなぁ……」

 レフトールは、いつもと違い珍しく怯えとがっかりを混ぜ合わせたような表情をしている。

「プロの用心棒は、あくまで危険を取り除くことが第一。プライベートには絶対に関わってこないんだ。たとえ主人が気が付かないような敵でも事前に察知し、人知れず排除するんだ。その行動に、主人は気が付かない事もあるんだ」

「それって、まさか……」

 ラムリーザの台詞に、レフトールはあからさまな焦りを見せる。

「ひょっとしたら僕の知らないところで、狙ってきた敵を始末していたってこともあったかもしれないんだよ」

 レフトールは冗談じゃないと言った感じだ。レイジィに聞こえないように、小声でラムリーザを非難してくる。

「俺にそんな奴ぶつけてきたのかよ」

「いやぁ、あの時は君達のことをよく知らなかったから用心していたのよね。それに君のおかげで警護を置き忘れていたことにも気が付かされた。最初に僕を狙ってきたのが君ぐらいの人だったことに感謝しているよ」

 それもそうであろう。フォレスター家の失態の一つとして、地方へ赴いたラムリーザに護衛を付け忘れたことがあった。

 最初に狙ってきたのが、精々学校レベルの悪で所謂ツッパリ程度だったレフトールだったのが幸いした。本気で襲撃者を送り込まれていたらと思うと、ゾッとしないでもない。

「ふんっ、ラムに歯向かう者は、レイジィに地獄へ落とされたらいいんだ」

「そうそう」

 ソニアとソフィリータは、レフトールに対してニヤニヤした顔を向けている。

 結局島に到着するまで、レフトールとマックスウェルの二人は緊張のしっぱなしであった。

 

 南東に離れた小島、フォースデビルズヘッドと呼ばれる島へと辿りついた。

 岩山はすぐ下から見上げると、ただのごつごつとした岩肌にしか見えず、崩れた顔のようには見えない。

 小島に砂浜は無く、海と面している場所は岩だけだ。波打ち際から岩山まではだいたい10mほどのなだらかなな坂となっており、所々に丸っこい岩が突き出ているだけだ。

 ラムリーザ達はボートから降りて小島に立った。足場はそれほど悪くは無く、胸が大きすぎて足元が見えないソニアもそれほど苦労はしていない。

 ミーシャなどは、ビデオカメラ片手にあっちへ行ったりこっちへ行ったり。しかし小島の広さはそれほど大きくなく、岩山をぐるりと回れは歩いて五分ぐらいで一周できてしまった。

「それで、ここで何をするのかな?」

「鹿が烏帽子を被る時」

 ユグドラシルの問いにリゲルはそう答え、周囲を見渡した。しかし島には動物の姿は見えない。目に入るところで動いているものと言えば、フナムシぐらいだ。そもそもこんな海に囲まれた岩山に鹿が居るとは思えない。

「とりあえず散開して鹿を探すことにしよう。それと、烏帽子を探すグループも作る。さっきボートに乗ってきたメンバーで二分するでいいかな。それじゃあリゲルグループは鹿を探してね」

 ラムリーザはてきぱきと指示を出し、半分のメンバーを率いて小島を時計回りで進み始めた。

 しかし何も収穫も無いまま、数分後小島の反対側でリゲルのグループとぶつかったのだ。

「何かあった?」

「いや、ただの島だった」

 ラムリーザはリゲルに聞いてみたが、これと言った収穫は無いようだ。

 そもそも鹿が居るわけが無い。烏帽子があったとしても、風でどこかに飛んで行ってしまうのがオチだ。

「恐らく昔はこの小島も緑豊かで動物とか居たのだろう。それが長い年月をかけて浸食されていき、今ではただの岩になってしまったのかもしれんな」

 リゲルは海の方を眺めながらそうつぶやいた。

「それじゃあこの文は飛ばして、次の文節を調べる?」

「次、小さな穴へと入れよ」

 ラムリーザに促されて、リゲルは手帳を取り出して確認した。

「小さな穴、あったっけ?」

 再び二手に別れ、島をぐるりと一周する。しかし何も収穫を得られないまま、再び二つのグループは合流する事となった。

「やっぱり過去の話か、とくに意味の無いことだったのか、そもそも南東の小島自体間違えているとか」

 しかし東の海岸に面した方向で、小島がある場所と言えばここだけだった。

 休憩するもの、周囲を撮影して回るものに分かれた。主にミーシャとソフィリータの二人とそれ以外。

 ミーシャは周囲の岩を撮影して回っている。ソフィリータはそれに付き添っている。

 その時、一つの岩の前でミーシャは立ち止まった。その岩は岩山から突き出るような形になっていて、その先端には小さな枯れ木が二本立っている。

「おおっ、これは何だか趣のある岩なのだ」

 ミーシャはその突き出た岩を色々な方向から撮影して回っている。

「なんだか馬のような形をした岩ですね」

 ソフィリータの言うとおり、その岩は丁度馬の首から上にも見えなくなかった。岩山から馬が首を突き出している。

「でもこの枯れ木二本が角に見えるよ、ユニコーンかなぁ?」

「ユニコーンは一角獣です。でもこれは二本だから、え~と、鹿ですか?」

「いーや、ミーシャにはこれは馬に見えるの」

「馬に角はありません、鹿です」

「馬!」

「鹿!」

 なんだか二人が騒いでいるので、ラムリーザとリゲルの二人は様子を見にやってきた。

「何を騒いでいるのだ?」

「ミーシャこれが馬に見えるのに、ソフィーが鹿って言うの」

「この枯れ木が鹿の角に見えませんか? これは鹿です」

「鹿だな」

 ラムリーザはソフィリータの案に賛成した。リゲルはミーシャの味方をしようと思ったが、岩を良く見てから「これは鹿だな」と答えた。

「馬!」

 ミーシャはまだ諦めていない。

「鹿をさして馬となしてはダメだ。――ん? 鹿?」

 リゲルは、岩山から突き出た鹿の首を見て何かが引っかかったようだ。

「呪文にあった鹿ってひょっとしてこれのことかな?」

 ラムリーザは、リゲルの雰囲気から察したようだ。

「恐らくそうだろう。と言うことは、烏帽子を模った岩があるかもしれない」

 そうして今度は、岩の形に注目しながら小島を一周したが、残念ながら烏帽子の形をした岩は無かった。

「う~む、思い違いだったか?」

 リゲルは腕組みをして考え込む。

「鹿は見つかったのにね」

「二つの岩に挟まれた場所とかに、小さな穴が隠されていると思ったのだが、そう簡単には答えに辿りつけないようだな」

 ラムリーザは、そこで鹿の岩をじっくりと観察してみる事にした。

 その岩は見れば見るほど鹿にしか見えなくなり、二本の枯れ木も自然に生えたものというより、人工的にそこに埋め込まれたようにも見えた。そもそも岩肌に木が生えるわけが無い。そして鹿の頭の部分、そこには角の間に丸い溝があり、まるでそこに何かをはめ込むかの様に見えた。

「鹿が烏帽子を被るだっけ? この岩の頭の部分、何かをはめるみたいだよ」

 ラムリーザは自分が発見した事をリゲルに報告した。

「はめ込む烏帽子か、それなら転がっている岩に注目すべきだったな」

 しかしちょうどその時、またソニアとリリスが騒いでいるような声が聞こえてきた。

 何やらリリスは、だいたい20cmほどの両手で抱えるぐらいの岩をソニアに押し付けている。

「これなんだか帽子みたいだから、あなた被りなさい」

「石の帽子なんてやだ。不思議な帽子だったらかぶる」

「それじゃあこの岩をパンツの中に入れなさい」

「絶対やだ!」

 リリスは重たいものをパンツに入れると、ソニアにダメージを与えられるという事に気が付いてからそればかりだ。相変わらずソニアは際どいミニスカーとで入れやすそうだが、リリスは探検に行くと聞いていたのでズボンスタイルだ。

「また変なことをしようとする。これは没収」

 ラムリーザはリリスから帽子のような小岩を取り上げた。しかし小岩ならいくらでも転がっているから、すぐに別のものを拾って――、そこで気がついた。この周囲には転がっている小岩はこれ一つだった。

 それだけではない、突き出た岩はいくつかあったが、それなりの大きさをした小岩はこれだけだったということに気がついたのだ。

 ラムリーザが手に持っている小岩は帽子のようであった。ユライカナンの知識があればそれが烏帽子の形をしていると分かったのだが、ラムリーザは烏帽子を見たことが無かったので、それがそうであることに気がつかなかった。

 しかし帽子は帽子だ、一応リゲルに報告してからラムリーザはその岩でできた帽子を、同じく岩でできた鹿の頭へと乗せてみた。

 偶然なのかそうできていたのか、鹿の頭にあった小さな溝に、その岩の帽子はすっぽりとはまったのであった。

「烏帽子を見たことはないが、これで鹿が烏帽子を被ったということになるのかな?」

 ラムリーザは振り返ってそう言った。

「つまりこれで二文節目まで謎解きができたわけだ。しかしこれが何だと言うのだ? 何かの儀式か? そもそも鹿に帽子を被せる必要が――」

 リゲルがいろいろと語っている途中にそれは起きた。

 烏帽子を被った鹿の岩が、10cmほど沈み込んだのだ。その直後、ゴリゴリと岩を擦るような音が周囲に響き渡ったかと思うと、鹿の形をした岩の右隣に位置する岩肌に、大きな穴と小さな穴がぽっかりと開いたのだった。

 穴の大きさは、それぞれ人が少しかがめば入れるぐらいの小穴と、立って歩いても天井まで余裕のある大きさの大穴。それは小島の中央にある岩山の奥へと通じているようだった。

「――小さな穴へと入れよ、か」

 リゲルはそうつぶやき、真っ黒な横穴を見つめているのだった。
 
 
 
 
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