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小さな穴を右へ右へと進むべし

 
 8月3日――

 

 南東に離れた小島フォースデビルズヘッドにて、鹿の形をした岩に烏帽子の形をした岩をはめ込むことで、傍の岩山にぽっかりと穴が開いたのだった。

 背丈以上の大穴と、少しかがんで入れるぐらいの小穴。どちらに進むのが正解か?

「三つ目の文節は、小さな穴へ入れだったね?」

「そうだ」

 リゲルは大きな方の穴には目もくれず、小さい方の穴を覗き込んでいた。

「入っていくならライトが必要だなぁ」

「レミーラ!」

「は?」

 ソニアは洞穴の中に手をかざして、謎の台詞を発した。ソニアの手の先は光り、洞穴の中を明るく照らし――はじめなかった。

「脳筋戦士が呪文を使おうとしている、くすっ」

 リリスはそんなソニアの様子を後ろから見つめながらくすりと笑う。そして何を思ったか、突然後ろからソニアを突き飛ばしたのだった。ソニアは前につんのめって洞穴の中へと三歩ほど入ってしまった。

「ちょっまっな、にっすんのよっ!」

 ソニアはびっくりして洞穴から出てこようとするが、リリスが素早く通せんぼをして外に出させない。そのまま二人は、洞穴の入り口付近で押し合いが始まってしまった。ハッキョイノコリッ!

「意味の無い事してないで、ライトを取ってくるまで奥の方へと行くのじゃないぞ」

「あ、それなら私が取ってきます」

 立ち上がったのはソフィリータだ。身軽なソフィリータなら早く取りにいけるだろう。

「それと、できるだけ長いロープも用意しろ」

 リゲルはさらに注文を加えた。

「ライトとロープですね、わかりました」

 ソフィリータは立ち上がり、ボートを停めた辺りに作った小島でのベースキャンプへと向かっていった。

「小さい穴が正解だとして、大きな穴はどうする?」

「罠の可能性があるから、入らないほうがいいだろう」

 ラムリーザはリゲルの判断を採用して、大きな穴へは入らないよう皆に促すのだった。

 

 ソフィリータの帰還を待って、いよいよ洞穴の探検を始めることになった。

「何人かはいざと言うときのために残っていたほうがいい。それに、あの鹿の岩と烏帽子の岩が洞穴の入り口と連動しているのは間違いない。もし帽子が外れたら入り口が閉まってしまう可能性がある。その時のために、待機している人も必要だ」

 リゲルはラムリーザに変わっててきぱきと指示を飛ばす。

「それじゃあ俺が残っていてやるよ」

 そう答えたのはマックスウェルだ。彼はあまり洞穴探検に興味は無いらしい。

「私も外で待機しますの」

 続いて待機組みに名乗り出たのはユコだ。こちらは純粋に洞穴の中が怖いのだろう。

「ミーシャも怖いから待つのー」

 ミーシャは洞穴の中をビデオカメラで撮影しようとしたが、真っ暗で何も写らなかったので止める事にしたようだ。それほど高価なカメラではないので、暗い所では上手く撮影ができないようだ。

 ――と思ったが、そのカメラをソフィリータに渡している。つまりミーシャも洞穴が怖い、と。

「そうだ、ロザリーンに頼みがある」

 そう言ってリゲルは、ソフィリータの持ってきたロープの端をロザリーンに持たせた。

「このロープをどうするのですか?」

「入り口に待機して、このロープを持っていて欲しい。どこかにくくりつける場所があればよいのだが、周囲は岩肌だけだから持っていてもらう。このロープを手放さずに進めば中で迷うことが無いというわけだ」

「なるほど、分かりました」

 ロザリーンはロープの端を持ったまま、入り口で待機することになった。

「ソニアも危ないから待機ね」

 ラムリーザはソニアに待機を促したが、「やだ」と返された。そして「ラムが行くなら行く、行かないなら行かない」とお決まりのフレーズを展開してきた。

「そうだな、ラムリーザは待機したほうがよいと思うぞ」

 リゲルはそう提案してくる。指導者は後方で待機しているものだ。

「いや、正直奥がどうなっているか見てみたいんだ」

 好奇心は身の破滅とも言うが、ラムリーザは好奇心の方が勝ってしまっているようだ。この地点でソニアも同行決定。

「ジャンはどうする?」

「リリスが行くなら行く、行かないなら行かない」

 ジャンは、ソニアの方をニヤニヤと見つめながらそう言ってのけた。

「なによジャンのリリスストーカー」

 ソニアは自分の台詞を意図的に真似されたと気がついて、ジャンに非難の言葉を浴びせかけてきた。

「まさにブーメランだな。ラムリーザストーカーが、他人をストーカー呼ばわりしている」

「ジャンはデスストーカーだから、覆面マントにパンツ一枚になればいいんだ――っ、むーっむーっ」

「とりあえず僕が先頭を歩くから、中に入りたい人はロープを伝って入ってきてね」

 ラムリーザはもがくソニアを抱えて、ロープを持って洞穴に入っていこうとして、あることに気がついて一旦止まった。

「先頭はレイジィ頼むよ」

「かしこまりました」

 ラムリーザは、ロープの先端をレイジィに渡し、自分はすぐその後について入った。ソニアが後に続き、その後ろにはリリスが続いた。ソニアとリリスが並んでいるのは不安要素でしかないが、ラムリーザは順番まで指定する気にはならなかったので、気にせず先へと進んでいった。

 リリスの後にはジャン、リゲルと続き、ソフィリータとユグドラシル、そしてしんがりはレフトールとなった。

 こうして八人と、護衛のレイジィを加えた九人は、小さな洞穴へと入っていったのである。

 洞穴は、背を伸ばして歩くと頭がぶつかってしまうほどの高さだ。そこで一同は、少しかがみ気味で進行していった。

 リリスなどは、すぐ前を歩くソニアが少しかがんでいるので、後ろから見ると短いスカートからパンツがチラチラと見え隠れしている。そこで、ここにあの鉄球があれば面白いのに、などとくだらないことを考えているのだった。

 ジャンとかは、すぐ目の前にあるリリスのお尻に触る誘惑と戦いつつ、別に減るもんじゃないし触ってやろうか、などと不埒な事を考えているのだった。

 その後ろのリゲルは、二本目のライトで前方を照らしながら進んでいく。

 そこにラムリーザからの問いかけがあった。

「前方に分かれ道があるよ、どっちに行こうか?」

「馬手というやつだな、右方向へ進めばいいはずだ」

 リゲルは、四枚の石版を組み合わせて作り上げた文節の、最後の一行を今実行しているのだという感覚はあった。文章はこれで終わり、とにかく右へ右へと進むしか無い。

 ラムリーザはリゲルの話を聞いて、先頭を歩くレイジィを右へ進むように促した。

 リゲルの後ろを歩くソフィリータは、自分もラムリーザの傍を歩いて警護したいと思っていたが、その一方でレイジィが付いているから良いかと考え、自分の後ろを歩くユグドラシルの護衛になればいいや、などと献身的なことを考えていた。

 ユグドラシルなどは、この冒険物も学校のイベント企画として何かに繋げられないか、などと考えていた。

 最後尾のレフトールは、三本目のライトを持って後方から照らしている。レフトールは、レイジィについていろいろと考えていた。ラムリーザに対するプロの護衛、それは今の自分が自称しているラムリーザの騎士とは違い、本物であった。本気で護衛するなら、彼のようにストイックに構えなければならないのか? いや、自分はもっとラムリーザの傍に身を置いていたい。そのためにはどういう道を歩めばよいのか、などと普段のレフトールからは思いもよらないような、建設的で将来を見越した考えを張り巡らせているのだった。

 その内、洞穴の感じも変わってきた。

 最初は明らかに人工的に削ったような壁だったが、三度目の分かれ道で右側を選んだあたりから、ごつごつとした天然の岩穴と変わっていった。

「天井がゴツゴツしていて、頭をぶつけたら危ないので、上に気をつけようね」

 ラムリーザは、ライトを持っていないほうの腕を頭の上に掲げて、天井に頭をぶつけてしまうのを防いで進んでいった。

「金塊探しゲームも、リアルで見たらこんな感じなのだろうねー」

 ソニアは、夏休み前ぐらいからプレイしている金塊集めを思い出しながらそうつぶやいた。もっともパズル的な要素がソニアは苦手で、このゲームに関してはラムリーザがプレイしている方が多い。

「あなたはそれをやっているのかしら?」

 それを聞きつけたリリスはその話に食いついてきた。なんだかんだでソニアとリリスはゲーム仲間でもあった。

「うん、でもあれ難しいからラムがプレイしているの見てることが多いよ。リリスは何をやってんの?」

「私はバージョンアップした格闘ゲームの新作を極めてる。いつでも勝負してあげるわ、ダブルニー投げられを食らわせてあげるから、いつものキャラで対戦挑んで来なさいよ」

「ふんっ、あんなクソゲー知らない、前のバージョンだったら対戦する。それよりも今の時代はパズルゲームよ、金塊集めは頭の体操になっていい感じ。ステージのエディット機能もあるから、あたしの作った面をクリアできたらなんでもしてあげるから」

 ただしソニアは、そのパズルゲームでよく詰まっている。その一方でエディット機能で自作のステージを作ってラムリーザにプレイさせてくるが、毎回どう考えてもクリア不可能なステージばかり作ってきてはラムリーザを困らせている。ラムリーザが困惑する姿を見てニヤニヤしている困った娘だ。

「それよりも、たまにはマインビルダーズのマルチプレイに入ってきなさいよ。ユコもあまり来ないから、ほとんど私のソロプレイになっているわ」

「だってリリスの作った嫌がらせ施設しかないもん」

 リリスはたまにソニアがマインビルダーズのマルチプレイにログインしてくると、決まって自作の施設へと送り込む。

 破壊できない岩盤でできた立体迷路に閉じ込められたこともあるし、足元に爆弾が地雷のように仕掛けられた部屋に閉じ込めて爆死させたり、「押すな」と書かれた立て札の傍にボタンがあり、それを押すとはるか上空にテレポートされて、落下死させられたりする。「あなたは都市の上空にテレポートして地面に落下した」などというメッセージも、ご丁寧に添えられていた。

 世の中には人の嫌がることを進んでするといった美徳もあるらしいが、どうやらこの二人もお互いに人の嫌がることを進んでやっているようだ。多少アレンジを施して……

 頭上に注意しながら少しずつ進んでいった。皆ロープを頼りに進んでいるので、これまでの分かれ道もどこからやってきたかはすぐに分かる。道はなだらかな下り坂となっていて、どんどん地下深くへ潜っているようだ。

 そして五つ目の分かれ道を右へと進み少し進んだところで通路は終わり、割と大きな空間へと辿りついたのであった。
 
 
 
 
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