home > 物語 > > 昼下がりの五人組み

昼下がりの五人組み

 
 8月9日――

 

 青い空に白い雲が浮かんでいる。

 マトゥール島でのキャンプ生活も、残すところあと二日となった。明日が終わると、明後日はいよいよ帰国する日となるのだ。

 

 ラムリーザは、この日は特に何もするでもなく、砂浜でリゲル、ジャン、レフトール、マックスウェルの四人と寝転がってのんびりしていた。

 こうして五人だけが集まるのは、このキャンプ中初めてかもしれない。

「いろいろあったよねぇ」

 ラムリーザはぽつりともらした。キャンプ生活も三週間近くなると、いろいろなことがあったものだし、そろそろ飽きも来る。

「俺はほとんど釣りをしていたかな」

 リゲルはラムリーザの言葉を受けて、そう答えた。

 ポッターズ・ブラフ地方もフォレストピアも、割りと内陸部にある町だ。それゆえに、海釣りをしに行こうと思えば、バスか電車に乗って海辺まで移動する必要がある。それ以外と言えば、山に登ったりして川釣りか?

 とにかくリゲルは、数年分ぐらいの釣りを、この離れ小島で満喫できたはずだ。

「俺も釣りしてみたり、マックと町に行ってたりしていたかな? たまにはこういう気晴らしもいいもんだ」

 レフトールはそう答える。普段からあてもなく町をぶらぶらしているだけの休暇、ラムリーザと知り合うことでレフトールの環境もかなり変わったものだ。

「俺は女子に混じって遊んでいたぞ。いやぁ、ラムリーザも上玉集めてくれて感謝感謝。これだけ上玉集めておいて、ソニア一択なのだから、欲が無いねぇ」

「どんな美人も美少女も、ソニアの可愛さと比較したら霞んで見えるものでね」

「ラムリーザは、おっぱいの大きさがLカップ以上無い女は女として見ていないからな」

「勝手に決めるな!」

「ほんじゃさ、俺がLカップの胸を持てたら、ラムさんは俺を女と見てくれるのか?」

 そこにレフトールが口を挟んでくるが、ラムリーザは顔をしかめて言い返すだけだ。

「気持ちの悪い変なことを言うな」

「マック、お前俺とつるんでないとき何やってた?」

 レフトールは、さらっと話題を転換してきた。いつも寡黙でぼんやりとしているレフトールの一番子分は、のんびりとした声で「昼寝してた」と答えた。

「そういえば、僕も砂浜で横になって昼寝と言うか日光浴していたけど、マックスウェルも近くに居たような気がするなぁ」

 ラムリーザもマックスウェルと同じく、イベントのないときはごろごろと昼寝派だ。自宅でも、窓際やウッドデッキに置かれたリクライニングチェアが指定席だった。

「ラムさんとマックって、どんな会話するん?」

 レフトールは二人にやたらと食い込んできた。

「来年はまだ生きてるかなーとか?」

「ワニマン病院は、待ち時間が少なくて快適だ、とか?」

「饅頭の中身は小豆より栗だよなとか?」

 ラムリーザとマックスウェルの回答を聞いて、レフトールは首を捻って「お前ら老人か?」とだけ返してきた。

 

 海を見ると、女子たちが各自それぞれゴムボートに乗ってぶつけ合っている。五つのボートで戦争ごっこでもやっているのだろう。あっ、リリスの突進を食らってミーシャが海に弾き飛ばされた。

 ソフィリータとユグドラシルの姿が無い。二人で町にでも出かけたかな?

 
砂浜で寝転がる五人
 ラムリーザ達五人は、頭を内側にして円になった砂浜に寝転がっていた。ラムリーザを起点にして、時計回りにリゲル、レフトール、マックスウェル、ジャンの順に並んでみた。この様子を上空から撮影したら、良いシーンになるだろう。

「おおっ、なんか青春のワンシーン?」

 ジャンは、なんだか上機嫌になっている。

「俺たち仲間だぞ。裏切った奴は怒るでしかし!」

 昨夜プロレスで、ラムリーザをボコボコにしたレフトールが、仲間を強調する。もっとも昨夜のは、プロレスという演技のものでもあったわけだが。

「よし、この五人を主力メンバーにして、団体戦の順番を決めよう。大将はラムリィで、あとはどう配置するか決めてしまうんだ」

 ジャンの提案で、何故か勝ち抜き戦のメンバー決めが始まってしまった。

「俺は先鋒やってやる」

 レフトールは切り込み隊長を請け負うつもりだ。

「三人抜きして副将と引き分けてやるから、あとは任せたぞ」

 五人抜きはしないつもりらしい。

「副将はリゲルかな? ジャンかな?」

「リゲルっぽいな、ジャンは次鋒になって、ぐおごごごとか叫びながら敵に突進するけど、カウンター食らって秒殺される役目」

「なんでやねん」

 ほとんど人数合わせ役にされたジャンは不満をこぼす。

「これで敵の大将に次鋒が負けたから、次は中堅マックスウェルかな?」

「待て待て、俺ホントに秒殺でやられる役?」

「また派手に大流血食らってレフェリーストップになるんだ」

「それは昨夜の演出だ!」

 ジャンは訂正するよう食い下がるが、話題は敵の大将対中堅のマックスウェルという話になった。

「それで、大将相手にどう攻める?」

 ラムリーザの問いに、マックスウェルはのんびりと答えた。

「まず場外に落とす。それからガチで胴締めスリーパーをかけて動けなくする。そのまま両者リングアウトで引き分けに持ち込む。これで団体戦こっちの勝ち」

「しょっぱいのぉ」

 レフトールはつまらなそうにぼやいた。

「いやいや、最初に君が三人抜きして四人目と引き分けるって流れにしたから、こういう展開になってしまうんだぞ」

 ラムリーザは反論する。前提からしてレフトールはやりすぎだ。

 そこでジャンは、代案を出してきた。

「そうだな、そこは俺ならこうする。先鋒のレフトールは二人抜きするけど、敵の中堅に負ける。次鋒の俺は玉砕してもええわ。それで中堅戦になるけど、マックスウェル一勝。次は敵の副将に挑むけど敗北。そしてリゲルが登場して副将戦になるわけだ。これを引き分けにしたら、大将同士の戦いで決着となり盛り上がるぞ? どうだ?」

「なんだかジャンが負け役で定着しそうな流れだね」

「むっ、見てろよ。俺はここ一番という大勝負でラムリーザ、お前に勝ってやる」

「そういうブックにするのだろ」

「折角の熱血展開に水を差すなリゲルン!」

「何がリゲルンだ、気持ちの悪い変な呼び方をするな!」

「お前らはラムリン、リゲルン、レフトン、マックンだな!」

「その呼び方、ジャンだけ変えようが無いね」

 なんだか妙な会話が展開されている、日差しもまだ穏やかな午前中の出来事であった。

 海上では、ソニアとリリスの一騎打ちが始まっていた。お互いにゴムボートをぶつけ合っている。残りの三人は、二人を囲むようにして、同じようにゴムボートに乗ってぷかぷかと揺れている。

 

「ところでさ、巷で話題になっている話があるんだけどさ、俺たち丁度五人居るから聞いてみよう」

 唐突にジャンは、話題を展開してきた。

「俺たち五人はとある雑貨屋に行って、なんでもいいから食べ物でもお菓子でも買いました。どこかに座って食べようと店を出ると、丁度四人掛けのベンチが二つ並んでいます。さて、どのように座る?」

 なんだろうか? 診断テストみたいなものだろうか?

「お前ら四人座っとけ。俺は立って食べる」

 一番に答えたのはリゲルだ。どちらかと言えば馴れ合いをやりたがらないリゲルの振り分けか。

「いや、そこは僕が立つよ。君達が座って食べたらいいさ」

 譲り合いの精神というわけではないが、ラムリーザも立つことを主張する。

「それはいかん。領主のお前を立たせていたら、俺たちは何かという話になる」

 リゲルは、多少権威主義の所があるので、ラムリーザが汚れを買って出るのを否定しがちだ。

「マックお前立てよ」

 レフトールはマックスウェルをハブろうとする。

「だめだぞ、子分を大切にしないなんてレフトールらしくないぞ」

「お前ら立つ立つ言ってるが、ベンチはもう一つあるんだぞ? それ忘れてないか?」

 ジャンは、話を軌道修正させる。

「めんどくさいから全員立って食おうぜ」

 レフトールは話を投げ出してしまった。仕方が無いので、ジャンは無難な持論を展開することにした。

「しょうがない奴らだな。普通にラムリンとリゲルンの組み合わせ、レフトンとマックンの組み合わせてでそれぞれのベンチを使えば良いんだよ。そこで俺は、気が向いた方に加わるのだ。一人だけハブるようなことは、俺たちはやってはならないのだよ」

「おっ、なんかジャンかっこいいこと言ってるような気がするぞ」

 ラムリーザは、少し茶化し気味に答えた。

「仲間だろ」

「なるほど、ジャンにとって俺たちは、スカウトされた悪魔らしい」

 リゲルが難しいことを言ってくる。悪魔とは?

「なんやそれ」

「仲魔だろ?」

 残念ながら、他の四人にはいまいち伝わらなかったようだ。詳しく話せばレフトール辺りは「ああ、あれか」と答えただろうが、言葉の上では仲間も仲魔も読み方が同じなので伝わらない。

 一方海上の決戦は、いつの間にかゴムボートのぶつけ合いから、ゴム製のオールを使ったチャンバラへと発展していた。ソニアとリリスは、まるで騎乗戦でもやっているかのように、ゴムボートを操縦しつつ相手をオールで叩きあうといった勝負を繰り広げている。

 近くは危ないので、残りの三人の輪は少しばかり広くなっていた。

 

「ところでラムさん、ラムさんの周りで働いている人ってどんな人が居る?」

 レフトールの質問に、ラムリーザは少し考えてから答えた。

「僕が知っている範囲では、執事、メイド、この二人はソニアの両親ね。あとはコックとか警護の人とか、それから――」

「警護かなぁやっぱし」

 ラムリーザの台詞を遮るように、レフトールは言葉を被せてきた。

「警護? レイジィの弟子入りでもするのか?」

「ん、なんでもないよ。ただ俺は将来どうしようかなってね」

 レフトールは、首を横に振りながら恥ずかしそうに言った。

「ほう、番長の分際で真面目なことを考えているものだな」

 そこにリゲルが皮肉を飛ばしてくる。

「うるせーな、ラムさんの騎士を完全な物にするにはとうしようかなってね。それよりもリゲルはどうするんだよ?」

 レフトールは苦しそうに、リゲルに問いかける。

「俺は昼間は家の仕事をやりつつ、夜は天文台に篭りきりという生活を狙っているさ」

「天文台?」

 レフトールには、あまり馴染みのない単語であった。

「簡単に言えば望遠鏡のでかいやつだ、とだけ言っておこう」

 フォレストピアに、大規模な天文台を作るという計画も進んでいた。

「けっ、星を見る人かよ。そっちのジャンは? ってかお前なんでおっぱいちゃんにドロヌリバチって呼ばれているんだ? 意味がわからんのだけど」

「俺も知らねーよ。どうせあいつが別のジャンってキャラが、ドロヌリバチの巣にストローでも差し込んでハチミツを吸っているのを見たかなんかしたんだろ? それで勝手にそう呼んでいるんだ、意味は無い。逆に俺の呼ぶエルは、具体的な根拠がある物だけどな」

「Lカップの103cmだっけ? 揉みてーっ、おいラムさん、俺に譲ってくれよ」

「だから500年ぐらい待てと言っているだろ」

 いつの間にかソニアの話になっている。ラムリーザは500年後になれば、本気でソニアをレフトールに譲ってくれるらしい。

「ドロヌリバチはどうでもいいけど、プロレスを本格的にやってみたいと思わないか?」

 ジャンは話を引き戻してきて提案してきた。

「昨日の試合やってみて分かったけど、結構面白いじゃないか」

「本気でふえぇプロレスを旗揚げするん?」

 ラムリーザは訪ねてみる。本気でこんな妙な名前の団体名でよいのかと。

「それはもう昨日旗揚げしとる。フォレストピアに本格的なの作るんだよ。そしてユライカナンから未知の強豪を招いてさ」

「それやるなら、もっと身体を鍛えないとね」

 ラムリーザやレフトールは、多少は身体つきはがっちりしているものの、ジャンは普通の体型といったところだ。学生プロレスなら普通に有りそうであるが、本格的にやるなら負け役一直線だ。

「おう、ウェイトトレーニングを日課に取り込んでやる。そして俺もゴム鞠破裂させてやるさ。そしてラムリーザとコンビを組んで、ダブル・アイアン・クローを極めてやるのだ」

 なんだかすごいパワーファイターコンビが誕生しそうだ。

「それだったら俺は、カメンマシーンとでも名乗って、フルフェイスの鉄仮面被ってプロレスしてやる。アイアン・クローを封じると同時に、アイアン・ヘッドバットを必殺技な」

 話の流れで、レフトールは謎のマスクマンになってしまった。

 そこでちらりと海上を眺めてみると、ソニアとリリスが同時にお互いの頭にゴムのオールを叩きつけたところだった。二人ともバランスを崩してゴムボートから転落する。

 すぐにロザリーンやユコの手によって海中から引き上げられたが、どっちが勝ったか、どっちが先に落ちたかでもみ合いが始まってしまったようだ。

「リリスええなぁ……」

 その様子を見て、ジャンは笑みを浮かべてつぶやいた。本気でリリスに惚れこんでいる。

「そんなにリリスええか? 根暗――」

 言いかけてレフトールは慌てて口をつぐんだ。ラムリーザに「根暗吸血鬼」とは呼ばないようにと言われているのを思い出したのだ。もっともソニアなどは、リリスとの口論の際に連発しているのだが。

 だからレフトールは、「――俺ならおっぱいちゃんの方がええけどな」と付け加えて誤魔化した。

「今年の目標、絶対にリリスをラムリィから引き剥がして俺のものにする」

 ジャンは握りこぶしを固めて、青い空に誓うのだった。

「いや待って、僕は別にリリスは取っていないよ」

「ラムリィがリリスを取っているのじゃない、リリスの心の中にあるラムリィから引き剥がすのだ」

 そう言われてもラムリーザは困る。

 ラムリーザから見てリリスは、本気でラムリーザを狙っているよりも、ソニアの方に攻撃しているといったイメージでしかなかった。ラムリーザが奪いたいから奪うのではなく、ソニアが悔しがるから奪ってみる、そんな感じがしているのだった。

「で、リゲルの旦那。お前はどうするのだね?」

 女の子の話題になったところで、レフトールはリゲルに話を振ってみた。今一番めんどくさい立場にいるのはリゲルだろう。

「だから前から言っている。ラムリーザが正室と側室を取れば、俺の問題は解決するのだ」

「無茶な……」

 リゲルは本気で二股を完遂するらしい。

 海上では、まだソニアとリリスのオールでの叩き合いが続いている。どうやらどちらかが海に投げ出されるまで続くようだ。

 ロザリーンは二人の戦いをじっくりと見守り、ユコはゴムボートの上に寝転がって空を眺めている。そしてミーシャは、戦っている二人の周りを、ゴムボートをこいでグルグル回っているのだった。

 そしてラムリーザ達は、徐々に口数が少なくなり、輪になったまま砂浜で大の字になって眠りこけるのだった。
 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2021

return to page top

©発行年-2021 フォレストピア創造記