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最終日、昼の部

 
 8月10日――

 

 さあ、泣いても笑っても、マトゥール島でのキャンプ生活は今日が最終日。明日の昼頃は、ラムリーザ達は帰りの船の中だろう。

 朝、自室で目覚めたラムリーザは、引っ付いていたソニアと目が合った。この場面は、キャンプだろうが自宅だろうが変わらない、いつもの光景である。

 ほんの少しばかり違うと言えば、ソニアのおでことか肩とか腕に、ちょっとしたあざができていた。これは昨日のボート上チャンバラ合戦によるもので、おそらくリリスもあざだらけになっているのだろう。

「今日は島での最終日、何がやりたい?」

 ラムリーザは、ソニアにできたあざを軽くさすりながら尋ねた。

「う~ん、最後はラムと二人きりでいたいかな」

「よし、海岸に出かけよう」

 朝食が終わってから、ラムリーザはソニアを伴って海岸へと出かけた。

 朝日が反射してキラキラと輝く海と、どこまでも続いているように見える白い砂浜。

 倉庫の近くの砂浜には、ボコボコと穴がいくつか空いている。また、砂浜の中央には、円が描かれており、その中は踏み荒らされたように砂が乱れていた。

 ボーリング合戦に、ハッキョイ大会。いろいろな思い出がそのまま残っている。

「なんだかいろいろあったけど、リリスと喧嘩ばかりしていたような気がする」

「いいんじゃないかな? 喧嘩するほど仲が良いと言うし」

「でも、なんだか今年のキャンプは以前来たときよりもなんだか早く終わった気がするよ」

「これまでは、僕は兄と、ソニアはソフィとそれぞれ別に居ることが多かったからね」

「同じ海、同じ砂浜のはずなのに、ラムと一緒に見たら全然違うものに見える不思議ー」

「二人の繋がった心と言うフィルター越しに見ているからね」

「ラムは昨日砂浜で何をやっていたの?」

 ソニアに尋ねられて、ラムリーザはその場にごろんと転がった。

「寝ながらジャン達と、将来の事とか話し合ってた」

 ソニアも横になり、ラムリーザに引っ付いてこようとする。その結果、いつものことなのだが巨大な胸をラムリーザの脇に押し付ける結果となってしまう。

 ラムリーザは、引っ付いてきたソニアに腕を回すと、グイッと引っ張って自分の上に乗せて向かい合う。そしてじっとソニアの顔を見つめながら言った。

「ソニア、何でそんな可愛い顔をしているんだ?」

「ふえぇ……」

 ラムリーザに可愛いと言われて、ソニアは恥ずかしくて言葉を失った。その結果発せられるのはいつものフレーズ。

「ほんとにもー、可愛い顔して」

 そして今度は、ギュッと抱きしめる。ラムリーザが力を込めると、ソニアはその度に「んんっ」とか「うんっ」とか小さく呻いて、それがまた可愛い。

 最終日の朝、砂浜の外れでは二人の時が流れていた。

 

 

 一方ユグドラシルとソフィリータは、昨日に引き続いて町へと繰り出していた。

 昨日は町で遊ぶことが主だったが、今日は来てからずっと土産物屋に入り浸っている。ただし、別に観光地というわけではないので、土産物屋と言っても普通の雑貨屋だ。

 ちなみにこの雑貨屋は、先日ラムリーザが解決したどくばそ事件の場所、クラウド・ボールダックスの雑貨屋だ。

「いらっしゃい!」

 威勢よく迎えてくれたのは、体格は良いがまだ幼さが顔に残っている少年と青年の中間のような人物だった。ラムリーザと一悶着あった、雑貨屋の息子クラウディオだ。

「うーむ、土産屋代わりになるかなと入ってみたものの、ほんと日用品の雑貨売り場だね」

「この島は観光地ではないので、仕方がないのです」

「まあいいや、おそろいの何かを買おう。マグカップとか」

「くすっ、定番ですね」

 その時ユグドラシルは、雑貨屋の奥の壁にかけられている置物が気になっていた。その置物は、ナイフぐらいの大きさをしていて、細長い円錐形の格好をしている。

「あの置物は珍しいな、初めて見るよ。店主さん、あの壁にかかっている置物を頂けないかな?」

 ユグドラシルは、気になった置物を土産物にしようとした。しかし店主は横に首を振って答えた。

「ダメだよ、これは我が家の家宝で守り神のどくばそ。これは売り物じゃないのだよね。あーでも気になる人が居るなら、レプリカを作って量産してもいいかな」

「どくばそとは何ですか?」

「俺は詳しくは知らないんだよなぁ、親父に聞いてくれよ」

 そこでユグドラシルは、奥から出てきた親父のクラウドから、どくばそについていろいろと聞くのだった。死んだ爺さんの形見だの、今に必ずこのどくばそを必要とする者が現れるだのを――

「どくばそという名前が不思議ですが……」

「うん、それは私もそう思っているのだが、受け継いだときからどくばそなのだから仕方が無い」

「どくばり、毒針ではないのですか?」

「さあ、どうだろうか……」

 これ以上の情報は入らないと悟ったユグドラシルは、ソフィリータとおそろいのペンを購入するのだった。普通のペンではなく、ちょっとした細工が施されていて飾っていても面白いものだ。

「コズミックフォージ二本まいどーっ」

 クラウディオの声をバックに、二人は雑貨屋から出て行った。

 外に出て再び町を歩きながら、ソフィリータはぽつりと言う。

「ユグドラシル先輩」

「なんだい?」

 ユグドラシルは振り返る。

「リザ兄――いや、ラムリーザ兄さんといつまでも仲良くしてください」

「んん? 君とだけでなく、ラムリーザ君とも?」

「私はフォレスター一族の人間です。家族と仲良くできない者とはうまく付き合っていける自信がありません。両親は追々として、今は一番身近に居る私の家族、ラムリーザ兄さんと仲良くしてください」

「それはもちろんだよ」

 ユグドラシルは、堂々と答えた。ユグドラシル自身も、ラムリーザのことを友人として気に入っていたから、何の問題も無かった。しかしそれならば、とユグドラシルはソフィリータに言ってみる。

「それじゃあソフィも、ローザと仲良くしてくれよな」

「もちろんです」

 ソフィリータも即答だ。破天荒なソニアと接する機会の多くて疲れる中、真面目なロザリーンは一服の清涼剤のようなものだった。

「でもロザリーン先輩は、リゲル先輩と――」

「うん、リゲル君とも繋がるね。人は一人では生きていけない、いろいろと絡み合って助け合って生きていくのさ」

「くすっ、何だかかっこいいこと言ってる」

「みんな仲間さ」

「ええ、仲間です」

 二人は今度は、金のリンゴと書かれた店に入っていった。

 

 

 一方リリスとユコは何をしているのだろうか?

 二人は、海岸の傍にある岩場に登って、打ち付ける波を眺めていた。そしてその場所は偶然か、ラムリーザとラムリアースが語り合った場所と同じであった。

「リリスはジャンさんのことは本気でどう思っているんですの?」

「どうかしらね」

 ユコはリリスにジャンとのことについて尋ねるが、リリスははっきりと答えない。

「告白とかプロポーズとかあったの?」

「さあ、あったかしら?」

「あいまいですのね、ジャンさんとは遊びなの?」

「それはどうかしら」

 どうもリリスは先ほどから曖昧な返事しかしない。

 しかし、少し間をあけてから、リリスはしっかりとしたことを言ってきた。

「彼が私に真剣なのは分かっているし、私も彼とは遊びだけで終わらせたくないわ。でも――」

 そこで一旦言葉切る。ユコが覗き込んできたところで、リリスは微笑を浮かべて言った。

「ラムリーザも捨てきれないのよねぇ」

「そうですのよね。でもやっぱりあの風船が邪魔ですの」

「それはもう分かっているわ、ラムリーザは絶対にぶれないと分かった。ソニアはずるい。だから――」

 そこで言葉を切って、怪しげというよりも邪悪に近い笑みを浮かべて言葉を続けた。

「だから限界までソニアをからかったり嫌がらせしてやるんだ」

「そうね、ソニアはずるい。でもやりすぎたらラムリーザ様に嫌われると思いますの」

「ソニアは分かりやすいから、そこはバランスよく。キーワードは『ふえぇ』よ。一発言わせるまでやりこんだら、それ以上追い詰めなければ大丈夫。目指せ、ソニアの口からふえぇよ」

「ふえぇちゃん」

「ふえぇちゃん」

 二人は顔を見合わせて、くすりと笑った。

 実は以前からちょくちょくソニアにふえぇと言わせているのだが、ここで新たに誓い合う二人だったりするのだった。ソニアも災難だ。

「それで、ユコはレフトールに本気なのかしら?」

 唐突にリリスは、ユコへと質問を浴びせかける。

「なんでですの?!」

 ユコは知らぬそぶりを見せるが、少し動揺しているようだ。

「嫌がっている割には、しょっちゅう一緒にゲームセンターへ遊びに行っているじゃないの」

「あの人は、私の守衛なんですの」

「しゅえいマンオーウォー?」

「違います! 名前を空白にせずに、ちゃんと入力してください!」

 二人の背後にある木は、太い枝が一本折れて地面に転がっているのだった。

 

 一方ジャンはと言えば、今朝からコテージの広間にあるテーブル席で何かを書いている。

 昨夜のプロレスが盛り上がったということもあり、少し本気になってプロレス興行について計画書を書いてみたりしていた。

 ノートのトップに「ふえぇプロレス原案」と書かれているところを見ると、本気度は少しであり、まだ遊びの範疇を超えていないと見える。

 興行メンバーは、ラムリーザとリゲル、レフトールとマックスウェル、そしてジャンの五人である。

「ん~、これだとタッグマッチは限られるなぁ……。シングルマッチでも一回に二試合が限界だ。タッグマッチしたら一試合しかできない。これならば、ユライカナンから未知の強豪を呼び寄せて、その怪物を軸に……。う~ん……、ちょっとトレーニングでも始めてみるか」

 ジャンはペンを置くと、テーブルから離れて床に手をつく。そして腕立て伏せを始めてみるのだった。

 

 その一方でリゲルは、最終日の海釣りを楽しんでいた。

 ボートを借りて海岸から少し離れた場所に行こうとしたところ、レフトールとマックスウェルも同行を申し付けてきたのだった。

 リゲルはいつもどおりマイペース、レフトールは全然釣れなくてイライラしている。そしてマックスウェルは、淡々とモケケピロピロを釣り続けている。何故そんなに釣れるのかわからないが、無欲の勝利とでも言うのだろうか。

 しかも連続で釣れても、ちっとも見せびらかしてこない。意外と謙虚なところがあったものだ。

「うれしげに見せつけて来たら、海に蹴落としてやるのに」

 レフトールはそう言い捨てると、釣竿を投げ出してボートの上で大の字に寝転がるのだった。

 

 最後の二人、ロザリーンとミーシャは、コテージ近くの砂浜に座っていた。

 元々ロザリーンが一人、ゆっくりしていたところに、ミーシャが傍にやってきたという流れになっている。

 ロザリーンとしては、ミーシャはリゲルを巡って微妙な相手なのだが、ミーシャはそんなことを気にしていないのか、それとも知ったうえでやっているのか、ロザリーンに普通に接してくる。

 ミーシャは、ロザリーンの傍で砂山を作りながら、ちらちらとロザリーンの様子を伺っている。ロザリーンは、いろいろと思案をめぐらせてミーシャに話しかけられないでいた。

 そんな中、ミーシャが唐突につぶやいてきた。

「ミーシャ、リゲルおにーやんの取り合いはしないよ」

 ロザリーンは、突然の一言に一瞬何を言っているのかわからなかった。

「ミーシャは、リゲルパパやママに見つかったらまた遠くに飛ばされちゃうの。だからローザがミーシャのこと邪魔だと思ったら、リゲルパパ達にミーシャが戻ってきたことを言えばさようなら」

「な、何ですか突然?」

「だからリゲルおにーやんの一番はローザでいいの。ミーシャは二番、それでいいと思ってる」

「ちょっ、ちょっとミーシャちゃん?」

「でもね、でもね、ローザがリゲルおにーやんと結婚するまではミーシャもリゲルおにーやんと遊ばせてね。結婚したらもう近寄らないから」

 ミーシャは砂を盛り上げながら、いつもの甘ったるい声で語り続けていた。

「ローザが悩んでいるのミーシャ知ってる。でもそれまでは我慢してね。我慢できなくなったら、さっき言ったとおりリゲルパパにチクッたら一発だから簡単だよ」

「そ、そんなことしませんよ。私はそんな酷い女じゃないです」

「それがけじめなの。でもね、でもね、奥さんを二人以上持つのが合法的になったら、諦めてミーシャも入れてね」

 ロザリーンは、ミーシャが次々へと語ってくるので戸惑い始めていた。

「それはその、そういうことですか?」

「うん、太鼓打ちのお兄ちゃんが、奥さんを二人取ったらリゲルおにーやんもそれに倣うって言ってるから、そうなったら諦めてねということなの」

 ロザリーンは、リゲルがラムリーザに正室だの側室だの時々迫っていることを知っていた。だからミーシャの言っていることも、恐らくそのことだろうと理解できるのだ。それに、リゲルが自分とミーシャを、かなり正確に二等分して交際していることもうすうす感じ取っていた。

「ミーシャ、ローザとも仲良くしたい。一緒にリゲルおにーやんを盛り立てていける日が来たらいいね」

 ミーシャは、できあがった砂山にトンネルを掘り始めた。真ん中あたりまで掘ったところで、砂山は中央めがけて陥没してしまうのだった。

 ロザリーンは、カモメの飛び交う空を見つめて、「これからも落ち着いた交際を続けることは難しいのかな」などと考えるのであった。
 
 
 
 
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