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夜空に煌く幾筋の光

 
 8月10日――

 

 東の空に三日月が昇りつつ、西の空に三日月が沈みつつある。

 マトゥール島キャンプ最終日の夜は、快晴その物で絶好のイベント日和だ。

 もっとも昨晩、一発芸大会という名のふえぇプロレスをやったりして盛り上がっていた。最終夜はまったりと――?

「これなぁに?」

 ソニアは、コテージ広間の隅に置いてある、ついさっきまで無かった大きな箱に気がついてラムリーザに尋ねてきた。

「今夜これから使うよ、最後の夜だからね。この日まで温存してきたんだ」

 ラムリーザは大きな箱を担ぎ上げると、そのままコテージから出て行った。ソニアもその後を追いかける。二人はコテージから少し離れた場所に陣取ると、箱を置いて皆を呼びに戻っていった。

 

 三十分ほど経った後、砂浜に大きな箱を置いた辺りに全員集合していた。

 好奇心旺盛なミーシャなどは、早速箱を開けて中身を取り出したりしている。ラムリーザ以外の他の者は、何が出てくるか分からなくて不気味なのか、箱の周りに少し離れて円を作っている感じで見守っている。

「こんなのが出てきたよー」

 ミーシャは、箱の中から取り出したものを、傍に立っていたラムリーザに見せてきた。ミーシャの持っている物は、長さは20~30cmほどの細い棒。最も細い部分は、串のような感じになっていて、反対側は少し太くなっていた。

「これなぁに? 鉛筆?」

 ミーシャは、細い棒を軽く振り回しながら尋ねてきた。

「これは、ファイア・ワークっていうもので、ユライカナンでは夏のお祭りなどで使ったり遊んだりしているらしいんだ。簡単に呼ぶときは花火と言うらしいよ」

「どうやって使うの?」

 ミーシャは、手に持っていた棒を自分の鼻に突っ込んでラムリーザを見上げている。ハナビと聞いたから、鼻で何かするものだろうと勘違いしているようだ。

 危険な物じゃないと分かったからか、ソニアも箱から花火を取り出してマジマジと眺めていた。それからソニアはリリスを手招きして呼び寄せる。そして手に持っていた花火でリリスの頭を叩くのだった。ただし細い棒なので、攻撃力は全く無い。

「何がしたいのかしら?」

 ソニアは今度は、少し太くなっている方を持って、細い串状になっている方でリリスを突いてみた。

「こらこら、この花火というやつは、チャンバラに使うものじゃない」

 ラムリーザは、箱から別のものを取り出してきた。そちらは馴染みのあるロウソクというものだ。生暖かい風が頬を舐めて消えないようにしながら、ラムリーザはロウソクに火を灯した。

「ロウソクよりミーが良い」

「ミーはコストがかかるからラーでいい」

「魔女は最初ミーまで使えない」

「どっちみちロウソクの方がコストがかからない」

「つまり魔女はロウソク以下」

 ロウソクを見ながら、ソニアとレフトールがぶつぶつとお互いに何か言い合っている。

「おいおい、ぶつぶつ言ってないでこっちに来いよ」

 ラムリーザは、ソニアをレフトールから引き剥がしてロウソクの傍へと連れてきた。

「なぁに? リリスはミー使えないよ」

「ゲームの話はいいから、持っている花火の先にロウソクの火をつけてみろ」

 ソニアは首をかしげながら、持っていた物の先を火にかざしてみる。

 次の瞬間、棒の先端から火花が飛び散った!

「うわっ!」

 ソニアはびっくりして、思わず持っていたものを落としてしまい、それに合わせて周囲の人の輪も一歩下がった。

 ソニアが落とした花火は、地面に倒れたまま先端から青白い光を発し続けている。しばらく光り続けた後、スッと光は消えて周囲は再び暗くなった。

 少しの間沈黙が訪れた。皆初めて見る花火に驚いているようだ。

「ふっ、ふえぇ~、びっくりしたぁ」

 ソニアは火の消えた花火を再び手に取ってみる。焦げ臭いにおいが気になっているようだ。

 それを聞いて、リリスとユコはくすっと笑った。ソニアから「ふえぇ」を聞き出すことを目標にしている二人である。

 その一方のリリスがラムリーザの傍に近寄り、箱の中から同じような棒を取り出した。今度はリリスが花火に挑戦するようだ。

 リリスは、腕をいっぱいに伸ばして自分と花火の間に可能な限りの距離を取る。そして若干先端がプルプル震えているが、なんとかロウソクにかざして火をつけることに成功した。

 今度は黄色く輝く光が、棒の先端から発せられた。

 リリスは顔を背けがちではあるが、なんとか落とさずに持ち続けている。

 花火の色は、黄色に光から緑の光へと変わっていった。そして先ほどと同じように、スッと消えて辺りは再び暗闇に閉ざされた。

「へ、へえ、奇麗じゃないのよ」

 リリスは若干上ずった声で感想を述べた。やはり少し怖かったようだ。

「ミーシャもやるのーっ」

 ミーシャは、自分の鼻に突っ込んでいた花火を取り出して、棒の先端をロウソクにかざした。しかし今度は、棒の先に火がついただけで、すぐに消えてしまった。

「あれぇ? 光らないよ」

「そっちは持つ部分。ちょっと太くなったほうに火をつけるんだ」

 ラムリーザの指導を受けて、ミーシャは再挑戦。

 先ほどの二つは直線的な光だったが、今度は棒の先を中心に円形に広がる花火だった。白く輝く光が、丸くなって輝いている。

「うわぁ、奇麗だなぁ~」

 三度目となると怯えはほとんど消えていた。

 ミーシャは、ソニアのように落としたりせず、リリスのように顔を背けがちでもなく、じっくりと花火が燃えていく様を眺めていた。

 光の円は、花火の先から徐々に中央に向かって燃え進んで行き、少し太くなったところが終わるとこれまでと同じようにスッと消えるのだった。

 こうなると、後はもうお祭りである。皆がわっと箱に殺到して、次々に花火に火をつけて楽しみ始めた。

 ユコなどは、「フォースイクスプロージョン!」などと言いながら、赤い閃光を放っている花火を前後左右に振り回している。光の筋が尾を引いていて、確かに魔法に見えて美しい。

 レフトールは「この太い筒みたいなのをやってみよう」と箱の中から大きめの、棒と言うよりは確かに筒に見えるものを手に取っていた。ソニアも「あたしもやる」と言いながら同じものを手に取る。

 一度動き出した宴会は、もう進行させる必要は無く、ラムリーザは一歩離れた場所でこの騒ぎを眺めていた。リゲルも騒ぎには参加せず、ラムリーザの傍らで見守っていた。

 リゲルは、レフトールやソニアが手に取った筒状の物を持っていた。ライトで照らして側面に書かれている文字を読んでいた。

「何々、これは地面に置いてから火をつけろと書いてあるぞ」

「えっ? それは本当か? ソニアは手に持って火につけようとしているぞ? おいソニア、それは地面に置いて――」

 少し遅かった。

 ソニアが「えっ?」と振り返った瞬間、筒から大量の火花がぶわっと飛び散って辺りは白く輝いた。

「うわっ!」

 ソニアはびっくりして、再び花火を地面に落とす。筒は地面をクルクルと回りながら、周囲に火花を撒き散らしながら暴れまわっていた。

 思わずソニアはその場から逃げ出す。割と近くに居たユコも逃げようとして、砂浜に足を取られて転倒してしまう。

「情けねー奴らだな」

 レフトールも、持っていた太い筒に火をつける。

「いや、それ地面に置いてやる奴だから!」

 ラムリーザは必死で注意するが、レフトールは聞く耳を持たずに太い筒を斜め上空に構えて火花が出てくるのを待ってた。

 間もなく同じように大量の火花が出てきて、まるでレフトールが強力な魔法を放っているかのようにも見える光景を作り出していた。

「レフトールさんにしては、美しいですの」

 ユコは砂浜に座り込んだまま、レフトールの雄姿を眺めていた。

 しかし火花の一部は真上にも飛び上がり、それはそのまま落下してレフトールにシャワーとなって降り注ぐ。

「あっつ!」

 レフトールは太い筒を投げ出してしまった。

 太い筒は火花を撒き散らしながら落下し、地面に落ちた瞬間にポンと音がして筒から球状の塊が飛び出した。それは砂浜をコロコロと転がってジャンの立っている方向へと向かっていった。そしてジャンの足元でパンと破裂した。

「うわおっ!」

 ジャンはびっくりして飛び上がる。

「普通にやれよ」

 リゲルは見ていられなくなって、手に持っていた太い筒を地面に置いて固定する。そして点火してから、数歩後ろへ下がった。皆も一定の距離を置いて、リゲルが火をつけた筒を凝視していた。

 間もなくシュルシュルと大量の火花が真上に向かって飛び出して、そのまま放物線を描いて地面に落ちていく。続いてポンポンと音がしたと思ったら、上空でパーンと丸い火花を作り上げた。

「うわっ、きーれい」

 あちこちで感嘆の声が上がる。

「ほらみろ、普通にやればこうなのだ。二本ももったいない使い方しよってからに」

 それからしばらくの間は太い筒の花火、打ち上げ花火を一本一本普通に楽しんでいるのだった。

 その一方で、ミーシャは箱に入っていた変わった形の花火を手に取っていた。中央に太い糸が垂れていて、その糸に沿って細い筒状の花火が左右にずらりと並んでいる。

 ミーシャは糸の先端を持って垂らしてから、反対側の糸の先に火をつけてみた。

 間もなく花火に火が回り――

 パパパパパパンパンパンパパンパパパパン!

 ものすごい破裂音をミーシャの傍でとどろかせながら、紐からぶら下がった花火は大暴れしている。

「ひゃうえあーん」

 ミーシャは変な叫び声をあげて、持っていた糸を投げ出して尻餅をついた。

 破裂し続ける花火、爆竹と呼ばれるものはソニアの近くに落ちて激しい音をとどろかせる。

 ビックリしたソニアは、思わず爆竹を蹴っ飛ばす。しかし飛んでいった方向が悪かった。打ち上げ花火に火を点火して火花が出始めたところに、爆竹が飛び込んでくる。その爆発の勢いで打ち上げ花火は倒れ、まだ小規模の爆発を繰り返す爆竹の勢いに晒されて、打ち上げ花火も地面を転げ回る。打ち上げ花火から発射された玉は周囲に撒き散らされ、周囲を逃げ惑う観衆の足元へ飛んで行って破裂を繰り返すのだった。周囲は、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎになっていた。

「こいつらはアホだ――」

 リゲルは、逃げ惑う皆を呆れた目で眺めながらつぶやいた。

「騒動の原因を作ったのはミーシャだけどね」

 一部始終を最初から観察できていたラムリーザは、リゲルに一言注釈を入れておいた。

 この騒ぎで少し疲れたということで、少しの間休憩することにしたのである。

 

 休憩後、再び動き始めるが、興奮も少し冷めて今度は大人しくやっているようだ。

 リリスは花火の入った箱を漁っていた。中には細い棒、太い筒、糸状のものといろいろ入っている。

 リリスは、その中の一本を手にとった。それこれまで遊んだものと少し形が違っていた。

 手に持つところが細い串状なのは同じだが、反対側の少し太くなっている場所が少し小さくて、先端は硬い物質で丸くなっている。そして火をつける導火線は、先端ではなく太くなっている場所の根元、花火全体の中央辺りについていた。

 リリスは導火線に火をつけて、海の方へ向けて持っていた。

 次の瞬間、花火は「ヒューンッ!」と高らかな音を立てて、リリスの手をすり抜けて海側へと飛んでいった。光の尾を引いて飛んでいった花火は、海上でパンと破裂した。

 たまたま海を見ていた数人は、「おー」と感嘆の声をあげる。

 そこでリリスは、またしても要らん事を思いついてしまい、ソニアの姿を探す。ソニアは少し離れた場所で、リリスに背を向けてしゃがみこんで何かをしている。なにやら輪になったような花火で遊んでいるらしい。火をつけるとその場で火花を散らしながらクルクルと激しく回り、最後にポンと破裂している。

 そこでリリスは、先ほどと同じ花火を手に取って導火線に火をつけた。今度は海の方角でなく――

 ソニアがシュルルルと音を出して回っている花火を見下ろしていると、背後から「ヒューンッ」という音が近づいてきた。そして何かが背中にぶつかった直後に真後ろで「パーン!」と破裂した。

「痛いっ!」

 ソニアがびっくりして振り返ると、リリスはすでに三本目の花火、どうやらロケット花火と呼ばれているものに点火しようとしているところだった。

 そして笑みを浮かべながら、またしてもソニアの方向に向けて発射してきた。

 ソニアは慌てて避ける。ロケット花火はソニアの後方へ飛んで行き、ずっと後ろでパーンと破裂した。

 リリスは笑いながら、今度は二本のロケット花火を用意し始めた。

 ソニアは怒って、持っていた輪の状態になっている花火、どうやらネズミ花火と呼ばれているものに立て続けに点火してリリスの足元に投げつけた。

 リリスは突然足元に現れた、火花を散らしながらクルクル回る花火にビックリして、少し飛び上がって後退した。そして立て続けにパンパン弾ける様にさらに驚き、持っていたロケット花火を落としてしまった。

 ソニアはその隙にリリスの傍に駆け寄り、落としたロケット花火を手に取り、さらに箱の中から同じような花火を一束持ち出して、少し離れた岩場へと駆けていった。

 岩の影からソニアは、リリスめがけてロケット花火を発射する。

 リリスは体を捻って身をかわすと、同じようにロケット花火の束を箱から取り出して、ソニアとは反対側の岩場へと身を隠した。

 壮絶なロケット花火戦争が始まった。

 岩場と岩場の間には何本もの光の筋が行き交い、岩に当たった花火が次々と岩壁で破裂している。

 その一方でラムリーザは、そろそろ参加するかと考えて、ユコ、マックスウェル、ロザリーンと大人しめのメンバーと静かに遊んでいた。線香花火と呼ばれるものを、誰が一番長持ちさせるかという地味な勝負などを繰り広げていた。

 そこにユグドラシルが駆け込んでくる。

「ラムリーザ君っ、ソニアとリリスの二人が何だか危ないことをやっているっ!」

「またあの二人か……」

 目を離すとすぐこれである。ラムリーザは、二人に注意するために立ち上がった。そして岩陰から顔を出しているソニアを見つけて、そちらへ歩いていった。

 ラムリーザがソニアの傍に近づいたところで、リリスがまたしてもロケット花火を発射。ラムリーザは後ろから接近する何かを感じ取って、振り向き様にキャッチ。ロケット花火は、ラムリーザの手の中でパーンと破裂した。

「あっつ! やめんかぁ!」

 ラムリーザはソニアを岩陰から引きずり出す。

「やっ、やだっ。出たらリリスに狙い撃ちされるっ」

「花火を人に向けて発射するの禁止!」

 そう叫ぶラムリーザを見て、ジャンは空気を読んでリリスの元へと駆け寄った。そして一言二言何かを語って、リリスを岩場の影から連れ出すのだった。

 こうしてあっさりと、ソニアリリス戦争は、他国の仲介が入って終戦へと向かったのであった。

 

 それから二時間ほど遊んだだろうか。

 箱の中にあった花火は全て使い切り、中身は空っぽになっていた。

 最後の一発がロケット花火になったところが、彼らの計画性の無さを物語っているだろう。

「もっと大きいのが見たいなぁ」

 ミーシャは、物足りなさそうにつぶやいた。

「そういえば、今月の終わりごろにユライカナンの人たち主催で大規模な打ち上げ花火大会をやるらしいよ」

 ラムリーザは、少し前にごんにゃ店主から聞いていたことを思い出していた。

「おっきなの? 見に行こうよー」

 ミーシャはラムリーザの手を取って揺すりながら催促する。

「まだ二週間程先の話だよ。それまで大人しく待っているんだね」

 なんだか尻すぼみに終わってしまった花火大会ではあったが、こうして次の予定を入れることでまだ終わったわけではないという錯覚に取られるから不思議だ。

 

 以上で、マトゥール島最後の夜のイベントも終わった。そして同時に、マトゥール時までのキャンプ生活も、これで終わりなんだな、ということである。

 砂浜に寝転んで花火の余韻に浸る者、コテージへと戻っていく者、花火の後片付けをする者に別れて、夜は更けていった。
 
 
 
 
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