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リリス・バースデー・フェスティバル

 

 帝都でリリスの誕生日プレゼントを買って、その帰りの電車にて。

 去年はそのまま帝都のシャングリラ・ナイトフィーバーでのライブとなっていたが、今年からはフォレストピアの二号店でライブとなる。

 その帰り道、ジャンはリリスに与えたプレゼントを喜んでくれてご満悦と言った感じだが、ソニアはなんだか不安顔。

 じっとリリスを見つめて怒ったような顔をしているので、ラムリーザは気になって尋ねてみた。

「どうした? 帝都まで行って疲れたか?」

「あたしの誕生日にも、もっといっぱいプレゼントが欲しい」

 ソニアは不満をラムリーザに訴えるが、これまでフォレスター家では誕生日は両親に感謝する日という認識できていたので、ソニアにねだられてもラムリーザは困ったりする。そしてソニアの一家もフォレスター家と同居しているので、この方針に準じてきた。だから去年まで、二人は誕生日を祝ってもらうという感覚が無かったのである。

「誕生日は両親に感謝する日だよ」

「それはわかってる。でもリリスとかずるい」

 ギヌーアンプの入った大きな箱を抱えるリリスを見ながら、ソニアは本音をぶちまけてきた。

「家訓なら仕方ない。その代わり大金持ちじゃないか。誕生日とか関係なく、自分が欲しいものを好きなときに買えていただろ?」

 そんなソニアに、ジャンは言い返してきた。

 ソニアは自分が欲しいと思った時にラムリーザにねだり、いろいろなものを買ってもらっていた。ジャンの店でライブをするようになってからは、その報酬でお金に困ったことは無い。

「あたしもプレゼントが欲しい」

 欲望とは、際限が無いものである。

「それじゃあ次のソニアの誕生日にも、またイベント企画してやるよ。えっと、12月24日だっけ? 聖なる夜にでもしてやろうか? それで満足か?」

 ジャンにそう言われ、ソニアはまだ何か言いたそうだったが、口を尖らせたまま頷くのであった。その手には、ミニチュアのマンガ肉を模したおもちゃが握られているのだった。

 

 フォレストピアの町まで戻ってきたとき、空は茜色に輝く時間になっていた。そろそろ日もくれるというものだ。

「ギリギリ帰ってこれたな、危なかった」

 ジャンは西の空を眺めながらそう言った。

「日帰りの強行も大変だね」

「ん、今日のライブはリリス・バースデー・フェスティバルだ。主役はリリスな」

 ジャンに方針を伝えられて、ソニアは当然の如く噛み付いてきた。

「リリス主役の吸血魔女祭り、サバトみたいなもの?」

「そんなこと言うと、お前主体だとエルライブにしてやるぞ」

「風船祭りでもいいわ」

 ジャンとリリスが二人がかりでソニアを攻めてくるので、ラムリーザは仕方なくソニアに援護射撃をしてあげる。

「グリーン・フェアリー・フェスティバルでいいじゃないか?」

 ラムリーザの援護が入ったところで、ソニアは調子に乗ってしまう。火に油を注ぐというわけでなく、機械に燃料を加えるといった具合か。

「科学者が魔女のために企画した中途半端フェスティバル。魔女は多少の特殊能力がありって意味がわからない。科学者ジャンは、魔女リリスの見た目に騙されている。リリスの本性は根暗吸血鬼、闇に滅せよとか言ってるの」

 調子に乗るとソニア理論を展開して、中途半端にゲームとかが混ざってよくわからない煽りになるのが残念なところだ。リリスの見た目が魔女っぽいのは百歩譲るとして、ジャンが科学者と言うのはこじつけでしかなく、ジャンに科学的権威は全く無い。科学者リゲルなら微妙に合っているのだけどね。

「そんなことはもうどうでもいいから、ほら、家に帰ってステージ衣装に着替えてくるんだ」

 口論の無意味さ、時間の無駄さを実感したジャンは、ソニア煽りを中断して業務連絡に切り替えてきた。

「えー、やだー」

 ジャンが促し、ソニアが嫌がったステージ衣装、それはただの学校の制服だ。

「なにをまだぶーぶー言ってんだよ」

 ジャンがソニアにめんどくさそうに言うが、ソニアはただ「靴下が嫌い」とだけ返答してきた。

「何を言うんだ、ニーソいいじゃないか」

「うっとーしーだけ」

 ジャンは見るのはお気に入りだが、ソニアは履くのは嫌いといった感じになっていた。

 ここでいったん別れて、ラムリーザとソニアは自分たちの屋敷に戻り、ライブの準備をしてからソフィリータを伴い再びジャンの店へと向かった。既に他のメンバーは集まっていて、リゲルとロザリーン、ユコとソフィリータが店の前で待っていた。

 キャンプの後は別に動くと行っていたユグドラシルとレフトールは、今日は来ていないようだった。

 

 こうして、リリス・バースデー・フェスティバルと称されたライブが始まった。

 まずはリゲルの昔からの友人がリーダーを務めるローリング・スターズの演奏から始まった。

 

――今日が君の誕生日? それなら僕らで楽しい時間を過ごそうじゃないか。君の誕生日で僕も嬉しい、おめでとう!

 

 こんな感じの歌を、今日向けというわけで激しく演奏していた。

 その後は通常の曲を時間までこなし、今度はジャンがユライカナンで契約してきたグループがステージに上がった。

 一つのグループが一度に担当するのは30分。それに休憩を挟んだりして、二度目、三度目を行う形式で、ジャンのクラブハウスでは時間を持たせていた。

 丁度二つのグループの演奏が終わって一時間ほど経過した頃、司会のジャンはステージに上がり、リリスをステージに呼びつける。

「さあ今年も、ナイトフィーバーからリリスに誕生日のお祝いがありますよー」

 笑みを浮かべるリリスと、不満顔のソニアが対照的。ラムリーザは、去年のようにソニアが変なことしないように、今年はしっかりと自分の傍に居させて監視していた。

 ソニアが動かなければ、変なことは起こらない。

 ステージ上では、リリスに大きな花束が渡され、さらに店からのプレゼントとしてネックレスが贈呈された。黒い石、黒曜石でできたネックレス。ジャンは、今日の午前中にリリスがラムリーザ達を呼び出したとき、ソニアと石についてやり取りしていたのを聞いて覚えていたのだ。それで、店側に連絡して、裏で用意させていたのだった。

「おめでとう!」

 ジャンから手渡されたネックレスを手に取って、リリスは去年とは違い、はっきりとお礼を述べた。

「お、ありがとうございます。私のために皆さんで祝ってもらえてとても嬉しいです。私は17歳、誰にも比べられないくらいイカしているわ」

 自分で自分をイカしていると言うのは何だが、リリスも成長したものだ。去年は人の視線を気にして怯えたり取り乱したりしていたけど、今はもう克服して強くなったね。ただし一瞬「お」と詰まりそうになったようだが、幸いなことに気がついた者は一人も居なかった。

 ラムリーザがそのことをソニアに話すと、ソニアはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。

「黒魔女が黒首飾りしてますます黒くなった。あれもどうせ黒魔術の儀式用首飾り」

「人の幸せをねたむのは見苦しいぞ」

 ラムリーザがやんわりとたしなめると、ソニアは激しく反論してきた。

「リリス以外が幸せになるのはあたしも祝福する!」

「リリスの幸せも願ってやれよ」

「リリスが口にガムテープを常時貼り付けて、嫌味なこと言ってこなくなったら祝福する!」

「めんどくさいなぁ」

 二人がそんなやりとりをしている間に、ステージ上でのパーティは終わり、今度はラムリーズの演奏の時間となった。

 去年は無茶苦茶になったが、どうやら今年は無事にリリスパーティは終了したようだった。

 

 パーティと称した今日のライブが終わると、ジャンは「二次会行けるぞ」などと言ってきた。

 去年は遠く離れた帝都でのライブだったから、終わればすぐに帰らなければ夜遅くなってしまうというのがあった。しかし今年は地元のフォレストピア、リゲル達ポッターズ・ブラフ組も、そんなに遠くなくすぐに帰られる場所だし、電車ではなく車で来ていたりする。

「それはいいけど、店はまだ続くのじゃないか?」

 ラムリーザ達の出番は終わったが、ジャンの店はこれからも続いている。

「あうっ、司会代理を立てて、俺もちょっと店を抜ける」

 それでも、キャンプに行く時に代理に頼んだ人をまだ雇っていて、ジャンは身動きが取りやすいようにしていたりする。一時間ぐらい外に出ても、滞ることは無いだろう。

 それでもやはり、リゲル達はあまり遅くなると困るということで、乗ってきた車で帰ってしまった。同乗していたロザリーンとミーシャもそれに倣った。本気で二股だ、普通に二股だ、表面上は平穏に成り立っている。

 そんなわけで、二次会はラムリーザとソニア、そしてジャンとリリス、ユコとソフィリータの六人で行くことになった。

「さて、何処に行きたい?」

 ジャンの問いかけに、ソニアは「ココちゃんカレー!」と答えた。

「エルには聞いてない。リリス、何処行きたい?」

「ココちゃんカレーよね? ココちゃんカレーよね?」

 そのリリスにユコは引っ付いて、まるで呪詛のように耳元で繰り返していた。

「別に私はココちゃんカレーでもいいわ」

 リリスも特にこれといった場所は無かったので、ユコが行きたがるならというわけでそこで承知するのだった。

「こいつら、カレーじゃなくてその景品が目的だからな」

「知っているよ」

 ラムリーザとジャンは、ココちゃんカレーを推す二人の目的は十分に承知していた。

 それでもリリスが行くと言ったので、六人はそのままココちゃカレーへと向かっていった。

「やっぱり時代はカレーですの」

 ユコはそんなことを言っているが、ラムリーザとジャンには「時代はココちゃんですの」としか聞こえなかった。

 ココちゃんカレーの店舗前に来ると、そこには立て札が有り「ココちゃん後30体」と書かれていた。数字の所だけ札になっていて、減っていく様子を示せるようになっていた。

「あと30体? もうなくなるの? 今日は二杯食べる!」

 ソニアは無茶を言うが、ラムリーザにたしなめられてその暴挙は諦めた。

「あと一ヶ月、毎日通いますの。いえ、十日間三食カレーにします!」

「それもやめなさい」

 ユコも無茶を言っている。普通のカレーならともかく、激辛マグマカレーの景品だから、そんなのを三食毎日食っていたら病気になりかねない。

 ほぼいつもどおり、ソニアとユコは激辛マグマカレー、ラムリーザは冷え冷えカレー、その他はぷにぷにカレーといつものメニューに収まった。

 相変わらずマグマカレーは赤い。見た目はまるで溶岩のような、舌にはまさに溶岩を食べているような、そんなカレーを今日も二人は大量の汗をかきながら挑むのだった。全てはココちゃのだめに。

 必死な二人を他所に、ラムリーザ達は談笑中。

「リリス、凄く成長したね。去年のあのうろたえぶりが嘘みたいだよ」

「こらっ、それは俺が言おうと思ったのに!」

 ラムリーザとジャンのやり取りを見て、リリスはクスッと笑った。

「ラムリーザのおかげよ。認めたくないけど、ソニアのおかげでもあるのかな」

「お、俺は?!」

 リリスがラムリーザとソニアしか挙げないので、ジャンは困ったような表情を浮かべる。

「ジャンもよ、場所の提供ありがとう」

「それほどでもない」

 とたんに取り繕ったような真面目な顔になるからジャンは面白い。そしてリリスは、微笑を浮かべながら言葉を続けた。

「みんなと出会って、みんなと過ごすうちに、過去の失態なんてどうでもよくなって、恐怖はどこかに行ってしまったの。一人では無理だったかもしれないけど、みんなが一緒だったから、助けてくれたから私は克服できたの」

 リリスの言葉を聞いて、ラムリーザは良い言葉だなと思ったりした。

「今のリリスの台詞、書き留めておいたら詩になりそうだね。そしたら歌にできそう、そう思わないかユコ?」

 ラムリーザは、作詞はできないけど作曲ならできるユコに歌詞を提供しようとしてみた。

「後にしてくださいまし!」

 しかし作曲家ユコは、顔を真っ赤にしてマグマカレーと格闘中だったのである。

「ふえぇ……」

 もう一人の格闘家も、悲鳴を上げながらそれでも赤い食べ物をスプーンで口に運び続けているのだった。

 普通の夕食とあまり変わらない二次会。それでもリリスの言葉ではないが、みんなと一緒に過ごせる時間は大切な物なのだ。

 

 この日、ラムリーザの部屋に新たにココちゃんが増えた。18体まで膨れ上がったその数は、部屋の一角をクッションのプールに変えてしまっているのだった。

 大量のココちゃんに埋もれて、「きゃっきゃっきゃっ」と騒ぐソニアを見て、ラムリーザは「意味不明」とつぶやくのであった。
 
 
 
 
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