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シロヴィーリ・パーク公演

 
 8月21日――

 

 大きめの車に乗り込んで、すこし北の方にある町ビエダへと向かう。この町の傍には水晶がよく取れるという山があったりする。

 そんなこともあって、この町のお土産として有名なのは、ジプシーの玉と呼ばれている握りこぶし大の水晶の玉だ。この玉を覗けば、周辺の地図が見えるかもしれないという、なんだか怪しい水晶玉であった。同じ効果として地図を見るためには、ナイトシェードとマンドレイクという貴重な秘薬を使わなければならないので、この玉はお得ですよ、というのがこの町に住んでいる土産物や店主の常套句となっていた。

「あたし達有名人?」

 車の中で、ソニアは目を輝かせながら尋ねてくる。

「残念ながら、有名と言ってもユライカナン全体では東端のこの地方だけだからな。首都公演とかはまだまだ大それたものだぞ」

 しかしジャンは、まだまだだと言っている。でもまあそれでも仕方ないというより、十分だと考えるべきである。ユライカナン最東端のサロレオームと、帝国最西端のフォレストピアが、隣接する都市同士仲良くできたらそれでよい。それが第一目的、ラムリーズの名声を高めるのは二の次三の次だ。

 ちなみにこれはラムリーザには教えられていないのだが、ユライカナンは帝国にとって、さらにその西にあるヌマゼミという厄介な国に対する壁扱いにしているところがあった。その国は粗野で、いずれは滅ぼす計画もあるようだが、それがいつになるかはラムリーザの知るところではなかった。

 

 さて、今日のライブには、この地方の領主の一家も見に来るらしい。天覧演奏というまで大袈裟なものではないが、それなりに大切なことかもしれない。

 領主としてシロヴィーリ家が君臨していて、シロヴィーリ・パークとはこの領主の名前を冠した公園だったりするのだ。

 サロレオームの中心街からビエダまでの距離はそこそこあり、ポッターズ・ブラフ地方の東から西までぐらいの距離があった。ここまでがサロレオーム地方の北端となっているらしい。

 それとは別に、出発前に二日前の事で市長が謝罪に来ていたりしていた。

 ラムリーザは「大事に至らなかったから気にしていないよ」と市長を安心させたりしていたが、リゲルは「気にしろよ」と強く主張してきた。

「まぁ別に、僕はレイジィを信頼しているし、敵がユライカナンの壁を突き破ってきても、レイジィは止められないよ。それに僕自身も、もう慣れているから相手の動きを瞬時に見切って、その動きを止めることぐらいはできるからね。少しでも止めてしまえば、先日のように後はレイジィが戦闘能力を瞬時に奪ってくれるので、僕は相手を迎撃することは考えなくていいんだ。少しでいいから身を守って敵に隙を作れば良いだけなんだよね」

「でもレフトールとは一騎打ちでやりあったのでしょう?」

 そう言ってきたのはリリスだ。彼女にとっては聞いた話だけでしかないが、ラムリーザが一騎打ちでレフトールを迎撃したのはラムズハーレムにとっては自慢の種だった。

「彼は……、言っちゃ悪いけど結局は子供同士のせめぎあいなんだ。プロの殺し屋から身を守るプロの護衛のレイジィとは次元が違う。だから一騎打ちでも勝算があると睨んで挑んだわけさ。ただ取り巻きが手を出してきたらめんどくさいので、そこはレイジィに頼ったけどね」

「相手が大勢で乗り込んできたらどうする?」

 リゲルは、別の観点から訪ねてくる。

「それもう暗殺じゃないよね、大規模な襲撃だよね? そこまで来たらもう戦争だよ、個人がどうこう言っている次元を通り過ぎているんじゃないかな? そのための、通常警備員なんだ。そこはユライカナンを信頼しよう。警備も増えていたからね。ちなみにレイジィの部下も数人呼んだ。僕はマジで狙われる立場だと知ったから、これからは警護もより厳重にするよ」

「しかし、ユライカナンにも変な奴は居るんだな……」

 ジャンは、少しがっかりしたようだ。だからラムリーザは、元気付けるために言った。

「どこの国にでも善人と悪人は居るよ。一人の悪人が騒いだからと言って、全部を憎むのは間違っている。悪いのは犯人とその狂気、間違っても関係ない人、例えばその子孫とか他の国民に謝罪や賠償を強いてはいけないね。あくまでその犯人一人と、その裏に居る組織を責めるに留めないと、正常な国交なんて不可能だよ」

 そこに珍しく、レイジィがラムリーザの傍にやってきた。ラムリーザ以外のメンバーに、緊張が走る。

 レイジィは、ラムリーザの耳元で何かをつぶやくと、すぐに離れて行って目立たない場所へと身を隠した。

「何だ今のは?」

 リゲルはラムリーザに訪ねる。

「えっと……そのぉ……、たぶんユライカナンの悪者の話しをしていたから、最新の情報を持ってきたのだと思う」

「犯人に何かわかったのか?」

「帝国の強引な取調べで、あの犯人、ヌマゼミからの刺客だったみたいなんだ」

「ああ……」

 リゲルは何かを察したようで、頷いている。

「リゲル、何か心当たりあるのか?」

「んや、帝国とユライカナンが親密になると、面白くないのはヌマゼミだ。だから刺客を放ってユライカナンで事件を起こして二国の仲を裂こうとしたのだろう。単純な考えだな」

「戦争になるかな?」

 リゲルの考察を聞いて、ジャンは身を乗り出す。

「なんだお前は、戦争を望んでいるのか?」

「いや、あの国は変な国だから、一度徹底的に叩いておくべきだと思うんだ。併合しても価値がほとんど無いから動かないだけなのだろうけどね」

「物騒な話はしない。それよりもソニア達平気かい?」

 ラムリーザは変な方向へ話が進み始めたので、ソニア達に話を振って話題をそらしてみた。

「あたし怖くない。レイジィ強いもん」とソニア。

「有力者の宿命です」とロザリーン。

「これで私も有名人かしら」とリリス。

「こんなことでラムリーザ様に対する忠誠心は変わりません」とユコ。なんだか必死に聞こえる、無理をしているのがバレバレだ。

「呪いの人形の忠誠心なんて要らん」

 そう言い放ったのはソニアだ。どうやらみんな、必要以上に萎縮はしていないようだ。

「ミーシャはね、リゲルおにーやんが守ってくれるから怖くない」

 普通にそんなことを言ってくるものだから、リゲルは「馬鹿」とつぶやいて顔をそむけた。なんか顔が赤いぞ?

 その中で一人物騒に答えたのが、ソフィリータだ。彼女は、「迎撃します」とだけ答えていた。

 

 そんな雑談をしているうちに、公演の時間が近づいてきた。

 ラムリーザは、みんなを励ますつもりで勢いよく立ち上がりながら言った。

「このツアーを中止したら、ユライカナンとの間に悔恨が残る。それがあの国の目的なのだろうから負けてられない。なぁに今日もかっ飛ばす、ラムリーズはまだまだ終わらんぞ、ベヤングだベヤング!」

「おいっす!」

「だからなぜそこでまたベヤングが出てくるのよ」

 気合を入れてラムリーザに同調するソニアと、ツッコミを入れてくるリリスの差。

 それでも一同は勢い良くホテルを飛び出し車に乗り込み、サロレオーム地方北の都ビエダへと向かっていった。

 

 30分ほど車で移動して、ビエダの町へと到着した。

 公演を行うシロヴィーリ・パークの前では、この公園の名前の由来となっているシロヴィーリ卿が待っていた。彼がこのユライカナン東部地方の領主であった。

「これはこれは、フォレストピアの領主殿」

 シロヴィーリ卿は恭しく頭を下げて手を差し伸べてきたので、ラムリーザもそれに倣う。実際の所、ラムリーザはまだ正式な領主ではなく、成人してから正式な領主となりそれまでは母親が代行をしていることになっている。だが細かいところは気にしない。未来の領主と言うことでは、同じようなものであった。

「初めまして、シロヴィーリ卿。ラムリーザ卿です」

「違う」

 すかさずリゲルが突っ込みを入れる。

「ラムリーザは名前だから、そこは性であるフォレスター卿と名乗るのが正解だ」

「――ということです」

 ラムリーザは、顔を赤らめて頭を掻きながらリゲルの説明に続いた。

 シロヴィーリ卿は、「わっはっは」と大笑い。それを見てソニアなどは、「つかみはオッケー」などと謎なことを言っている。

 最初の挨拶が軽快に終わると、とたんにシロヴィーリ卿は真顔になって話してきた。

「ところであの暴漢はどうなったのでしょうか? こちらで捕らえていろいろ調べたかったのですが……」

「それはその、僕の兄がそういうのは絶対に許さない性質なので、強引に帝国へ送還させてしまってすみません」

「いえいえ、君達は被害者、誤るのはこちらです」

 ラムリーザとシロヴィーリ卿は、交互に頭を下げあっている。だがラムリーザは、卿を責めてもしょうがないこともわかっていたので、慰めたりした。

「大丈夫です、こうして僕達も無事なわけですし、昨日のパレードの警備は完璧で、何も問題は起こらずにスムーズに進行できました。この点はお礼を述べます、ありがとう。そしてありが――」

 ラムリーザは、二重お礼になりかけたのであわてて口をつぐんだ。

「ありがとう! そしてありがとう!」

 ソニアが要らん事を脇から述べる。ラムリーザは、ソニアの頭にげんこつを落とそうとして、思い直して胸の先端をつねり上げた。

「ふえぇ――っ」

 その様子を見て、リリスとユコはくすりと笑った。そして小声で「ふえぇちゃん発動」とお互いにつぶやき合って、くすくすと笑い続けているのだった。

「それはそうと、紹介をしたい者が居るので挨拶を」

 シロヴィーリ卿は、後ろに控えていた三人を前へ出してきた。まずは、一番大きな男性が名乗ってきた。

「アッシュ・シロヴィーリだ。シロヴィーリ家の嫡男である」

 パッと見た感じでは、黒衣に包まれたリゲルといったイメージが近い。冷静沈着な、跡取りといったところだろう。まるで値踏みをするような鋭い目つきで、ラムリーザを見つめている。

「わたくしは、イシュト・シロヴィーリと申します。初めましてよろしくお願いします」

 今度はなんだか穏やかな女性が、ゆったりとした話し方をしてきた。おっとりとした娘と言ったところか? アッシュと違って、その目は優しそうだ。

「あたしはウルフィーナだよ。よろしくねっ」

 最後の一人は、なんだか元気いっぱいといった感じの少女だった。

「長男のアッシュ、長女のイシュト、次女のウルフィーナです」

 最後に、シロヴィーリ卿が三人の関係を述べてきて、自己紹介は終わり。どうやらアッシュはラムリーザよりも二つ上、イシュトは同い年、ウルフィーナは二つ下らしい。

 ラムリーザ自身の印象では、アッシュはリゲルの黒版、イシュトはおっとり巨乳、ウルフィーナは元気な娘といったところか。今日はこのシロヴィーリ家の人々もライブを見ていくらしい。

「ところで、母親はどちらでしょうか?」

 ラムリーザは、来ている家族が四人だけで母親の姿が見えないのが気になった。そして尋ねてから、聞くべきではなかったことかもしれないとちょっと後悔したりしていた。しかし、別にラムリーザが危惧するような理由ではなかった。

「その、家内はこういったうるさいのは苦手で……。そんなのもあって、無理に連れてくるのも可哀想かなと」

「あ、それはその、大変ですね。あいやいや、大丈夫ですよ」

 何が大変で大丈夫なのかはわからないが、ライブとは基本的にうるさいもの。きっと物静かな奥さんなのだなとラムリーザは勝手に想像していた。そういえば自分の母親も、ライブに顔を出したことは無いな……と。

 そうこうしているうちに開始時間がやってきた。

 ラムリーザ達はいつものようにステージ上で準備を開始した。ソニアなどは相変わらず不思議な踊りを披露している。いつものことだ。

 今日のライブでのいつもとの違いは、途中でゲスト参加としてアッシュ、イシュト、ウルフィーナの三人が一曲ずつ歌っていくというイベントが入ったということだ。

 特にアッシュなどは、おそらくラムリーザと同じ立場で、この地方の未来の領主と言ったところだう。将来を見据えて、初顔合わせついでに初共演も行って親睦を深めておこうといった狙いがあるのだ。

 最後はソニアのきーらきーらで締め。例の大寒波事件のとき以来雪を嫌っていたソニアだが、時も流れあの寒さも忘れたのか、最近では普通にレパートリーとして復活している。

 また、二日前と同じ轍を踏まないように警備の方もより強化されていたのか、今日は何もトラブルが発生することなく終わったのであった。

 

 シロヴィーリ・パークでの公演が終わり、帰り支度をしている時に、ラムリーザはシロヴィーリ家の長女イシュトに呼ばれたので、誘われるようにステージ裏へと向かっていった。

 イシュトは、優しそうな視線をラムリーザに向けたまま、ゆったりとした口調で語りかけてきた。

「ラムリーザ様、でしたわね。今日の公演、お疲れ様でした」

「いえいえ、イシュトさんこそ楽しんでいただけて何よりです」

 ラムリーザは、そのゆったり? おっとり? そのような印象を感じる口調に、なんとなく癒しを感じて居たりした。元気なソニアとはまた違った魅力だ。ただし、名前を様付けで聞くとユコの顔がちらついて仕方が無い。

 イシュトは、笑顔を浮かべて言葉を続けてきた。

「明日の休暇の日、わたくしにこの町の案内をさせていただけませんでしょうか? できればラムリーザ様お一人で――」
 
 
 
 
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