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天の川とユカタ ~風船お化け~

 

 日差しも鋭くなった夏。

 定期テスト明けの休みに、ミルキーウェイ・フェスティバルというお祭りの下調べをするために、ラムリーザ達は昼前から集まることになっていた。

 このお祭りは、隣国ユライカナンのお祭りで、7月7日の夜に行うといった話しかこれまでは聞いていなかった。

 ラムリーザがソニアとソフィリータを連れて、集合地点としていたフォレストピアの駅前についた時、既にリゲルとロザリーンとミーシャとユグドラシルの四人は揃っていた。

「おはようございましてみますか?」

 ラムリーザの変な挨拶に、ユグドラシルとロザリーンは普通に「こんにちは」と返し、リゲルは軽く頷いただけだった。こういう挨拶は、ユコが居ないと繋がらない。そもそも朝ではなくて、昼だった。

 ソフィリータの姿が消えたかと思ったら、ミーシャと一緒に駅前の売店へ向かっているところだった。二人はそこで飴玉を一つずつ買って戻ってきた。

 丁度その時、ジャンとリリスとユコの三人が駅前に現れた。

「これで全員かな?」

「レフトールは?」

 そこでラムリーザは、レフトールに携帯端末でメールを送ってみた。その返事は、「子分達とゲーセンに行っている」との返事だった。レフトールはお休みらしい。

 まずは昼ご飯から一緒する予定だった。

「さてと、ごんにゃに行こうか。ごんにゃ店主とお祭りの話もしてみたいしね」

「いんえ、ココちゃんカレーがいいですの」

 ユコはカレー屋を希望するが、目的はカレーではなくてクッションなのは明白だ。

「今日はダメ。カレー屋の店主は帝国の人でしょ? ユライカナンからやってきた人じゃないと、お祭りの話が聞けないからね。あと大食いは禁止」

 大食いのくだりは、ソニアとリリスに対しての釘刺しだった。

「りょうめん? まあめん? ミーシャ、初めて行くよ」

「そういえばそうだったっけ、それなら丁度いいね、行ってみよう」

 そういうわけで、駅前から移動してラムリーザ達フォレストピア組にとっては既になじみとなりつつリョーメン屋ごんにゃへと向かっていった。

 

「へい、いらっしゃいしゃいしゃいしゃい」

 二番街ペニーレインに建っているリョーメン屋ごんにゃの暖簾をくぐると、店主の威勢のよい掛け声が響いてきた。

「こんにちは~」

「おっや、領主さんじゃないですか~すか~すか~すか~」

 ラムリーザはそこで店主の違和感に気がついて尋ねてみた。

「ところで何ですかそれは?」

「何か妙なところでも見つけたかなかなかなかな」

「いやその語尾です。なんでそんな変な話し方をしているのですが? ユライカナンの方言ですか?」

「これかいかいかいかい? これがちまたで話題の残響音を含む台詞だぞっだぞっだぞっだぞっ」

「残響音ですか……。まぁいいや、リョーメンつけるぶんお願いします」

「あいよっいよっいよっいよっ」

 なんだか妙な趣味にはまっている店主に、各自それぞれお気に入りのメニューを注文して席に着いた。

「ところで次の休日の夜に行われる、ミルキーウェイ・フェスティバルについてですが――」

 カウンター席でごんにゃ店主と差し向かいになっているラムリーザは、今度行われる祭りについて尋ねてみた。

「おおそろそろだったな、あれはおっちゃんとツォーバーの二人が主軸となって進めることになっておるおるおるおる」

「残響音はそのくらいにして、ツォーバーって誰ですか?」

「んん? 残響音はお嫌いか? ツォーバーはスシ屋の店主だがな」

 そういえば、店主の名前をそれぞれきちんと把握していなかった。常にごんにゃの店主、スシ屋の店主で済ませていた。

「そうだったのですか。ところで今更聞くのも何ですが、店主の名前は?」

「おっちゃんか? ヒミツだぞ」

「いや、今更秘密にされても困りますよ。隠す必要も無いでしょう?」

「いやいや隠しておらんぞ、おっちゃんの名前はヒミツだ。ヒミツ・フモターラがフルネームだぞ」

「……なるほど、わかりました」

 なんて紛らわしい名前なんだ、ラムリーザはそう思いながらリョーメンを一口食べた。

 その後ろから、ソニアの「替え玉お願いしまーす」との声がかかり、続いてリリスも替え玉を要求してきた。

「三杯までだぞ」とラムリーザは無難なところで制限をかけておいて、「どんなお祭りになるのですか?」とごんにゃ店主ヒミツに尋ねてみた。

「そうだねぇ、食い物やおもちゃの屋台とかは、そちらの帝国建国祭と似たような感じになるな。しかし最大の違いはメインイベントだな」

「どんなイベントをやるのでしょうか?」

「その時までの楽しみ――としてもいいが、領主さんはどちらかと言えば開催側だから話しておこうか」

 そこでごんにゃの店主ヒミツは、「おほん」と一つ咳払いをしてからもったいぶるように語りだした。

 ミルキーウェイ・フェスティバル、その最大のイベントは願掛けというもの。笹にいろいろな飾りをつけた後、短冊と呼ばれる一枚の紙に願い事を書いて、他の飾りと同じように笹の葉に吊るすとその願いが叶うらしい。

「どんな願い事でも叶うのですか?」

「そうだなぁ、叶えられる範囲で叶うらしいぞ」

「誰の力で?」

「織星と彦姫の二人だろうなぁ」

「誰ですかそれは?」

 そこでヒミツは、再び「おほん」と咳払いをして今度は昔話を語り始めた。

 ヒミツの語る範囲では簡略化されていたものの、どうやらミルキーウェイ、天の川が関係しているようだ。

 先ほどヒミツの話に出てきた織星と彦姫は、天の川を隔てて会えなくなったが、一年に一度この祭りの日だけ会うことができるという話になっているらしい。古くから伝わる、ユライカナンの民族伝承の一つだ。

「そしてその天の川だが、祭りの夜に橋がかかり――」

「天の川は我々の住む惑星が存在する銀河を横から見たものだ」

 そこで急に、ラムリーザの隣でカウンター席でリョーメンをすすっていたリゲルが口出しをしてきた。

「銀河? 横から?」

「銀河とは恒星や惑星、星間ガスの集まりのことだ。一番明るくなっている部分が銀河中心となっている。中心付近が他の場所よりも明るくなっているのは、恒星の密度が高いからで、その中心には巨大なブラックホールがあると言われている」

「お、おう……」

 リゲルの説明に、ヒミツは目を白黒とさせている。ラムリーザもリゲルの言っていることが難しすぎて、よく分からなかったりしていた。

 一方後ろのテーブル席では、ラムリーザ達が話している内容が少しだけ伝わってきていたようで、そのことについて少し盛り上がっていた。

「聞いた? 一年に一度祭りの夜だけ会える、なんてロマンチックな話なんですの?」

 ユコはロマンチストなのだろうか? しかしそこに、根暗ちゃんが余計なことを言ってくる。

「ラムリーザとソニアも、一年に一度だけ会うようにしたらいいのにね、くすっ」

 これにはソニアも腹を立てた。

「リリスは一年に一度だけ部屋から出てきたらいいんだ!」

 ソニアのリリスに対する攻撃を聞いて、ロザリーンは一言「それなんて引き篭もりですか?」とだけ言ってきた。

「ええと、どこまで話をしたっけ? とにかくラストには大きなイベントが待っているから楽しみにして奈よ」

 ごんにゃ店主ヒミツは、いろいろと邪魔が入った話をそう締めくくった。ラムリーザは、その大きなイベントに何故か嫌な予感を感じたが、今は気にしないことにした。

「それじゃあリョーメンごちそうさま」

「あたしもう一杯お代わり!」

 ソニアはそう言うが、ラムリーザに「四杯目になるだろ、もうダメだ」と言われてそこでおしまいにさせられてしまった。勝負でもないのに食べすぎだ。

「そうそう、ユカタというものを知っているかな?」

「それは何ですか?」

「こういった祭りの夜などに着たりする、ユライカナンの伝統衣装のようなものだ。うちの隣にある仕立て屋で、レンタル衣装を準備していると思うから、よかったら見ていくといい」

 そういうわけで、ごんにゃで昼食を済ませた一行は、早速教えてくれたユカタというものを見に、隣の仕立て屋へと向かった。

「これはこれは領主さん、ようこそダギーの仕立て屋に」

 仕立て屋に入ると、すぐに奥から巻き髭が特徴的な中年男性が現れた。彼もごんにゃ店主と同じくユライカナン出身だったりする。仕立て屋自体は帝国のチェーン店の一つに過ぎないが、従業員にユライカナンの人を加えることで、異国文化を取り入れる形になっているのだ。

「ええと、ごんにゃのヒミツさんの勧めでやってきました。ユカタとは何ですか?」

 店内を適当に見回っているソニア達を尻目に、ラムリーザはここの店主ダギーに尋ねてみた。

「う~ん、歴史を語れば長くなるが、簡単に言えば素肌の上に着る略装ってところかね」

「略装……ですか、よくわかんないけど物は試しに着てみましょう」

 そういうことで、一同揃って試着してみることになった。

 

 ………

 ……

 …

 

「これ、いいんじゃないかな、色も気に入った」

 ラムリーザは、試着してみてすぐに気に入ったようだ。

 暑いこの時期、このユカタというものはサラッとしていて涼しくて快適だ。これを普段着にでもしようかな、などと考えたりしていた。もちろん色は緑色、ソニアの影響も大いにあるが、ラムリーザはこの色が好きだった。

「ミーシャも着たよ~」

 ミーシャの声が聞こえ、すぐにミーシャとソフィリータが連れ添って現れた。

 ソフィリータはラムリーザと同じような緑色、ミーシャは水色のユカタを着ていた。

「う~ん、可愛いねぇ」

 そう言ったのは、ミーシャと同じ水色のユカタを来たリゲルだ。満面の笑み、クールな氷柱のイメージはどこへやら。

「リゲルきもい」

 そこへ、紫色のユカタを着たリリスが表れた。続いて赤いロザリーンに青いユコ、ユグドラシルは黒いユカタを選んだようだった。

「何だと?」

 リゲルはジロリとリリスを睨みつけて言った。

「なんだかリゲルさんのイメージが違いますの」

 そう評したのはユコだ。やはり皆の中に出来上がっていたリゲルのイメージとは違う雰囲気のようだ。

「だまれ、ミーシャだけでなくロザリーンも美しい。それよりもだ、リリス太ったか?」

 リゲルはわずかばかりの動揺を見せただけですぐにこれまでの様子に戻り、出てきたリリスを見て怪訝な視線を向けてきた。

「うるさいわね」

 プイとそっぽを向いてしまったリリスに代わって、ユコが説明してきた。

「ダギーさんが言うには、こういったユカタ等を着る際には、バストのふくらみを目立たせないようにするため、タオルなどで補正するんですって」

「なるほど、それで巨乳のリリスはそれにあわせて胴が膨らんだわけだ。お前らはミーシャを見習ってだな」

 リゲルはうんうん頷きながら、ミーシャを持ち上げる。身体の凹凸の少ないミーシャが、女性陣の中では一番着付けが美しいと言えるだろう。

「またリゲルの表情がきもくなってる」

 ミーシャを見つめるリゲルの嬉しそうな顔を、リリスはすぐに指摘した。笑顔が気持ち悪いと言われるリゲルも気の毒なものだ。

「待てよ――?」

 そこでリゲルは、何かに気がついたかのように、一同を見回してきた。

「な、なによ」

「リリスでそうなるなら、あいつはどうなるのだ?」

「あいつって誰よ」

 再び普段の鋭い視線に戻ったリゲルに見据えられて、リリスは少したじろぎながら聞き返す。

「決まっているだろ、まだここに居ないやつだ」

「あっ」

 リゲルの言った事を理解したリリスは、とたんににやついて試着室の方へと目をやった。

 その時、丁度良いタイミングでソニアが最後に現れた。大物は最後に出てくるものだ? しかし――

「太っ」

 何人かの声が重なった。

 そう、身体の凹凸を補正したソニアの体型は……。

「なっ、何よっ」

 ソニアも状況を理解しているのか、口数が少ない。

「風船お化け」

 ボソッとリリスがつぶやいた言葉。いつもの言葉と微妙に違うが、割と的確に表現しているようだ。

 体のへこんでいる部分を、体の出っ張っている部分に合わせて寸胴体型になったほうがユカタは美しく着られるというらしいが、限度はある。

「なっ、何よみんな……。ねぇラム、どうあたし?」

「えっ? そうだなそのぉ……」

「風船お化け」

 ソニアはラムリーザに助けを求めたが、今度はユコが口を挟んできてラムリーザのフォローを邪魔してきた。そこまでだった――

「もうやだ! こんなの着ない! ちっぱい専用服! ふえ~んっ!」

「やっぱり牛が服を着るのはおかしいと思うわ」

 火に油を注ぐようなことをするリリス。こうなると後は止まらない。

「吸血鬼の服を着たらいいじゃないの!」

「黒服にマント、かっこいいわね。私はそれでも別にいいわよ」

「違う! 鋭い前歯で頭髪が一本も無くなるの!」

「それ、服装じゃなくて容貌よね?」

「容姿パラーメータって何なの? 美容整形コマンドなの?」

「何を言っているのかわからないわ」

 そんな感じに、無駄な争いを始めた二人を他所に、ラムリーザは自分の分のユカタの代金を払って、自分のものにしてしまうのだった。

「それじゃあミルキーウェイ・フェスティバルには、みんなユカタで参加しよう」

 最終的に今後の予定も決まり、そのまま皆ユカタを購入したのであった。

 ソニアは最後までゴネたが、どっちみちラムリーザが代金を支払うので、ソニアの要る要らないという意思とは関係無しに手に入れてしまっていた。

 

 そのまま夕方まで皆でのんびりと遊び、二人の強い要望によりココちゃんカレーで食事してから解散ということになった。

 この日、ラムリーザの部屋のココちゃんは、15体に増えていた。
 
 
 
 
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