home > 物語 > > 最終日はおふざけコミックバンド風でいってみよう
最終日はおふざけコミックバンド風でいってみよう
- 公開日:2021年12月12日
8月24日――
今日はいよいよツアー最終日。
計画では、まずは20日と同じようなパレードを日中行う。そして夜は、三度目のエド・ゲインズショーというスケジュールだった。
しかし、一週間に及ぶこのハードスケジュールは、確実にメンバーの体力を奪っていた。
「さすがにもうクタクタだわ、もうダルい帰りたい」
真っ先にリリスが不平をこぼし始めた。ホテルのゲームセンターも毎日行けば飽きるのか、朝食が終わってから、ソファーで横になったきり起きてこない。
「私もですわ、一週間は長すぎますの。せめて三日ぐらいなら……」
ユコも、リリスが横たわるソファーにもたれて、床に座り込んでしまっている。他のメンバーも、あからさまに態度には出さないが、その表情には疲労の影が現れている。
かくいうラムリーザも、確かに疲労は感じていた。休日にホテルで休んでいたメンバーと違い、イシュトに誘われていろいろ出ていた分なおさらだ。
一方で、ジャン一人だけがホクホク顔。ジャンは主にマネージャー的な仕事をしていてステージには上がっていない。その分他のみんなよりも、肉体的には楽をしていたのだろうか。
「お疲れの諸君」
ジャンは、口数も少なくなっているホテルの一室で、みんなの中央付近に立って周りを見回しながら言った。
「君たちの働きで、今回の稼ぎがどのくらいになったと思う?」
「えっ、金を稼いでいたのか?」
ラムリーザは驚いて聞き返すが、ジャンは「あたりまえだ」と答えた。
「ステージでは入場料とか演奏料とかでいくらかもらえるし、パレードではスポンサーも付いていた。まあささやかなものだが、この一週間で純利益として200万エルドぐらいは転がり込んできたぞ。君たちのおかげだ、おれは感謝している」
ソニア達にとっては大金を提示されて、とたんに元気になって騒ぎ出してきた。
「ジャンずるい! あたしたちにも分けてよ!」
「そうだわ、あなた打ち合わせとかしていただけじゃないの。現場で稼いでいたのは私達だわ」
「そうですの! 私たちはあなたの道具じゃありませんの!」
「500万エルドあったら、ゾウの卵も楽々買えて、ゾウの卵の卵焼き作ってもらうんだ」
「いやミーシャ、ゾウは卵産まない」
「じゃあクジラ!」
「落ち着け、諸君――」
ジャンは、騒ぎ立てる女性陣の一部に両手をかざして制してから続けた。
「報酬の分配は帰ってからだ。しかし今日のパレードや公演が失敗に終われば、逆に失敗料を支払わなければならない。成功すれば報酬は増えるぞ? さて、どうする?」
ジャンはうまく人をコントロールしている。疲労困憊のメンバーに、報酬をちらつかせて最後の気力を振り絞らせようと画策してきた。
その考えは成功し、ソニアはリリス達と共に「パレード行くぞーっ!」などとシュプレヒコールまがいの事をやり始める始末であった。
「それで、最終的にいくらになりそう?」
妙な盛り上がりを見せるソニア達を他所に、ラムリーザはジャンに訪ねてみた。
「そうだな、240は行くかな? 九人で割って、一人25万エルドぐらいになるか?」
「差分は?」
「俺が手間賃とかで頂く。裏方もいろいろやる事があるんだぞ」
「人はそれを中抜きと言う――が、まあいいか。あいつら庶民には大金だな」
リゲルは、騒いでいるソニア達がやかましいとでも言うように、顔をしかめて言ってきた。
「私も小遣いそんなにもらっていませんよ」
ロザリーンは騒ぎに参加せず、ラムリーザ達の雑談側に加わっている。ここに庶民と貴族の温度差が生まれている。
「全く、ふしだらなお金のにおいがぷんぷんするな。若いうちに大金を手に入れると、道を踏み外すに決まっているものだ。なぁラムリーサ?」
「僕は大丈夫よ、おまかせじじい」
「そうだぞおまかせじじい。これは純粋に働いて稼いだ金だからな、全然ふしだらではない」
リゲルは格言めいたことを言うが、ラムリーザとジャンにあっさりと反撃されてしまうのであった。ただ、おまかせじじいという呼称が謎ではあったが……。
そんなわけで、最終日のパレードも気力いっぱいで始まった。今回は前回の反対方面、主に東の国境ミルキーウェイ川に沿って移動するパレードとなった。
ソニア達は最初は観衆に応えていたが、やはり疲労は隠せずに、途中からはぼんやりと川を眺めている事が多かったりした。不思議な踊りも披露されなかったが、それは特に求めていないから大丈夫。
その様子を見てジャンは、「やはり二回目のパレードはスケジュール的にきつかったか」と少し反省するのであった。
もっとも、一番の目的である新領主の披露は、ラムリーザがなんとか最後まで笑顔を崩さずに対応していたから成功と言えるものであった。
これでユライカナン最東端の町に、フォレストピアの新領主のイメージを刷り込ませることに成功した、と言えるのかな?
そしてそのまま最後の大仕事、エド・ゲインズショー三回目へと流れ込んだ。
メイン司会のエド・ゲインズと、マネージャーのジャンがステージに立ち、ラムリーズの登場を告げる宣言を行った。
「それでは皆さん、フォレストピアを代表するフレッシュなグループ、ラムリーズ!」
スポットライトが移動して、ステージ右を照らす。ラムリーザを先頭に登場――
先頭のラムリーザは、少し前かがみになって右手を前に差し出した形で登場してきた。続くソニアは、同じように前かがみになり右手をラムリーザの肩に乗せている。リリス、ユコ、ロザリーン、ソフィリータ、ミーシャ、リゲルと続いたが、皆同じようなポーズを取っている。
「あーぶらーむしっ、ピッピッ」
そして謎の歌が始まった。八人が声をあわせて歌っている。いや、リゲル辺りは行動を合わせているだけで、歌っていない可能性大だが……
そして歌いながら、ステージ中央に向かって行列のまま進んでいく。
「あーぶらーむしっ、ピッ、あーぶらーむしっ、ピッ」
ピッピッに合わせて一旦立ち止まり、観客側に向けて左足を横に蹴り上げる。
「そーのまーたこーどもーも、あーぶらーむしっ、ピッピッ」
なんだかよくわからないが、妙な登場のやり方に会場は大爆笑。
エドは台詞に困り、ジャンは「やってみたものの、シュールだな……」とつぶやいている。リゲルなどは、「コミックバンドじゃあるまいし」と顔を赤くして俯き気味だ。このパフォーマンスに乗り乗りなのは、やはりソニアとミーシャぐらいであった。
もっともリゲルは、ミーシャに「やろうよー」とせがまれて、仕方なく付き合ったという裏がある。
こうしてつかみを取ったところで、本日の演奏開始。一曲目はリリスのカラーに口付け、二曲目はソニアのルシア、三曲目はミーシャのおまた少女、四曲目はラムリーザとソニアの二人で歌う星の瞳と続いていった。
ここまで終わってから、小休止というわけでトークショーの様な物が行われた。
なにやら大きな八面体のサイコロを振って、そこに書かれている名前の人に何でも質問できて、該当者は答えなければならないといったものだった。
せーの、という掛け声で司会のジャンがサイコロを投げる。該当者はソニアに決まった。
ソニアはステージの真ん中に歩み出て、「質問はなーに?」と観客席に問いかけてみた。質問者は、観客席に向かったもう一人の司会のエドが無作為に適当にマイクを向けるというものだった。
「おっぱいの大きさ!」
スピーカーから質問が上がり、観客席がドッと沸く。
「やだ! そんなの答えない!」
ソニアは憤慨してステージ中央から離れるが、そこに入れ替わるようにリリスが立つ。
「103cmのLカップと聞いてるよ!」
それを聞いて、再び観客席から笑い声が上がる。
しかしリリスも精神的に成長したのは本当だ。自分からステージ中央へ歩み寄るなどは、ラムリーザと出会った頃には考えられないような行動だった。
二番目の質問該当者は、リゲルになってしまった。
リゲルは嫌がったが、ラムリーザに促されて仕方なくステージ中央へと進み出た。普段リゲルは、後方に下がってラムリーザの隣辺りで黙々とリズムを刻んでいるだけだ。あがり症というわけではなさそうなので、単に目立ちたくないだけだろう。
「付き合っている人は居ますか?!」
質問者は女性だった。パッと見クールでイケメンに属するであろうリゲルに、元々興味心身で女性関係を知りたがったのかもしれない。
「うっ……」
リゲルは小さく唸ったが、マイクはしっかりとそのうめき声をキャッチして、スピーカーを通じて会場に響かせた。そしてリゲルもソニアと同じく質問に答えようとせず、ステージ中央から下がってしまった。そこにフォローに入ったのは、今度はミーシャだ。
ミーシャは、ピアノの前に居るロザリーンを片手で指し示しながら、もう片手でマイクを持って答えた。
「このロザリーン姉ちゃんが、リゲルおにーやんの恋人です!」
「こ、こらっ――」
リゲルは慌ててミーシャを止めようとする。観客席からは、所々から小さく「えー」と言う声が上がっている。リゲルがフリーじゃないと知った女性ファンのため息か?
「そして、ミーシャも恋人だよ。リゲルおにーやんは、恋人が二人居るの!」
「ばっ、やっ、やめっ――」
観客席からは、笑い声とブーイングが半々だ。ホント、リゲルもミーシャが来てから妙なキャラになってしまったものだ。
次の質問該当者はラムリーザとなった。ラムリーザはドラムセットの椅子から立ち上がってステージ中央へと向かう。
そこでエドは気を利かせたのか偶然か、今回も観客としてやってきていたイシュトへマイクを向けたのだった。
「えーと、ラムリーザさんがバンドを始めたきっかけは何ですか?」
ゆったりおっとりとした声で、ラムリーザに質問を投げかけてきた。
「えっと、僕にもよくわからないんだ。ソニアにそそのかされて、ムリヤリ始めさせられたんだ」
「いけないなぁ、自分の彼女のことを悪く言っては。食らえ、ジャン・リベンジャー!」
「なっ、何をするんだっ?!」
突然ジャンが頭突きをしてきて、ラムリーザはよろける。そのコントみたいな動きが、観客にはウケていた。
実際ラムリーザの言ったことは半分事実で、唐突にソニアからギターを始めようと言われて始めて、次にドラムに変わってと言われて変わり、これまで叩いてきたというのもあった。ただそれをストレートに語ってしまうのはどうかと思われるわけで、ジャンはフォローを入れたつもりだったのだ。
次で最後ということになり、サイコロの結果ミーシャが選ばれた。
「ミーシャちゃんは、あのS&Mのミーシャですか?」
「そうだよー、ミーシャは踊り子ちゃん、何でも踊るよーっ」
そこで何を思ったか、ソニアがいつも踊る不思議な踊りを披露するからミーシャもよくわからない。
ソニア以外のメンバー、観客共にそのわけの分からない踊りに吹き出している。
こうしてトークショーまがいは終わり、後半戦へと突入。まずはめずらしくリゲルが破戒僧グリゴリーを歌い、それに合わせてミーシャのダンスを思いっきり披露していた。続いてロザリーンの天使の光などが披露され、ソフィリータもヒトカケラ、ユコもこの世界のどこかでを披露。ラムリーザも一曲歌い、再びリリスに戻り、最後はソニアがトリを務めることになった。
最後の歌、いつものきーらきーらが始まる前、ラムリーザはマイクを取ってジャンの司会に続いて話を続けた。
「次でこのツアー最後の曲となります。そこで、観客のみなさんにも参加して頂きましょう」
そこで一息つく。メンバーも観客も、ラムリーザの次の言葉を待っていた。
「安い席の皆さん、一緒に拍手をお願いします。後の方は、宝石などジャラジャラ鳴らしてください」
再び観客席から大笑い。それを見て、ジャンはやれやれと困ったような表情を浮かべる。
「これじゃあコミックバンドじゃないか……」
とは言う物の、出だしのわけわからん「あぶらむし」からして今日のライブは妙な雰囲気だった。普段ならブレーキがかかるところだが、みんな疲労からいろいろと考えることが少なくなってしまっていたのかもしれない。ラムリーザの最後の曲前の台詞も、ラムリーザ自身どこかで聞いたような記憶がある物を、なんとなくで真似てみたようなものだった。
なにはともあれ最後の曲も終わり、こうしてツアー最後のライブも終了した。
最後の最後で、ラムリーザの「逃げろ!」の号令でステージからメンバーが全員駆け足で舞台袖にに引っ込むところもあり、最後まで妙なところはあったものの、一週間に渡るツアー活動も、これにて完了である。
Sponsored Links
前の話へ/目次に戻る/次の話へ
