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ミルキーウェイ・フェスティバル

 

 西の空が茜色に染まる頃、ラムリーザ達は普段とは違った衣装でフォレストピアの駅前に集まっていた。今日はミルキーウェイ・フェスティバル、ユライカナンのお祭り体験日だ。

 ラムリーザは衣装もこの祭りの時などに切ると言われている、ユライカナン伝統の衣装であるユカタを着て参加しようと決めていたので、全員そうするようにとしたわけだ。もっとも、ユカタを気に入ったラムリーザは、最近では湯上りにバスローブではなくユカタを着ていたりする。

「やっぱりこの服は、この時期だと涼しくていいねぇ」

 暑い真夏日、日は暮れかけていても周囲は熱気でムンムン。だが時折吹く風が、サラサラなユカタには心地よい。しかし――

「おいエル、お前それエロすぎるだろやばいって」

 ジャンは、ソニアを見てそう言わずには居られなかった。しかしソニアは真顔のままジャンの言葉を無視する。

「あ、無視してるなエル」

「あたしエルじゃない!」

 気に入らない点はそこであった。

「エルじゃねーか、その胸やばいって」

「いいの! タオル巻いてドラム缶って言われるぐらいならこれでいいの!」

 ドラム缶とは呼ばれていない、風船お化けとは呼ばれていた。

 そう、ソニアがユカタを着ると、そのそのバストと呼ぶには大きすぎる、風船と呼ぶにはソニアの不満が爆発するとどうでもよい形容は置いといて、身体の凹凸を少なくしようとすれば「太っ」と呼ばれてしまうのである。

 何しろバスト1メートル超えの大所帯、ウエストをあわせようとするとそれはもう……

 そこでソニアは開き直って、調整などクソクラエ、そのままの体型のまま無理矢理ユカタを着たのであった。

 巨大な風船はこぼれかけていて危うい。まるで去年ソニアが着ていた制服の胸の辺りを再現したようなものだ。それだけではない、制服よりも生地の薄いユカタ、傍から見ると半裸とは言わないがとにかく危うい。かろうじて胸の先端は隠れているが、大きくはだけた胸は、注目の的であり異質なものであった。

 リリスも「太ったか?」と言われたのを気にしてか、ソニアと同じように調整を捨てていた。その結果危ういことは危ういが、大事の前の小事、ソニアと並べば普通の範疇に収まるような気がするから不思議である。

 

 

 メインストリートは派手に飾られ、屋台が所狭しと並んでいる。まるで建国祭のような賑わいをみせていた。

「あっ、いかめしがある!」

 ソニアは好物のいかめしを見つけ、さっそく買ってきてほおばった。しかし、一口食べてから首をかしげる。

「何か感じが違うよ?」

「ユライカナンのいかめしは、小麦を練ったものの代わりに米を入れるみたいだね」

「ふ~ん、でもこっちもおいしいからいいや」

 とりあえず、ユライカナン産のいかめしは、ソニアのお気に召したようだ。

 他にもチョコバナナ? りんごあめ? 初めて見る珍しいものが並んでいる。しかしこれらは、ユライカナンでは普通にある祭りの屋台であった。

「去年の建国祭でラムリーザを見たときは、なんだこのハーレムはと思ったけど、今こうして見ると別にそうではない不思議だな」

 ジャンは、集まったメンバーを見てそう評した。

 去年の建国祭では、ラムリーザはソニアとリリスとユコの三人を連れてジャンの前に現れた。確かにハーレムである。

 しかし現在のメンバーは、男子6人女子6人、奇麗に割れていた。

「ペアを作ってみるか?」とのジャンの提案に、リゲルは「やめろバカ」と冷たく言い放つ。

「あたしはラムとペア。魔女と組むかわいそうなのは誰?」

「俺が普通に魔女と組んでやる。科学者ジャンと呼べ」

「役立たずコンビ!」

 面白く無さそうに、ソニアは文句を言った。魔女はともかくとして、科学者が役立たず。ソニアの価値観は独特で不思議である。

 ユグドラシルはさりげなくソフィリータと並んでいるし、リゲルはロザリーンとミーシャを未だに選べないでいる。

 残る男子は、レフトールとマックスウェルのアウトローコンビ。事前の調査などには参加していないが、お祭りとなれば話は別である。一番の子分を率いて参戦であった。

「何ですの! ペアつくってばかりで……」

 いろいろとくっついてるような様子を見て、ユコが憤慨する。しかしそこにレフトールが接近。

「ゲーセン組みを結成しようや、お嬢ちゃん」

「それはゲーセンでだけしか通用しないコンビですの! ここはゲーセンじゃありません!」

 振られるレフトールを見て、マックスウェルは興味無さそうに欠伸した。

「しょうもないことやってないで、先に進むぞ」

 さっさと屋台街を先へ進むリゲル、しかし右手をロザリーンの肩に回して抱き寄せ、左手はミーシャと繋いでいる。

「あいつも開き直ったなぁ」

 前を歩くリゲルを見て、ジャンはつぶやいた。

「じゃあ私はラムリーザ様の左手を頂きます」

 右側にはソニアが引っ付いているので、ユコはラムリーザの左手を取った。

「それじゃあ私はラムリーザの前に立って露払いするわ」

 リリスがラムリーザの前に割り込む。

「後ろは私が護ります」

 そう言ったのは、ラムリーザの妹ソフィリータだ。おそらくこのグループの中で、純粋な戦闘力は一番高い。

「なんだお前、やっぱりハーレムじゃないか。合体してキングラムリーザにでもなるのか?」

「いやいや君達歩きにくいから密集しないで。離れて普通にしなさい」

「そうだ! お前ら散れ!」

 ラムリーザは困ったように促し、ソニアは怒ったように凄む。

「ソニアさん、あなたが散りなさいですの!」

 左右で怒声が飛び交い、ラムリーザはいい迷惑だ。

「それに良いのか? ハーレムの中にリリスが混ざっているけど、ジャン的にそれは許容範囲なのか?」

「それは困るな。よし、俺もお前の前に立って、リリスと一緒に露払いする」

「だからそれが邪魔なんだって、君達が先に露払われろよ」

 背後ではソフィリータだけでなく、ユグドラシルも接近している。

 なんだかよく分からないが、リゲルのグループとラムリーザのグループ、そしてレフトールのコンビの分かれてしまっていた。

 

 ………

 ……

 …

 

「えー、ミルキーウェイ・フェスティバルにお越しの皆様にお知らせ致します」

 そこに、今回の祭りの実行委員をやってもらっているごんにゃ店主ヒミツの声が、祭りの会場に設置されてあるスピーカーから響いた。

「只今より、ユライカナン四千年の歴史を誇る、アジャパーミラクル短冊争奪お願い事選手権を開催致します」

 その放送を聞いて、不思議そうに顔を見合わせる面々。

「短冊のお願い事って何かしら?」

「それに書けばごんにゃさんが叶えてくれるんじゃないの?」

 などと、ソニアとリリスは話し合っている。

 一方ラムリーザは。ユライカナンって四千年前からあったのか? などと考えていた。その割には大会の名前が今風すぎるのも謎だ。

「勝負は簡単だぞ。誰が一番愉快でなおかつ熱い願い事を書いてくれるか、ただそれだけであります。優勝者にはこの大短冊が贈呈され、会場中央のササの天辺に飾る権利を得られますよ!」

 ごんにゃ店主の解説は続いていた。

 しかし、ソニアやリリスはあまり乗り気では無さそうだ。

「どうせ願い事と言ってもねぇ、叶うかどうかなんてどうせ夢物語でしょう」

「あたしが百億万エルド欲しいって書いたらほんとにくれるというのならやってもいいかな」

 ラムリーズの表部隊双璧が乗り気じゃないのだから、いまいちテンションが上がらない。

「ミーシャ願い事書くよ、書くよ。それでね、それでね、あ、やっぱり願い事はひみつー」

 一人ミーシャだけが嬉しそうにはしゃいでいる。

 だが、ごんにゃ店主の次の言葉で雰囲気ががらりと変わった。

「この大短冊は、四千年の歴史が作り上げてきた特別な製法で作られており、どんな願い事でも叶えられる範囲で叶えてくれるという超レアな短冊なんだぞ、と」

 そんなうさんくさい宣伝に、あっさりと乗せられるソニアとリリス、単純な二人だ。

「特別な製法、何かがあるわ。私はあの大会に参加してくる」

「あっ、リリスが行くならあたしも行く。吸血鬼根絶を願ってやるんだ」

「ご参加される方々は、ミルキーウェイ・フェスティバル本部席までお越し頂き、願い事の書いた短冊と参加希望を伝えるだけで結構ですよ。お待ちしております!」

 その言葉を合図に、ソニアとリリスは本部席を探して駆け出してしまった。その後にミーシャも「ミーシャも書く~」などと叫びながら続き、さらに残りのジャン達も後に続いた。

 気がつくと、ラムリーザの周りにはリゲルとロザリーンしか残っていなかった。

「あーあー、行っちゃった」

 頭の後ろで手を組んだまま、ソニア達が消えていった方向を見ながらラムリーザは気が抜けたようにつぶやいた。

「ジャンさん、行っちゃいましたね。この大会の審査員の一人でありながら」

 そうである。ラムリーザとリゲルとロザリーンとジャン、この四人はどちらかと言えば参加者と言うより運営側。この祭りの開始前にごんにゃ店主から大会の話は聞いており、願い事の選別メンバーとして依頼されていたのだ。

「ジャンはお祭り好きだからなぁ。まぁ一人ぐらい欠けたところで問題ないだろう。それじゃあ運営部に行くぞ」

 ラムリーザは、二人を率いてごんにゃ店主の待つ場所へと向かっていった。

 

 ………

 ……

 …

 

 晴れた夜空に天の川が輝き、ミルキーウェイ・フェスティバルも最高潮。

 運営部には数多くの短冊が集まり、これから一番愉快でなおかつ熱い願い事を選別する作業に取り掛かり始めていた。

「ヒミツさん、これをどうするのですか?」

 ラムリーザは、まだごんにゃ店主の名前に違和感を覚えながら尋ねた。

「一つ一つ書かれた願い事を読み上げて発表していくんだ。それで一番笑いや驚きの声が上がったものが勝ちとするぞ」

「そうですか」

 読み上げて発表、そこにラムリーザは少しばかり嫌な予感を感じていた。参加者の中にソニアやリリスが居る。あの二人が何を書くか心配で、ちょっと不安になるのだった。

「それでは只今より、アジャパーミラクル短冊争奪お願い事選手権の審査を行います!」

 ごんにゃ店主の一声で、先ほどまで騒がしかった会場が少しばかり静かになる。多くの人が注目しているようだ。

「ツチノコ見つけたい! ミカメ・ヒノヤカ」

「えっ、名前も読み上げるのですか?」

 ごんにゃ店主の発表に、ラムリーザは慌てた。匿名ならまだ冗談で済ませられても、名前を上げられたら冗談が冗談でなくなる場合もある。

「ん? そうだぞ、これがこの大会のやり方だ。参加者には参加する際に確認は取ってある」

 ごんにゃ店主は、マイクから顔を離してラムリーザに答え、すぐに次の読み上げに入った。

「今年こそ大学に行きたい! ラーク・スカイウォーキン」

「金脈がみつかりますように! ジャン・エプスタインって君! 審査員でしょうがこっち来なさい!」

 あちこちから笑い声が上がるが、これはノーカンだろう。

 しばらくして運営部にジャンが姿を現した。

「いやぁ、祭りの盛り上がりに浮かれてしまって忘れてた、ごめんよ~」

「大丈夫、これからだから。観衆の反応を見て、一番を決めるんだってさ。ジャンの願い事にも笑いが挙がったけど、たぶん願い事の内容で笑いを取ったわけじゃないし、審査員だからいまのなしってことになるよ」

「はいよん」

 そしてジャンは、ラムリーザ達と一緒に本部席に並んだ。

「フォレストピアが千年都と呼ばれるぐらい、平和が長く続きますように! ソフィリータ・カスミ・フォレスター」

 所々から、「おー」と歓声が上がる。

「さすがお前の妹だ。考えていることが真面目だな」

「いやまぁ、普通っぽいでしょ」

 そう言いながらもラムリーザは照れが入っていた。しかしそこから徐々に雲行きがおかしくなってきた。

「優勝できますように! レフトール・ガリレイ」

「いやまぁ、目的はそうだけどさ。その願い事を書かなくちゃ……って、一応願い事か」

「異星人が見つかりますように! モックス・フォルダー」

「リゲル、異星人は存在するのかな?」

「そうだな、まずは惑星が恒星から一定の距離が必要だ。あるラインの内側だと熱が強すぎて水分は全て蒸発してしまう。逆に遠すぎればすべて凍ってしまうだろう。生物が誕生するには、まずは水が永遠に存在できなければならない。それをハビタブルゾーンと呼ぶ」

「領主様が重婚しますように! ミーシャ・カッシーニ」

「あ、ごめん、話が長くなりそうだ、その話はまた今度にしてくれ――って、何ですと?!」

 リゲルの天文学ウンチクを聞かされそうになったが、その間に不穏な願い事が挙がったような気がしてラムリーザは振り返った。

「くっくっくっ」

 リゲルは一人、含み笑いを漏らしていた。周囲では笑い声が割りと上がっている。

「ちょっと待って、今の願い何? ミーシャが? なんで?」

「ねぇねぇ聞いた聞いた? ミーシャ、リゲルおにーやんの言ったとおりの願い事書いたよ」

「なんやそれ!」

 いつの間にか本部席の前にミーシャが現れて、ニコニコしながら報告してきた。

 リゲルの思惑としては、ラムリーザがソニアと彼女以外の誰かと重婚すれば、自分も堂々とロザリーンとミーシャ双方を選べる。そんな無茶苦茶な考えから至った結果だが、リゲルはさらに追い討ちをかけてきた。

「ラムリーザ、妾制度を作れ」

「唐突過ぎてついていけない!」

「私がラムリーザ様と結婚したら、ソニアさんは妾になるってことですのね」

「違う! 呪いの人形死ね!」

 気がつけば、本部関前に皆集まってきていた。

 しかしラムリーザにとっての災難はまだ続いていた。

「ラムと結婚できますように! ソニア・ルミナス」

「こら! わざわざ書かんでもその内って言ってるのに!」

「ラムがなかなか結婚してくれないからカラス女や呪いの人形がしゃしゃり出るんだ、ラムが悪い」

「お前なぁ……」

「ラムリーザと結婚できますように! リリス・フロンティア」

「ぶっ!」

 立て続けに厄介な願い事が挙がり、ラムリーザは吹き出してしまった。その横ではジャンが微妙な顔つきだ。

「大丈夫、ソニアに対する嫌がらせだから」

 リリスはジャンに歩み寄り、怪しげな笑みを浮かべて静かにささやいた。

「僕に対する嫌がらせにもなっているよね?」

 ラムリーザは非難するが、リリスは微笑を浮かべただけだった。ソニア一人、怒りで顔を真っ赤にして震えているのだった。

「ラムリーザ様と結婚できますように! ユコ・メープルタウン」

「お、お前ら!」

 ユコまでもが悪ふざけをしてきて、ラムリーザは改めて事の大きさを感じていた。

「とりあえずね、『様』とか、『ラム』って何? あなたたちは、蛇足だったり子羊だったりしてるのよ。正確な願い事を書いたのは、私だけ」

 しかしその一方でリリスはクスッと笑って、勝ち誇ったような顔で言った。

「そういう問題じゃない!」

 ラムリーザは、それだけ言うのが精一杯であった。

 こんな感じに、短冊争奪杯という祭りのイベントは、ラムリーザが危惧した通り、非常にめんどくさい結果となってしまったのであった。三人の嫌がらせ、いやソニア自身はいつもどおりのこと、残る二人の嫌がらせを受けて、ラムリーザは爆弾を三連発も食らうことになったのだ。

 その結果、誰が優勝したのかわからない大会となってしまった。ラムリーザが平常心を取り戻したとき、すでに大会は終わっていた。ずっとソニア達三人の罵りあいを聞いていただけで、ごんにゃ店主の台詞など頭に入ってこなかった。

 そして終わってみると、身内からは優勝者は出なかったようだ。

 ラムリーザ的には、ソフィリータの願いが優勝でもよかったのだが、愉快でなおかつ熱い願い事というお題にしては普通すぎるところもあったのだろう。

 

 皆の願い事を書いた短冊を飾ったササの木は、お祭り最後のイベントで盛大に燃え上がることになった。ササの木にそのまま燃料をかけたり塗り込んだりして火をつけ、一気に炎上させたのだった。

 勢い良く立ち上がる火柱をみた観衆の声援を受けながら、その勢いによって願いは天へと昇っていく。その煙は白い橋となり、織星と彦姫の二人は天の川にかかった白い橋を渡り、一年に一度だけ会うことができるのである。

 天の川が見えなくなるほど輝くササの木を見ながら、ラムリーザはソフィリータではないけど「千年後、千年都のフォレストピアと呼ばれていますように」と願うのだった。
 
 
 
 
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