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屋敷の近くに追加された駅

 
 9月19日――

 

 この日の朝、ラムリーザ達はいつもより十数分早く屋敷を出た。朝食後のちょっとした休み時間を縮めただけなので、さほど影響はない時間だ。

 先日リゲルの言っていた新しい駅が仕上がって、今日から電車がそこにも停まるということになっているので、その様子を見るついでに登校してしまおうという流れだ。

 駅の場所は、フォレストピア駅から少しだけ西へ行った部分にある。電車の車両基地がすぐ西にあり、そこを出発した電車が最初に停まる駅となったのだ。新しい駅は、ラムリーザの住む屋敷から見ればフォレストピア駅よりも近かった。

 

 ラムリーザとソニア、そしてソフィリータは、屋敷を出てからいつもとは別の方向へと向かう。これまでは、市街地にあるフォレストピア駅へ向かうために、屋敷の正門を出て庭園を横切り、途中に竜神殿のある東の道を進んでいたが、今日は南にある庭園内部へと向かっていた。

 まずはアンブロシアと名付けられている庭園を通り抜けていく。池と川、橋があり、その橋を渡るとラムリーザが時々昼寝をしている草原が広がっている。庭園内の道を、南へとどんどん進んでいくとやがて庭園は終わる。その先は、フォレストピア西側を囲っているロブデオーン山脈のなだからな裾を下りていく感じになっている。

 裾付近はちょっとした林のようになっていて、その中にわかりやすいように小さな柵が並んでいる。ほとんど木陰になっていて、夏だというのに結構涼しかったりもするのだ。柵はずっと南の方角へ続いている。坂道は非常になだらかで、よく見てみないと坂になっていると分からないぐらいだ。

 ラムリーザは、ソニアとソフィリータを左右に置いて、並んで歩いていた。キラキラと木漏れ日が眩しい。聞こえるのは、三人の足音と、時折鳴いている鳥の声だけだ。

「ソニア姉様、ちょっとよろしいですか?」

 ソフィリータは、チラチラとソニアの足元を見ながら尋ねてきた。

「なぁに? もてない会長の彼女さん」

 もてない会長とは、生徒会長ユグドラシルだ。以前女慣れしていない彼を、ソニアはそんなふうに失礼な呼び方をしていた。いや、今もしている。彼女持ちのもてない男、普通に考えたら矛盾した存在であったが、ソニアは一向に気にしていない様子だ。

「えっと――」

 ソフィリータは少しの間、しゃべるのに戸惑いが見られたが、

「なんで靴下を上げずに、足首の辺りで変な風に丸めているのですか?」

 ソフィリータから見て、ソニアの足元は不自然だった。ソニアは制服のサイハイソックスを持ち上げずに足元でダブつかせていた。今週に入ってから、ずっとそんな様子である。

「いいの、こんなうっとーしーもの、これでいいの」

 ソニアはぶっきらぼうに答えた。

「風紀委員に見つかったら怒られませんか?」

 実際に、ずっと昔にソニアは風紀委員のケルムに、そのことで注意された事があった。

「いいの! 学校についたらちゃんとするから。それまではこれでいいの!」

「別に鬱陶しくありませんけどね……」

 ソフィリータは、ソニアの剣幕に押されてぼそぼそとつぶやいた。

 そんなわけで、ここのところ登下校時、ソニアは太ももの付け根付近から足首まで、遠慮なく生足を晒し出していた。

 ソニアは自分がそんなだから、平気で人の靴下をずらしにかかってくる。もし自分がずらされたとしても、それは他人がやったことだからこの状態にあるのは自分の責任ではないと言い通すつもりなのだろう。

 駅へ通じる小道は、ラムリーザ達以外誰も居ない。屋敷から駅までの間に建物は何も無い。だから他の人が居ることは普通ではありえないのだ。

 そして小道の先に見えてきた駅にも、ほとんど人の気配は無かった。駅のと場所の性質上、無人駅というものであった。いずれ人が増えてきたら、この駅の周りにも別の建物ができて、人が住み着くかもしれない。しかし今は、駅も小道も、ラムリーザ達以外には無人であった。

 駅に到着した時、傍に見覚えのある丸っこい車が停まっているのに気がついた。

「あれ、この車は確か?」

「よう、現れたな」

 駅の構内から現れたのは、リゲルだった。そう、丸っこい車はリゲルのよく運転している車で、ラムリーザも何度か乗った事がある。

「おはようございました」

 ラムリーザの挨拶に、リゲルは「過去形で言うな」とだけ答える。

「おはようございません」

 ソニアの挨拶に、「否定するな」の一言。

「おはようございます」

 ソフィリータのまともなあいさつに、「ん」とだけ答えて話を続けてきた。

「とまぁ挨拶はどうでもいい。まだ細かいところは仕上がっていないが、予定通り今日から駅として機能する」

「いや、挨拶は大事だけど。それよりもなんでリゲルが?」

「初めてということで、ちょっと様子を見に来ただけだ。そのついでにお前らと一緒に登校しようかなと」

「車はどうするんだ?」

「後日取りに来るさ」

 初めての駅へ視察に来たリゲルの案内で、ラムリーザ達は駅の構内へと入っていった。といっても簡易的な駅で、大きな建物があるわけではない。無人駅と言うわけで改札口も無く、建物の入り口をくぐると、そこはすぐに線路脇となっていた。

 そこでラムリーザは、ふと気になったことをリゲルに尋ねてみた。

「ところでこの駅って何駅?」

 まだ作成が完成していない駅には、駅名標フレームもなかったりする。

「まだ決めていないな。そのうち考えてつけておく」

「となると、また住民投票かなぁ」

 そうなると、また不思議な名前を付けられてしまうかもしれない。何故かこのフォレストピアの住民のネーミングセンスは、ちょっとズレたところがあったりした。

「それだったら今決めようよ、ソニア駅で決まり、はいっ」

 ソニアは勝手に名前を決めようとする。もちろんリゲルには「却下」の一言であしらわれてしまった。

「無難な名前で行くとしたら、アンブロシアかなぁ」

 ラムリーザの住む屋敷にある庭園の名前はアンブロシア。そして現在この駅から一番近い大きな施設は、そのアンブロシアであった。それ以外には、まだ何も無い。

「ならばそうするか?」

「いや、その名前も案の一つとして入れてもらうとして、住民投票で決めてもらっていいよ。来月のフォレストピア首脳陣パーティで議題の一つとして挙げることにしたらいいや」

 普通にそれで決めてしまってもよかったが、ラムリーザはあえて住民投票にかけるといった遊びを持ち出した。駅の名前など、フォレストピア発展といった壮大な計画の前では些細なことであった。

 そのうち、車両基地を発車した一両編成の電車が、駅へと入ってきた。

 駅には四人以外誰も居ない。そして電車は車両基地を発車したばかりだ。つまり、他の乗客は誰一人居ない状態であった。

「わぁ、座り放題だね」

 ソニアは嬉しそうに、すべてのボックス席を行ったり来たりしている。数秒座っては立ち上がって別の場所に移動して座るを繰り返していた。落ち着きの無いことこの上ない、子供そのものであった。

「恥ずかしいからやめ――」

 そう言いかけてラムリーザは気がついた。他に誰も居ないのに、誰に見られて恥ずかしいのだろうかと。

「天から竜神ルヴァルニア様が見ていますよ」

 代わりにソフィリータが、神を持ち出してソニアを注意してみる。こうしてみると、どちらが先輩なのかわからない。しかしソニアの回答は、ラムリーザの予想を斜め上に――と思ったが、ソニアをよく知るラムリーザにとってはある意味想定内だった。

「神様にもあたしの贅沢ぶりを見せつけてやるんだ」

 ただし、何を持って贅沢というのかわからない。ソニアは、車両をすべて貸しきってもらったとでも思っているのだろうか? 他に誰もいないから、そう勘違いしても仕方な――とは思えなかったりする。

 ラムリーザとリゲルとソフィリータの三人は、適当なボックス席を選んで座った。

「駅って自由に増やせるのですか?」

 ソフィリータは、リゲルに尋ねてみた。

「自由に、とまではいかないが、必要に応じて増やすことになるな。ここから西、国境の川までにも、あと一つか二つは駅ができる予定になっている」

「この駅はどうして作ったのですか?」

「ぶっちゃけて言ったら、お前らが楽をするためだな」

 リゲルはあっさりと答えるが、それは結構とんでもないことだった。ラムリーザの住む屋敷から線路までの距離で、一番近い場所に作った駅でもある。

 全てのボックス席を制覇したソニアは、今度は全てのつり革を制覇しようとしているのか、一つずつ持ち替えながらうろうろしていた。

「そんなのでいいの?」

 ソフィリータの質問は続く。

「かまわん。どうせ急行とか特急は停まらん」

 ラムリーザがリゲルと知り合って仲良くならなければ、誕生しなかった駅とも言えるだろう。身内特権丸出しの駅であった。

 窓の外の景色は、最初は駅沿いに並んでいる道と、山の麓から延びている林だけが映っていたが、やがてポツポツと家が見え始め、間もなくフォレストピアの町並みが飛び込んできた。

 数分後、電車はフォレストピアの駅に到着した。

「あっ、いかん。ソニアこっちに来い!」

 ラムリーザは、慌ててソニアを呼びつける。ここからは、他の人も何人か乗り込んできてしまう。朝はフォレストピア側からポッターズ・ブラフ方面に向かう人は少ない。しかし、ラムリーザの身内以外にも、学生もゼロではない。

 電車が駅に停まると、ジャンとリリス、ユコが乗り込んできた。

 ラムリーザはユコに挨拶する。

「おやすみ!」

「おやすみなさいませ、ラムリーザ様」

「いや、それおかしいだろう?」

 謎の挨拶に、ジャンは思わず突っ込む。ラムリーザとユコは、まともな挨拶をすることはほぼ無くなっていた。過去形だったり否定形だったり疑問形だったり。しかしそれが、二人の間での特別な挨拶になっていた。意味がわからないことだが、妙な挨拶を続けているのが二人なだけだ。大抵の人は、先ほどのリゲルや今さっきのジャンのように突っ込んで終わりである。

 

 こうして、ラムリーザは新しい駅を手に入れた。

 ラムリーザは帰り道を町中ではなく、自然豊かな林の一本道を通って屋敷に帰れることは良いことであった。時間が余れば、屋敷に帰る前に庭園アンブロシアでのんびりと休む事ができる。便利になったものだ。

 果たして駅の名前は何になるのか?

 それは、次回のフォレストピア首脳陣パーティだけが知っていることだった。
 
 
 
 
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