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爵位の話 ソニアは女爵?

 
 9月4日――

 

 週の始めに帝都から皇帝陛下の勅令が、帝国領土に流れた。ラムリーザはそれを、二日前学校から帰って母親から聞かされることになった。そして昨日、具体的な内容が知らされて今日に至る。

 昼休み、中庭にて。学食で昼食を取った後、ラムリーザ達は中庭に集まって駄弁っていた。裏山には行かない。裏山はカップルの精地、いや、聖地だ。

「爵位だとさ。これが意味があるのかどうかわからないが、これからは貴族も階級わけされるということだな」

 リゲルが語りだした今日の話題は、皇帝陛下からの勅令についてだ。

「どこからそんな話がでてきたのだろうね」

 ラムリーザの問いに、リゲルは「ユライカナンのしきたりを真似てみたらしい」と答えた。

 リゲルの話では、実際の所はユライカナンでは細かく爵位が分けられている。それを真似てみようと手始めに大きなくくりを取り入れてみたのが、今回の試みと言うことになっているらしい。

「それで、リゲルは何になったのかな?」

「俺はまだ未成年だから、爵位とかそういうものには無縁だ。お前だってそうなっているはずだ。親父は子爵号を授かったらしいけどな」

 リゲルの父親は、フォレストピアからポッターズ・ブラフ地方にまたがるこの地方一帯の運輸を総括している貴族である。その功績を称えられての授与であろう。

「私の父も子爵号を授かったとか」

 そこにロザリーンも加わってくる。ロザリーンの父親はポッターズ・ブラフ地方の首長、まあそういうことだろう。

「シュバルツシルト家もハーシェル家も子爵か、釣り合いが取れていてよいじゃないか。二股とかやっている場合じゃないな、はっは」

 そう言って笑ったのはジャンだ。そんな彼を刺す様な視線で睨みつけるリゲルは、まだ二股を続行する気満々らしい。だがジャンは、そんな視線はまったく気にしない。去年のリゲルならともかく、今のミーシャデレリゲルはきもい(ソニア談)ので怖くない。

「ラムリーザの所は侯爵――、いや公爵だろ。母親が皇帝陛下の妹だからそうなっているはずだ」

「よく分かったね。まあでもその爵位を継ぐのは兄だから、僕はどうなるか分からないよ」

「ああまぁそうなるか。ちなみに俺の親父は男爵号を授かったらしい、男の中の男が授かるという話だ」

 ジャンの家はどちらかと言えば平民に近いが、帝都一のクラブハウス経営者ということで、功績が無いわけでもない。あとこれは非公式だが、ラムリーザとジャンつながりでフォレイター家と繋がりが多少あったということも考慮されていた。

「侯爵や伯爵はあまり居ないね」

「ああそれは地方領主が授かるみたいだ。この地方だとヒーリンキャッツ家だな」

「ケルムさんか……」

 ラムリーザはリゲルからその名前を聞いて、少し顔をしかめた。ラムリーザ自身、どうも彼女は苦手だった。

「というわけでリリス、将来の男爵夫人座をお前に与えてやれるぞ」

 さっそくジャンは、爵位を武器にリリスに迫る。

「ラムリーザに嫁げば公爵夫人でしょう?」

 しかしリリスは微笑を浮かべてやり返した。

「いや、公爵を継ぐのは兄だって。僕はどうなるかわからないよ」

「そうよ、リリスなんかクリボーに嫁いだらいいんだ! クリボーの持ってる糞爵夫人になれ!」

 要らん事を言うから、いつものようにソニアが騒ぎ出してしまった。大体いつも出てくるクリボーって誰だよ。

「ではあなたのお兄さんに」

 リリスは、ソニアの怒声を受け流して狙いを変更した。

「いや、兄さんはすでに結婚しているし……」

 ラムリーザの言うとおり、残念ながら兄ラムリアースは、帝国騎士団長の娘ラキアと結婚済みだ。

「あたしも爵位欲しいなぁ」

 リリスの夢物語を他所に、ソニアも駄々をこねるようにラムリーザに要求してきた。ソニアの要求も夢物語のようなものだけどね。

「よし、お前は女爵を名乗れ。俺は男だから男爵を継ぐ事になる。お前は女だから女爵だ」

 ソニアの願いを叶えてやったのはジャンだ。ありもしない架空の爵位を持ち出したわけだが、ソニアはそれに気付くはずもなかった。

「うん、それでいい。あたし今日からソニア女爵よ、そう呼んでね!」

 ソニアは立ち上がり、両腕を腰に当ててポーズを取って堂々と名乗った。

「あほくさ、男爵はバロン、女だとバロネス――いや女爵か、お前はバロムだ。ソニア・バロム・ルミナスとでも名乗ってろ」

 リゲルは鼻で笑いながら、そう言い放った。

「だっ、誰がバロムよ! あんな風船みたいな一番弱い雑魚と同じにしないでよ!」

「いや、あなた風船おっぱいお化けじゃないのよ。風船バロムで十分だわ」

 結局ソニアは騒ぎ出し、その結果リリスに最近呼ばれてなかった懐かしのあだ名を放たれてしまった。

「うるさい! リリスは糞爵だからオニールって名乗ったらいいの! リリス・オニール・――クリボー!」

 いつもながらソニアの罵倒は、なかなかに意味が分からない。間が開いたのは、名字を忘れたのだろうか? しかしクリボーって誰だ?

「べつにいいわよ、オニールはバロムより二倍の価値があるから、少なくともあなたよりは価値があるってことよ。八十倍のポンタンを名乗りましょうか?」

 しかし、リリスには意味が通じたようである。

「ふんっ、リリスは糞爵。あたしは女爵、あたしの方が格上、そこにひれ伏せろ!」

 いつもの全く実りの無いソニアとリリスの罵りあいを他所に、ラムリーザとリゲルは中庭の芝生に寝転がっていた。

 そしてラムリーザの仲間達以外では、ケルムの父親が伯爵号、ニバスの父親が子爵号を与えられたらしい。後の有象無象はよくわからない。

 

 この日の夜、晩御飯の時間は当然の如くなのかどうかわからないが、この爵位の話題となった。しかし話題の出だしは、ソニアの「今日あたしも爵位を得たよ」というどうでもよいものだった。

「名前の呼び方が、少し変わるようになりました」

 ラムリーザの母親ソフィアは、いつものようにまるで恍惚としたかのような瞳でラムリーザを見つめながら語ってきた。

「フォレスター公爵の妻と言うことで、フォレスター公爵夫人です」

「こうしゃくふじん?」

「ええ、そうです。あなたは、ロード・ラムリーザとなります。ソフィリータは、レディ・ソフィリータ」

「へえ、そうなるんだ。まぁ呼び方なんてどうでもいいけどね」

 恐らく学校などで仲間達と接するときは、これまでどおり変わらないものになるであろう。しかし、そうもならなさそうなのが約一名。

「あたしは女爵になったから、どんな呼び方? ソニア女爵でいいよね?」

「あなたは何を言っているの?」

 嬉しそうに語るソニアに、メイドとしてソフィアの脇に控えていたソニアの母親のナンシーが不思議そうに聞いてくる。

「男は男爵だから、女のあたしは女爵。あたしもいよいよ貴族の仲間入りよ」

「何馬鹿なことを言ってるのですか」

 ナンシーは呆れ顔だ。その一方で、ソフィアは顔色変えずにそのまま食事を続けている。

「お母さんが公爵夫人って言っているから、ソニア姉様も夫人になるのではないですか?」

 まだ爵位号をよく理解していないソフィリータは、ソニアの話にあわせている。話についてきてくれている仲間ができて、ソニアはますます饒舌になっていく。

「それじゃあたしは、ソニア女爵夫人ってところかなー」

 いろいろと突っ込みどころがある名称であるが、その後の会話は可能なところから突っ込んでいく形となった。

「名前じゃなくて、名字に爵位が付くみたいですよ」

 ソフィリータは、ソフィア公爵ではなく、フォレスター公爵となっている部分に気がついていた。

「んじゃあたしはルミナス女爵夫人」

「夫人って、爵位を与えられた者のお嫁さんにつくのじゃないか?」

 ラムリーザも、爵位を頂いたのが父ラムニアスで、母親ソフィアはその配偶者だから公爵夫人となったとなんとなく理解していた。

「何それ! ならあたしはラムのお嫁さんだから、ラムリーザ女爵夫人!」

「勝手に僕を女爵にしないでくれ」

「だから、名前じゃなくて名字に爵位ですよ」

「だったらあたしは何なのよ!」

 ラムリーザ兄妹に、ステレオで突っ込まれてソニアは憤慨する。憤慨したところで何も変わらない。ソニアは、フォレスター公爵家に仕える執事とメイドの娘であり、それ以上でも以下でもない。

「馬鹿なこと言ってないで、静かに食事しなさい!」

 いつものように、後ろから母親のげんこつを食らうソニアであった。

 ラムリーザが成人して正式に爵位を継承して、ソニアも何の障害もなくラムリーザと結婚できたとき、フォレスター公爵夫人ソニアとなるのが、将来の正式な名称となることであろう。

 

 食事が終わった後、ラムリーザとソニアとソフィリータは、ラムリーザの部屋に集まっていた。今夜はゲームではなく、部屋に置かれたドラムセットの周りに集まる。

「公爵とか公爵夫人とか言っても、生活は以前と何も変わらないね」

「格とか生まれるのでしょうか?」

 ラムリーザとソフィリータは、爵位が追加されたからと言って何も変わらない日常を感じていた。

「ユグドラシル先輩のハーシェル家は子爵家、これは将来的に身分違いとか言われた私困ります」

「それで離れろって話にはならないと思うよ」

 不安がるソフィリータにラムリーザは安心させることを言うが、リゲルの父親のミーシャに対する扱いを知っているから、完全に安心できるわけでもなかった。

「あたしは将来は公爵夫人だけど、今は女爵でがまんする」

 一方で、やはりソニアの言うことは謎を含んでいたりする。

「だから女爵って無いし。誰だよソニアに女爵とか意味不明なことを吹き込んだやつは」

 ジャンである。

「別に名乗るのは自由でしょ?」

 ソニアは不満そうに言いながら、ソフィリータの太もも辺りに手を伸ばす。サイハイソックスをずらされる危険を感じたソフィリータは、素早くラムリーザを挟んでソニアの反対側へと移動した。

「まあいいや、久しぶりに『真・ラムリーズトリオ』でいくか」

 真・ラムリーズ、それは数年前に屋敷内でだけ存在した、ラムリーザとソニア、ソフィリータと兄のラムリアースを加えた元祖バンドコンビである。

 ソフィリータは自分の部屋に戻ってギターを取ってくる。ソニアはベースを構え、ラムリーザもドラムスティックを握って準備良し。

「それでは最初は適当にジャムりながらウォーミングアップ」

 三人は思うままに合わせて、ラムリーザは気分が上がってきて適当に歌を口ずさむ。

 

 おっぱいがいっぱい、うれしいな、さわりたい

 おっぱいがいっぱい、きれいだな、だいすきさ

 

「ラム!!」

 演奏が止まり、ソニアの怒号が放たれる。

「べっ、別にソニアのおっぱいについて言ったんじゃないよ!」

 ラムリーザは慌てて誤魔化すが、後の祭り。ソニアは足元に転がっていたココちゃんを蹴っ飛ばす。とばっちり。

「こんどはあたしが歌うから!」

「わかったわかった」

 再び適当なジャムに合わせて、今度はソニアが口ずさむ。

 

 オーティンティンオーティンティン

 あのティンポコよどこいった

 

「ソニア姉様!!」

 再び演奏が止まり、今度はソフィリータの怒号が飛ぶ。

「別にラムのちんぽこについて言ったんじゃない!」

「じゃあ誰ですか?」

 口をつぐむソニア。歌が適当すぎて全然ジャムが続かない。

「もういいから、次の歌い手はソフィーで行こう」

 ラムリーザはその場をまとめて、再び演奏開始。

 

 ナリオのキノコのおいしさ

 ナリオのキノコのたべかた

 はてなをつついておいかけて

 したにおちたらぱっくりこ

 おいし よいし おいよいし

 

 不思議な歌であった。ソフィリータが言うには、テレビのCMで聞いた歌だとか。

 こうして、適当なジャムが繰り広げられる夜は続いていったのである。
 
 
 
 
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