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けむりだま

 
 10月12日――

 

 今日は休日。特に食事会などの予定は入っていないので、ラムリーザはソニアを連れてフォレストピアの町をうろうろしていた。所謂デートというやつである。ケルムとの逢瀬事件が発生してから、二人は一ヶ月に最低一度は二人きりでお出かけしようというルールを決めたのであった。

 普段から同棲みたいな生活をしている二人。ことさら二人きりのお出かけを強調する必要も無いように見えるが、ケルム以外にもラムリーザと逢瀬したいという者が現れないとは限らない。そこでソニアとの逢瀬を当たり前の物にしてしまおうとしたわけだ。

 ただ、これまでも二人きりで出かけた事が無いわけではない。買い物、食事といろいろ二人で出かけていた。恋人同士となる前も、友達と出かけるといった感じで出かけることは多かった。

 しかし今回はちょっと趣が違う。何か目的を持って出かけるわけではない。出かける事が目的となっているのだ。だから、あてを決めたりせずに屋敷を出て町の方までぶらぶらと、デートじゃないね、散歩だね。

 午前中は、ぐるぐると町を回るだけだった。

 まずは一直線にフォレストピア駅へ向かい、そこから大通りを北へ進んで中央公園へと向かう。中央公園では、休日をのんびり過ごしている人たちが何人か居た。キャッチボールをしている少年、草原で寝転がっているカップル、ベンチで日向ぼっこをしている老人など様々だ。

「のだまかぁ……」

 ラムリーザは、この春にみんなで集まってのだま大会をここでやったことを思い出していた。

「絶対にリベンジしてやるんだから」

 おっぱいの死角をつかれて敗退したソニアは、のだまの復讐戦をいつも考えているようだ。内角低めギリギリのコースを封印しない限り、ソニアの旗色は悪いままだ。そこをどのように対策してくるものやら。

 中央公園を回っていると、丁度昼時になったので昼食にすることにした。

 公園に面した通りに、スシ屋が目に入る。久々にスシでも頂くかということで、スシ屋の暖簾を潜った。

「らっしゃい! 何にする?」

「適当に、握ってくれ」

 ラムリーザは、この店に来たときは最初は店主に任せている。しばらくしてからメニューを見て、欲しいと思った物を追加で注文する流れがいつものコースであった。

「あたしムベンガが欲しい」

「あいよっ」

 ムベンガとは、帝国とユライカナンの国境ミルキーウェイ川に生息している淡水魚で、2m近くとかなりの大きさと獰猛さを持った危険な魚と噂されている。しかし人が襲われたという事故の話も聞かないし、そんな大きな魚を見たという目撃談も聞かない。話題づくりのための噂だけの魚なのか、想像上の生き物なのかはわからない。

 そういうわけでこのスシ屋でネタとして出てくる切り身が、本当にムベンガのものであるかは確証が取れなかったりする。噂では全然違う魚を、ムベンガとして売っている可能性がある。例えばカペリンをシシャモとして売ったり。しかしその食感は弾力があって歯ざわりが良くて、割と人気だったりしていた。

 ラムリーザは、ソニアが身を乗り出して注文している隙に、サビの実が入った壷をこっそりとソニアの目に入らなくて手が届かない場所へと移動させた。リリスが居ないからトラブルは発生しないと思うが、この手の調味料はソニアに触らせないほうが無難だ。

 昼食が終わると、ふたたびぶらぶらと散歩を再開した。特に当ても無く、二人で一緒に思いついたところに行くだけ。二人で一緒、これが大事なことだ。

 すると目の前に馴染みのバクシングジムが現れた。バクシングだけでは人が集まらなかったので、格闘技全般にしたところ、ある程度人が集まったという流れになっている。

 フォレストピアの住民が言うには、バクシングは拳を使うだけで効率が悪いとのことだった。なぜ殴るだけなのだ? 頭突き、蹴り、投げ、締め、体当たりなどいろいろ攻撃の手段があるのになぜ拳だけなのだという意見が多かった。そこでジムの経営者ゴジリは柔軟に考えを転換させ、それら全てを混ぜ合わせた格闘技、所謂総合格闘技という物を主流に扱うことにしたのだ。そうしたところ、住民は納得したものが多かったと見えて、ある者は護身術として、ある者は運動不足解消目的として、様々な理由でジムを利用し始めたのであった。

「ゴジリさんこんにちは、今日もジムは熱気でムンムンですね」

「はっはっはっ、領主さん。今の流行はプロレスっぽいですぜ」

「あたしラムとプロレスしてみたい!」

 好奇心旺盛なソニアは、ラムリーザにプロレスでの決闘を挑んできた。以前バクシングの決闘で勝利している分、調子に乗っているところもあった。

「お嬢ちゃんその格好でプロレスか、これは凄い試合になりそうだな、はっはっはっ」

「いや、冗談じゃありませんよ」

 ソニアの姿を見て豪快に笑うゴジリを見て、ラムリーザは戸惑い気味に答えた。ソニアは、上半身はまあ置いといて、下半身はいつもの際どい丈のプリーツミニスカート。これでプロレスをしたらどうなるかは、誰が見ても明らかであった。

「やってみないとわかんないよー。あたし『また』ラムに勝つかもよ」

 ソニアはことさら「また」を強調する。去年の冬休み、プロレスごっこみたいなことになって手も足も出なかったことは忘れているようだ。

「そのミニスカでやるん?」

「うん」

 即答だった。

 ラムリーザは、おもむろにソニアの顔面、おでこの辺りをわしづかみにした。ブレーンクローというか、アイアンクローというか。

「一分以内にこの技から逃げられたら、見込みありとして戦ってあげるよ」

 ラムリーザは、ソニアが怪我をしないように調整しながら、がっちりと顔面をつかんで離さない。

「こっ、こんな技なんて!」

 こうなるとソニアも必死だ。ラムリーザから逃れようと、頭を振ろうとした。しかしがっちりとつかまれていて振りほどけない。今度は両手を使って引き剥がそうとするが、レフトールですら引き剥がせなかったラムリーザのクロー攻撃を、ソニアごときが引き剥がせるはずがない。

 ラムリーザはソニアの顔面を掴んだまま、サンドバッグの方へと移動していった。

「さてと、ちょっと打ち込みやるかなぁ」

「なっ、何をっ?」

 ラムリーザは、ソニアをつかんだ手を軽くサンドバッグへと叩きつけた。ソニアは後頭部からサンドバッグにぶつかる形となる。そのまま数回、軽く叩きつける。まいったか?

「こっ、こんなものーっ」

 驚いたことに、ソニアはまだ諦めていなかった。そしてラムリーザも、怪我をしない程度に力は抑えているという前提で、手加減はしない。

 ソニアは体格差とか体力差とか考慮せずに、如何なるときも堂々と戦ってくれることを望む。手加減などしようとしたら怒るので、ラムリーザは怪我をさせない本気という微妙なラインを維持する技術に長けていってたりするのだ。

「ほら、三十秒経ったぞ。逃げられなかったら、ドラゴンクローでテクニカル・ノックアウト、レフェリーストップね」

 確かにとある競技では、相手を締め上げて押さえ込み、三十秒経過したら勝利とみなすルールのあるものがある。ラムリーザはその競技を知っているわけではないが、自然にそのルールに似たようなものを取り入れていた。

 ソニアはさらに必死になるが、サンドバッグに押さえ込まれたまま首から上の身動きができないでいた。

「あいたっ!」

 その時ラムリーザは、膝に痛みを感じて一歩下がった。ソニアが蹴飛ばしてきたのだ。そこでラムリーザは、つかんでいる腕を伸ばしてソニアとの距離を取った。そしてサンドバッグに押し込む形でソニアの身体を片手で持ち上げていく。ソニアの身体は、ラムリーザとサンドバッグに挟まる形で宙吊りにされてしまった。

「ふえぇ……」

「どうだまいったか」

 ラムリーザは、一分までまだ十秒あったが、ソニアを解放してあげた。

「はっはっはっ、お嬢ちゃん無理だよ。男と女で元々体力差があるところなのだが、この領主さんの腕力だけは並外れすぎているからな」

「何よ! あたしラムにバクシングで勝った! プロレスでも勝てるはず!」

「はっはっはっ、今も領主さんが手加減してくれたから怪我せずに済んだんだぞ」

「えっ? ラム手加減したの?! ひどい!」

「し、してないよ、本気で押さえつけたよ」

「こらこら領主さん、それはさすがに大人気ないだろう?」

 ラムリーザはめんどくさいなと思って、黙ったまま二人から遠ざかっていった。本気を出さなければソニアに怒られる、本気を出せば他の人に咎められる。怪我させないのと本気のギリギリの力バランスで戦っている苦労を誰もわかってくれない。ソニアの負けん気にも困ったものだ。

「ラム逃げるのかーっ」

 ソニアはラムリーザに駆け寄ると、後ろから飛びついてきた。ラムリーザの背中に、巨大なメロンが二つ押し当てられる。

「プロレスはまた今度、プロレスらしいコスチュームを持ってきた時ね」

「ラムは一分以内に逃れたら試合してくれると言った! あたし五十秒ぐらいで逃れた!」

「めんどくさっ!」

 思わずラムリーザは、大きな声を放っていた。

 

 それからなんやかんやいろいろあった後、ゴジリから土産物として「けむりだま」という物を頂いてジムを後にすることになった。

 けむりだまは、直径2cmぐらいの玉から短い紐が出ているもので、その紐に火をつけてけむりだまに火が届いたら面白いことになるというものだ。

 ゴジリが言うに、面白いことは後のお楽しみとのことだった。

 

 次はゲームセンターのペパーランドに立ち寄った。

 見知った顔ではユコがメダルゲームに励んでいて、レフトールは近くでビデオゲームに熱中していた。ユコとレフトールはゲーセン仲間といった関係になっており、今日もレフトールはわざわざユコに呼ばれてフォレストピアまで来ていたようだ。

 ラムリーザとソニアは、リゲルとロザリーンがよく遊んでいたエアホッケーというゲームを一ゲームだけやって終わりにした。12-7でソニアの勝ち。こういった体格などがあまり関係しなくて、スピード勝負となるゲームでは、どちらかと言えばソニアに分があるのだった。それに、少なくとも4点程は、ゴール前を塞いでいたソニアの巨大なおっぱいで受け止めたようなものだった。

 そこまで遊んだところで、今日のデートは終わりということにして、二人は屋敷へ戻るのであった。

 

 戻ってみると、屋敷への道から少しはなれた場所で、ミーシャが遊びに来ていてソフィリータと何かをやっている。よく見ると、へんこぶたを撮影中。幻のへんこぶたを発見などというタイトルで動画でも作っているのだろう。それとも発見からだいぶん日が経っているので、へんこぶたの生活といったものだろうか。

 檻は先日の脱走事件以降厳重に管理され、檻の傍にはソニアが事件の夜に作ったブタガエンがボトルごと置いてあった。

「おーい、動画のネタになるようなものがあるぞ」

 ラムリーザは二人に声をかける。すぐにミーシャは飛びついてきた。

「何々~? ラムたんのりんご割り? あれ評判良かったから第二段、くるみ割りやってほしいな~」

「待て、だれがラムたんだ」

「ラムたんはラムたんだよ」

 いつの頃からか、ミーシャはラムリーザのことをラムたんと呼ぶようになっていた。あまりにも脱力系の名前過ぎるが、別に蔑称ではないので放置しているが、ラムたんか……。

「それともふえぇちゃんが何かやってくれるの~?」

 こっちは明らかに蔑称だ。ソニアは「媚び媚び娘にはなにもしてあげない」と怒っている。

「これを見ろ」

 そう言ってラムリーザは、ゴジリからお土産でもらった玉をミーシャの目の前に突き出した。

「なぁに? さくらんぼ?」

「それじゃあ食ってみろ!」

 ふえぇちゃん呼ばわりされたソニアが、傍からすごんでくるが、ミーシャはケロッとしたものだ。ミーシャは、もしもソニアが実力行使に来たとしても、胸の先端を攻撃するだけで簡単に迎撃できるのを知ってからはやりたい放題だ。

 そんなわけで、けむりだまを持って一同はラムリーザの部屋へと集まった。けむりだまをテーブルの上に置いて、その周囲をぐるりと囲んで観察。

「トリダトリダペンタゴンパワー」

 すると謎の呪文のようなものを唱えながら、ミーシャが奇妙な踊りを踊る。それにソニアとソフィリータも加わって、突然ラムリーザの部屋は怪しげな儀式場と化した。

「なにをやっているんだっ」

 ラムリーザが突っ込むと、ミーシャは突然「おおっ」と声を上げて踊りを止め、けむりだまを凝視する。ソニアとソフィリータもそれに続く。それから三人は、握りこぶしを作った両手を重ね続ける動作を行い始めた。

「謎なことをやってないで、けむりだまを試すぞ」

 ラムリーザは、ゴジリに言われたとおりに玉から伸びている紐にマッチで火をつけた。紐はシュルシュルと音を立てながら火花が走り、それは少しずつ玉へ近づいていった。ミーシャは慌ててカメラをけむりだまに向ける。撮影開始だ。

 しかしラムリーザはこの光景に見覚えがあった。それは花火だ。夏休みに花火をやった時、打ち上げ系の花火はこういった導火線と呼ばれるものに火をつけたものだ。

「しまった、部屋の中で火をつけたのはまずかったか?」

 ラムリーザは一歩下がるが、導火線を伝わった火は玉に到達してしまった。

 パン! ――などと弾けることはなかった。

 ただ、玉からモクモクと煙が出てくるだけだ。

「けむりだまって、煙玉のことじゃないの?」

 その様子を見て、ソニアはつぶやいた。けむりだま――、煙玉はずっと煙を出し続けている。見る見るうちに部屋の中が真っ白になってしまった。

「なっ、何これーっ」

 部屋の中は、プチパニック。すぐ傍に居るはずの人すら見えないくらい、濃い煙で部屋はいっぱいになってしまった。

「ごほんごほん!」

 ミーシャの咳き込む声が聞こえる。もはや撮影どころではなくなっていた。いや、このプチパニックは動画のネタとしてはおいしいか?

 その時、部屋のドアをドンドン鳴らす音が外から響いてきた。

「何が起きましたか?! 火事ですか?! 大丈夫ですか?!」

 どうやらドアの隙間、窓の隙間から部屋の外へと煙が出ているのを、メイドのナンシーに感づかれたようだ。

 ナンシーがドアを開けると、部屋の中からぶわっと煙が飛び出してきた。

「なっなっ、何ですかこれは一体! ラムリーザ様! 大丈夫ですか?! みんな来てくださーいっ!」

「けっ、けむりだまですけむりだま!」

 ラムリーザも流石に動揺していた。けむりだまというおもちゃかと思えば、ここまで凄まじいものだとは想像していなかった。

 ナンシーの呼びかけで使用人たちが集まり、窓を開けたりしながら煙を部屋の外へと追い払い始めた。火元を探していたようだが見つからず、その代わりに机の上からモクモクと煙を発している玉を見つけ出し、ナンシーはそれを窓の外へと放り投げた。

 けむりだまが無くなると、しばらくした後でようやく部屋からけむりは無くなったのである。

「いったい何をやっていたのですか?」

 ナンシーはラムリーザにきつく問い詰めてきた。ソニアもソフィリータもミーシャも、部屋の隅で丸くなっている。

「い、いや、けむりだまというおもちゃを貰ったので、それで遊んだだけ――」

 ラムリーザは、そう言うしかなかった。明らかに室外で遊ぶおもちゃを室内で使ってしまった。知らなかったとはいえ、それが今回の大きな失敗だった。

「一体誰がこんな物を?」

 ナンシーの詰問は続く。ラムリーザはゴジリを庇うつもりはなかったが、そこはあえて黙っていた。しかしソニアが、ジムにいるゴジリがくれたと言ったので、出所はばれてしまったのだ。

 

 結局ゴジリはフォレスター邸に呼び出され、ソフィアの前で始末書を書かされる羽目になったのである。

 ちなみに呼び出された直後、ソフィアと会う前に玄関でラムリーザと会っていたりした。ラムリーザがゴジリに文句を言うと、ゴジリは大笑い。イタズラ大成功とか言っていた。

 肝心のけむりだまとは花火の一種で、燃やすことよりも煙を出すことに特化したものらしい。花火の扱いに長けたゴジリならではの、ジョークアイテムだったのだ。

 やれやれだ――
 
 
 
 
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