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だめなものはだめ

 
 10月21日――

 

 今日は久しぶりに部室で音楽活動。半年ぶりぐらいだろうか?

 軽音楽部部員の他にレルフィーナたち文化祭実行委員も居て、テーブル席で打ち合わせを進めている。

「そうそう、演奏するときも、男子はメイド服、女子は執事服でお願いね」

 どうやら男装女装案はそのまま演奏隊にも適用されるようで、レルフィーナはラムリーザ達メンバーに通達してきた。

 一番面白がったのがジャン、逆に一番難色を見せたのがリゲルというのはわかりやすい結果だ。

「いや、演奏者はいつものままでよくない?」

「だーめ、お祭りの時は衣替えするものよ」

「まいったなー」

 ラムリーザは少しだけ抵抗してみたが、レルフィーナは強引に押し付けてくる。どうやらこれは、諦めて女装するしかなさそうだ。

 この時ラムリーザは、リゲルがドラムセットの置き場所を少し前にずらし始めたのを発見した。

「んん? 何している?」

「俺はお前の後ろで演奏する。別に正確に音が出ていたら前面に立つ必要は無いだろう?」

 要するにリゲルは、女装を避けられないのなら本来一番後ろに設置されるドラムのさらに後ろに立って隠れようという魂胆だ。

「まぁ別にいいけどねぇ」

「お前はドラムセットに囲まれて座っているだから、あまり目立たないのでそう言えるのだ」

「ばれた?」

 一方ジャンなどは、「お帰りなさいご主人様」などと勝手に練習を始めていた。妙に乗り乗りだ。

「ソニアは親譲りのメイドだからお手本よろしくね」

 リリスが挑発か意見か微妙なラインをついてくる。

「違うよ、女子は執事の格好するのよ」

 だが今日返事を返して来たのはレルフィーナだった。それを聞いてラムリーザは、ソニアは文句言うだろうなと予想していた。

「じゃあソニアはお父さんの格好したらいいのね」

 リリスはくすっと笑って言った。彼女がソニアに何かを言うと、挑発しているようにしか聞こえないのが不思議なところだ。

「やだ、ズボンなんて履きたくない」

 ソニアが文句を言うのを聞いて、ラムリーザは「ほらな」と思う。ラムリーザの知っている範囲では、ソニアがプリーツミニ以外を履いているのを見た事がない。とは言うものの、たとえメイド服だとしてもロング丈だとまた文句を言うのだろうと予測できるのであった。

「いーい? 去年よりも凄い物をやるのだから、張り切ってやってよ」

 そう言いながら張り切っているのはレルフィーナ一人。ラムリーザ達は適当に演奏の練習、それを聞きながらテーブル席ではクロトムガとチロジャルは喫茶店のメニュー表を作っている。主にクロトムガの作れる物を中心にだったが、今日はロザリーンも来ているので、彼女も作れる物を提案してリストアップしていた。

 同じくテーブル席の端では、ユコがひたすら楽譜作成に精を出している。ユコが居る限り、コピーバンドの領域を脱出できないが曲のレパートリーは増えていくというものだ。ただし、歌詞の存在しない所謂インストゥルメンタルというものは何曲かユコオリジナルの物があったりする。誰もその曲に歌詞をつけられないだけなのだ。

「ところで、ピクリスさんはどうするのだ?」

 先日レルフィーナに追い出されたピクリスは、今日はもう姿を現してなかった。

「あそこまで非協力的だと無理でしょ? だから代わりにロザリーンを加えて、喫茶店を強化します」

「えっ? 私ですか?」

 レルフィーナに今日この場で突然任命されて、ロザリーンは戸惑いを見せる。

「そ、よろしく頼むよ」

「あ、はい」

 レルフィーナに押し切られる形でロザリーンは実行委員に加わり、クロトムガたちの会話に加わっていった。

「やれやれ、ひねくれ者の転校生にも困ったものだね」

 ピクリスの状況を知ったジャンは、妙に嬉しそうな表情をラムリーザに向けてくる。

「なんだその顔は、またよからぬことを考えているだろう」

「ほら主人公ラムリィ、お前が彼女の心を開きに行くのだ」

「なんやそれ」

 ラムリーザの予想通り、ジャンはまた妙な設定を作り上げてきた。今度は主人公と来た。

「僕の人生では僕が主人公かもしれないけど、ジャン、君の人生では君が主人公だよ」

「そうかもしれない。しかしラムリィの物語に、ヒロインピクリスが存在するのだ」

「勝手に登場人物の設定をするな」

 不思議な会話をしながら、それでも二人は演奏の練習を続けていた。雑談しながら演奏する、それがラムリーズのメンバーの特技でもあるのだ。

「ラムの物語のヒロインはあたしだけ」

 そこにソニアが割り込んでくる。

「ラムリーズの物語の主人公は、ソニアとリリスだよ」

 ラムリーザはソニアが絡んできたことでまた話がめんどくさくなると判断して、物語の軸に変更をしかけてきた。しかしそれこそが失敗の元だと気づかずに……

「ラムリーズの主人公は私だけでしょう?」

 リリスがそう答えたとき、ラムリーザはしまったと思ったが、もう後の祭りである。

「吸血魔女が主人公だなんて根暗すぎる! あたしが主人公!」

「爆弾おっぱいが主人公だと危険だわ。出演するだけでZ指定になっちゃう」

 収拾がつかないということで、以下省略――

 

「ああいうのをデレさせるのが物語の醍醐味じゃないか」

 ソニアとリリスがまた口論を始めたのを他所に、ジャンはまだラムリーザに設定を語ってくる。

「ダメだよ、あの娘は僕個人のみを嫌っているから、僕が居ない場所だと他の人と仲良くやっていけるんだよ」

「ラムリーザとピクリスなら、あちきはラムリーザを選ぶよ。転校生に馴染んでもらうために誘ったけど、あそこまで空気悪くするのなら、作業的にラムリーザの方が大切」

 などとレルフィーナは、ラムリーザを擁護してくる。

「まぁでもここはラムリーザが誤解を解いて、呼び戻してくる場面だろう」

 今の所ジャンは、ラムリーザとピクリスが実際にやり合っている場面を見た事がない。だから物語の定番のようなものを持ち出して言ってくるのだ。

「あちきはあの娘はもう諦める。でもラムリーザがなんとかしてくれるなら考え直すよ」

 レルフィーナも、ラムリーザが動くように言ってきた。ここまで言われたら、ラムリーザも仕方ないなという気分になってくる。それに自分が原因で、彼女が孤立してしまうような結果になったのでは後味が悪いというものだ。

「しょうがないなぁ。じゃあやるだけやってみるけど、無駄だと思うよ。そもそも誤解とか諍いとかそういう次元じゃないんだよ。ジャンが諭せばワンチャンあるかもだけど、僕じゃあ絶対無理……だけどまぁみんながそういうならやってみるよ」

 ピクリスは今日は部室に姿を現していないので、まだ帰っていないのならば探さなければならない。

「あたしも行く」

 そこにソニアが同行を申し付けてきた。リリスとの舌戦はどうなった?

「ここはラムリーザ一人で行くべき」

 ジャンはソニアの同行に反対してくる。

「じゃあ僕はこれで最後だからね。最善を尽くしてもだめなものはだめということを証明してくるよ」

 そしてラムリーザは、一人で部室を出ていった。

 校舎の廊下でケルムが前から向かってきた。ラムリーザは「まずいな」と思いながらも、平静を装ってすれ違う。ケルムは最後までラムリーザと顔を合わせようとしなかった。

「ふい~……」

 ラムリーザは、ケルムの姿が見えなくなってから大きく息を吐く。もしも出会う人みんなが好意的でちやほやしてくれるような世界があれば、そんな世界に飛び込んでみたいものだ、などと考えながら……。

 教室にはピクリスは居なかった。ラムリーザとはあまり交友のない生徒が数人集まって、雑談しているだけだった。

 何か部活に入ったりしているのかなぁ?

 ラムリーザはそう思いながら、校舎から外に出ていった。そして中庭で、彼女の姿を確認できた。

「ピクリスさんこんにちは、何をしているのかな?」

 ラムリーザは話しかけるが、ピクリスは一瞥しただけですぐに視線を逸らしてしまった。へこたれないぞ、などど考えながら言葉を続ける。

「文化祭の計画会議でみんな集まっているよ」

「命令するな」

「は?」

 冷たく言い放つピクリスに、ラムリーザはほらだめなものはだめじゃないかと改めて実感する。この場面をジャンに見せつけるべきだ、とも考えた。

「あんたのような貴族は、常に平民は自分の思い通りになると考えているのよ。あんたの取り巻きもあんたにこびへつらっているだけ。そんな所にあたしを巻き込まないで」

「そんなこと言わずに仲良くしようよ」

 ラムリーザは、これが最後だと自分に言い聞かせることで、この場は堪えてなんとか好転できるかどうか語ってみることにしていた。しかし――

「貴族と仲良くする意味がわからない。貴族の犬になれってことなの? そんなの絶対に嫌」

「誰もそんなことを君に求めていないよ。一緒に文化祭を楽しもうよ」

「もしもあんたがさえない平民なら、あいつら誰もあんたについきていない。あんたは結局権力で仲間を買ったつもりになっているだけ」

「そんなものかなぁ……」

「だからあたしはあんたとはつるまない」

 ラムリーザは、何度会話を試みても同じ反応しかしないピクリスに、もういい加減うんざりして諦めようとしたところ――

「それでいいじゃんよ!」

 ラムリーザの背後から大きく澄んだ声が響いた。いつも傍で聞いている声だ。ソニアはラムリーザの隣までやってきて、ピクリスを睨みつけながら言った。

「もうラム行こうよ、こいつほっとこうよ。ここまで嫌われているのにわざわざ構う必要無いって」

「それでいいのかな?」

「喧嘩したとか誤解があったとかなら、誤ったり弁解したりで仲直りできるけど、これって生まれ育ちの境遇の違いが生んだ対立じゃないの」

 ソニアにしては、珍しく正確に核心をついている。そう、ピクリスはラムリーザ個人を嫌っているのではない。ラムリーザの立場そのものを嫌っているのだ。だからラムリーザの立場が変わるか、ピクリスの考えを改めさせるかでしか解決方法は無いのだ。そしてジャンが言うのは、物語の主人公としてピクリスの考えを改めてやれということだろう。しかし――

「ラムにはあたしが居るじゃないの」

 対立、和解をテーマにした物語ならいざ知らず、ラムリーザには一番大切な人は既に存在している。いつも一緒に居た、かけがえの無い幼馴染が。それ以上の物を無理に作る必要は、無い。

「――ってか、ついてきていたのか?」

「ぽっと出の転校生にかっさらわれたくないもん。それにラムがあいつになじられるのわかっていたから。見てたら案の定!」

「まぁ話せばなんとか――」

「ならないよ! もうなんか腹が立つからもう行こ!」

「おいっ、ちょっ、ちょっと――」

 ソニアは、ラムリーザを引っ張って中庭から連れ出すと、そのまま部室まで引っ張り続けたのだった。こうしてラムリーザの、ピクリス懐柔は失敗に終わった。

 

 

「そうかー、ツンを少しずつ攻略してデレさせるのは無理だったかー。それもある意味王道なのだけどな」

 部室に戻ってからソニアが顛末、主にピクリスの悪口をぎゃーぎゃーわめくのを聞いて、ジャンは苦笑を浮かべた。

「まぁ物語のように上手くはいかないってことさ」

「ラムリィはここまで一途に幼馴染の事を想っているのだから、そこに入り込む余地は無いさ。まぁそうだろうな、仕方ない仕方ない」

 ジャンは、何故かリリスの方を向いて言う。まるでリリスにもラムリーザとソニアの間に入り込む余地は無いと言い聞かせるように。

「それじゃ、あなたがピクリスを迎えに行ったらどうかしら?」

 だからリリスも、ジャンに言い返す。まるで試すかのように。

「いや、リリス攻略の方が楽しそうだ」

 まるでゲームのように語るジャンを見て、リリスはくすっと笑うのであった。

「あ、そうだいい事思いついた、今からこの軽音楽部のメンバーも、文化祭実行委員の準メンバー扱いね。いろいろ手伝ってもらうよ」

 どさくさに紛れて、レルフィーナはラムリーザ以外のメンバーも引き込んできた。しかしその一言が、レルフィーナにとって仇となるとは知らずに。

「おいっすー!」

 部室の入り口が開き、何人か男子がぞろぞろと入ってきた。レルフィーナにとって仇となるような集団が。

「うあっ……、レフトール……」

 入ってきた集団を見て、レルフィーナは顔をしかめる。ついさっきまで笑顔で談笑していたチロジャルも、恐怖に引きつった顔で黙り込んでしまった。クロトムガの表情も険しい。

「どうした声が小さいぞもう一度、おいっすーっ! ――って、なんだぁ? 関係ない奴が紛れ込んでいるぞ?! 部外者は出ていけや」

「あっ、あなたも部外者……」

「何ぃ?!」

 レルフィーナは必死に応対するが、レフトールに押されるばかりだ。

「こーらっ! 委員長を怖がらせるな」

「んんん?」

 すかさずラムリーザは助け舟を入れて、レフトールを黙らせる。レフトールは、ラムリーザの顔を見て、それからレルフィーナの顔へと視線を移動させた。レルフィーナは怯えた表情であるが、文化祭の準備の邪魔をする部外者は出ていけと目だけで訴えていた。

「あ、俺軽音楽部に入っているから部外者じゃねーよ」

「えー……」

 レルフィーナは、レフトールが軽音楽部のメンバーだと知ると、酷くがっかりしたような表情を見せた。こんな人を準メンバーに加えるなんてできないなどと思いをめぐらせたりしたのだろう。

「ん、いいかレフトール。これから文化祭まで、この軽音楽部は文化祭実行委員長のレルフィーナの傘下に加わることとなった。だからレルフィーナの指示に従うように、いいね」

 ラムリーザは、普段見慣れない人物を威圧するレフトールに指示を飛ばす。レフトールは悪ガキの筆頭ではあるが、ラムリーザのような権力者には素直に従う妙な一面を持っていた。だからこのラムリーザの命令は、彼にとって絶対でもあったわけだ。

「え、えええ?」

 だから今度は、レフトールが戸惑う番だ。こうなったら、クロトムガ辺りは強気に出てくる。

「そういうわけだから、乱暴なことやってないで俺達の手伝いをするんだぞ」

「何ぃ?!」

「ひっ」

 チロジャルは肩をすくめるが、クロトムガは堂々としていた。ラムリーザが居るとレフトールは大人しくなると、クロトムガは即座に察したのだ。

「よかったなぁ委員長、力が有り余っている奴らが加わってくれたので、力仕事が捗るぞ」

「むむむ……」

 レフトールは、レルフィーナやクロトムガを威圧しながら、チラチラとラムリーザの顔色を伺う。しかし分が悪いのは明らかであった。

「どうもすんずれいしましたーっ!」

 文化祭の準備なんてかったるいレフトールは、不思議な捨て台詞を残して部室を逃げるように立ち去っていった。子分達もぞろぞろとつき従って出ていく。一体何をしに来たのやら、だ。

 こうして仇は一瞬にして消え去り、レルフィーナの指揮の元、文化祭実行委員は動き出したのである。
 
 
 
 
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