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去年の今頃

 
 10月24日――

 

 最近は部室に楽器を置いてあるので、ジャンの店にあるスタジオではなく部室で活動していた。楽器の位置は去年置いていた場所ではなく、部室に設置されている簡易ステージの上。文化祭に向けたセッティングとなっていた。

 ラムリーザ達はその簡易ステージに集まって、これまた簡易的なセッションを行っていた。半年振りぐらいに部室での部活動が復活した。そんな感じである。

「去年の今頃も、とにかくがむしゃらに曲を増やしていたよね」

 その場面だけを見れば、去年と同じだったりする。とにかく数を揃えようと、闇雲になっていたあの頃。

「今年は新しい曲を増やすのもですが、去年までいまいちだったものをもっと形にしていきますの」

 ユコは去年より楽譜作成ペースは落としている。彼女の言うとおり、クオリティを上げるのも良いことだろう。

 違いはメンバーが増えていること。ジャンが居る、ソフィリータ、ミーシャの後輩組が居る。そして今日は珍しくレフトールも一人で居た。子分達とはつるまずに、ラムリーザ達のところに来ているようだ。一応彼も部員に加わっているのだから、なにも問題は無い。

「よし、ガンガン歌ってやるぜ」

 何気に乗り気になっているレフトール。しかし文化祭の出し物としては、趣旨が違っていた。

「残念ながら、文化祭の出し物はカラオケ喫茶。僕達は演奏するだけだよ」

 ラムリーザの指摘に、レフトールは「なんだよー」とがっかり。

「文化祭じゃなくても番長には歌わせない」

 ソニアの言うとおり、メインボーカルはソニアと――

「歌うのは私」

――リリスである。そしてお馴染みの罵りあいに展開。

「吸血ソングなんて聞きたくない」

「エルソングならいいのかしら?」

「はいおしゃべりはそこまで、練習に集中しよう」

 すぐにラムリーザは、仲裁に入って口論を止めた。

「つまんねーな」

 しかし、そうなると演奏はいまいちでノリだけで加わっているレフトールとしては面白くない。彼は元々ラムリーザに付き従うためだけに参加したようなものだ。そもそもアウトローの彼に、こういった事――いや、アウトローはよくバンドを組んだりするといった話もあるが……

「そうか。ならば面白い話をしてやろう」

 そこに口を挟んできたのは、黙々とギターのコードを弾き鳴らしていたリズムギター担当のリゲルだった。

「なんだよその面白い話って」

 レフトールは、リゲルの方へと肩を怒らせて詰め寄る。しかしリゲルはその程度では動じない。

「お前、去年の今頃何をしていたかな?」

 リゲルは、じっとレフトールを見据えながら言い放った。レフトールのガン飛ばしとリゲルの冷たい視線、どっちが強いだろうか?

「んあ? そりゃあもう俺はラムさんの騎士で……って待てよ?」

 レフトールはいつもの調子で語りだして、何を思い出したのか口をつぐんだ。そんな様子を見たリゲルは、さらに冷たく言い放つ。

「言ってみろよ」

 しかしレフトールは、気難しそうな顔をして黙り込んでいる。去年の今頃、口に出せないようなことでもあったのだろうか?

「何、何? 何の話~?」

 そこにソニアが割り込んでくる。リゲルはうるさい奴が来たとばかりに眉をひそめるが、ソニアにも尋ねてみた。

「レフトールが俺たちに擦り寄り始めたのは何時頃からか?」

「ん~、去年の今頃ぐらい?」

 ソニアは少しの間だけ斜め上に視線をやって考えてから、すぐに答えてきた。

「や、やめるんだバカ」

 だがそれを聞いて、レフトールは焦りの態度を表す。やはり何かマズいことがあったのだろうか?

「リザ兄様とこの騎士気取りの番犬が争ったのが、去年の今頃です」

 ソフィリータの何の遠慮の無い一言に、レフトールは引きつった笑顔のまま固まった。そうだ、何故かレフトールがラムリーザに絡んできて決闘になったのが丁度今から一年前頃だ。

「勘弁してくれよ、妹ちゃん」

「その呼び方に不満がありますが、勘弁してあげます」

 ソフィリータの中では、結局はラムリーザが勝った事や、自分も一発――正確に言えば二発蹴りを放ったことで水に流していた。今も半分ぐらいの割合でからかっているだけだ。

「あの時俺はなぁ、ラムさんに顔に穴を開けられて、手の指脱臼させられて大変だったんだぞ」

「番長が悪い。もう一度ラムに顔に今度は大穴を開けてもらったらいいんだ。そしたら吸引攻撃とかできるようになるよ」

「やなこった」

 ソニアの例えはよくわからないが、レフトールも再びあの痛い思いをするのは御免こうむりたかった。

「そっかー、あれから丁度一年かー」

 ラムリーザがふと感慨にふけった時である。

「おっはー、順調かなー?」

 元気のいい掛け声と共に、レルフィーナたち文化祭実行委員のメンバーが部室に入ってきた。もうすっかり軽音楽部の部室は、文化祭の舞台と化していた。

「順調じゃねぇ!」

 去年のことでやり込められていたレフトールは、うさばらしに威圧する。

「やだもー、またチンピラがいるーっ!」

 少しずつではあるが、レルフィーナもレフトールに慣れていっているみたいだ。割といつもの調子で語りかけられている。

「俺は大将だ、チンピラじゃねぇ!」

「ラムリーザのチンピラだろ」

 すかさずリゲルの突っ込みが入る。そう表現されたらレフトールも言葉に詰まってしまった。ソニアも「チンピラじゃなくて番長」などと注釈を加えている。

「なんだよまた部室に遊びに来やがったのか?」

 だから話題を変えて攻撃再開。しかしこれもうまくいかなかった。

「番長も遊びに来ているじゃないのよー」

 どうもラムリーザと絡みだしてから、レフトールのイメージだった恐怖が薄れていき、なんだかよくわからない人になりつつあるようだ。もっとも、人に迷惑をかける人よりはわからない人の方が、ベストではないにしろベターであることは間違いない。むしろみんなに怖がられるよりは、絡んでもらえる方がレフトールにとっても良いはずだ。

「それでは喫茶店のメニューを決めるよー」

 レルフィーナたち実行委員は、いつものようにテーブル席を陣取ってノートを広げて打ち合わせを開始した。しかし今日は、小人閑居して不善を成すレフトールが部室にうろついていた。

「おっ、喫茶店いいねぇ。ビールとか出る?」

 バンドの練習に乗り気でない暇なレフトールは、早速実行委員に絡みだす。

「出にゃーよ! というか番長は実行委員じゃないから!」

「けーおん部は実行委員に協力しろとラムさんが言っていたぞ。俺けーおん部」

「なんであなたが軽音楽部なのよ、ちょっとラムリーザぁ」

 レルフィーナは、ドラムの練習のラムリーザを呼びつける。彼女からしたら、今は番長と多少は親しまれているけど、悪の双璧と言われたレフトールがここに居るのがまだ信じられないところがあった。

「いやまぁ、入りたいというから入れただけだよ」

「なんでまた、部長権限で追い出してよぉ」

「僕は部長じゃないから――」

 ラムリーザは言いかけて口をつぐんだ。部長問題は口論の種、あまり触れないようにしていたのだが。

「それじゃあ部長は誰なのさー」

「あたし!」

「何を言っているのかしら? 部長は私でしょう?」

 遅かった――

 忘れた頃に発生する部長の座の奪い合いが始まってしまった。もう半年以上過ぎているのに部長が決まっていないのはそれはそれで問題だが、ラムリーザは些細なことだと考えていて放置していた。

「しょうがないなー、それじゃあ何か演奏してよ。番長のパートは何なのよ」

「俺か? リードボーカリストに決まっているじゃねーかよ」

「「嘘ばっかり言ってる!」」

 即答したのはソニアとリリス。今現在部長について口論していたはずなのに、レフトールの台詞もよく聞いていたものだ。こんな時だけ二人の息はぴったり合って、声を合わせて否定するのだった。

 たとえ仲の悪い者が集まってたとしても、共通の敵が現れたら協力して立ち向かう。別に珍しい光景ではないのかもしれない。

「これが悪の双璧の片割れか? これまで避けていたからこんな間近で接したこと無いけど、なんだお前、ひょうきんな奴だな」

 実行委員のクロトムガは、レフトールに少し笑みを見せて言ってきた。

「当たり前だのクラッカーよ。それは昔の話で、今の俺はラムさんの騎士なんだぜ」

「騎士ね。それなら帝国騎士団の騎士道を述べてみろよ」

 クロトムガの提案に、レフトールはたじろぐ。騎士といっても自称しているだけで、正式に騎士号を授与したわけではない。爵位の制定と同時に、騎士にも騎士号が付与されることとなっていた。

「ラムさんに対する忠誠だろ? それからえーと、勇気、あうーなんだよ……、無敵、不死身、常勝、不敗、究極、最強、石光電火……」

「一部合ってるけど、基本的に全然違げーよ。それと電光石火な。騎士道とは関係ないけど」

「ぐぬぬ……」

 こうなったら番長も形無しだ。クロトムガの言うとおり、悪の双璧ではなくただのひょうきんな人だった。

「一度聞いてみたかったんだけど、レフトールの組織ってどうなっとるん?」

 クロトムガはレフトールに興味津々となっていた。ツッパリ集団には近寄りたくないが、こんなに近い存在が居るのなら聞いてみようというわけだ。

「ん、俺が大将で、マックスウェルが副将。続いて四天王作った、ピートがその筆頭であと三人」

「四天王って五人じゃないの?」

 横からソニアが口を挟んでいる。一度計算をしっかりしてもらいたいものだ。四と書いてあるのになぜ五人だと思うのだろうか? 別に一人ぐらい増えたところで、たいした問題ではないと考えているのかな?

「知らんな。あとは一年の子分が六人ほど。総勢十二名のグループになっているな」

 レフトールはソニアの口出しをスルーして話を進めた。十二名は多いのか少ないのか、ラムリーザの周りに居る人もだいたいそのくらいだから、同じような物だろう。

「それが全員ラムリーザの騎士団なのか?」

「いや、実際にラムさんに面識があるのは俺とマックスウェルぐらい。そしてラムさんの騎士は一人だけなのさ、俺だけで十分なのだ」

「なんか違うような気がするけど、まあいいか」

「ちょっと、仕事にもどってよー」

 レルフィーナに口を挟まれて、クロトムガは雑談を終わらせて作業へと戻った。

「番長、ラムが呼んでるよー」

 そしてレフトールも、ラムリーザに呼ばれて実行委員の作業場所から離れていった。これで仕事もはかどるというものだ。

「なんでげしょ旦那」

「さっきの話をちょっと聞いていて思ったのだけど、ウサリギの軍団と和解とかできないかな?」

「ん~、無理だろうね。あっちのボスはウサリギというよりケルムさんだし。ラムさんとケルムさんが組むことにならないと、俺がウサリギと組むことは無いだろうなぁ」

「あー、それなら無理かぁ。ケルムさんは僕のこと怒っているからなぁ」

「ぐおぉ、何をやらかしたんですかい」

 レフトールは驚いたような顔をし、ラムリーザは気まずそうな表情を浮かべて話を続けた。

「向こうが強引にデートするよう仕組んできたから、こっちも強引にソニアをねじ込んで無茶苦茶にしてやった」

「あっはっはっ、彼女も強攻策にでちゃったかー」

 レフトールにとっては笑い事だが、ラムリーザにとってはやっかいな火種になってしまっただけだ。それでもラムリーザにも考えがあってのことだったから仕方が無い。

「イシュトさんはわかってくれたのだけどなぁ……」

 人によって、ある人には受け入れられても別の人には受け入れられないことも多々ある。得てしてそういうものである。

「それで去年の今頃だが、お前なんでラムリーザ襲ったんだ?」

「そりゃあもうケルムさんに――おおうっ」

 唐突にリゲルに横から声をかけられ、レフトールは何かを言いかけて慌てて口を塞いだ。

「ん? ケルムが何だ?」

「どうもすんずれいしましたーっ!」

 またしてもレフトールは、よくわからない捨て台詞を残して部室から飛び出していった。

 こうして邪魔者は居なくなり、文化祭に向けた準備が本格的に開始されたのである。計画組みと演奏組みに分かれて、今日も指定の下校時間まで作業は続いたのであった。
 
 
 
 
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