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風船おっぱいお化け発祥の地

 
 10月27日――

 

「ラム~、おなかすいた~」

 昼前のラムリーザの部屋にて。ラムリーザとソニアはテレビ前のソファーに腰掛けていた。そして今日は、珍しく妹のソフィリータも来ていて、一緒にソニアのプレイを眺めている。

 懲りずに金塊集めゲームに夢中になっていたソニアは、そばで画面を眺めているラムリーザの方を振り返って言ってきた。どうやらゲームに熱中はしていても、空腹だけは誤魔化せないらしい。やはりお月様のお供え物に手を付けた祟り……

「もうすぐ昼食の時間だから、これでしのぐんだ」

 ラムリーザがソニアに手渡したのは、ソファーの前にある小さなテーブルの上にあった手のひらサイズの缶。先日駅で購入した、アクマ式ドロップスの缶だ。

「アメよりチョコがいい」

 ソニアは不満そうな声をあげるが、無い物は仕方が無いのでラムリーザから缶を受け取った。そして蓋を開けて振ると、手のひらに白いアメ玉が一つコロリ。

「またハッカが出てきたー!」

 さらに不満そうな声を出すソニア。このアメの缶、ブドウやミカンに混ざって、ハッカ味がするものも混じっている。そしてソニアは、そのハッカ味がどうやら嫌いなようであった。

「ダメだぞ、出てきた物からちゃんと食べないとね」

 ラムリーザは、ソニアがハッカを缶に戻そうとするので、すばやく缶を奪い取った。

「でもこのハッカやだ。絶対にこの種類の中に要らない子が一人居るよー」

「いちいち戻していたら、最後にハッカだらけになるぞ」

「ハッカだけになったら捨てるもん」

「食べ物を粗末にする娘は、桃栗の里行きだ」

 そう言われると、ソニアはもうこのアメを口にするしかない。ラムリーザがいちいち脅すので、ソニアの中では学校指定の寮桃栗の里は、厳しい寮長の指導の下で素行の悪い生徒を矯正する施設のような場所だと思うようになっていた。

「ふえぇ、歯磨き粉みたいな味……」

「ふえぇじゃない、口の中がさわやかになって良いじゃないか」

 とまぁこういったやり取りは、ハッカのアメが無くなるまで何度か繰り返されましたとさ。

 

 そこに、ラムリーザの携帯型端末キュリオに通話を示すチャイムが鳴り響いた。ソニアに勝手に設定されたそのチャイムは、例のギャルゲーエンディングテーマ、きーらきーらにされていた。

「おい、俺だよ俺」

 電話の向こうでは、そんな声が。

「おお、こんにちは俺。なんだい、俺から電話がかかってくるなんて久しぶりじゃないか」

 声で相手のわかるラムリーザは、悪乗りしてやる。

「そう俺だよ。あのさぁ、プール行かね?」

「なんで俺とプールに行かないとダメなんだ?」

「いや俺とじゃなくてお前と」

「俺じゃなかったのか?」

「…………」

 少しの間沈黙。

「すまん、変な出だしにしてしまった。プール行こうぜ」

「俺と?」

「それはもういいから。リリスも連れて行くからさ」

「二人きりで行かないのか?」

「俺は去年お前らとプールに行ってないからな。それが癪だから一つずつ俺もその輪に加わっていってやる。まずはプールだ、行くぞ」

「そんなの気にしなくてもいいのに。まぁ行きたいと言うならこっちもごろごろゲームしているだけだし出かけるか」

 ジャンは、プールに始まり、クリスタルレイクや自動車の運転免許等、いろいろと遅れを取り戻すつもりらしい。そして今日は、一番手っ取り早いプールを選択したようだ。

「出かけるってどこに? 誰と? そもそも今の相手誰? リリスだったらリリス殺す」

 ラムリーザが通話を終えると、ソニアはすばやく問い詰めてきた。相変わらずラムリーザにリリスが接近するのは気に入らないらしい。

「そう簡単に人を殺すとか言うものじゃない。あと相手はジャンだから文句言うな。リリスも来るけど」

「じゃああたしも行く! 旦那を質に入れてでも行く!」

「将来ソニアの旦那になる人は気の毒だなぁ……、僕は遠慮しておこう」

「なんでよ! ラムがあたしの旦那になるのは、三代ほど前の前世から決まっているの!」

「待て、つまり僕を質に入れる気か?」

「入れる!」

「なんでやねん……」

 すでにラムリーザとソニアの会話は意味不明な物となっていた。要約すると、ラムリーザとソニアは、前世とその前世、さらにその前世から結びついていて、現世ではこれから質に入れられるらしい。意味わからん。

「あの、私もこっちのプールには行ったことありません」

「じゃあソフィーちゃんも行こう!」

 ソニアはそう言って、ゲームの電源を落とした。落とす直前の画面では、金塊集めの主人公は穴に落ちて身動きが取れなくなっていた。

 

 昼食後、フォレストピア駅にフォレストピア組が集合していた。リリスは普通にユコを誘ったので、いつものメンバーとなったわけだ。

 十数分電車に揺られてアンテロック山脈を越え、ポッターズ・ブラフ駅に到着。駅の前で待っていたミーシャと合流、出かける前にソフィリータが誘っていたようだ。

 フォレストピアにはまだプールは無い。だから今年も去年の今頃訪れたのと同じ、ポッターズ・ブラフ市民プールへ向かっていった。

「あのプールは記念の場所なのよ」

 市民プールが見えてくると、リリスはそう言った。

「何? 俺の知らない記念があるなんてー……」

 何故だかジャンはがっかりしているが、そんな記念とはあっただろうか? 去年行った時、特に何も起きなかったと思うのだが? などとラムリーザは考えていた。

「あのプールは――」

 リリスは一同を振り返って語りかけ、一旦言葉を止めて溜めを作る。みんなの視線がリリスに集中する。

「こっち見んな」

「は?」

 そういえばリリスは視線恐怖症だった。ラムリーザが初めて会った頃は酷いものだったが、今では文句を言う程度に治まっている。

「それで何の記念なんだ?」

 ジャンに問われて、リリスは視線をソニアにじっと向けた。

「な、何よ」

 リリスに笑みを浮かべた顔を向けられて、ソニアは少し不満そうな声をあげる。

「あのプールは――」

 再び沈黙を作る。何をそんなにもったいぶっているのだ?」

 そしてリリスは爆弾発言をした。

「――風船おっぱいお化け、発祥の地!」

「ムギャオーッ!」

 ――合掌。

 

 無用なトラブルはあったものの、プールに到着して男女に分かれて更衣室へ。

「そういえばジャン、君は泳げたっけ?」

「おっ、馬鹿にしているな? 現代に蘇ったネプチューンとは俺のことだぞ」

「青春のエスペランサじゃなかったか?」

「細かいところ覚えとんなー」

 何故かラムリーザは、夏休みに南の島で行ったプロレス大会の事をよく覚えていた。あの時ジャンは、自分のことを「青春のエスペランサ」と形容したはずだ。

「しかしどうもこの匂いは慣れられんね」

 ラムリーザは、周囲を嗅ぎながらぼやいた。

「塩素消毒の匂いだな、昔錠剤集めして怒られたやつだ」

「あれか、ソニアがラムネと間違えて食べて病院送りになったやつか――」

 ソニアは昔から食いしん坊だった。別にお月様の祟りとか関係なく、昔からのことだったのだ。

 十分程後に、みんな水着に着替えてプールサイドに集まった。

「なるほど、ソニアがL、ユコがM、ミーシャがSって感じだな」

「何を考察している?」

 ジャンが女性陣を評論しているのを聞いて、ラムリーザは一応突っ込んでおく。

「ソフィリータがマッチョタイプで、リリスがバランスタイプ。うむ、やっぱりリリスが一番丁度いい」

「いや、ソフィのマッチョは足だけだろ?」

 蹴り技の修練に精を出しているソフィリータは、下半身の筋肉が結構発達している。普段はいつもサイハイソックスで隠しているのだが、こうして素足になってみるといかにも格闘家といった感じだ。

 ソニアたち三人をSMLで区切ったのは、単におっぱいの大きさだけということだろう。カップのサイズではないところがポイントらしい。

「似非だがお嬢様粋、爆乳粋、ロリ粋、体育会粋、メインヒロイン粋、ちゃんと揃っているのがすごいよな」

「メインヒロインに、一緒に帰って噂されると恥ずかしいと言われて逃げられてしまうジャンであった」

「待て、それはいかん」

 ラムリーザとジャンが実りの無い雑談をしている間に、ソフィリータは早速飛び込み台に登って、後方二回転宙返り、別名スワンダブルプレスを決めてみせるのだった。

 それを見たミーシャも続き、豪快なヒッププレスを決めてやった。――と言えばかっこいい(?)が、要は尻から飛び込んだだけである。

「どこかで見た景色だな」

 その様子を眺めながら、ジャンはつぶやいた。

「あれだね、南の島に行く途中に船から飛び込んだやつだね」

 あの時は、海から戻るための階段を用意する前に飛び込んだものだから、海から戻れずにソニアはパニックに陥ったりした。あのまま全員が飛び込んでいたら、船に戻る事ができずに全滅していたかもしれないので油断してはならない。

「あ~、胸が楽~」

 その一方でソニアなどは、水に入ったときには毎度の事となっているおっぱいぷかぷかで楽をしている。水から上がって重たい……とへたり込むまでがセットの恒例事項だ。

「んじゃ俺たちも行くか」

 ラムリーザとジャンも、他のみんなに続いてプールへ向かった時である。

「てめぇ、ラムリーザだろう?」

 誰かがラムリーザを呼び止めてきた。口調は多少荒い。

「いかにも、私の名はラムリーザだ。なぜ、私を知っている?」

 ラムリーザは、相手が何者かわからないので丁寧に答えることにした。

「何のキャラだよ」

 すかさずジャンが突っ込んでくるが、ラムリーザは聞き流して相手を確認した。

 相手は三人組、どこかで見たような、初めて見るような? 同じ学校の生徒なのだろうか。ラムリーザには、確かに見た記憶があるような気がする。そしてこんな時に何か武器を所持していたら、威嚇に使えるのだろうなぁ、などとも考えていた。

「お前最近ケルムさんに悪く思われているみたいだな」

 その言葉を聞いて、ラムリーザは思い出した。この三人はウサリギの取り巻きだ。レフトール一味とやりあっている時に、ウサリギの脇にいたのを遠目に見た事があったのだ。

「そうだろうねぇ」

 どういう意図で接近してきたのかわからないので、まるで他人事のように答えておいた。少なくともこいつらの親玉であるウサリギとは、学校の裏山で時々雑談する仲になっていた。あの地は中立地帯のようになっているのだ。そこに下っ端がわざわざ出向いてくる意図とは?

「馬鹿な奴だなー、ケルムさんの敵になる道を選ぶなんてね、へっへっへっ」

 ソニアと別れてケルムを選ばなければ敵になってしまうのなら、それは致し方ない。ゲームっぽく言えば、生き方としてケルムルートは存在した。しかしラムリーザはその選択肢は選ばなかったのだ。

「何こいつら、敵?」

 まだあまり良く分かっていないジャンは、ちょっとのんびりしているようだ。

「敵になっちゃった、かな?」

 ラムリーザもちょっとのんびりしているみたいな感じで答える。この三人組、そんなに怖くは無い。親玉のウサリギは居ないし、所詮は下っ端だ。

 そういえば去年も似たような事があったなとラムリーザは思い出していた。このプールに来た時、レフトール一味に絡まれた事があった。あの時はリゲルの地位と知名度で乗り切ったが、今日はリゲルは来ていない。

「別に今俺らは手出ししねーよ。どうせレフトールが出てきてめんどくさいことになるからな」

 そして去年ともう一つ違うところがあった。それはラムリーザの知名度もある程度知れ渡っていることだ。相手も去年のように「ん? 何だお前は?」という反応ではない。

 それに、ラムリーザの力もウサリギ経由で下っ端にも行き渡っているらしい。

 ラムリーザが下っ端の一人にスッと手を伸ばしてみると、警戒したかのように一歩下がる。ラムリーザに掴まれたらヤバい、そういう認識も広まっているのだろう。帝都に居たアキラと同じような状態だ。

「それじゃあ君たちの意見はレフトールを仲介してから頼むよ」

「へっ、元々そうするつもり。領主に手を出すほど俺たちも馬鹿じゃない。でもレフトールをやっつけたらお前も困るだろ?」

「困るねぇ」

「じゃあな、レフトールによろしく言っといてくれ」

 一波乱あるかと思われたが、ラムリーザの知名度が上がるにつれて手を出すとマズい相手と認知されていくようで、その標的は自然と番犬――いや、自称騎士を名乗っているレフトールへと向かっていく。しかしレフトールも、それは望む所だと考えているはずだ。

「なんだあいつら?」

 ジャンは去っていく三人を見つめながらつぶやいた。

「気にしなくていいよ。レフトールに任せちゃおう」

「ああ、番長関連か。この街をシメてるのはあいつらか? 俺たちか? ってやつか。帝都でもアキラって奴がやってたな、公園の所有権めぐって」

「ま、そんなところだね」

 こうして不良集団との抗争に巻き込まれずに済んだ二人は、みんなの待つプールへと向かっていった。

「ふっ、ふえぇ……、胸が重い……」

 その頃何も知らないソニアは、プールから出るといつものようにプールサイドでへたばっていた。

「風船おっぱいお化け健在ね、くすっ」

 それを囲むようにリリスとユコが座っていて、ソニアをからかっているところだった。

「ほー、おっぱいって水に浮くって本当だったのか」

 なぜか感心してみせるジャン。

「ニンボートンボーケンボー!!」

 そこでみんなに取り囲まれていたソニアが発狂。ジャンに突っかかっていって、そのままプールへ突き落としてしまった。続いてリリスに飛び掛って突き落とす。そこで逃げ出そうとしたユコをすぐに捕まえて、これまたプールに蹴落としてしまった。

「ふっ、風船おっぱいお化けの反乱だわっ」

 プールに突き落とされても、リリスは減らず口を叩く余裕があるようだ。

 そこにリリス目掛けてソニアは、プールサイドから助走をつけてリリスめがけてダイビングボディアタック。まるでプロレスだ。

 あとはもうグダグダ、プールの中でバトルロイヤルの大乱闘が繰り広げられましたとさ。

 

 こうしてジャンは、他のメンバーに対して思い出の共有で一つ追いついたのであった。
 
 
 
 
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