ある夜の出来事

 
 11月8日――
 

 そろそろ一日が終わろうとしているある夜更けの頃。

 ラムリーザは最近マイコンでのゲームに少しばかり熱中していた。

 元々動画を作るとソニアが言って買ったものの、すぐに飽きてしまい埃を被りかけていたのだが、そのマイコンでプレイできる簡単なゲームがラムリーザには丁度良かった。

 画面には森を表したような景色が映っていて、地面をイモムシが這っている。

 ラムリーザはこのイモムシをひたすら右へ右へと動かして、時折上から降りてくる蜘蛛をかわしながら先へと進んでいた。蜘蛛につかまるまでの距離を競うといった単純なものだが、ラムリーザにはこれくらいで十分に熱中できていた。

 このゲームは「森のイモムシ」というタイトルのようだ。

 他にも「砦の攻防」「陣取りゲーム」など軽く遊べるゲームがマイコンには揃っていた。

 主に「セソリョーメングループ」といった、ユライカナンのゲーム開発チームが作ったゲームだそうだ。

 帝国ではあまりマイコンのゲームは開発されていないが、ユライカナンではマイコンのゲームもいろいろと出ている。そしてそのユライカナンの交流都市であるフォレストピアには、多くのユライカナン産のゲームが紹介されているのだ。

 それらのゲームのデータはカセットテープに入っていて、マイコンでテープを読み取ることで始まる。

 ちなみにこのテープは、以前ソニアがステレオで再生して、耳障りなノイズ音を発したそれである。

 ラムリーザの操作するイモムシは順調に進んでいたが、単純な油断から蜘蛛に捕まってしまいゲームオーバー。そこで今度は別のモードを選択して遊ぶ。

 次もイモムシを動かすのは同じだが、画面を上下左右に移動することができる。他にもイモムシがうろうろしているが、自分の身体で囲んでしまうと他のイモムシを退治して取り込むことができる。そうすると自分の身体が成長して長くなるのだ。それを繰り返して、敵をどんどん吸収して自分を成長させるといったものだった。

 マイコンゲームでラムリーザが楽しんでいる一方で、ソニアはいつものようにテレビゲームに熱中している。いろいろと金回りの良くなったソニアは、あれもこれもとゲームソフトを買い漁る傾向が出てきていた。

 そして最近遊んでいるゲームは、何やら黄色い円形に切れ込みが入ったまるでチーズケーキを少し切ったようなキャラクターを操っている。切れ込みの入った部分が口のようにパクパクと開閉し、その丸いものは画面内の迷路を上下左右へと動き回っている。エサを集めているのか、迷路上の通路の上には点々が敷き詰められていて、その丸いのが通った後にはその点々も消えていた。

 画面上に居るのはソニアの操る円形だけではない。何やらお化けのような敵がうろうろしていて、どうやらそのお化けにつかまったらやられてしまうようだ。しかし所々に通常の点々よりも大きな点が落ちていて、それを拾うとお化けの色が変わってその間だけはお化けも食べることができるようだ。

 こうして二人は、それぞれ別のゲームに熱中して黙々とプレイを続けていた。対戦ゲームをやっている時と違って、平和な時間がただ淡々と過ぎていった。

 

 ボーン、ボーン、ボーン――

 

 部屋の壁際に置かれている柱時計が、十二回のチャイムを発して0時、日付が変わる時刻を告げた。夜更かしはしないと決めているラムリーザは、このチャイムを合図に寝る準備に移ることにしていた。

 マイコンでプレイしていたゲームのデータは、カセットテープに保存されて次の日はその続きからプレイできる。

 保存に時間がかかるが、復活の呪文とやらを記録しておくよりは遥かに楽であった。

 こうすることで、かなり巨大になったイモムシは、きっちりと保存されて次回のプレイに繋げられるのである。

 ラムリーザはマイコンの電源を落として寝る準備をしてベッドに向かったが、ソニアはまだ必死になっていた。なにやら二体のお化けに挟まれて絶体絶命。

「おーい、寝るぞー」

 ベッドの中からラムリーザはソニアに声かけをする。しかしソニアは、お化けにやられてムキになっていた。大きな点を食べてパワーアップしている時にお化けに反撃していたのだが、最後のお化けを食べようとしたときにパワーアップの効果が切れてやられてしまったようだ。

「うーん、もうちょっとー」

 どこかで聞いたような――いや、こういった光景はほぼ毎日のように繰り返されていた。ラムリーザが規則正しい生活をしようとしても、それにソニアがついてこようとしない。

 だからいつもの台詞を発する。夜更かしする娘は桃栗の里行き――ではない。

「早く来ないと先に寝ちゃって、抱いてあげられなくなるぞー」

 それを聞くとソニアは慌ただしく動き出す。今日はお化け死ねとかつぶやきながら、ゲーム機の電源を落とす。そしてバタバタと寝衣に着替えてベッドに潜り込んできた。

 ソニアの寝衣の下半身がいつもプリーツのミニスカート寝る時用になっているのは今更もう何も言うまい。

 ソニアはいつものようにラムリーザの右隣に引っ付いた。そんなところをラムリーザは右腕で抱き寄せて密着させる。

 これがいつもの寝るポーズ。でもラムリーザが先に眠ってしまうと、ソニアを抱き寄せることがない。

 そうなるとなんだか悲しく感じるソニアは、ラムリーザが寝付く前にベッドに潜り込む必要があったわけだ。

 そして、引っ付いたソニアにラムリーザはいつものようにイタズラを仕掛ける。イタズラをされるのをわかっていても引っ付いてくるのだから、ソニアはもう仕方がない。

 ラムリーザは、右腕でソニアの身体を固定させると、左手をソニアの巨大な右胸の風船に押し付けた。

「んんっ」

 それだけでは、ソニアは喉を鳴らすだけだ。しかし、ふにふにと揉みだすと、悶えだす。

「ふえぇ――っ」

「もうふえぇちゃんは~」

 いつもの反応に、ラムリーザもいつしか「ふえぇちゃん」という呼称を使う。

 最初に言い出したのは誰だったか? リリスか? ジャンか? ソニアの二つ名は、大抵そのどちらかが発祥の地となっている。

 ふえぇちゃんという呼称は、なんだか間の抜けたような、それでいて微妙に可愛いような、なんだか不思議な響きでもあった。

「胸揉むなー」

 ソニアは文句を言うが、その場から逃げようとはしない。そしてさらにラムリーザに揉まれて「ふえぇ」と声を漏らすこととなる。

「もーまったくふえぇちゃんのソニアは、そんなにふえぇふえぇふえぇふえぇ言うんだよー」

「だ、だってあたし……」

「あたし何や?」

「ふえぇっ!」

 すでにまともな会話になっていない。いちゃついているだけだ。

「そうだソニアちゃん、いいこと思いついた」

「なぁに?」

「おっぱい二つあるけど、二つも要らないよね? だからはんぶんこしよう。右側のおっぱいは僕がもらうから、左側のおっぱいがソニアちゃんのね」

 ラムリーザのソニアを呼ぶ呼び方が、いつの間にかふえぇちゃんからソニアちゃんになっている。なんだか以前にも言ったような気がするが、ラムリーザは時々ソニアの胸を半分もらおうという魂胆でこういう提案を持ちかけてくることがある。

「ええっ? それだと、どうなるの?」

 もう何度も聞かれたことのはずなのに、ソニアはちょっと混乱気味でそう尋ねてしまう。

「右側のおっぱいは、僕がどうしようが自由なのさ。揉もうが噛みつこうが、文句を言ったらダメだよ。僕の物だからね」

 そういいながら、ラムリーザは好き勝手にソニアの右胸をふにふにと。

「ふっ、ふえぇっ! やっ、やだっ! 両方ともあたしの!」

「ソニアちゃんは欲張りだなぁ。そうだ、僕の胸の片方あげるから、それと交換でどうかな?」

「やだ! ラムの胸はカチコチの板見たい!」

「やわらかいおっぱい、食べようかなぁ」

 今度は布団の中に顔を潜り込まてせて、ソニアの右胸に軽く噛みついてみた。

「ダメっ! 食べたら無くなっちゃうよっ!」

「そうだなぁ、じゃあやっぱり揉む」

「ふえぇっ!」

 結局夜更かししている二人であった。リリスやジャンにこんなことやっているのがばれたら、どんなあだ名を付けられることか。

「ならばこうしよう。おっぱい揉むのは止めてやる。ただし、ふえぇと言ったら揉むからね」

「えっ? えっ?」

 これもまたよくやる遊びのパターンだ。一時的には揉まれるのを回避できるが、一度ふえぇと言ってしまうと底なしになる罠であった。

 ラムリーザはソニアの胸から手を離すと、今度は頭へと持っていった。そして自分の方に頭を抱き寄せながら、優しく撫でてやる。ソニアは嬉しくて照れくさくて、そして幸せな気分になり思わず、

「ふえぇ――」

 ラムリーザはソニアの頭を撫でていた手を素早く動かして、右胸を揉む。

「ふえぇっ!」

 ――とまぁ、こうなるのだ。一度言ってしまうと、あとは揉まれ続けて、そうなるとふえぇと言ってしまい、言ってしまうと揉まれてしまい、揉まれると言ってしまい、言ってしまうと――

「んっ、んんんっ!」

 この泥沼から抜け出すには、ベッドから逃げ出す――ではなくて、いつもソニアはラムリーザに密着してくる。自分の胸をラムリーザの身体に押し付けて、その間にラムリーザの手が入り込んでくる余地を無くすのだ。そうすることで、引っ付いている限り胸を揉まれることは無くなる。

 ソニアにとって、ラムリーザの傍から逃げ出すのだけは、揉まれるよりも嫌なのだそうだ。

「ソニアちゃん、なんしょん?」

 自分にしがみついてくるソニアに尋ねるラムリーザ。

 しかしソニアは答えない。ぎゅっとしがみついたままだ。足まで絡めてきて、身体全体で引っ付いてくる。

 そこでラムリーザは、しがみついたソニアの背中に手をまわして、さらに強い力で抱きしめた。

「んん――っ」

「かわいいなぁ」

 喉を鳴らすソニアが、ラムリーザにはすごく可愛く感じられた。

 今度はゆっくりと左手をソニアのお尻に回していく。そして柔らかいお尻を揉む。こちらはルールの適用外なので、いつでも好きな時にいじれるのであった。

「ふえぇ――」

「あっ、また言ったね」

「やだっ、胸揉むなっ!」

「ふえぇと言ったら揉むと決めていたんだから諦めるんだ」

 お尻に回していた手を肩に持っていき、しがみついているソニアを少し引きはがして隙間を作る。そしてその間に手を滑り込ませ、大きな風船を揉む。

「ふっ、ふえぇ――っ!」

 ソニアはラムリーザに再びしがみついたが、二人の身体の間にラムリーザの手を挟んだままだ。ラムリーザは挟まれた手を閉じる。それは揉むという行為。

「んんっ、んんんーんんっ!」

 ソニアは身体をくねらせて悶える。ふえぇをがまんしたのでラムリーザの手は動かない。しかし胸に当てられた手が気になって仕方がない。

「あ、鍵を締めたかなぁ?」

 ふとラムリーザは、このまま遊び続けていてよいものかと考えた時に、部屋の入り口の鍵を閉めたかどうか思い返した。

 しかし、日付も変わった後の時間、部屋の明かりも消して暗くなって寝ているところへ入ってくるとは考えにくい。使用人も寝ている時間だろう。

 そこでラムリーザは、ゆっくりとソニアの顔に自分の顔を近づけて――
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き