home > 物語 > > バットバットサルフ前編 ~バターサルフ~

バットバットサルフ前編 ~バターサルフ~

 
 9月8日――

 

 今日は朝から快晴。この日、ラムリーザはサルフという球技を体験するために、ユライカナンへと旅立っていた。

 ユライカナンへは、電車一本でフォレストピア駅から行くことができる。距離的に言えば、帝都に行くよりもユライカナンに行くほうが近い場所なのだ。

 今日のイベントは、大勢でゾロゾロ来られても大変だということで、すぐに動けた四人に絞って向かっていた。ラムリーザとソニア、ジャンとリリスの四人である。

 ちなみにリゲルは、人数制限の話を聞くと、すぐに譲ってきた。元々あまりでしゃばらないタイプだ。

ユコは午前中からレフトールとゲームセンターに出かけていたようで、電話したところ「サルフ? いってらっしゃい」と来た。元々ユコは球技を含む運動系は苦手である。

 逆にジャンなどは、強い要望でリリスをつれて一緒に行こうという話になった。何やらダブルデートのリベンジなどと言っている。しかしラムリーザは、いつダブルデートに失敗したっけ? と、以前やった遊園地デートのことを忘れていた。

 見送りのごんにゃ店主に手を振られ、電車は西へと旅立った。ユライカナンでは、ごんにゃ店主の親戚が案内してくれるという手はずになっていた。

 

 ユライカナン行きの電車の中、ラムリーザとソニアは並んで座り、ジャン、リリスと向かい合う形になっていた。

「あのさぁ、ダブルデートリベンジとか言っているけど、以前失敗したことあったか?」

 ラムリーザは、少しずつ開発が広がっているフォレストピア西部の光景を窓から見ながら訪ねた。

「あれを見ろよ」

 ジャンは、窓の外を指差して言った。その方向には、遠くで何やら大規模な建設が進められていた。

「あれは確か、ポンダイパークだったね。フォレストピアにも一つ遊園地を作ろうって話になっていたよ」

「以前、ポッターズ・ブラフの遊園地でグダグダになっただろうが。そのやり直しを狙っているんだがな」

「あたし別にグダグダになってない。ジェットコースターに乗りまくってむっちゃ楽しかった!」

 ソニアが口を挟んできた。あの日、ラムリーザと合流できなかったソニアは、閉園間際まで延々と乗り続けていたのだった。ちなみにラムリーザは、一人観覧車で居眠りしていた。

「デートになってなかっただろうがっ」

「あたしとラムの、ニュータイプデートに文句言うなっ」

 ソニアの言うニュータイプデートとは、二人で行く場所を決めて、集合せずに各自別々に楽しんで、終わったら一緒に帰るというものだそうだ。

「まあいいや、それよりもサルフって知ってる? やったことある?」

 ラムリーザは、デートのことは割とどうでもいいので、さっさと話題を変更させる。

「聞いた事はあるな。ゴルというプロが居るのも知っているけど、畑違いだから会うことはなかったぞ」

 ジャンは仕事で何度かユライカナンへ行っている。しかし目的はクラブハウスの経営、主に演奏してくれるバンド探しだ。残念ながら、プロサルファーに用は無かった。

 そんなことを話している間に、国境の川ミルキーウェイを渡りきり、ユライカナンへと突入した。

 目的地は、都市の中心サロレオームではなく、最東端の町ゾーフィタス。川沿いに広がる平野に、そのサルフ場はあると聞いていた。

 ゾーフィタスの駅に電車はゆっくりと停まった。ソニアが「いちば~ん」と言いながら飛び出していった。下りたところで、二番目に降りてきたリリスに後ろからソニアを捕まえる。

「なっ、何よっ」

 いきなり後ろからつかまれてソニアは驚く。そのままリリスは、ラムリーザとジャンが続いて降りてくるのを尻目に、ソニアを電車の中へと押し戻してしまった。

「これでソニアは一番じゃなくなった。降りるの最後よ、くすっ」

「なっ、そっ、まっ!」

 リリスの謎の理論で、ソニアはどん尻へと変更。それだけではない、リリスは電車の降り口に陣取ってソニアを降ろさせない。

「ソニアはこのまま次の駅まで行ったらいいわ」

「何でよ! そこどけっ!」

 電車の降り口で押し合いが始まってしまった。こうなると、すぐに車掌が駆けてくる。

「ちょっとお嬢さん方、何をやっているんだ?」

 ラムリーザは慌ててリリスを脇へと押しのけて、ソニアの手を引っ張って電車から連れ降ろした。

「ごめんなさいごめんなさい」

 ラムリーザは、ちょっと不機嫌顔をしている車掌に謝って、ソニアの頭の上にげんこつを振り上げた。

「ちょっと待って! あたし悪くない! リリスが変な事したのが悪い!」

「それもそうだな」

 ラムリーザは、げんこつをリリスの頭の上へと移動させた。

「おっと待った、リリスに手は出させないぞ」

 すぐにジャンがリリスを庇い、ラムリーザとの間に割り込んできた。

「そうか、じゃあ代理で責任を」

 ラムリーザはそう言うと、遠慮なくジャンの頭にポカリとげんこつを落とした。

「ぶっ、ぶったな! 親父にぶたれたことすらあるのに!」

「あるのなら別にいいじゃないか」

「ちょっと、痛いわね!」

 傍からリリスの悲鳴が上がる。ラムリーザがげんこつを落とさなかった代わりに、ソニアが仕掛けたようだ。

 そのまま「ぐぬぬ」と言いながら、それぞれ二人ずつに分かれてにらみ合う。ラムリーザ、ソニア組対ジャン、リリス組。男女混合タッグマッチでも始まるか?

 電車が出発して静かになったとき、近くからクスクスと笑う声が聞こえた。ラムリーザがちらりとその方向を見ると、見知った顔がそこにあったりした。

「あらあら、今日も最初から面白い光景を見せてくださるのですね」

「イ、イシュトさん?!」

 ラムリーザは、ジャンに振り上げていたげんこつを引き下げると、背後に隠して照れ笑いを浮かべた。

 そこに居たのは、夏休みのユライカナンツアーの時に知り合った、この地方を治める領主の娘、イシュト・シロヴィーリであった。

 気が付けばジャンも、愛想笑いを浮かべて対応している。にらみ合っているのは、ソニアとリリスだけになってしまった。

「ラムリーザさんが来ると聞いて、わたくしも時間を作ってご一緒させて頂こうかと。ソニアさん、おはようございます」

 ソニアは、イシュトに挨拶されて、ふんっとリリスから顔をそむけてイシュトの前へと出てきた。

「おお、ラムリーザも二股しているんだったな。ソニアとイシュト、お似合いだ」

 ジャンは、先ほどぶたれた仕返しとばかりにからかってきた。

「こらこら……」

「あらあら、それはソニアさんに悪いですよ」

 イシュトはこういった反応を見せるので、ソニアはイシュトに対しては攻撃的ではない。ラムリーザとソニアの関係を尊重している、それが分かるのでソニアはイシュトに対して敵意が浮かばないのだ。単純なソニアのことだから、安心しているだけかもしれないが、とにかくリリスと対峙している時のような面倒事は起こらない。

 案内役はイシュトかなと思ったが、彼女はついでに参加したようなもので、実際はもう一人一緒に来ていたおじさんであった。

「ごんにゃでヒミツがお世話になっています。今日の案内を務めるシクレトです、よろしく」

「ラムリーザです、よろしくです。ごんにゃ店主の親戚なのですよね」

「そうです。私の父の妹の旦那のおじいさんのお兄さんの息子の嫁の弟の母の妹の娘がヒミツの母です」

「非常に分かりにくい」

 どうやら他人に近い親戚であることには間違いないようだ。まぁ遠い親戚より近くの他人という言葉もあるが、どうでもいいか。

 ゾーフィタスの駅から出て、シクレトが乗ってきた車で移動開始。六人乗り、ちょっと窮屈だが仕方がない。

 国境の川沿いに出てしばらく南へ移動すると、遠くに大きな公園のような場所が見えてきた。ブロック分けされた芝生のようなものが、ぽつぽつと点在しているのが特徴的だ。そして看板、バットバットサルフと書いてある。どうやら今日の遊び場所はここのようだ。

 ちなみにサルフにはいくつかの遊び方があり、広い場所で長距離のコースを飛ばすもの、施設の中で思いっきり打ち飛ばし続けるもの、そして小さくて短いコースでボールを転がして遊ぶものだ。そしてこの場所で遊ぶのは、後者の小さなコースである。

「ここはバターサルフ専門、初心者にもとっつきやすいものだよ」

 シクレトの案内で施設に向かう。遠くから見えた、ブロックで囲まれた芝生のようなものがそれぞれコースになっているようで、1、2、3と順番が書かれているようだ。

「さあ、一番ホールからやってみよう」

 シクレトは、人数分のスティックを各自に手渡しながら言った。杖のようなもの、先端は棒の部分から直角に曲がり、まるでT字の様に二方向に小さく枝分かれしている。

「このバターというもので、スタート地点からボールを転がして、ゴールの穴に入れたら終わりだ。何発で入れたかを競うもので、数が少ない方が勝ちとなる」

 そう説明しながら、シクレトはお手本と称して一番ホールのスタート地点にボールを置いて、バターでこつんと打った。ボールはコロコロと転がり、ゴールの穴のすぐ手前で止まった。

「あいたっ、もう少し力を入れるべきだったかっ」

 シクレトは額をペチリと叩きながら、少し毒づいた。そして次は極弱く打って、ボールを穴へと入れたのであった。

「なるほどね、よくわかりました」

 この一連の行動を見て、ラムリーザはこのゲームのルールを理解できた。そこで早速模倣してみる。この一番ホールは、何の変哲もない直線コースだというのも分かった。

 ラムリーザは、バターを操ってボールを打ってみた。ボールは先ほどシクレトが打った時よりも勢い良く転がっていく。しかし力の加減を誤ったか目測を誤ったか、ボールは穴から少し逸れた場所を転がり、ゴールの穴を通り過ぎてしまった。

「外した」とソニア。

 くすっと笑うリリス。

「撃つときの角度も重要だ」とシクレト。

「角度とか」と意味もなく復唱するジャン。

 ラムリーザは、「外野うるさい」とまるでユコみたいなことを言って、二発目を打った。今度は奇麗にゴールへと入ってくれたようだ。カラカランッという音が心地よい。

 シクレトはそれを見て、「二打、と」とつぶやいて、持っていたメモ帳のようなものに記録していた。

「次は私よ」

 二番手に名乗り出たのはリリスだった。リリスはラムリーザが打った時と同じように構えるが、なにやらしっくり来ないようでもぞもぞしている。

「どうしんだ? 何か問題でもあるのかな?」

 リリスがなかなか打たないので、シクレトは様子を見に近づく。そしてフォームの指導をしようとしたところ、リリスは「何か使いにくいわ」と言った。

「あ、その魔女は変な手逆病だから」

 ソニアは何かを察したようで、シクレトに謎のアドバイスをする。

「手逆? ああ左利きか、それなら反対から構えてごらん」

 シクレトは、リリスのフォームを手伝ってあげる。

「あ、これなら使いやすいわ」

「リリスはひねくれ者だから、何でも逆にしないと気がすまないのよねー、ねー、ねー」

 ソニアは、これ幸いとばからにリリスをからかってきた。いつも手痛くやられている分、攻撃のチャンスを手に入れると容赦ない。いつもはその後、手痛い反撃を食らったりするものだが、さて今日はどうだろうか。

 リリスはボールを打とうとして、ちょっと考え込む。それからソニアの方を見て、くすりと笑った。そして半歩下がってから、改めて打った。ボールはころころと転がっていった。ゴールの穴から少し外れているようだが、ギリギリ入りそうだ。

 ――と思ったが、ボールは穴のふちをぐるりとなめる様に移動し、穴の手前に戻ってきてしまった。

「下手だ!」とソニアは大声で宣言する。

 リリスはむっとして、軽く打って二発目で入れると、今度はソニアに打つよう促してきた。

「あなた打ってみなさいよ。あと、今日のこのバターサルフで次の新曲リードボーカル勝負よ」

 ミーシャが居ないのに、また二人でリードボーカル争いを始めてしまった。ただ一つ言えるのは、この勝負を挑むとき、リリスは何かソニアに圧倒的に有利な部分を見つけた時が多いことだ。

「なによこんな鞠突き、全部一発で入れてやる」

 ソニアは意気込んで、スタート地点にボールを置いて立ち上がった。そしてボールに近づいてバターを構えようとした時――

「あっ――」

 小さくつぶやいて、大きく一歩退いた。そしてボールから少し離れた位置から打とうとして腕を動かし、だがすぐにもぞもぞと動き出してなかなか打とうとしない。

「ちょっとボールから離れすぎだな」

 シクレトは、ソニアに近寄ってフォームを修正させようとした。そして後ろから押して、ボールへと近づける。しかしソニアは一歩下がろうとする。

「それでは離れすぎだ、ボールとの位置はここでスタンスは――」

「ふえぇっ……」

 シクレトに指導を受けながら、ソニアは悲鳴をあげる。それをリリスは、何かに気づいているかのようにニヤニヤと眺めていた。

「ソニアは何をもぞもぞと――、あっ」

 そこでようやくラムリーザも気が付いた。シクレトに指導されたあの位置からでは、ソニアは足元のボールが見えていない。巨大な胸が邪魔すぎて、サルフのプレイにも支障が出ていた。

 ラムリーザはシクレトとソニアの傍に近づいて、シクレトにこっそりとソニアが困っていることを示してあげた。シクレトは一瞬驚いたような顔をし、ソニアの身体を改めて眺めた後、苦笑いして離れていった。

 ソニアは身体をひねるとかなんとか工夫をして、ボールが視界に入るようにしてから打った。ボールは適当に、ゴールの近くまで転がっていっただけだった。

「あれがL式サルフ打法よ、くすっ」

 リリスがからかい、ソニアは「うるさいっ!」と叫ぶのであった。

 こうして、一部では不毛な争いが生じている中、バターサルフ遊びが始まったのである。
 
 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2022

return to page top

©発行年-2022 フォレストピア創造記