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無愛想な転校生

 
 9月9日――

 

  朝食時。フォレスター邸にて。

 食後と登校時間の間のちょっとした休憩時間、ソニアは自分の持っているお茶の入ったコップの中に、珍しいものを発見した。

「あっ、お茶の葉が立ってる」

 しかしラムリーザにとっては、割とどうでもよいことだった。それにソニアにも間違いがあった。立っているのは正確には、お茶の茎だ。

「それがどうしたと言うんだよ」

「知らないよ」

 ラムリーザの淡白な反応に、ソニアもすぐに興味を失った。残念ながら帝国の文化では、そんなものである。

「あ、でも聞いた事がありますよ。ユライカナンの文化では、お茶の葉っぱが立っていたら、縁起が良いのですって」

 ソフィリータはソニアの言葉を聞いて、先日格闘ジムに行った時に、マスターのゴジリから聞いた事を述べた。しかしソニアがお茶の葉と言ったので、間違えたまま言ってしまった。ゴジリが言ったことは、茶柱が立つである。

「やったあ!」

 しかし単純なソニアは、コップを持ったまま万歳。コップに入ったお茶が一部飛び出し、宙に舞ってテーブルにバシャっと散らばって汚した。

 その様子を見て、ソニアの母でありフォレスター家のメイドであるナンシーが、布巾を片手にむっとした表情でソニアに近づいてくる。ソニアは向かってくる母に気がついて、すぐにコップをテーブルに置くと、席を立って逃げ出してしまった。

「いつも行儀が悪くて申し訳ありませんね」

 ナンシーは、布巾で飛び散ったお茶のしぶきをふき取りながら、ラムリーザに言ってきた。

「別に気にしなくてもいいですよ。いつも見ていて面白いから」

「それはそれで問題があります」

 ラムリーザはソニアを庇うが、ナンシーにはあまり慰めになっていないようだった。

 その後投稿前、ソニアはラムリーザを屋敷の駐車場に引っ張って言ってきた。

「ねぇ、車で学校に行こうよー」

 しかし丁度外に出ていたラムリーザの母ソフィアが、それを聞きつけて注意する。

「運転できるのは良いですが、なるべく控えるように。車で行くなら運転手をつけなさい」

「それならレイジィに運転手をお願いするよ」

 ラムリーザは、個人的な警護役にお願いする。去年の秋、レフトール襲撃事件以降、普段の生活には干渉しない形で警護をつけていたりするのだ。

 ラムリーザとソニアとソフィリータの三人は、フォレストピアに来てから初めての車通学となった。

「電車ばかりだと飽きるので、時々車で行くのもいいですね」

 ソフィリータは、いつもと違う風景を眺めながら言った。

 フォレストピアの市街地を出て、アンテロック山脈に差し掛かる。ヘンカラ峠の山道を登って行くと、山脈の中腹辺りにあるオーバールック・ホテルを通り過ぎる。ヘンカラ峠と言えば、夏休みにソニア達がヘンコブタを捕まえてきた場所で、ホテルは去年定期的に行われていた貴族のパーティ会場だ。

 ホテルを過ぎると峠道を下っていき、通っている学校のあるポッターズ・ブラフに到着。車は、去年ラムリーザとソニアが住んでいた親戚の家の駐車場を借りて停めておく。

 こうして、いつもと違う登校は終わった。

 

 教室ではいつもの雑談だ。

「あなた今日電車に居なかったけど、いつの間に登校したのかしら?」

 リリスは、ソニアに問い詰めてきた。別に怒っているわけではないが、いつもと違う流れに少し興味津々といった感じが近いか?

「あたし真面目だから、新聞屋よりも早く登校したもん」

 別に車で通学したことを隠す必要は全く無いのに、何故かソニアは変な方向へ話を持っていくる。そんなことをするからリリスにいろいろと突っ込まれて返答に困り、最終的には――

「ふえぇ……」

 恒例事業と化したやりとり。リリスとユコは、「ふえぇちゃん」と言って、二人顔を見合わせてくすっと笑う。

「――で、どうやって学校に来たんだ?」

 ソニアをからかうことで満足したリリスに代わって、今度はジャンがラムリーザに尋ねてきた。

「ソニアが車で登校したいと言ったから、そうしてみただけだよ」

「かーっ、車か! 俺絶対にどこかで運転免許取得してやる」

「ソフィリータとたぶんミーシャもまだだから、一緒によろしく頼むよ」

 そんな話をしているところに、担任の先生が入ってきた。朝のショートホームルームが始まる時間だ。

 しかし最近は、ちゃんとした授業が始まるまで、ラムリーザの周囲は座席配置が乱れたまま。隣のソニアは窓際のラムリーザに引っ付いてきているし、前の席に居るリリスとユコも窓際寄りに移動しているし、ジャンも下がってきて本来リリスが座っている場所に居る。ちゃんと元の位置に戻るのは、ロザリーンぐらいだった。

 先生は、ざわついている教室に向けて、おほんとひとつ咳払いしてから言った。

「えー、今日は転校生を紹介する」

 夏休み明けに転校生、ありえない話ではない。ラムリーザは、ひょっとしたらイシュトが? などと期待してしまっていたりする。

「そういえば、雑貨屋にインスタントリョーメンが売ってあったぞ。帰りに買って帰ろうか、雑貨屋に寄って帰るぞ」

 ジャンは、まだ転校生に気がついていないようだ。そりゃそうだ、後ろを向いて、ラムリーザやソニアと差し向かい状態で、教卓の方へは背を向けている。そのまま今日の予定を作ってしまう。

「ジャン、転校生だぞ」

 ラムリーザは、ジャンに説明しなければならないぐらいだった。

「転校生? ほう、転校生か」

 ジャンはぐるりと振り返り、教卓の方へと目をやる。

「たぶんユコが来ると思う」

 ソニアはそう吐き捨てた。ユコの転校するする詐欺を、またしても穿り返してきた。

「なんですの! ココちゃん返しましたわ!」

「足りない! ユコが持ってるココちゃん、7個ぐらいよこせ」

 ソニアとユコが、ココちゃん論争を始めたところで、ジャンは再びラムリーザの方へ振り返り、転校生論を語り始めた。

「転校生と来れば女だ。金髪でツインテール、定番だね」

「違うみたいだよ」

 先生の「入ってきなさい」との声で入ってきたのは、燃えるような赤い髪を肩まで伸ばした女の子だった。どこが金髪でツインテールだというのだろうね。

「う~む」

 ジャンは、早速転校生の品定めを始めている。その転校生は、不機嫌そうにそっぽを向いていた。

「どうしたのかしら?」

 リリスが寄ってきて、ジャンは、はっと我に返った。

「ま、転校生と言っても、リリスの方が美人で上だね。あの転校生は、ちと色気が足りんな」

 それを聞いて、リリスはクスッと笑う。

「でもよ――」

 ジャンは、今度はラムリーザに言って聞かせるように身を乗り出してきて語りだした。

「転校生は空いている席に座るよう言われる。そして何故か、偶然お前の隣が空いているのだ。最初はツンツンしている彼女だが、お前は興味津々。そのうちそのツンデレに振り回されるようになって、やれやれ、健気な幼馴染は脇へと追いやられ、気の毒な負けヒロインの誕生だ」

 ジャンの理論は、なんてことない、ただのソニアからかいだった。しかし、いろいろと突っ込みどころはある。ソニアが健気か? そしてすでにその幼馴染が、ラムリーザを振り回している。

「僕は既にソニアに振り回されているよ。そこにそれ以上振り回されてしまったら、すっ飛んで月まで飛んで行っちゃうよ」

 ラムリーザはおどけてみたつもりだが、いまいちオチが適当すぎたようだ。

「寝取る奴は、全部埋めてやる。あの転校生も埋める!」

 ソニアも当然ながら、ユコとのココちゃん合戦を中断してジャンに噛み付いてきた。多少面戦法が好きな奴だ。気がつけば、ジャンとリリスとユコの三人に、半包囲されている。

「そこらへーん、静かにしろー」

 流石に騒ぎすぎたか、多少のざわつきには目をつぶっていた先生も看過できなくなり注意してきた。

 半包囲する三人は、声を揃えて「ソニア、お口にチャック」と言う。憤るソニアをラムリーザは抱え込んで黙らせた。

 そこに、先生の転校生紹介が始まった。

「えー、ピクリスは、お父さんの仕事の関係で、ポッターズ・ブラフに来ました。皆さん仲良くしてあげてください」

「ユコは、お父さんの仕事の関係で、フォレストピアに来ました」

 先生の説明のすぐ後、ソニアはユコに聞こえるように言った。ココちゃん論争、ラウンドツー、ファイッ!

 その感、ピクリスと呼ばれた赤髪の少女は、そっぽを向いたまま何も反応を見せない。

「無愛想なやっちゃな」

 レフトールは、腕組みをしたままじっとガン飛ばしをしていたが、相手は全然目を合わせようとしないので飽きてきた。

「無愛想なツンデレが、デレに転じたときのカタルシス。がんばれ、レフ――ってか、野郎ならともかく女にガン飛ばしてどないすんね」

 レフトールの前の席に居るマックスウェルが、めんどくさそうに応援する。

「ゲーセンに行きたいと言ってきたら、付き合ってやるってことも考えてやってもいいぞ――おぐっ?!」

 レフトールが語りかけた途中で、突然後ろから背中に拳が飛んできて言葉につまる。レフトールは驚いて振り返ったが、そこにはソニアとココちゃんがどうのこうのと言い合っているユコが居るだけだった。

「あそこの空いている席に座りなさい」

 先生は、廊下側一番後ろの席を指差す。偶然空いていたのではない、今朝作った空き席だ。

「わかったぞ」

 ジャンは、黙ったまま周囲を気にも留めないような感じで指定された席についた転校生を見て、手をぽんと合わせて言ってきた。

「クールってやつだな。寡黙なタイプ、デレたらクーデレ。うるさいソニアよりは、神秘的で人気が出るぞ」

「なっ、まっ、ジャンのドロヌリバチは珍品!」

 どうもいまいち、ソニアの言い返しは適当すぎて言い返しにならない。せいぜい神秘と聞いて、珍品と言い返しただけだろう。

 結局転校生のピクリスは、その日は誰とも話さずに――話しかけるのも居たが、ピクリスが相手をしない――そのまま一人でさっさと帰ってしまった。

 

 放課後、予定通り部活はやらずに、雑貨屋に寄って帰ることになった。ただしフォレストピア組みのみ。まだインスタントリョーメンは、フォレストピアの雑貨屋でしか販売していない。売れ行きが好調なら、最終的には帝国全土で販売する予定である。

 電車でフォレストピアまで帰って、そこから市街地にある雑貨屋に向かう。

 その途中で、ソニアがつぶやいた。

「車を向こうの家に置いてきちゃったね」

「あっ、しまった! 早く言えよ!」

 ラムリーザは、今朝車通学したことをすっかり忘れていて、電車で帰ってきてしまった。ここはもう素直に謝罪して、明日にでも電車で通学して車で帰ろうと誓った。

 雑貨屋にて、新発売コーナーでそれは売られていた。

「インスタントリョーメンはこれか、ふむふむ」

 ジャンは、棚に並んでいるカップを見ながら、品定めをしている。

「クッパタしか無いね。他に種類はないのかな」

「たぶん売れたら、種類を増やしてくると思うよ」

 そんな会話をしながら、クッパタを五つ購入。店に設置されているポットからお湯を注いで、雑貨屋の前に並んでいるベンチへと向かう。ベンチは、四人掛けぐらいの大きさの物が二つ。ここに居るのは五人。

「私とユコ、ラムリーザとジャンの四人がこっちのベンチ。ソニアはあっちに一人だけで座りなさい、くすっ」

「なっ、吸血鬼が一人になれ! 人間四人と吸血鬼一人に分割!」

 ラムリーザは、ソニアとリリス、ユコを片方のベンチに座らせ、自分はジャンと二人でもう一つのベンチに腰掛けた。ジャンはリリスと並べないことが不満そうだったが、今日のメンバーを見て仕方ないかと考えて、素直にラムリーザの隣に座る。

「なぁ、ピクリスだっけ。お前はどう思う?」

 ジャンは、リョーメンとお湯の入ったカップをゆらゆら揺らしながら、ラムリーザに尋ねてきた。

「来たばかり、初めての地で緊張していた? 僕も去年初めての地は緊張したけど、みんな一年生だったから似たような人が多かったけどね」

「そっかー? 俺もこの春が初めてだけど、そんなに緊張しなかったよ」

「僕とかソニアとか、既に知り合いが居たからだろ」

「違うな、リリスが居たからだよ」

「はいはい」

 インスタントリョーメンは、お湯を入れて三分。そろそろ食べ時だとばかりに、ジャンは箸を突っ込んだ。

「転校生ってのはな、幼馴染をぶっちぎって奪い取っていくのが定番なんだ」

 ジャンは、リョーメンを箸で持ち上げて、ふーふーしながら語る。

「何の定番だ。それこそピクリスさんが、ソニアに埋められても知らないよ」

 ラムリーザは、まだリョーメンには口をつけない。箸で持ち上げては、スープの中に戻すのを繰り返しているだけだ。

「おっ、このリョーメンもうまいな。手軽に作れて保存も利くらしい。いくつか買って帰ろう」

 ジャンは、このクッパタが気に入ったようだ。

「保存食を常備しておくのはよいことだね」

「しかし、定番のイベントが発生していないから、幼馴染がそのまま継続だろうな」

「何のことだ?」

「学校に行く前に、お前はその転校生と知り合っておく必要があるのだ。そこで、教室に現れたときに、『お、おおっ、お前はっ?!』という展開にならないとダメだ」

「それはジャンの時にもうやったよ。初対面のジャン」

 ラムリーザは、この春に突然ジャンが教室に現れて、朝のホームルームがしっちゃかめっちゃかになったことを思い出していた。

 そこにソニアがやってきた。手にはクッパタとは別の容器を持っている。

「カキ氷も買ってきたよ。シロップのところをどけたから、この氷の部分をリョーメンの中に入れたらいいよ」

 ソニアは、スプーンを使って氷をラムリーザの持っているクッパタのカップに入れた。

「ああ、その手があったか。ありがとう」

「あー、お前熱いのダメだったな」

 ジャンはズルズル食べながら言ってくる。そしてソニアは、リリスとユコの待つベンチへと戻っていった。

 ここまで自分のことを分かってくれている彼女。見ているだけで面白くて飽きない彼女。何かと迷惑ばかりかけてくる彼女。困らせるとふえぇとつぶやくふえぇちゃんの彼女。物心ついた時からずっと一緒だった彼女。むろん、これからもずっと一緒の彼女。

 こんないい娘からどうして乗り換えられるものか。

 ラムリーザはそんなことを思いながら、冷えたリョーメンを食べるのであった。
 
 
 
 
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