しけんべんきょいきょい
3月1日――
学年末試験の時期がやってきた。
この試験の結果次第では留年もありうるといった、危険な試験。
とは言っても、優秀なリゲルやロザリーンには関係の無い話で、平均点のラムリーザとユコも問題ない。問題は、ラムリーズの看板娘の二人組、ソニアとリリスだ。
今の所、勉強会のおかげで赤点は回避できているが、気を抜いて油断するとどうなるかわからない。だから今回も勉強会を開き、二人の赤点回避を目指すのだ。
昨日のイシュト・リサイタルの後、ジャンは「今回は俺も一緒にやる」などと言いだして、ラムリーザたちの勉強会参加を決めたのだ。前回の試験では、リリスと二人で図書館に行ったようだが、どういう心変わりの変化が生まれたものやら。
ラムリーザの住む屋敷の自室にて。
ラムリーザは、テーブルで明日の試験科目になっている教科の準備をする。その傍で、ソニアは水中輪投げのおもちゃで遊んでいる。他のメンバーが集まるまでという時間限定で、ソニアは遊ぶことを許されていた。
そのおもちゃはユライカナンにあったもので、イシュトからプレゼントされたものだ。おもちゃのプレゼントというのも何だが、ソニアが気に入っていたのを見て送ったというものであった。
予定では十時までに参加ということになっていたが、ジャンとリリスは少し早めの九時半に現れた。
ラムリーザはジャンに「今日は図書館に行かないのか?」と聞いてみると、ジャンは決まりが悪そうに顔を背けた。
リリスが言うには、前回の試験結果でソニアに負けまくったのが不満だったらしい。そして今回は、ジャンと二人での勉強を避けたのだと。
ジャンにとっては非常に不本意だったが、試験結果が全てを物語っていた。すなわち、二人で勉強するよりラムリーザと一緒の方が成績が良くなると感じたのだ。
ちなみにジャンも平均点ぐらいの結果を出している。問題は無いが優れているわけでもない。
「ラムリーザ、勉強お願いするわ」
「お、おう」
不満そうなジャンと、ラムリーザにすり寄って来るリリス。接近されて困るラムリーザと、不満そうになるソニア。
ラムリーザの周囲では、誰かが動くと必ず誰かに影響が出る節がある。
そして前回の成績がラムリーザたちの方がよかったのは、レフトールのおかげだというのもある。番長と呼ばれているが、何故か勉強ができて、いろいろと教えてくれたのだった。
そして今回も、レフトールを呼ぶことになっていた。ユコと一緒に来ると言っていたが、今回は来てくれるだろうか。
ラムリーザは、ソニアとリリスが喧嘩を始める前に釘を刺しておいた。
「これからは赤点回避だけでなく、まずは平均点を目指そうね」
「無理だよー」
ソニアは口をとがらせて不満そうに言った。
「そんな風に顎を凹ませてないで、まずは授業中は練消し没収するところから始めよう」
「やだ! 間違えた文字を消せなくなっちゃう!」
「消しゴムでええやん」
「面白くない!」
「そこが間違っているのだよ」
おそらく学校に練り消しを持ってきているのは、美術で使うのを除けばソニアぐらいだろう。
そしてラムリーザは知っている。ソニアは練消しで文字を消すのではなく、粘土のようにして遊ぶために持ってきているということを。
「とりあえず赤点回避でいいんじゃないか?」
ラムリーザは意気込んで見せるが、ジャンはマイペースだった。
「それではダメなんだ。大学を目指すというのなら、せめて平均点は取れるようになってくれないと示しがつかないたろう?」
「あ、そうか、なるほどね」
ラムリーザは、先を見越していた。高校を終えて大学に通うとなるのなら、それなりの能力を示してもらわなければならない。
「ラムリーザ、あなたの力で入学させてくれないかしら?」
「堂々と裏口入学を要求してきたよ」
ラムリーザは、困った顔を向けるが、リリスは気にもしていないようだ。利用できるものは利用する、そんな感じに取れる。
「名前を書いたら合格にしようよ」
「幼稚園入学にしてしまった」
しかしソニアも負けてはいない。これではボランティアみたいなものだ。
「せめて面接だけにとかしないのかしら?」
リリスは少しだけ譲歩した。
「面接は突破できる自信があるのね」
「もちろん、特技はイオナズンよ」
「なんやそれ」
まだまだ前途多難なようだった。
そして十時少し前になり、予定通りにユコがレフトールを連れて現れた。番長もしっかりやってきてくれたようだ。
「よ、ゲーセンコンビ」
ラムリーザは茶化して二人をそう呼んだ。
「ラムさんもゲーセン行こうぜ」
レフトールはサボることを考えているが、そうはいかない。
「だめだよ、今日は勉強会だからね。前回みたいにレフトール、君には期待しているよ」
「お、おう」
ラムリーザに期待されては、レフトールはそれに応えるしかない。
「ゲーセンって下賤な者が行く場所だから、ゲーセンって言うの?」
そこにソニアが要らんことを言って、ユコと険悪になってしまう。今日もラムリーザは、三人の娘をなだめながら勉強会を進める羽目になりそうだ。
こうして無事に、とは言わないが、予定通りに勉強会が始まった。
そしてこれまた予定通り、レフトールのおかげで順調に進んでいた。今のところは、勉強中に問題は起きていない。
そして十一時になり、休憩時間を取ることにした。
「そろそろ車の免許が取れそうだぞ」
今年に入ってから車の教習所に通っているジャンとリリス、そろそろそれも終わりが近づいてきているようだ。
だからラムリーザは、素直に「おめでとう」と言っておく。
「待っておれよ、車を手に入れたらソニアを追い回してやるからな」
「それ煽り運転だから」
ラムリーザはすかさず突っ込むが、この程度で参るソニアではない。
「追いかけてきたら、後ろの窓からジュースを投げかけて前が見えなくしてやる」
その間は誰が運転をするのか? といった突っ込みではなく、ジャンは「ワイパーで流すから平気だ」と答える。
「じゃあ油撒いて滑らせてやる!」
「慌てずに直進すれば大丈夫」
「タンク転がして跳ね飛ばしてやる!」
「片輪走行で追撃続行」
「テーブル並べて転がしてやる!」
「やめようね」
ラムリーザは、このまま放置していたらジャンとソニアの不毛な戦いが続くので、適当な所で仲裁しておいた。
「リリス、もしもソニアに車で追いかけられたらどうする?」
するとジャンは、ソニアに攻撃することを中断して、リリスに話を振った。
「そうねぇ、私なら墓地に逃げ込むかな」
「何で墓地?」
「神聖な場所だから、ソニアは入ってこられないのよ」
「あたしは悪魔じゃない!」
なんてことはない、リリスを巻き込んで不毛な戦いの続行だった。
ソニアとリリスは同レベル。ジャンはリリスともいつもこんなやりとりをしているのだろうか……
数分間の休憩を終わらせ、再び勉強会を再開。
困ったらレフトールに聞く。すると解き方を教えてくれる。おかげで今回も、効率よく勉強が進んでいる。
ラムリーザとソニアとユコは、前回の勉強会で驚いたので、今回は普通に受け入れている。
しかしジャンとリリスは初めてなので、驚く番となっていた。
「レフトールお前、番長なのになんで勉強できるんだ?」
「テストなど、授業を聞いていたらなんとかなるが?」
思えばレフトールは、朝のショートホームルームには姿を見せないことが多いが、授業中は普通に居るような気がする。
しかしそれだとラムリーザの立つ瀬がない。ラムリーザ自身も授業はちゃんと聞いているつもりだ。しかし結果はユコと平均点数争いをする程度であって、リゲルやロザリーンには到底及ばない。
「じゃあ毎回試験勉強をちゃっかりやっているってやつか」
ジャンはなるほどといった感じに言った。
「試験勉強は前回の勉強会に誘われてからやったようなものだが?」
「ふえぇ……」
しかしレフトールは、それほど勉強は頑張っていないと言う。それを聞いたラムリーザは、思わず小さく悲鳴を上げていた。ソニアではなく、ラムリーザが言ったのだ。毎日ふえぇふえぇふええぇふえぇ聞いていたので、まるで移ってしまったかの如く。
「番長の癖に」
ぼそっと呟いたのは、リリスだ。番長とはソニアが言い出したが、同レベルのリリスも普通に番長と呼んでいる。
「選択肢を広げる為さ」
番長――いや、レフトールにしてはすごく真面目な答えだった。普段は好き放題やらかしているが、きちんと締める部分は締めている。これが正義の番長レフトールの実体だった。
「ラムの騎士に勉強要らん」
ソニアは勝手に決めつけている。授業は聞かないわ、試験勉強はサボりたがるわで、レフトールの真逆を行く生き方をしているので、ちょっと不機嫌になったか?
「いや、流石に無教養は傍に置けないよ」
ラムリーザはレフトールを庇ってみたが、ソニアの教養うんぬんがどのレベルなのかは答え辛い。
「番長は勉強よりもカツアゲが似合ってる」
酷いことを言うあたり、ソニアの教養をもうちょっと鍛える必要があるかもしれない。
「してねーよ、それともしてほしいのか?」
「その方が似合う」
「そうかこら、ふえぇちゃん金出せや」
突然声にドスを効かせて、ソニアに攻撃を仕掛けた。
「やっ、やだっ! お金はラムが持ってる!」
「その場でジャンプしてみな?」
「ふえぇっ!」
レフトールが席から立ちあがって迫ってきたので、ソニアは飛びあがって逃げてしまった。
「勉強進めるよ」
油断すると、すぐに勉強会から脱線する。その都度軌道修正するのがラムリーザの仕事だ。
さらに昼前になると、ソニアが「おなかすいた」とうるさいので、十二時前に一旦切り上げて、お昼の休憩にすることになってしまった。
「この問題が解けたら、お昼ご飯にしようね」
ラムリーザが最後にソニアに問題を出してみると、ものすごく必死に解こうとしているのが可愛らしい。
その様子を見て、ラムリーザは「これは使えるな」と考えた。
そこで、昼食後にラムリーザは少し出かけて、雑貨屋の勇者店で袋入りのお菓子、ビスケットを買ってきた。クッパの事件は完全に終わったらしく、もう並んでいることは無かった。
案の定、ソニアはラムリーザの買ってきたビスケットを欲しがる。しかしラムリーザは、そう簡単には与えない。
「この数学の問題、解けたら一枚あげるぞ」
「やだ、欲しい! ちっぷちゃっぷぱっぱっぽー!」
「なんやそれ」
その謎の呪文が、かつてラムリーザにチップスを与える条件としてソニアが提示した呪文だと言うことは、ラムリーザには思い出せなかった。
しかしこのやり方はうまくはまり、ソニアは必死に証明問題に取り掛かるのであった。
それでもまだ油断はできない。ソニアはかつて、「3+3=7」になることを証明してみせた強者である。答え合わせまで丁寧に終わらせてから、ラムリーザはソニアにビスケットを一枚与えた。ソニアは幸せそうだった。
「そう言えば、ビスケットいう画伯も居たな」
それは高名な宮廷画家として名を知らしめた有名人である。それはあらゆる画家を凌駕かる鬼才を誇る絵師が居たという恐るべき伝説だ。凡人には到底理解し得ない圧倒的な画力を持って書かれた絵は、祭りや式典、伝統行事などいろいろな場所で世の中に公開されていたのだ。そしてその絵師の名前がビスケットだったとか――
「ラムリーザ様は、領主専用の画家は作らないのですか?」
そこにユコが何やら提案を持ち掛けた。
「誰か描ける人はいるのか?」
ラムリーザの問いに、ユコはう~んと首をひねる。ユコは音楽活動は盛んだが、美術に関しては触れていない。
そこでソニアが「あたしがなる」とか言い出すから話がおかしくなる。
ラムリーザが「だったら描いてみろよ」と言うと、ノートに落書きを始めるから困ったものだ。
「それがラムリーザ様ですか? それだとタコじゃありませんか」
そこにユコが要らんことを言うから、ソニアがまた激しく憤る。しかし確かにタコに見えるから、世の中不思議だ。
「タコだったらこうよ!」
「なんですのそれは、それだと風船じゃありませんか」
「風船言うな! 呪いの人形チョッキー!」
「はい、次はこの問題だからね」
また勉強会から話が逸れるので、ラムリーザはビスケットを餌にソニアを勉強会に連れ戻した。
「イシュトのバンド、すごかったよね」
しかし、雑談モードに入っているユコは、止まらなかった。
「試験が終わったら、ラムにイシュトのコピーしてもらう」
ソニアは、二問目の証明問題を解きながらつぶやいた。
「無理だからね」
「イシュトはやった。ゆらいかなんデンキキラキラ合唱団で」
「ラムリーザ様の場合は、ふぉれすとぴあデンキキラキラ合唱団?」
「なんでそうなる?」
ユコに、バンドを掛け持ちさせられそうになるラムリーザであった。
「ビスケット頂戴」
ソニアは問題が解けたらしく、二枚目のビスケットを要求した。
「待てよ、答え合わせしてからな」
3+3を虚数にされたらかなわないので、きちんと答え合わせも済ませておく。
「そう言えば、不思議なポケットという歌があったよな」
「あれってポケットを叩いたらビスケットが割れるから、結果的に増えるって奴だろ」
ラムリーザと反対側のテーブル席では、ジャンとレフトールがまだビスケットについて論議していた。
叩いて割れたらビスケットは二つだったっけ? ラムリーザはうろ覚えの歌詞を思い出そうとしながら、ソニアの解いた問題の答え合わせをしていた。
「ねぇ、そろそろパタヴィアに行きたいのだけど」
今度はリリスがラムリーザに旅行の依頼をした。これはジャンに頼めとは言えない。距離があるので、どうしてもラムリーザの所有する飛空艇が必要なのだ。
「もうクッパの問題は終わったよ」
ラムリーザは、ノートに丸を付けて、ソニアにビスケットを一枚渡しながら答えた。
「クッパのなんてどうでもいいわ。パタちゃんクエストをクリアしたから、続編がやりたいのよ。話では3まで出ているって言うじゃないの」
「そうね、私もクリアしたんでした」
そこにユコも加わった。
そう言えば、パタヴィアで売られていたゲーム機と、そこでしか売られていないゲームを買ってきたことがあった。
「そんなに面白かったか?」
などと聞きながらも、ラムリーザはソニアがプレイしているのを見て面白かったと思っていた。
主人公は、パルパタ老人の子供時代を模した物になっていて、クリボー王を退治する話だった。クッパ王が作ったゲームだったという話だが、ゲームの中でもクリボー老人は悪者にされていた。
しかし、国王自らが製作指揮を取ったゲームということで、それなりにパタヴィアでは有名なゲームで、リリスやユコが満足するぐらい、ゲームとしての出来はよかったのだろう。
クッパの問題解決が目的だったパタヴィアの冒険が、終わってみたらゲームを買いに行く話になっていた。
ラムリーザは、後に使用人に命じてパタヴィアに向かわせ、「パタちゃんクエスト2」とついでに「3」を買ってこさせるのだった。
こうして、三分の一ぐらいは雑談で過ごしたような気がするが、とりあえず明日の試験の科目について、とりあえず大丈夫だろうといったところまで勉強ができたのであった。
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