ネットゲームをやろう 最終話 ~天下無双の大決戦~
5月24日――
その日の放課後、部室に集まってネットゲーム『四神演劇レグルス』での決闘が行われようとしていた。
今日は幸い、四人以外に部室に顔を出している者は居なかった。先輩が来ていたら大変なことになったな、と思いラムリーザは少しだけ安堵した。
しかしこいつらときたらは……。
「ふふふっ、あなたたちもこれまでよ……」「勝つのはあたしよ……」「わたしも負けませんわ……」
血走った目で三人はつぶやいている。危ない、危ないよ……。
この一週間、徹夜しまくりの、身だしなみ度外視だったのだろう。あの綺麗だった髪は、これでもかとばかり乱れ、制服もよれよれだ。というか着替えてないだろう。
ラムリーザはソニアを見ていたから、リリスとユコの状態もある程度予想はついた。一週間風呂に入っていない身体は、異様に汗臭い……。
もったいない、折角の美少女が本気で台無しだ。
しかしそれもこれも、今日で終わりになるだろう。
いや、なって欲しいとラムリーザは願う。そのために自分も無茶をやったのだ、主に金銭面で。
「さて、どういう順番で勝負をつけようかしら?」
「トーナメントでいいだろう。僕はまずソニアと戦うから、そっちでリリスとユコで戦っていればいい」
リリスの発言に、ラムリーザは多少どうでもいいような雰囲気で答える。とりあえず早めにうるさいソニアを黙らせていた方がやりやすいと考えて、その組み合わせにしたのだ。
すぐにリリスとユコが対戦を始めたようなので、ラムリーザもソニアとの対戦を始めた。
「えーと、どっちから攻める? じゃんけんする?」
「あたしが先手!」
「……どうぞ」
対戦システムは、それぞれの行動順に応じて交互に行動していく。行動順序の奇数順は前衛、偶数順は後衛となっている。
ソニアが先手ということで、ゲーム内でソニアの方から対戦を仕掛けてもらって、ついに戦いが始まった。
先手ソニア:行動順、ソニア→深姫→鹿超→旅蒙→天衣→祭文姫
後手ラムリーザ:行動順、姜親牙→宙の文王→ラムリーザ→燃灯老人→璃靖→旭己
1ターン目
ソニア:百花乱舞
ソニア(キャラクター)の前衛に対する二段攻撃。ラムリーザ軍前衛の、姜親牙と璃靖が体力を三分の一ほど削られる。ラムリーザ(キャラクター)は回避した。
姜親牙:転変
姜親牙の特殊攻撃により、ソニア軍全員の頭上にグルグルマークが発生する。眩暈攻撃といって、一時的に行動不能にさせるのだ。そしてそれが全員にかかった。
深姫:眩暈中により行動できず
宙の文王:道臨天下
宙の文王の特殊技によって、ラムリーザ軍全体の命中が「30%」上昇、攻撃力とクリティカルが「20%」ずつ上昇。
鹿超:眩暈中により行動できず
ラムリーザ:氷柱風雪
ラムリーザ(キャラクター)の相手陣営五体への攻撃。ソニア軍五体の体力が、半分ほど減る。
「ちょっと待ってよ!」
そこで、ソニアは自分の軍団が全然行動していないことに気がついたようで、叫び声を上げる。
「なにこれ?! こっち動いてない!」
「知るか……」
ラムリーザは冷淡につぶやいた。勝ちさえすれば、その戦闘内容などどうでもよい。
旅蒙:眩暈中により行動できず
燃灯老人:無相効来
燃灯老人の特殊攻撃で、ソニア軍全体がダメージを食らう。
天衣:眩暈中により行動できず
璃靖:天威
璃靖の特殊攻撃で、ソニア軍全体がダメージを食らう。この時、ソニア軍の深姫、旅蒙、祭文姫の三体が、体力が無くなり画面から消える。残る三体も残りの体力が三分の一程だ。
「くぁwせdrftgyふじこlp! くぁwせdrftgyふじこlp!!」
ソニアが何やらわけのわからない悲鳴を上げて悶えている。この時点で勝利を確信したラムリーザは、ふんと鼻で笑う。
旭己:狐舞
旭己の特殊攻撃で、ソニア(キャラクター)に三回ダメージを与える。この攻撃によって、ソニア(キャラクター)の体力が無くなって、画面から消える。
2ターン目
姜親牙:災厄
姜親牙の雷状の攻撃で、ソニア軍の鹿超の体力が無くなり、画面から消える。残る天衣はかろうじて立っている状況だ。
宙の文王:八門金鎖
宙の文王の魔法攻撃で、ソニア軍の天衣の体力が無くなり、全滅した……。
「…………」
「よし、これでよし」
敗退して放心状態のソニアをそのままにして、あっさりと一番うるさい相手を真っ先に黙らせることに成功したラムリーザは、対戦しているもう一組の状況を伺った。見たところ、対戦はまだ続いているようだ。
「こいつ……回復ばっかりして」
「ヒーラーならではの作戦ですわ」
ユコの選んだ職業はヒーラーだ。回復することで長期戦に持ち込んでいるのだろう。リリスがイラついたような感じでぼやいている。
ラムリーザは、腕を頭の後ろで組んでソファにもたれかかって、リリスたちの対戦が終わるのを待つことにした。
「……一騎打ちよ」
その時、ソニアがぼそりとつぶやいた。
「ん? 何?」
「一騎打ちよ! ラムの名将おかしい!」
ラムリーザの隣で落ち込んでいたソニアが、再び突っかかってきた。
やはりそうきたか……とラムリーザは思った。そう予測はして対策をしておいたのだが……。
「はいはい、いいよ。どっちが先手?」
「あたし!」
というわけで、名将を外した一騎打ちが行われることになった。
1ターン目
ソニア:百花乱舞
ソニア(キャラクター)の二段攻撃。ラムリーザ(キャラクター)は回避した。
ラムリーザ:氷柱風雪
ラムリーザ(キャラクター)の攻撃。ソニア(キャラクター)の体力が、四分の一ほど減る。
2ターン目
ソニア:百花乱舞
ソニア(キャラクター)の二段攻撃。ラムリーザ(キャラクター)は回避した。
ラムリーザ:氷柱風雪
ラムリーザ(キャラクター)の攻撃。ソニア(キャラクター)の体力が、半分ほどに減る。
3ターン目
ソニア:百花乱舞
ソニア(キャラクター)の二段攻撃。ラムリーザ(キャラクター)は回避した。
ラムリーザ:氷柱風雪
ラムリーザ(キャラクター)の攻撃。ソニア(キャラクター)の体力が、残り四分の一ほどに減る。
「なにこれ! ちっとも攻撃が当たらないじゃない!」
再び画面に向かって叫び声を上げるソニア。
ラムリーザは一騎打ちを仕掛けられたときの事を考えて、キャラクターの回避を大幅に上げておいたのだ。そのおかげで、ソニアの攻撃はかすりもしない。
結局、ソニアは一度もラムリーザに攻撃をヒットできないままやられていったのである。
「…………」
半泣き顔で黙り込んでしまうソニア。
普段なら、落ち込んでいるソニアを見ると心配するラムリーザだが、今日この場においては冷めた目つきで眺めているだけだった。
ただし気持ちはわかる。一週間も飲まず食わずでプレイ――ちと大袈裟――してきたにもかかわらず、後発のラムリーザに完封されてしまったのだ。現金の強さをまざまざと見せつける戦いであった。
「いいかげん諦めたらどうかしら? もうジリ貧でしょう?」
先程までイラついたようにぼやいていたリリスは、いつもの落ち着き払った余裕綽々な雰囲気でユコを挑発している。
「ああっ……そんな……」
ユコが俯いてしまった。どうやら勝負はついたようである。
決勝戦は、ラムリーザ対リリスとなった。
「さて、どっちが先手?」
「コイントスで決めましょう」
リリスがコインを取り出しながら言った。ソニアと違って我侭を言わずに正々堂々とやるようだ。
コイントスの結果、ラムリーザが先手となった。
先手ラムリーザ:行動順、姜親牙→宙の文王→ラムリーザ→燃灯老人→璃靖→旭己
後手リリス:行動順、尊作→闘夛久→猛角→リリス→鹿超→中喬
1ターン目
姜親牙:転変
姜親牙の特殊攻撃がリリス軍に炸裂する、眩暈が、闘夛久、中喬の二体にかかる。
尊作:蛟竜の怒り
尊作の特殊技で、リリス軍全体の攻撃力と防御力が20%上昇する。
宙の文王:道臨天下
宙の文王の特殊技によって、ラムリーザ軍全体の命中が「30%」上昇、攻撃力とクリティカルが「20%」ずつ上昇。
闘夛久:眩暈中により行動できず
ラムリーザ:氷柱風雪
ラムリーザ(キャラクター)の相手陣営五体への攻撃。リリス軍五体の体力が、三分の一ほど減る。
猛角:国境侵犯
猛角の特殊攻撃で、ラムリーザ軍全体の体力が、四分の一ほど減る。ただしラムリーザは回避したためノーダメージだ。ついでに、猛角の体力が全回復する。
燃灯老人:無相効来
燃灯老人の特殊攻撃で、リリス軍全体がダメージを食らう。
リリス:翔飛蒼龍
リリス(キャラクター)の横一列攻撃。ラムリーザ軍の姜親牙と宙の文王の体力が残り半分程になる。
璃靖:天威
璃靖の特殊攻撃で、リリス軍全体がダメージを食らう。この時、リリス軍の尊作の体力が無くなり画面から消える。
鹿超:竜牙破
鹿超の特殊攻撃でである横一列攻撃で、ラムリーザ軍の燃灯老人の体力が残り三分の一程になる。ちなみに前衛のラムリーザは回避した。
「ラムリーザに攻撃が当たらないわね……」
リリスがイライラしたようにぼやく。
普段冷静に見えるけど、意外と熱くなることもあるんだな、とラムリーザは感じた。まあ、それほど必死だということだろう。
リリスもソニアと同じく、寝る時間も惜しんでキャラクターの育成をし続けていたのだから。
旭己:狐舞
旭己の特殊攻撃で、鹿超に三回ダメージを与える。この攻撃によって、鹿超の体力が無くなって、画面から消える。
中喬:眩暈中により行動できず
「ちっ、眩暈が……」
1ターンが終わった所で、ソニアの時と違い、眩暈が全体にかからなかったので、多少は戦力が残っている。が、ラムリーザ優勢は変わらないようだ。
ラムリーザ軍からの全体攻撃の連発で、リリス軍は満身創痍だ。
2ターン目
姜親牙:災厄
姜親牙の雷状の攻撃が残る四体を襲い、リリス軍の中喬の体力が無くなり、画面から消える。
宙の文王:八門金鎖
宙の文王の魔法攻撃が残る三体を襲い、リリス軍の闘夛久の体力が無くなり、画面から消える。
ラムリーザ:氷柱風雪
ラムリーザ(キャラクター)の攻撃が残るリリスと猛角を襲う。リリス(キャラクター)と猛角の体力が残り三分の一程度に。
猛角:ボディーブロー
猛角の攻撃が姜親牙にヒット。ラムリーザ軍の姜親牙の体力が残り五分の一程になる。
燃灯老人:降魔
燃灯老人の魔法攻撃がリリス(キャラクター)と猛角に襲い掛かる。二体ともギリギリ生き残ったようだ。
「もう無理だわ……」
リリスは携帯型情報端末キュリオをテーブルの上に投げ出してため息を吐きソファにもたれかかって上を向く。
リリス:翔飛蒼龍
リリス(キャラクター)の横一列攻撃。ラムリーザ軍の姜親牙と宙の文王の体力が無くなり、画面から消える。
璃靖:金の塔
璃靖の単体攻撃を食らい、猛角の体力が無くなり画面から消える。
旭己:蛇影
旭己の単体攻撃を食らい、リリス(キャラクター)の体力が無くなり画面から消え、全滅した……。
「終わったな、一騎打ちする?」
「……ラムリーザのキャラ、回避いくつ?」
「ん、312だけど」
「……一騎打ちはやらない。ソニアが騒いでいた意味がわかったわ」
リリスはソファにもたれて上を向いたまま、力なく答えた。
以上で、長かったようで短かった一週間は終わり、決着はついたのである。