ルートに入っているのでいちゃいちゃする二人
6月2日――
この日の休み時間、ラムリーザとソニアは便所を済ませた後、教室に戻らずにそのまま廊下の窓から、寄り添って中庭を見ていた。
中庭は草木で囲まれていて、所々にベンチが置かれている。ゆっくりと過ごすにはいい場所のようだ。
「あの場所はいいな。今日の昼はあそこで食べるか?」
「それもいいね、パン買って行こうよ」
そう語り合いながら、ラムリーザの手は自然とソニアの肩に伸びる。そして特に何も考えずに、抱き寄せていた。そしてそのまま二人はじっと見つめ合い、そしてこれまた自然に顔をお互いに近づけていって、二人は――。
「――っと待てよ。さすがに人がよく通る廊下でキスはまずいな」
「そ、それもそうね……。それじゃあ、廊下で――」
「ダメだ」
「なんでよ、あたしまだ何も言ってない!」
「じゃあ何かな?」
「そりゃあ夜の――」
ラムリーザはとんでもないことを提案しかけたソニアの頭を小突く。だが、二人は顔を近づけたままだ。
「よし、スリスリしちゃおう」
そう言ってラムリーザは、自分の頬をソニアの頬にすりつける。すべすべな頬の感触が心地よい。
「ちょっちょっと、何それー」
「何それじゃない。『ほっぺちゅりちゅりちてー』は?」
「ほっぺちゅり……じゃなくて!」
思わず釣られて言ってしまいそうになり、ソニアは顔を赤らめて離れようとする。
「にーげーるーなー。以前イベントとか言って、体育倉庫で迫ってきた癖に、何を戸惑っているんだい?」
「あの時は二人きりだったしっ」
「ここも同じさ。ここは僕と君しか居ない、地上の天国さ」
ラムリーザは反対の手でソニアの頭を抱えて自分の方に引き寄せ、「おでことおでこがごっつんこ」と言ってお互いの額を合わせる。傍から見たらキスしているのと大差ないように見えているかもしれないが……。
間近で見るソニアの顔、目をパチパチと高速で瞬いている。ラムリーザは、それもまた可愛いかなと思うのであった。
一方ソニアは、うれしいのと恥ずかしいのとで、よくわからなくなったのでつい口走ってしまう。
「よくわかんないことやってないで、ぎゅーってしてよ、ぎゅーって抱きしめて」
「ん、わかった。ぎゅー」
ラムリーザはソニアを強く抱きしめると、「ふ、ふわあぁぁぁ」とソニアは気持ちよさそうな声を上げるのだった。
「抱きしめられたら、胸が支えられて重いのが楽になって肩が楽ー」
「ん? 胸が重いのか?」
ラムリーザは頭にやっていた手をソニアの胸に持っていって、下から持ち上げてみる。手のひらにに収まりきらない、特大サイズである。うむ、確かに重みは多少ある。
この胸にラムリーザは、長い間気がつかなかったのだ。これをこの春までよく隠していたな、と思っていた。
「もー、恥ずかしいよー」
ソニアはそう言うが、跳ね除けたりせずに恥ずかしそうに顔をそむけるだけだった。
「こうしたらどうなる?」
ラムリーザがソニアの胸の先を刺激してみると、ソニアは「ひゃん」と反応するのであった。
なんというか、キスはしなかったが、風紀的にどうなの? ということをしている二人であった。
ソニアが顔をそむけると、その視線の先に自分たちをじっと見つめている人が居るのに気がついた。ちょっと前に服装について厳しく追求してきた風紀監査委員の娘だった。そしてラムリーザは彼女の視線に気がついていない。
やばい、また怒られるかもとソニアは思ったが、その時はソニアを冷たい視線で睨みつけるだけで、しばらくしたらその場を立ち去っていったのだった。
それを見て、ソニアはほっと胸をなでおろした。
昼休み、二人は当初の目的通り、中庭のベンチに来ていた。
始めはたわいない会話をしていたが、そのうちラムリーザはソニアの足へと手を伸ばす。周囲に誰も居ないのを確認して、太ももに手を当てた。
最初は靴下、太ももの半ばまで丈のあるサイハイソックスで覆われた部分を揉んでみる。そしてすぐに、もっと付け根に近いむき出しの部分を揉む。先日揉み比べて何とも言えない感触を、再び楽しんでいるのだ。
柔らかい部分を揉むと、思わず「ふおあー……」と変な声を出してしまう。脳内麻薬が分泌されたのか、脱力感に近い心地よさを感じてしまっていた。
「もー、それ面白いの?」
「ソニアも自分でやってみろよ」
ラムリーザにそう言われて、ソニアも自分で同じことをやってみた。
「全然何ともないよ」
「そうかなぁ、こんなに気持ちいい感触なのに、それを楽しめないなんてソニアはかわいそうだなぁ」
そう言いながら、ラムリーザは再び揉み分けるのであった。
傍から見たら、おかしなことをやっているのはわかる。しかしこれも、二人だけのいちゃいちゃ時間なのであった。
このようにいちゃいちゃをしていた二人だが、昼も過ぎたというのもあって、お腹の空いたのに気がついた。
そこで、どっちがパンを買いに行くのかという話になり、ジャンケンで決めることにしたのだ。
「じゃんけんほいほいどっちだすの~、こっち出すの~、ってもうなんでこうなるのよ!」
「知らんがな……」
結果はラムリーザの勝ち。ソニアは何故か両手でグーを出し、チョキとパーを出したラムリーザに当然のごとく負けたのであった。
ソニアは仕方なく一人で購買部に向かって行った。
ソニアが購買部に近づいたとき、不意に厳しい声で呼び止められる。
「ソニア・ルミナス、ちょっといいかしら?」
呼ばれた方を振り向いたソニアは、とたんに嫌な顔をする。
「風紀監査委員……」
ソニアの目の前に現れた風紀監査委員の娘――先日ソニアに注意してかかってきた娘――は近づいてきて厳しい口調で追求した。
「あなた、休み時間に人が見ている前で何をやっているのですか? すこしは周りの事気にするべきです。そうは思いませんか?」
ソニアはそう言われ、何か腑に落ちない点を感じて、少しイラッとした口調で反論する。
「キスしなかったんだからいいじゃないのよ、このちっぱい!」
「ちっぱい? 大きければいいってものじゃないわ。むしろあなたの場合、過ぎたるは及ばざるが如し……、かしらね。日常生活で不便になっている点があったりしない?」
「…………」
「相変わらず下品に胸元開けて。あなたには羞恥心というものがないのですか?」
「そ、それはボタンが閉まらないから仕方ないって前言ったじゃないの!」
「それに、先ほど中庭ではしたないことをやっていましたね」
「しっ、知らないわよっ!」
つい先ほどいちゃついていたことにも言及されて、ソニアは思わず声が上ずってしまった。
「とにかく! 人が見ている場所でああいう行動は控えるべきです!」
そう言い切って、その娘は立ち去っていった。
「……なによ、ちっぱいの僻み」
そうつぶやきながら、ソニアは娘が去って行った方向を睨み続けているのだった。
「どうした? 遅かったじゃないか」
パンは買ってきたけど、先ほどのことがあって少し時間がかかってしまっていたのだ。
ソニアは、ラムリーザの問いに不貞腐れた風に答えた。
「また風紀監査委員に注意された。休み時間のことで……」
「あー、やっぱりマズかったか。ちょっと調子に乗り過ぎたな、すまん」
ラムリーザは、ソニアの肩にてをやって頭を下げる。だがその言葉を聞いて、ソニアは先程腑に落ちないと感じた原因に気がついた。
風紀監査委員の娘は、休み時間も見ていたのに、その時は何も言ってこなかった。だが、先程二人きりで出会ったときには、あの時の事を注意したのだ。だからソニアは、自分が一人になったのを見計らって注意したように感じたのだ。そう言えば先日、服装について注意された時も、ラムリーザが便所に入って一人になった時に現れたのは偶然なのか?
「どうしてあたしだけが注意されるの?!」