グループの為に動いていたら、ハーレムができあがっていた件
6月27日――
木々が所々に生えている草原、ここは学校の裏山のふもとだ。
裏山はあまり人の来ない秘密のスポット。そのため、校内で男女が――をするために訪れることが多かった。
ラムリーザは一人、この場所で横になってくつろいでいた。木陰に入ると夏の日差しは遮られ、風も気持ちよくて涼しい。
ラムリーザは、先日のライブの余韻に浸りながら、これまでのことを思い返していた。そしていろいろ問題があったが、これでめでたしめでたしだな、と考えていた。
去年まではジャンがリーダーだったので、自分がリーダーとしてグループをまとめるのは初めてだった。自分はリーダーとして相応しかったかな、などとも考えていた。
しばらくの間一人で過ごしていたラムリーザは、誰かが近づいてくるのを感じた。
「やっぱりここだ、みつけたっ」
この高く響く声はソニアだ。
勝手な思い込みで暴走したり自信を無くしたりするソニア。その度にケアしていくのが正直めんどくさくなりかけていたが、彼女はもうそんなことにはならない、と約束してくれた。
ソニアは、横になっているラムリーザの右側に引っ付いたので、ラムリーザはしっかりと抱き寄せる。傍から見たら添い寝しているように見えてしまうかもしれないが、毎晩のことなので二人はそこまで気は回らなかった。
「ソニアを連れて来て、ほんとによかったと思うよ。ソニアが居なかったら、バンドやってなかっただろうし、『ラムリーズ』も無かったね。あの時、僕を受け入れてくれてありがとう」
「ラムとは別れないよ。昔に言ったの覚えているかなー? バンドグループという家族では、ドラムは父、ベースは母と例えることができるんだよ」
「ああ、そんな理屈を捏ねて、僕をギターからドラムに無理やり転向させたな」
「だって四人グループで四人ともギターやっててもしょうがないじゃん。それに、『ラム兄』もそれでいいって言ってたし。そもそもラムは指先が不器用――」
「はいはい、つまり、『ラムリーズ』の父は僕で、母はソニア。リリスたちは子供たちって言いたいのだろう?」
「そういうこと!」
ラムリーザは、ソニアを抱き寄せる腕に、さらに力をこめる。そして、ソニアはラムリーザの胸に頭を埋めてくるのだ。そのまましばらく、二人の時を過ごしていた。
「探した、こんなところに居たのね」
次に現れたのは、リリスとユコだ。
この二人は、紛うことなき美少女だ。特にリリスは、帝都でも引っ張りだこになるほどである。
ソニアの勝手な思い込みは、ほぼ全てと言って良いぐらいこの二人、特にリリスに対する不安、危機感から来るものであった。ユコの作り上げたリリスの外面は、それほど完璧なものなのだ。
「えーと、昼間から同衾ですの?」
「あたしたち夫婦なんだから別に悪くないでしょ?」
「こら、誰が夫婦だ。まだ早い」
「さっきラムは父、あたしは母、リリスたちは子供たちって言ったじゃん!」
「む……」
リリスはそんな二人を見て、くすっと笑ってラムリーザの左側に膝をついて座った。そしてユコも、「しょうがないですわね」と言って並んで座る。
「ラムリーザ、いろいろありがとう。本当に夢が見えてきたわ」
リリスは嬉しそうに微笑んで、ラムリーザに言った。
「いんえー、リーダーとして当然のことをしたまでだよ」
ラムリーザはくだけた感じで謙遜してみせる。そんなラムリーザを見て、リリスは「言いたいことがある」と言った。ラムリーザは、リリスの赤い瞳をじっと見て、「どうぞ、伺いましょう」と答えた。
リリスも、ラムリーザの目をじっと見ていたが、すっとソニアの方に視線をやり、少しの間ソニアの様子を見ていたが、すぐにまたラムリーザの方に視線を戻した。
そして、迷いのない声で言った。
「ラムリーザ、あなたのことが好き――」
この場面で、突然の告白。
ラムリーザは、まさかこの場面で来るとは思わなかった。
「ちょっ――」
ソニアが何か言いかける口元をラムリーザはとっさに押さえる。言いたいことはわかる、確実に非難の言葉だ。リリスを見るソニアの視線は険しい。しかしリリスもリリスだ、何もこの場で言わなくても……。
ラムリーザは、場が荒れるのを防ぐために、自分の言葉ではっきりと言うことにした。
「本当に申し訳ない、僕はソニアが一番なんだ」
その返事は断るというより、ソニアを安心させるような言い方になってしまったみたいだ。だが、ラムリーザは、ソニアが居る限り、他の娘を一番にするつもりはなかった。
そしてその言葉を聞いたソニアの視線から、険しさが消えていった。
リリスも、そうなることは百も承知で思いを語ったようだ。
「わかってる、今はソニアの次でいい。私が本当に一番愛せる人が現れるまで、あなたを頼らせて」
「それは、リーダーとして?」
「……とりあえず、今はそれでいいわ」
リリスはそう言って、ラムリーザの膝の辺りに手を伸ばして股を広げ、その間に背を向けて座り込んだ。
「えっと……何を?」
ラムリーザの問いには答えずに、リリスはそのまま後ろに倒れこんで、ラムリーザの腹の上に身体を預けた。そして、気持ちよさそうに大きく伸びをする。
ユコは、そんなリリスの行動を見てくすりと笑い、先程までリリスが居たラムリーザのすぐ左隣に寄ってきた。そしてラムリーザの左手を握る。
ラムリーザは、三方を囲まれて動けなくなってしまった。
「しかしね、そんなことソニアの前で言わなくても……」
「いいの、私は隠し事嫌いだから言うの。ラムリーザのこと好きだって知った上で、ソニアと友達で居たいの」
「あのね!」
ソニアは、目の前に降りかかってきたリリスの黒く長い髪を払いのけながら、リリスに抗議をするような口調で話しかける。
ラムリーザの場が荒れるのを防いだ言葉は、その後のリリスの行動によって結局ソニアの非難を生んだだけになってしまったようだ。
だがリリスは、ソニアが何かを言い出す前に、「ソニア、あなたはずるいよ」と制する。
「ラムにひっつくな――って、なんでー?」
「ラムリーザみたいな人は、正々堂々と戦って恋を勝ち取らなくちゃ。なのにあなたは最初から手に入れた状態で私たちの前に現れた」
「だってそれは……じゃない! あたしは十五年もラムを思い続けてきたんだから、ぽっと出のリリスなんかに寝取られてたまるか!」
ラムリーザは、さすがに十五年は盛りすぎだろうという言葉を押しとどめる。それでは、生まれた時から思っていたことになるが、さすがにそれは無いだろう。
だがその言葉を聞いて、ソニアがリリスにきちんと対抗しているということを感じて、少し安心する。
「だから、ユコにだってあげないからね!」
「いいんですの。私はリリスとソニアを争わせて、二人が疲弊したところでラムリーザ様を掠め取ることにしてますので」
「より性質が悪いぞ……」
まるで、ソニア同盟とリリス帝国を共倒れさせようとしているユコ自治領だ。
ラムリーザはこの場から抜け出そうとしたが、右腕はソニアを抱きかかえていたので、このままだと身体を左に動かさないと引き抜くことができない。すぐ左にはユコが座っていて動けないし、身体の上にはリリスが寝転がっていて起き上がることもできない。
そこに、リゲルとロザリーンの二人がやってきた。
ロザリーンはこの状況に、「何この状況……」と言葉を失う。
そしてリゲルは静かに呟いた。
「ラムズ・ハーレムの完成だな」
学校の裏山のふもとにある草原に、暖かい風が流れた。日差しも鋭くなり、本格的に夏がやってきたと感じられる、午後のひと時であった。
こうして、ラムリーザにとって新しく、そしてかけがえのない仲間との出会いとなったのだ。
ラムリーザたちの物語は、ここから始まる――
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