最低ラインはRカップ、なんだみんなちっぱいじゃないか

 
 7月20日――
 

 この日の朝、ラムリーザは自動車教習合宿の自室で、ソニアと共に目覚めることになった。

 普段から同棲生活しているので、今更どうこういうことでもないのだが、合宿の寮でもこのようにしているのがばれてしまったら、何を言われるかわかったものじゃない。

 もっとも、寮の規則に「他の部屋に行ってはならない」だの、「一人で眠らなければならない」などというものは無かったので、いろいろと言い訳はできるだろう。

 それでも、朝から同じ部屋から男女が姿を現すのを見られるのは、あまりにも決まりが悪いので、まずラムリーザが部屋から出て、廊下に誰も居ないのを確認してからソニアを部屋から出す、という方法を取ったのである。

 そして、朝食を取るために食堂に行ったのだが、先に来ていたリリスに「示し合わせたように、一緒に現れるのね」と言われてしまった。

 ソニアは、それに対して「愛し合っている二人は、いつ何時も一緒に居るものなのよ」と勝ち誇ったように笑みを浮かべて言い返す。

「ふーん、それで昨夜も一緒に寝たのね?」

「そんなの当ぜ――」

「おほん!」

 ラムリーザは盛大な咳払いで、リリスの誘導尋問に引っかかりそうになったソニアを制する。

 自分からばらしてどうするのだ……。もっとも、咳払いする時点で怪しさ全開でもあるが……。

「なるほどね」

 だからリリスは、全てを察したような感じで頷いた。

 そして、特に何も考えず、なんとなくソニアの全身をしげしげと観察する。その目は足元で止まることとなった。

「また靴下をだらしなくグシュグシュに履いてる……って、それって学校の制服の靴下じゃないの? なんでそんなチグハグなコーデなのよ……」

「だってラムが……」

「ああ、そのことが昨日バスの中で言ったことに繋がるんだ。こいつ、学校の運動靴と制服の靴下しか持ってないんだよ。だから、こいつにカジュアルな足元コーデを選んでやってくれって話」

「そういうことね。その時はあなたも付き合うのよ」

 リリスはふっと微笑を浮かべてラムリーザに誘いをかけた。

「いや、僕はちゃんとしたのがあるから……」

「お代と荷物持ち」

「……はいはい」

 そんなたわいもない話をしながら、朝の時間は過ぎていった。

 

 

 この日の教習も、授業と技能訓練などいろいろあり、すべて終わった後でラムリーザたち六人は、談話室でくつろいでいた。

 談話室には、三人掛けのソファーがローテーブルを挟んで置いてあったので、みんなでそこに陣取って談話していた。リゲル、ラムリーザ、ソニアと、ロザリーン、ユコ、リリスの並びで座っている。

 車の運転についての感想から始まり、今話題のゲームについての話と続く。まるで雑談部をそのまま持ち込んだような雰囲気だ。

 途中、ラムリーザとソニアがトイレ休憩と言って抜け出した。

 ソニアは、「これは連れションだからね、あたしが出てくるまで先に戻っちゃダメだからね」とか言い出す。何がやりたいのか分からないが、ラムリーザを待たせることとなる。

 トイレから談話室に戻ると、リゲルの姿が消えていた。

 ロザリーンに聞いてみると、個室に戻っていったということだそうだ。

「それで、ソニアは能天気爆乳娘かな? くすっ」

「なっ、なによそれ」

 ソニアは、突然訳の分からない呼び方をされて戸惑ったようだ。その一方で、ラムリーザはあながち間違いではないなと、一人納得をしていた。

「えーとね、ユコが神秘的な女神で、私が魅惑的な黒髪の美女」

「そしてロザリーンが、知的なインテリジェンスガールですわ」

「ふーん、略して知女?」

「その略し方は微妙だから止めてください」

「で、それが何なの?」

 いまいち話の流れが理解できないソニアは、不満そうな顔で三人を見ている。いきなり爆乳娘とか言われたので、あまりいい気はしていないようだ。

「えーとね、みんなの特徴やイメージから『二つ名』を考えていたの。それでソニアは、能天気爆乳娘ってこと、くすっ」

 それでようやく話を理解したソニアは、とたんに怒りの表情をあらわにして叫びだす。

「何よ! 何であたしだけそんな変な二つ名なのよ! あたしがそれだったらあんたたちはみんな『ちっぱい』でいいじゃないのよ!」

「はいはい、Jカップ様のお通りだ、邪魔する奴は突き飛ばせ」

「くっ……、ラ、ラムもそう思うでしょ?」

 ラムリーザは、そこで振るなよと思った。ちっぱいがどうのこうのとか、正直どうでもいい。

 というより、先日ジャンも指摘していたけど、リリスは全然ちっぱいじゃない。ソニアがでかすぎるだけ。ユコとロザリーンは……ふむ……。いや、ちっぱいとか言うのって失礼じゃない?

 そこでラムリーザは、めんどくさくなって適当に答えることにした。

「僕から言わせてもらうと、ソニアも含めてみんなちっぱいだ」

 リリスは、それを聞いて「ぷっ」と吹き出してしまう。ユコも、ごそごそと自分の鞄から何かを取り出そうとしている。そしてロザリーンは苦笑いしているだけだ。

 一方ソニアは、何とも言えないような情けない顔をして、弱々しくラムリーザに問いかけた。

「じゃあ……ラムはどのくらい胸があったらいいのよぉ……」

「Jカップで足りないって言うのだから、それこそLカップとかOカップとか、そのくらい必要なのじゃないの?」

 リリスは、ソニアの顔をニヤニヤした目で見ながら話を盛ってからかった

「めんどくさいなー。おっぱいがJとかFとかKとかどうでもいいじゃないか、カップなんか知らんよ……それだったらもう、ラムリーザのRにちなんでRカップでいいよ」

 ラムリーザはカップ数など詳しくないし、胸のサイズの話をするのもあまり乗り気じゃないのでさらに適当に答えたが、リリスとユコの二人はそれを聞いて「Rカップ!」と吹き出した。

 そしてリリスは、「ちょっと待って、計算するから」と言いながら、目線を上にやって頭の中で計算して、それから笑いを堪えながら言った。

 どうやらラムリーザの思惑は外れてしまい、火に油を注ぐような結果になってしまったらしい。

「Rカップ、R65だとして、大体118cmってところかしらね。ソニアは確か98cmだったから、ラムリーザの基準に20cmも足りてないわ。うん、確かにあなたもちっぱいだね」

「ソニアも豊乳丸飲みます?」

 ユコが鞄から取り出して差し出したのは、例のバストアップサプリだった。

「ふっ……ふええぇぇん……」

 とうとうソニアは泣き出してしまった。

 もちろん冗談の話とは言え、ソニアが誇っていたバストサイズ最強と言ったアイデンティティーを崩壊してしまったのだ。リリスにからかわれたり、何よりもラムリーザに足りないと言われてしまったことで、彼女のプライドはズタズタだ。

「あ、泣いた」

「やれやれだ……」

 ラムリーザは、泣き出したソニアを抱き寄せて、頭を胸にうずめる。ソニアは、ラムリーザの胸の中で、ぐすっぐすっとしゃくりあげている。

 そして頭を撫でながら、「お前はおっぱいだけじゃないだろ、足とかも奇麗なんだし」と慰めてやる。これが慰めになるのかならないのかは、この際は置いておくとして。

「足ねぇ……」

 リリスは、ソニアの足をじっと見つめた。そしておもむろに手を伸ばし、すねの辺りまででグシュグシュになっている靴下を、引っ張って持ち上げようとした。

「やっ、やめてよ!」

 ソニアは足を引いて、リリスの手から逃れる。そして、ぎゅっとラムリーザにしがみついた。

「ソニア……」

 その時、ユコが優しい口調で語りかけた。

「あなたの二つ名、思いつきましたわ」

「何よ! また変なのだったら、もうあんたたち嫌い!」

 ユコは、にこっと笑って言葉を続けた。

 

「グリーン・フェアリー」緑の妖精――

 

 それは、以前ラムリーザがソニアに抱いたイメージと同じ名称だった。

「どうです? お気に召しましたか?」

「グリーン・フェアリー……?」

 ソニアは、もう一度自分で復唱してみる。そして、「グリーン・フェアリー、かわいい!」と声を張り上げて、突然元気なった。さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。

「ちなみに、僕のイメージは?」

 ラムリーザは、ついでにって感じでなにとなく聞いてみた。

「ラムリーザ様? えーと、自治領主様?」

「なっ――ま、いや、いい……、聞かなかったことにする」

 どうやらユコの中で、ラムリーザは実像と異なった独自のイメージが作り上げられてしまっているようだ。確か進路相談の話でも、そんな物が出ていたような気がするが、どっちみち虚像なので割とどうでもいい。

「今度、皆さんをイメージした音楽を作ってみるのもおもしろいかもしれませんわね」

「うんっ、それおもしろそう!」

 ソニアはユコの提案に喜ぶが、妙なイメージを持たれてしまっているラムリーザは、何ともいえない気分になってしまった。自治領主様をイメージした曲か、想像付かないね。ひょっとしたら、禿げ頭にされてしまうかもしれない。

 

 しばらくして、そろそろ時間も遅くなってきたので、みんな雑談部を切り上げて自室に戻ることにした。

 ユコは早速みんなのイメージサウンドを作り上げたが、肝心の歌詞は全然思い浮かばない――というよりは、すぐに喧嘩になってしまい全然纏まらない。

 曰く、おっぱいがどうのこうのなど、ラムリーザは何度場が荒れるのを押さえただろうか。

 結局、作詞に関しては後日いろいろと考えてみることにして、今日は解散となったのだ。

 ラムリーザが、自室で寝る時間までのんびりして、そしてそろそろ寝ようかなと思ってベッドに横になり、スタンドの電気を消そうとしたとき――。

 予想通り今夜もドアが開いて、ソニアが姿を現したのであった。

 昨日と違って戸惑いは見せずに堂々と。しかも、荷物を持ち込んできたのである。

 ラムリーザの部屋に住み着く気満々でありますな。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き