ついに達成! メートルおっぱい!
8月3日――
この日の夜、風呂上りにラムリーザは一人、バルコニーで木造デッキチェアに腰掛けて、夜風に当たりつつ星空を眺めていた。蒸し暑い夜だが、ときたま流れる風が心地よい。
ラムリーザは、より風を感じようとしてバスローブを緩めて、そのまま前をはだけさせたままぐでーんとしていた。
今この場所にソニアは居ない。ラムリーザと入れ替わりに風呂に入っているのだ。
お互いにいちゃいちゃするのには抵抗が無くなっていたが、一緒に風呂に入るということは、まだ考えていないようである。
しばらく経った後で、ソニアが風呂から上がってきた。
そしてソニアは、ラムリーザがバルコニーに出ていることに気が付いて、一緒に夜風で涼もうとして外に出てきた。
「なんだよ、猫背になって。どこか具合でも悪いのか?」
ラムリーザは、ソニアを見てそう呟いた。ソニアは、部屋に戻ってきてからバルコニーに出てくるまで、ずっと胸を抱えて猫背になっているのだ。
「だって……、胸が重いし揺れて痛いもん……」
ソニアは、恥ずかしそうにして言った。
先日の海水浴の時と同様、風呂の湯に浮いた胸に楽しすぎて、上がったときに余計に胸の重さを実感しているとでもいうのだろうか。
「ブラとか付けたらマシになるのと違うのか? って、お前!」
ラムリーザが声を張り上げるのも無理はない。
ソニアは、バスローブの下には何もつけていない。ノーブラノーパン状態である。それでいて、風を通すためか、バスローブの前をぱたぱたと扇ぐように開閉させているのだ。
そのため、ラムリーザからはいろいろと丸見えになっていた。
「ソニアさ、ここに僕しかいないからってちょっと無防備になりすぎてない?」
「ラムもでしょ? バスローブの下、すっぽんぽんじゃない。なんだか可愛いのが顔出してるよ?」
「おおっと!」
「いしのなかにいる!」
「いや、意味わからんて……」
ラムリーザはそう言い残して、下着を付けるために一旦部屋の中に戻った。人の振り見て我が振り直せ、だ。
再びバルコニーに戻ってきた時、ラムリーザはソニアの姿を見てため息を吐く。
「お前なぁ、何デッキチェアにふんぞりかえっているんだよ」
「別にラムにだったら見られても平気だよー」
「いや、見られてもじゃなくて、リリスとかが遊びに来たらどうするんだよ」
「十分で着替えて、五分で証拠隠滅するよ」
「…………」
このままではらちが開かないので、ラムリーザは再び部屋に戻り、ソニアの下着を手に取って来るのだった。
ソニアは、ラムリーザが自分の下着を手にしているのを見て、いたずらっぽく笑って言った。
「何でラムがブラ持ってるの? 付けるの? あたしのブラ大きいよ?」
「だからなんだ……って、何で僕が付けるって話になるんだ」
「それじゃあ下着泥棒だ! みなさーん、ここに下着泥棒が居ますよーっ!」
「あほか!」
そう言ってラムリーザは、ソニアの顔に持ってきた下着を投げつけて、デッキチェアに座りなおし「さっさと身に着けろ」と続けた。
「身体が乾いてから付けようと思ったのになぁ」
ソニアは口を尖らせて呟いたが、ラムリーザが不機嫌になっているように見えたので、仕方なく立ち上がってバスローブで濡れている身体から残っている水を拭きとった。そのまま投げつけられた下着を身に付けていく。まずはパンツを付け、次にブラを付けようとした時に、少し顔をしかめた。
「ん? どうした? 気味が悪い物でも見たような顔をして」
ソニアは、何かを言いたそうにするが、口を開いては閉じるを繰り返しているだけだ。
そしてしばらく何かに葛藤したような素振りを見せた後で、顔を赤らめて恥ずかしそうに呟いた。
「ブラがきつい……、やっぱり最近ブラがきついよ……」
「やれやれ、また成長したのか?」
「ラムが悪いんだ! 最近胸揉みまくるから!」
「責任転嫁はよくないよ。ソニアはお肉をよく食べるし、太ったんじゃないのか?」
「そんなことないもん!」
ソニアは、必死な形相で反論してくる。でもきつくなったということは、太ったってことじゃないのかねぇ……。
「まあいいや、ブラぐらい新しいの買ってきたらいいじゃないか。さすがに下着を買ってやるってのはあれだから、僕は関与しないけど」
「新しいの買おうかなと思ったけど、合うサイズの売ってなかったのよ……」
「しょうがないな……」
そういうわけでラムリーザは、下宿している屋敷の使用人を呼んで、仕立てができる者が居ないか確かめることにした。それで幸い仕立てができる者が居たので、ソニアの新しいブラを仕立ててもらうことにしたのだ。
仕立て屋の使用人が部屋に入ってきて第一声が、「それではどちらさまのブラを仕立てましょうか?」というものだったことに、ラムリーザは絶句した。
ラムリーザは少しの間返答に困り、しばらくした後にようやく「ちょっと待て、それはおかしいだろ?」と言うのが精一杯だった。
世の中には男性用ブラジャーというものもあるそうだが、ラムリーザは自分はつけるつもりは全く無かった。だから勧められても困るだけだ。
「冗談でございます。それではソニアさんこちらへ、サイズを測らせていただきます」
使用人は、巻尺を取り出しながらソニアを手招きする。そしてソニアは、胸を抱えたまま嫌そうな顔をして近づいていった。
「えっと、とりあえず外に出ていようか?」
ラムリーザは一応尋ねてみる。先程胸を見られても平気だと聞いたばかりなので、今更聞くことでも無いと思ったが念の為である。それどころか、下着も付けずに目の前にやってきて見せ付けていたっけな。
ソニアは、「何か怖いから一緒に居て」と不安そうな顔で懇願する。何が怖いのやら、さっぱりわからない。
そしてソニアは、ラムリーザに向かって手を伸ばしてくるのだ。
たかが身体計測に何をおびえているのやら……。ラムリーザはそう思いながらも、ソニアに近寄って手を握ってやるのだった。
使用人の「それでは測ります」という言葉と同時に、ソニアはぎゅっと目をつぶり、ラムリーザの手を強く握り返した。
「えーと、トップは100cmで、アンダーは66cmですね」
ソニアは「100……」と呟いて顔を赤らめてしまった。
ラムリーザがさらに「100か、大台に乗ったね」と言うと、ソニアはますます顔を赤くしてしまうのであった。
「サイズは分かりました。他に要望は?」
使用人の問いに、ソニアは「ハーフカップ! ハーフカップでお願い! それ以外ダメ!」とすごい剣幕で詰め寄って言い放つ。
「よくわからんけど、すごいこだわりだな。普通のではダメなのか?」
「ハーフじゃないと、制服着たときにはみ出ちゃう……」
「なるほどね……、難儀なおっぱいだの」
そういうわけで、ソニアは新しいブラを仕立ててもらうことになったのであった。
「あっ、ちょっと待って!」
ソニアは、部屋を出て行こうとした使用人を慌てて呼び止める。
「――念の為、ウエスト測って頂戴」
使用人は、ソニアの腰に巻尺を回して、「えーと、57cmですね。良いプロポーションです」と言った。
「やった! やっぱり太ってないよ、ラム!」
ソニアはうれしそうにラムリーザの方を振り返って言った。
「おっぱいだけ太ったのか、器用な太り方するね」
「胸は太ったんじゃないの! 膨らんだの! ラムのせいで!」
「それはそれで気の毒なこった……」
ラムリーザは、何故自分のせいにされるのか分からなかったのが、とりあえずどうでもいいと考え、あえて反論はしなかった。膨らんだなどという表現には、いろいろと突っ込みたかったが……。
使用人は、「二日ほどで仕上がります」と言って、部屋から出て行った。
ラムリーザとソニアは、再びバルコニーのデッキチェアで夜風にあたることにした。ソニアは、サイズの合わなくなったブラを、仕方なく無理に付けたようだ。
ラムリーザが目を閉じて、ときおり吹き付ける風で涼んでいると、ソニアが「ちょっといい?」と話しかけた。
「何だい100」
「くっ……」
ラムリーザの何気ない受け答えに、ソニアの表情が歪む。
ソニアは俯きかけた顔を無理に上げ、ラムリーザに懇願した。
「……こ、このことリリスには内緒だからね」
「このこと?」
「100!」
ソニアは自分の大きな胸を抱えて叫んだ。
「ああ、わかった。よくわからんけど、わかった」
ラムリーザは曖昧に答える。別に自分の彼女の胸が100あるぞ、と周囲に無理に吹聴する必要もなかろう。約束するまでもなく、言う機会もないし自慢にも……なるのかな?
そういったラムリーザの考えは置いといて、ソニアとしては、このことがリリスにばれたら「一メートル様」と呼ばれるのが見え見えだったのだ。
メートル? それはものさし、または測ることを意味する言葉を竜語で表現したもので、それがメートルという言葉になっている。
竜語? それは宗教学で学ぶ言葉である。竜神テフラウィリスについての話はいずれ――
とまぁ、何としてもそれは避けたい、ソニアの表情からはそんな雰囲気が見て取れるのであった。
すぐにバレるような気もするが、とりあえずラムリーザにとっては割とどうでもいい話なので、この場では特にこれ以上語られることは無かった。
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