爆乳過ぎて棒もまともにくぐれなかったりする困った娘
8月22日――
クリスタルレイクでのキャンプ二日目は、それぞれ男子の釣り組と、女子の棒くぐりゲーム組に別れてスタートした。
朝から自由気ままに遊んでいたのだが、残念ながら昼前辺りで騒動が起きてしまった。楽しそうにはしゃいでいたソニアが泣きながら、釣りをしている二人が居る桟橋の方へ駆け寄ってきたのだった。
つまり、七月に海へ遊びに行った時と、全く同じパターンが発生したということだ。
ラムリーザは釣りを切り上げると、泣いているソニアをなだめながらリリスたちの方へ向かっていった。
まったく、何故ソニアは毎回こうなるのだ。リリスのソニアからかいも、程ほどにしてもらいたいものだ、などと思いながら、ラムリーザはソニアの頭を撫でてやるのだった。
「えーと、何が起きた? 喧嘩しないようにって言ったよね?」
事件の現場に着いてから、ラムリーザはじっとリリスを見つめながら言った。
「喧嘩もいじわるもしてないわ、ソニアの身体が硬いのが悪いのよ。勝負に負けたから泣いているだけ。ラムリーザにすがってどうにかしようと考えている方が、見苦しいわ」
リリスは悪びれた様子も無く落ち着いて淡々と答えた。別に自分は悪いことはしていない、そういった態度で、いつもの余裕綽々な態度を表していた。
「勝負って、棒くぐりだよね?」
「ええ、正面から身体を反らせてくぐる、異国のお祭りよ」
リリスは先程まで遊んでいた棒を指し示して、軽く笑みを浮かべた。
棒は粘土で柱に貼り付けられている。身体が当たったら、粘土が剥がれて棒が落ちて失敗といったところだろう。
「んん? えらく棒が低く取り付けられているみたいだが……」
棒の高さは、ラムリーザの太もも半ばぐらいだ。これでは相当身体を低く折りたたんだ姿勢を取らないと、くぐることはできないだろう。それにリリスの話だと、正面からという話だ。身体を反らさないとくぐれないが、反らし過ぎると倒れてしまうといったところだろう。
「別に、大したことないわ」
リリスはそう言って、棒くぐりを開始した。膝を落として腰を反らして、かなり無理な姿勢を取っている。よく後ろに倒れないものだ。
太ももが通過して、腰が通過して――。
「あ、おっぱいが……」
ラムリーザは小さく呟いた。リリスの大きな、といっても現実的な大きさだが、その膨らんだ胸が棒に当たりそうだ。
だがリリスは、そのことは承知の上といった感じに平然としていた。棒の下を胸が通過するその瞬間だけ、腰により力を加えて身体をより反らして、かすったのではないか? というぐらいギリギリの高さで盛り上がった胸をくぐらせたのだった。
「これはすごい、リリスは柔軟性とバランスがすごいね」
「ふふ、別に大したことはしていないわ。高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処しただけよ」
確かにリリスの言ったとおり、身体の高度な柔軟性を維持しつつ、胸を通過させるために臨機応変に対処できている。これは決して行き当たりばったりな作戦ではない。
「ソニア、残念だけどこれは勝ち目無いって。リリスは身体能力すごいよ、あそこまで身体が柔らかいなんて僕も驚きだ」
「そんなことないもん!」
ソニアはそう叫んで、先程リリスが通過したのと同じ高さに挑んでいった。
「お?」
ラムリーザは、意外に感じて思わず驚きの声をあげた。
ソニアも、先程のリリスと同じように膝を落として腰を反らせた体勢を維持している。恐らくソニアは、リリスと身体能力はほぼ互角なのではないか? とラムリーザは思った。
太ももが通過して、腰が通過して、リリスと全く同じようにくぐっている。
「なんだ、ソニアも高度な柔軟性だっけ? すごいじゃな――、あ……」
そこでラムリーザは気がついた。ソニアとリリスとで、根本的に違う点があるということを。
胸の大きさが全然違う。高さは少なくとも10cmは違うのではないか?
さすが1メートルの胸は伊達じゃない。その圧倒的な存在感は、仰向けになってもちっとも衰えていない。まさにロケットおっぱいそのものだった。
ソニアは気がつかないのか前進しようとしているが、このままでは……。
「待てソニア、その高さだとおっぱいが当たる」
「あ、教えるのはずるいわ」
ラムリーザの指摘に、リリスが不満そうに文句を言った。
これはつまりそういうことだ。ラムリーザは、さっきソニアが敗れて泣きついてきた理由が分かった。要するに、爆乳過ぎる胸が引っかかって失敗したというわけだ。
ソニアは、苦しそうに少し身体を下げて、「これでどう?」と聞いた。
「全然ダメ」
リリスと同じだけ身体を下げただけでは、ソニアの胸が通過するわけがない。
「こっ、これで、どうっ?」
ソニアは、さらに無理な姿勢を取って、先程よりも苦しそうに聞いた。
「まだ半分ぐらいだねぇ」
「そんな……」
ソニアはさらに身体を下げようとしたが、全身がブルブルと震えている。これ以上反らすと、膝が限界になるだろう。
「くっ……、くうぅん……」
苦しいのか、言葉にならない。歯を食いしばって目をぎゅっと閉じて、あえぎ声のようなものを出すのが精一杯だ。しかし……。
「目を開けて見てごらん? おっぱいの上から棒が見えてる? 棒がおっぱいで隠れているということは、当たっちゃうってことだよ。棒が見えるようになるまで、身体を下げるか胸を反らすかしなくちゃ」
ソニアは目を開き、自分の胸元を苦しそうに見つめた。すぐに顔全体に絶望が広がっていくのが目に見えて分かる。ついに精根尽き果てて、その場に倒れてしまった。
リリスがくすっと笑い、ソニアは地面を転がり回って「ふええぇぇぇん!」と再び泣き出してしまった。
ラムリーザは、しょうがない奴だなと思いながら、再びなだめながらソニアの身体を起こしてやった。
「どうやらあなたはクリア不可能のようね、リードボーカル獲得したわ。まいどあり、くすっ」
「またお前の負けか。お前なぁ、もっと自分の身体の特徴をよく理解して勝負を受けろよな。公園の機関車の時もそうだったけど、お前のおっぱいは1メートルもあるんだから、そこの所よく考えて行動しろよ」
ラムリーザは、ソニアの頭を撫でながら諭す。
ゲームのルール上、棒くぐりは胸が大きければ大きいほど不利になるゲームだ。ソニアはリリスに対して大きなハンデを抱えた上で勝負することになり、リリスもそうなることを狙ってこの勝負を提案したのだった。
だが、ラムリーザの慰めの言葉が、また一つの騒動の引き金となってしまった。
「えっ? 1メートル? やっぱり膨らんでいたのね」
リリスはラムリーザの台詞をよく聞いていた。ラムリーザがソニアの胸の大きさを、具体的な数字を上げて言い聞かせていたのを、しっかりと聞き逃さなかったのだ。
「あっ、ラム! それ言っちゃダメなのに!」
「ふーん、1メートルに達していたんだ、くすっ」
「ふえぇ、ラムの馬鹿!」
ソニアは、ラムリーザの身体をぽかぽかと叩きだした。
「す、すまん」
ラムリーザが、ソニアをがしっと抱きしめて落ち着かせている横で、今度はロザリーンが棒くぐりにチャレンジしていた。
ロザリーンは、運動神経も良くて身体も柔軟だ。ソニアはともかく、リリスと違って身体によけいな出っ張りが大きく張り出しているわけでもないので、何の問題も無く通過できたのだ。
「意外と簡単ですね」
「あなたは邪魔なものが無いからね。まぁ、このくらいなら簡単ね、もうちょっと下げてやってみる?」
二人の言う「簡単」の二文字、さりげなくソニアをからかっていることになっている。
ソニアは、ロザリーンにも負けてしまい、さらに興奮しだしてしまった。
「ちっぱい! ちっぱいは楽でいいね! ふえぇぇん!」
ラムリーザの胸に顔をうずめて、再び大泣き。こりゃダメだ。
ソニアの次にとった行動は、七月に海で見せたものと同じで物騒なものだった。自分の胸を乱暴に鷲掴みにして叫ぶ。
「くっそー、こんなものが無ければあんなちっぱい共に負けないのに! 引きちぎってやる!」
「こらこら、やけを起こすなって」
ラムリーザもあの時と同じように、慌ててソニアの腕を掴んで止めさせる。そのままぎゅっと抱きしめてやった。
「だってぇ、ふえぇ……」
ソニアは泣くだけで、収拾がつかない。なんてめんどくさい娘なのだろう。
結局ラムリーザは、ソニアが泣き止むまで抱きしめ続けるしかなかったのであった。